コラム・特集
水準測量の標尺補正と楕円補正をやさしく解説!〜 なぜ補正が必要か計算式の意味まで 〜
はじめに 〜 観測しただけでは、正しい高さにならない 〜
水準測量はレベルと標尺を使って地点間の高低差を求める測量だ。
ただし、現場で観測した生の値がそのまま正しい高さになるわけではない。
標尺は温度で伸び縮みするし、地球は完全な球ではなく、重力の大きさも場所によって変わる。
こうした避けようのない要因が、観測値にわずかな誤差として入り込む。
これを計算によって取り除く工程が「補正」であり、精密な水準測量では欠かせない。
本記事では、水準測量の補正のなかでも代表的な「標尺補正」と「楕円補正」について、なぜ必要なのか、どんな考え方で補正するのかを、基礎から解説していく。
具体的には、作業規程の準則に規定される1級・2級水準測量の「正規正標高補正計算(楕円補正)」を扱う。
計算式も登場するが、暗記ではなく「何を補正しているのか」を理解することを目指したい。
まずは水準測量の「計算工程」を押さえよう
補正の話に入る前に、水準測量の作業工程における「計算」の全体像を押さえておこう。
水準測量の計算では標尺補正や正規正標高補正などを行い、必要に応じて変動量補正を加える。
その後、点検計算や平均計算を経て、成果を求めていく。
補正には適用の条件がある
ここで、準則にもとづく適用のルールを整理しておきたい。
標尺補正計算と正規正標高補正計算(楕円補正)は、1級・2級水準測量で行う。
ただし、1級水準測量では、正規正標高補正計算(楕円補正)に代えて、実測した重力値を用いる正標高補正計算を使用することもできる。
また、2級水準測量の標尺補正計算は、水準点間の高低差が70m以上の場合に行い、その補正量は気温20℃における標尺改正数を用いて計算する。
計算は、読定単位と同じ桁まで算出する。
つまり、すべての観測で機械的に全補正を行うのではなく、測量の級や高低差に応じて、必要な補正を見極めて適用するのだ。
標尺補正:「標尺は伸び縮みする」という前提
まず標尺補正から見ていこう。
なぜ標尺補正が必要なのか
標尺(スタッフ)は、目盛によって高さを読み取る道具だ。
しかし、標尺そのものが温度によって伸縮すれば、目盛の間隔が変わり、読み取った値に誤差が生じる。

たとえば金属製の標尺は気温が上がれば膨張し、下がれば収縮する。
観測時の気温が、標尺の目盛が正しくなる基準温度からずれていれば、その分だけ読定値がずれてしまう。
この「標尺自体の伸縮による誤差」を取り除くのが標尺補正である。
なお、精密な水準測量では温度による伸縮が極めて小さいインバール製の標尺が用いられる。
それでも完全にゼロにはならないため、高い精度が求められる場面では標尺補正が行われる。
標尺補正量の計算式
標尺補正量は、あらかじめ観測に使用する標尺を基準尺により点検し、長さの補正値を求めておき、観測値に対して補正するもので、次の式で計算される。
ΔC=(C0+(T-T0)×α)×Δh
ΔC = { C₀ + ( T − T₀ ) × α } × Δh
記号の意味は次のとおりだ。
- ΔC:標尺補正量
- C₀:基準温度における標尺改正数(1mあたり)
- T₀:基準温度(標尺改正数の基準となる温度)
- T:観測時の測定温度
- α:標尺の膨張係数(1mあたり)
- Δh:高低差(往復観測の平均値)
式の考え方はシンプルだ。
標尺には、基準温度での目盛のずれ(標尺改正数 C₀)がある。
これに、観測時の温度が基準温度からどれだけ離れているか(T − T₀)に膨張係数αを掛けた「温度による伸縮分」を加える。
こうして求めた「単位長さあたりの補正量」に、実際の高低差Δhを掛けることで、その区間での標尺補正量が求まる。
なお、標尺補正量の大きさは高低差の絶対値を用いて求め、補正後の高低差には、観測した高低差の符号に応じて加減する。
観測時の測定温度は、1級水準測量では観測の開始・終了、および固定点への到着ごとに、気温を1℃単位で測定した値の平均を採用する。
温度をこまめに測るのは、まさにこの標尺補正を正確に行うためなのである。
《 例題(選択問題) 》
公共測量における 1 級水準測量では、使用する標尺に対して温度の影響を考慮した標尺補正を行う必要がある。公共測量により。水準点A、Bの間で 1 級水準測量を実施し、表に示す結果を得た。標尺補正を行った後の水準点A、B間の観測高低差は幾らか。
ただし、観測に使用した標尺の標尺改正数は20℃において+6.0×10^- 6 m/m、膨張係数は+1.5×10^- 6/℃とする。
1.+32.2185 m
2.+32.2194 m
3.+32.2198 m
4.+32.2206 m
5.+32.2215 m
公共測量における 1 級水準測量では、使用する標尺に対して温度の影響を考慮した標尺補正を行う必要がある。公共測量により。水準点A、Bの間で 1 級水準測量を実施し、表に示す結果を得た。標尺補正を行った後の水準点A、B間の観測高低差は幾らか。
ただし、観測に使用した標尺の標尺改正数は20℃において+6.0×10^- 6 m/m、膨張係数は+1.5×10^- 6/℃とする。
| 観測距離 | 観測距離 | 観測高低差 | 気温 |
| A → B | 2.1km | +32.2200 | 28℃ |
1.+32.2185 m
2.+32.2194 m
3.+32.2198 m
4.+32.2206 m
5.+32.2215 m
《 計算式 》

標尺補正後の観測高低差は
(標尺補正後の観測高低差)= +32.2200 + 0.00058
= +32.22058
≒ +32.2206 m
《 答え 》
4.+32.2206 m
《 ポイント 》
標尺が伸びている場合は、本来よりも小さい値で観測される。標尺が縮んでいる場合は、本来よりも大きい値で観測されるということをイメージしておこう。
(20℃時に1.00mの標尺の場合)
標尺が伸びている場合は、本来よりも小さい値で観測される。標尺が縮んでいる場合は、本来よりも大きい値で観測されるということをイメージしておこう。
(20℃時に1.00mの標尺の場合)
楕円補正(正規正標高補正):「重力は場所で変わる」という前提
続いてもうひとつの補正である楕円補正だ。こちらは標尺補正よりもイメージしにくいので、原因から丁寧に見ていこう。
なぜ楕円補正が必要なのか
水準測量で求める高さ、いわゆる標高は東京湾平均海面に一致するジオイドを基準とした高さである。
そしてレベルは重力に対して垂直となるように据え付けられる。
ここに、地球の形と重力の性質が関わってくる。
地球は完全な球ではなく、赤道方向にわずかに膨らんだ楕円体(回転楕円体)に近い形をしている。

この楕円体を前提に定められる「正規重力」は緯度によって大きさが変わる。
具体的には、赤道に近づくほど正規重力は小さくなり、逆に極(高緯度)に近づくほど大きくなる。
この緯度による正規重力の違いがあるため、水準測量で得られた高低差をそのまま累積していくと、緯度方向の変化に伴う系統的な影響が標高に生じてしまう。
その影響を補正するのが楕円補正であり、準則では「正規正標高補正」と呼ばれる。
楕円補正の計算式
楕円補正量は、次の式で表される。
K = 5.28 × sin ( B₁ + B₂ ) × ( B₁ − B₂ ) / ρ′ × H
記号の意味は次のとおりだ。
- K:楕円体補正量(mm単位)
- B₁・B₂:出発点および到達点(変曲点)の緯度(分単位)
- H:水準路線の平均標高
- ρ′:3437.747′(ラジアンを分に換算するための定数)である。
式の細部を暗記する必要はないが、構造として押さえておきたいのは次の点だ。
この式には、出発点と到達点の緯度(B₁・B₂)と、その緯度差(B₁ − B₂)が含まれている。
つまり、水準路線が南北方向にどれだけの緯度差をまたいでいるかが、補正量を決める大きな要素になっている。
さらに、水準路線の平均標高Hが掛けられている点も重要だ。
標高が高い場所ほど重力の緯度による違いの影響が大きく効いてくるため補正量も大きくなる。
緯度差が大きく、かつ標高の高い路線ほど、楕円補正の必要性が高まるということである。
2つの補正の違いを整理する
ここまで見てきた2つの補正を、もう一度整理しておこう。
- 標尺補正
「測る道具(標尺)自体が温度で伸縮する」ことに起因する誤差の補正。観測時の温度と基準温度の差、そして高低差の大きさが、補正量を左右する。
- 楕円補正(正規正標高補正)
「地球が楕円体であり、重力が緯度によって変わる」ことに起因する誤差の補正である。水準路線がまたぐ緯度差と、路線の平均標高が、補正量を左右する。
前者は器具の物理的性質、後者は地球という測量の舞台そのものの性質に由来する。
原因はまったく異なるが、どちらも「観測しただけでは残ってしまう系統的な誤差を、計算で取り除く」という点で共通している。
精密な水準測量の成果が信頼できるのは、こうした補正の積み重ねによって、避けようのない誤差が丁寧に取り除かれているからなのだ。
新しい測量のかたち。高精度スマホ測量「OPTiM Geo Scan」
ここまで見てきたように、水準測量の高さは、標尺補正や楕円補正といった緻密な計算を経て、はじめて信頼できる成果になる。
標尺の伸縮や地球の形といった、避けようのない要因を一つひとつ補正していく作業が、精度を支えている。
一方で、近年は現場の測量に、いつものスマートフォンを使うという選択肢も登場している。
オプティム社の高精度スマホ測量「OPTiM Geo Scan」はiPhone ProとGNSSレシーバーで測量が完結するサービスだ。

従来のレベルを用いた水準測量とは異なり、GNSSによる衛星測位を利用して位置座標を取得するというアプローチだ。
精度面では、独自の測量データ処理技術により、単点計測において水平・鉛直方向ともにミリ単位の測位精度を実現している。

国交省の新技術情報提供システムNETISでは、事後評価における最高評価「VE」を獲得している(登録番号:QS-210050-VE)。
現場の測量が今どう変わっているのか?詳しくは、以下のGeo Scan特設サイトで確認してほしい。
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