コラム・特集
平田 佳子 2022.1.17
いま注目の建設スタートアップ

デジタルツイン・プラットフォーマー企業「シンメトリー」が見据えるクールな未来。【前編】 〜 誰もが使える現実世界の“デジタルコピー”で、土木は変わる〜

アメリカに本社を構え、「デジタルツイン(現実空間から収集した様々なデータをデジタル空間で再現する技術)」をキーワードに、コンサルティングや技術開発を行うスタートアップ、Symmetry Dimensions Inc.(以下、シンメトリー)。同社が開発した建設業界向けのVRソフトウェア「Symmetry」は、世界113ヵ国に約2万人のユーザーがいるという。2021年には、様々なデータを連携してデジタルツインを構築する「SYMMETRY Digital Twin Cloud」をリリースした。


本記事【前編】では、プロダクトへの想いや製品特長、デジタルツインの可能性について、シンメトリーのFounder兼CEOである沼倉 正吾氏(以下、敬称略)に話をうかがった。


3DCAD、点群のVR化で感じた可能性。エンタメ系から建設系へ


ーー シンメトリーではもともとゲームなどのエンタメ系のプロダクトを作られていましたが、建設業界へシフトしたきっかけはあったのでしょうか?

沼倉:2014年にアメリカで会社を立ち上げた頃は、VRを活用したゲームコンテンツをつくっていました。面白いけれど、少し使いにくくて、多くの人がこれをやるイメージが持てずにいたんです。そんな時にたまたまお客様から「3D CADをVRで見たい」と話があり、3DCADと点群データをVR化して、2015年にBIM/CIM関連の展示会に出しました。点群データのVR化は、おそらく世界で最初だったのではないでしょうか。

Symmetry Dimensions Inc. Founder兼CEO 沼倉 正吾氏

ーー そんなに前から!展示会での反応はどうだったのでしょうか?

沼倉:ほとんどの人は「オモチャっぽくて業務では使えない」というネガティブな反応でしたが、土木業の一部の人たちが「こんなのが欲しかった!今すぐに売ってください」と会場で言ってくださったんです(笑)。実は、そのリアクションをしてくれたのが、フリーランスの土木技術者として活動されている松尾泰晴さんと、株式会社正治組(静岡県)の大矢洋平さんでした。国や自治体がi-Construcitonを推進する前から、土木のICT化に尽力されてきたお二人です。


そして、会場で彼らから得た熱狂的な反応は、新しいものを開発していくスタートアップの世界では、とてもいい兆候なんですよ。“ほとんどの人は、その良さにまだ気づいていないけれど、プロダクトとしては大きな可能性がある”という捉え方ができますので。

ーー これはチャンスかもしれないと。

沼倉:はい。それで2016年には土木・建設系の事業へと舵を切りましたね。当時、VRを手がける会社はまだあまりなかったのですが、これからVRの波が来そうだと、ベンチャーキャピタルなどから投資をしていただきました。


簡単に接続&分析できるデジタルツインの構築


ーー そこから拡大していったのですね。シンメトリーのプロダクトについて教えていただけますか?

沼倉:もともとは、建築・設計・土木業界向けに3D CADデータをVR空間で見ながら打ち合わせできるソフトウェア「SYMMETRY」を開発し、2017年から海外を中心に展開していました。海外ではその頃からすでに現場の3D化が進んでいて、2018年にはヨーロッパで高速通信の5Gがスタートしたんです。


現場の3D化、5Gの登場、PC性能の向上といった状況下で出てきたのが、現実空間から収集したデータをデジタル空間に再現する「デジタルツイン」という概念です。そんな中でSYMMETRYも方向性を練り直し、デジタルツインの構築に事業を広げ、企業や行政と協同で実証実験を重ねていきました。

ーー 2021年6月にリリースされた「SYMMETRY Digital Twin Cloud」はどういったプロダクトなのでしょうか?

沼倉:3DCAD、点群データ、GISデータ、IoTセンサー・デバイスデータ、人工衛星データ、オープンデータ、APIなど、様々なデータを連携して、ユーザー独自のデジタルツインを簡単に構築・利用できるプラットフォームサービスです。それまで私たちは、3D CADを現場でVR化してきましたが、3つの課題がありました。

一つ目は、大きなデータを簡単に動かして見られるようにすること。というのは、3DCADデータ容量は重く、お客様が使っているデータの種類もさまざまで、それをVRでサクサク動かすには、面倒だし、時間もかかるんですね。また、一般的に3Dや点群データはハイスペックなPCでしか使えないのも障壁としてありました。


それで、VRがメインだったのを、ブラウザで簡単にデータを見られるように仕様変更。コロナ禍で多くの企業がリモートワークになった影響も大きかったですね。自宅で仕事をする人、会社に行く人、カフェで仕事をする人など、どんなワークスタイルでも仕事が進められるように、クラウドで情報を扱えるようにしたんです。スマートフォンやタブレットなど様々なデバイスで閲覧できます。

沼倉:二つ目の課題は、デジタルツインでは電気やIoTのセンサーのデータなど、フォーマットもジャンルも違う多様なデータを使いますが、データによっては使える人が限られてしまうこと。そこで、誰でもあらゆるデータに接続できるようにしました。


事例としては、静岡県のインフラメンテナンスのプロジェクトで、SYMMETRY Digital Twin Cloudと「VIRTUAL SHIZUOKA(静岡県の3D点群オープンデータ)」とGoogleの施設情報と国土地理院のハザードマップをつなげました。

(シンメトリー プレスリリースより)

データを共有した組織もバラバラ、フォーマットもバラバラで、しかも、2Dデータも3Dデータもある。それを誰でも簡単につなげられるのが、このプロダクトの大きな特長です。

ーー それはすごいですね。誰でも使えるようにしないと意味がないということですね。

沼倉:そうですね。三つ目は、データを活かして分析やシミュレーションができること。データを集めて仮想現実をつくった後に、次はそれをどう活用するのか?という話になりますよね。


そこでAIの映像解析や人の動きの解析などを行う専門会社のエンジンとつなぎ、分析やシミュレーションの結果がパッと見られるようにしようと。これなら社内に分析のスペシャリストがいなくても、SYMMETRY Digital Twin Cloud内でできます。

ーー なるほど。SYMMETRY Digital Twin Cloudは、建設業界では具体的にどう使えるのでしょうか?

沼倉:例えば、今、都内の夜間の道路工事では、隔週で複数の会社が集まって工事について話し合い、土木課の方が毎回、担当を割り当てています。それって、結構大変なんですね。でも、デジタルツイン上に、各社がそれぞれ「今回この工事をしたい」と記しておけば、みんなに共有され、「ここは希望日がかぶっているから一緒にやればいい」などの検討がすぐにできます。発注者や企業同士の合意形成を得るときも早いですね。


ーー 確かにそうですね。

沼倉:土管工事では、通常は最初に図面を現場に持ち運んで確認し、何度も打ち合わせをします。しかし、クラウド上に点群や様々なCADデータがあれば、現場や打ち合わせに行かなくても、「この工事はここに電線があるから注意する」などの留意点がわかります。


こうして現場に行く回数を減らし、打ち合わせの負担も軽減できるのはメリットですね。あと、従来の2D図面は実際の位置とズレることもザラでしたが、3D であれば位置情報を正確につかめ、工事の最適化ができます。

ーー 効率化や最適化につながるのですね。これからのマネタイズや料金体系のイメージはありますか?

沼倉:従来は、分析の料金やデータ使用料などで数千万円ぐらいかかるケースもありました。私たちは中小企業さんも利用しやすいよう、月額や年間契約などのサブスクリプション式でコストをなるべく安くしたいと考えています。


【編集部 後記】

沼倉氏がアメリカで立ち上げたグローバルなスタートアップ企業「シンメトリー」。時代に先駆けてVRビジネスを手がけ、建設業界のデジタル化に寄与してきた。「とにかくITが好きで今の仕事は趣味の延長」と語る沼倉氏は、プロダクトやデジタルツインなどについて非常に楽しそうに語ってくれた。次回の【後編】では、シンメトリーの今後のビジョンや、2021年に起きた静岡県での災害時のサポートプロジェクトについて紹介する。


Symmetry Dimensions Inc.
米国本社:108 W, 13th St, Wilmington, Delaware 19801 USA
日本事務所:東京都渋谷区代々木3-45-2 西参道Kハウス 4F
HP:https://www.symmetry-dimensions.com/?hsLang=ja-jp
代表 沼倉正吾 twitter:@ShogoNu


◎撮影時のみマスクを外していただきました

取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田佳子 / 撮影:宇佐美 亮
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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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