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GNSS測位の【1周波 / 2周波 / 3周波】とは? 仕組みとメリットを徹底解説 ~なぜ多周波だと精度が良いの? 建設現場で選ぶべき受信機の基準~【保存版】
ICT施工やドローン測量の現場で、GNSS受信機のカタログスペックを見ると「1周波(シングル周波)」「2周波(マルチ周波)」といった言葉を目にする。
一般的に「2周波以上の方が高精度で高価」であることは知られているが、具体的に「何が違うのか」「なぜ周波数を増やすと精度が上がるのか」を正しく理解しているだろうか?
本記事では、衛星測位の精度を左右する「周波数」の基礎知識と、それぞれの方式の違いについて、誤差補正のメカニズムを交えて徹底解説する。
GPSなどの測位衛星は、一つだけではなく、異なる周波数帯の電波を同時に複数発信している。これを「バンド(帯域)」と呼び、主に以下の3つが代表的だ。
これらの信号を「いくつ受信して解析できるか」によって、受信機のランク(1周波、2周波、3周波)が決まる。
特に第3の周波数である「L5帯」は、従来のL1/L2と比較して建設現場にとって有利な以下の特徴を持つ。
結論から言えば、周波数を増やす最大の目的は、衛星測位における最大の敵「電離圏(でんりけん)遅延」をキャンセルするためだ。
地上から高度約50km~1000kmの大気上層には、紫外線などのエネルギーによって分子がイオン化(プラズマ化)した「電離圏」という層が存在する。
(画像元:NICTイオノゾンデ電離圏観測 電離圏の基礎知識WEBサイトより引用)
衛星からの電波がこの層を通過する際、電子の影響を受けて「速度が遅くなる(遅延する)」現象が起きる。
1周波(L1のみ)の受信機では、この遅延量を正確に知る術がなく、推測モデルに頼るため誤差が残る。
しかし、「電離圏での遅延量は、周波数によって異なる」という物理法則がある。
これを利用し、L1とL2(あるいはL5)という「異なる2つの周波数」の到達時間のズレを比較計算することで、「今、電離圏でどれだけの遅延が発生しているか」を実測値として逆算・特定できるのだ。
これを「アイオノフリー結合」と呼ぶ。この計算により、電離圏の影響をほぼ無効化できるため、2周波以上の受信機は高精度を実現できる。
「RTK測位を行うなら2周波以上が必須」とよく言われるが、その理由は測位方式の根本的な違いにある。
GNSSの測り方には大きく2種類ある。
波の数を数えるRTK測位では、「波の数の不定性(アンビギュイティ)」を確定させる必要がある。これには極めて高精度な補正が求められる。
1周波の場合、前述の「電離圏遅延」を実測できず推定モデルに頼るため、このアンビギュイティの決定(Fix解を得ること)に時間がかかったり、間違った解を出したりして不安定になりやすい。
一方、2周波以上であれば電離圏遅延を正確に除去できるため、短時間で確実にアンビギュイティを決定(Fix)でき、安定した測位が可能になるのである。
近年、日本の準天頂衛星「みちびき」に関連して注目されているのが「L6帯」だ。
これは測位用の信号ではなく、「補強情報(誤差を直すデータ)」を配信するための信号である。
機材選定において、周波数と同じくらい重要なのが「対応衛星システム(マルチGNSS)」だ。
「3周波対応なら完璧」かというと、そうではない。
古いGPS衛星など、L5信号を出していない衛星も存在するからだ。そこで重要になるのが、GPS以外の衛星システムも併用することだ。
これらをすべて受信できる「マルチGNSS」対応機であれば、利用可能な衛星数がGPS単独(約30機)から100機以上に急増する。
〈画像:捕捉衛星数の比較(左:マルチGNSS受信機、右:GPS受信機)/ 画像元:フルノ製品情報サイトマルチGNSS(多周波GNSS)技術WEBページより引用〉
空の視界が限られる建設現場においては、3周波対応であること以上に、マルチGNSS対応であることが「現場で使えるか」の分かれ目となる。
ここまで解説した通り、建設現場、特に条件の悪い場所においては「3周波」かつ「高性能な受信機」の利用が推奨される。しかし、従来の3周波対応測量機は、高額で取り回しも重厚なものが多かった。

そこで近年、急速に現場で導入が進んでいるのが、3周波対応の高性能GNSSレシーバーとスマホアプリを組み合わせたソリューション「OPTiM Geo Scan」だ。
(画像:Geo Scanで活用する高性能GNSSレシーバー / 撮影:砂田耕希)
OPTiM Geo Scanで活用する「高性能タイプ」のレシーバーは、本記事で解説した3周波解析に完全対応している。
この高性能レシーバーは公共測量にも利用可能だ。さらに、バッテリー持続時間は約20時間(標準添付)と、長時間の現場作業にも耐えうる仕様となっている。

「3周波が良いのはわかったが、機材はどうすればいいの?」と迷った場合、こうした3周波対応GNSSレシーバーを活用するそくりょそアプリを活用することが、現実的な解となるだろう。
本記事では、GNSS測位における1周波から3周波への進化とその特徴について解説した。
基礎となる1周波、電離層遅延の補正により安定性を高めた2周波、そしてさらなる冗長性の確保と高速な初期化を実現した最新の3周波。
周波数帯の利用数が増えることは、単なるスペックの違いにとどまらず、遮蔽物の多い現場などにおける「測位の粘り強さ」や「信頼性」に直結する。
特に3周波技術は、従来の課題を克服し、センチメートル級の精度をより確実に提供する新たなスタンダードとなりつつある。
製品カタログなどを見る際は、単に「高精度」という言葉だけでなく、対応周波数と衛星システムの内訳をチェックして、現場の環境に負けない機材を選定してほしい。
一般的に「2周波以上の方が高精度で高価」であることは知られているが、具体的に「何が違うのか」「なぜ周波数を増やすと精度が上がるのか」を正しく理解しているだろうか?
本記事では、衛星測位の精度を左右する「周波数」の基礎知識と、それぞれの方式の違いについて、誤差補正のメカニズムを交えて徹底解説する。
1. GNSS測位における「周波数」の正体
GPSなどの測位衛星は、一つだけではなく、異なる周波数帯の電波を同時に複数発信している。これを「バンド(帯域)」と呼び、主に以下の3つが代表的だ。
- L1帯 (1575.42MHz):全ての衛星が発信している基本信号。
- L2帯 (1227.60MHz):測量や軍事用などに使われてきた信号。
- L5帯 (1176.45MHz):近年整備が進む新しい信号。
これらの信号を「いくつ受信して解析できるか」によって、受信機のランク(1周波、2周波、3周波)が決まる。
L5帯(L5信号)の強み
特に第3の周波数である「L5帯」は、従来のL1/L2と比較して建設現場にとって有利な以下の特徴を持つ。
- 高出力: 送信電力がL1/L2より約2倍(3dB)高く、障害物に強い。
- 広帯域:帯域幅が10倍あり、より精密な距離測定が可能。
- 高信頼:航空安全用(人命に関わる用途)に国際的に保護された帯域であり、干渉が少ない。
2. なぜ「多周波」だと精度が良いのか? ~電離圏遅延のキャンセル~
結論から言えば、周波数を増やす最大の目的は、衛星測位における最大の敵「電離圏(でんりけん)遅延」をキャンセルするためだ。
電離圏とは?
地上から高度約50km~1000kmの大気上層には、紫外線などのエネルギーによって分子がイオン化(プラズマ化)した「電離圏」という層が存在する。
(画像元:NICTイオノゾンデ電離圏観測 電離圏の基礎知識WEBサイトより引用)衛星からの電波がこの層を通過する際、電子の影響を受けて「速度が遅くなる(遅延する)」現象が起きる。
1周波の限界と「アイオノフリー結合」
1周波(L1のみ)の受信機では、この遅延量を正確に知る術がなく、推測モデルに頼るため誤差が残る。
しかし、「電離圏での遅延量は、周波数によって異なる」という物理法則がある。
これを利用し、L1とL2(あるいはL5)という「異なる2つの周波数」の到達時間のズレを比較計算することで、「今、電離圏でどれだけの遅延が発生しているか」を実測値として逆算・特定できるのだ。
これを「アイオノフリー結合」と呼ぶ。この計算により、電離圏の影響をほぼ無効化できるため、2周波以上の受信機は高精度を実現できる。
3.なぜRTKには2周波以上が必要なのか?
「RTK測位を行うなら2周波以上が必須」とよく言われるが、その理由は測位方式の根本的な違いにある。
コード測位と搬送波位相測位
GNSSの測り方には大きく2種類ある。
- コード測位:信号に乗っている「コード(0と1の信号)」のズレを見る。精度は数メートル。(1周波のカーナビ等はこれ)
- 搬送波位相測位(RTK): 電波そのものの「波の数」を数える。精度はセンチメートル。
1周波でRTKが難しい理由
波の数を数えるRTK測位では、「波の数の不定性(アンビギュイティ)」を確定させる必要がある。これには極めて高精度な補正が求められる。
1周波の場合、前述の「電離圏遅延」を実測できず推定モデルに頼るため、このアンビギュイティの決定(Fix解を得ること)に時間がかかったり、間違った解を出したりして不安定になりやすい。
一方、2周波以上であれば電離圏遅延を正確に除去できるため、短時間で確実にアンビギュイティを決定(Fix)でき、安定した測位が可能になるのである。
4. 各方式の特徴と「L6帯」の登場
① 1周波(シングル周波)
- 構成:L1のみ
- 現場適性: ×(測量・施工不可)
- 用途:ダンプの運行管理など、メートル級の誤差が許容される用途。
② 2周波(デュアル周波)
- 構成:L1 + L2
- 現場適性: ◎(標準)
- 用途:出来形計測、基準点測量、ICT建機制御など。現在のスタンダード。
③ 3周波(トリプル周波)
- 構成:L1 + L2 + L5
- 現場適性:☆(推奨)
- 用途:2周波と同等の精度だが、L5信号の特性により「Fixまでの時間」が短縮され、遮蔽物への耐性も向上する。
L6帯(1278.75MHz)と補強サービス
近年、日本の準天頂衛星「みちびき」に関連して注目されているのが「L6帯」だ。
これは測位用の信号ではなく、「補強情報(誤差を直すデータ)」を配信するための信号である。
《 CLAS(センチメータ級測位補強サービス)》
L6信号で配信される補強データを受信することで、基準局(基地局)を設置せずに、受信機単独でセンチメートル級の精度を実現する技術(PPP-RTK)。
(画像元:みちびき準天頂衛星システム センチメータ級測位補強サービスWEBサイトより引用)
※CLAS対応受信機は、L1+L2+L5等の測位信号に加え、L6信号を受信できる機能を持っている。
L6信号で配信される補強データを受信することで、基準局(基地局)を設置せずに、受信機単独でセンチメートル級の精度を実現する技術(PPP-RTK)。
(画像元:みちびき準天頂衛星システム センチメータ級測位補強サービスWEBサイトより引用)※CLAS対応受信機は、L1+L2+L5等の測位信号に加え、L6信号を受信できる機能を持っている。
5. マルチGNSSの重要性
機材選定において、周波数と同じくらい重要なのが「対応衛星システム(マルチGNSS)」だ。
GPS単独からマルチGNSSへ
「3周波対応なら完璧」かというと、そうではない。
古いGPS衛星など、L5信号を出していない衛星も存在するからだ。そこで重要になるのが、GPS以外の衛星システムも併用することだ。
- GLONASS(ロシア): 軌道傾斜角が大きく、北側の空に強い。
- Galileo(欧州): 多くの衛星が新しい信号(E5aなど)に対応しており高精度。
- BeiDou(中国): 日本を含むアジア太平洋地域で衛星数が非常に多い。
- QZSS(日本・みちびき): 日本の真上(天頂)付近に滞在するため、ビル影や山間部でも受信しやすい。
これらをすべて受信できる「マルチGNSS」対応機であれば、利用可能な衛星数がGPS単独(約30機)から100機以上に急増する。
〈画像:捕捉衛星数の比較(左:マルチGNSS受信機、右:GPS受信機)/ 画像元:フルノ製品情報サイトマルチGNSS(多周波GNSS)技術WEBページより引用〉空の視界が限られる建設現場においては、3周波対応であること以上に、マルチGNSS対応であることが「現場で使えるか」の分かれ目となる。
6. 【実践編】3周波GNSSの実力を引き出す「スマホ測量アプリOPTiM Geo Scan」という選択肢
ここまで解説した通り、建設現場、特に条件の悪い場所においては「3周波」かつ「高性能な受信機」の利用が推奨される。しかし、従来の3周波対応測量機は、高額で取り回しも重厚なものが多かった。

そこで近年、急速に現場で導入が進んでいるのが、3周波対応の高性能GNSSレシーバーとスマホアプリを組み合わせたソリューション「OPTiM Geo Scan」だ。
(画像:Geo Scanで活用する高性能GNSSレシーバー / 撮影:砂田耕希) OPTiM Geo Scanで活用する「高性能タイプ」のレシーバーは、本記事で解説した3周波解析に完全対応している。
- 上空が木々で覆われた山間部: 2周波ではFixしにくい森林の現場でも、L5信号を含む3周波を活用することで解析能力が向上し、安定した「高Fix」を実現する。
- 高層ビルが立ち並ぶ都市部: マルチパス(反射波)の影響を受けやすいビル街でも、3周波とマルチGNSSの組み合わせにより、測位率を大幅に拡張できる。
この高性能レシーバーは公共測量にも利用可能だ。さらに、バッテリー持続時間は約20時間(標準添付)と、長時間の現場作業にも耐えうる仕様となっている。

「3周波が良いのはわかったが、機材はどうすればいいの?」と迷った場合、こうした3周波対応GNSSレシーバーを活用するそくりょそアプリを活用することが、現実的な解となるだろう。
3周波対応GNSSレシーバーを活用できる
測量アプリはGeo Scan!!
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まとめ
本記事では、GNSS測位における1周波から3周波への進化とその特徴について解説した。
基礎となる1周波、電離層遅延の補正により安定性を高めた2周波、そしてさらなる冗長性の確保と高速な初期化を実現した最新の3周波。
周波数帯の利用数が増えることは、単なるスペックの違いにとどまらず、遮蔽物の多い現場などにおける「測位の粘り強さ」や「信頼性」に直結する。
特に3周波技術は、従来の課題を克服し、センチメートル級の精度をより確実に提供する新たなスタンダードとなりつつある。
製品カタログなどを見る際は、単に「高精度」という言葉だけでなく、対応周波数と衛星システムの内訳をチェックして、現場の環境に負けない機材を選定してほしい。
参考元:「準天頂衛星システムWEBサイト(みちびき)」
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建設土木のICT活用など、
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