コラム・特集
平田 佳子 2021.2.10
いま注目の建設スタートアップ

航空宇宙系エンジニアとGISスペシャリストが立ち上げた「ScanX」 ー クラウド型3D点群データ解析技術で、業界に大きなインパクトを ー【前編】

ScanX(スキャン・エックス)株式会社」は、3D点群データの解析技術に強みをもつスタートアップだ。海外のドローン系スタートアップで経験を積んだ日本人とオーストラリア人のエンジニア2人によって創業。

2020年9月に3D点群データをクラウド上で高精度に解析できる「スキャン・エックスクラウド」をリリース。大手ゼネコンから地方の建設会社まで多くの企業に導入され、業界で注目を集めている。

本記事【前編】では、会社設立のきっかけや「スキャン・エックスクラウド」の特長とその秀でた技術について、同社のCEO兼エンジニアである宮谷 聡氏に話をうかがった。

日本の建設業界は課題が山積み。だからこそ、可能性も大きい


——まずは「ScanX」を起業した背景から教えていただけますか。

宮谷氏 もともと私は航空宇宙系エンジニアで、JAXA宇宙科学研究所で「はやぶさ2」の開発をしており、その後はフランスの航空機メーカー「Airbus」で働いていたんです。そして縁があって、アメリカの「Airware」やイスラエルの「Airobotics」というドローン系スタートアップで働くことになって。「Airobotics」では鉱山や建設現場の3D点群データ解析などを行っていました。

ScanX株式会社 CEO 兼 エンジニア 宮谷 聡氏

共同創業者のホン・トランは「Airobotics」の同僚で、ベトナム系オーストラリア人です。GIS(地理情報システム)のデータ解析のスペシャリストで、航空写真測量、3Dレーザー測量、地形情報解析等のデータ解析の自動化を手がけてきました。

私も彼も、SLAM (移動体の自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術)や3D点群データの解析経験を生かして起業しようと考えていたので、二人で一緒に2019年10月に「ScanX」を立ち上げたんです。

——イスラエルから戻ってきて、なぜ日本での起業だったのでしょうか?

宮谷氏  一つの理由として、資金調達がしやすかったこと。会社を立ち上げる時に国内外で投資家回りもしましたが、アメリカやオーストラリアなどより、日本が一番投資家からの反応が良かったです。


日本だと私のようなキャリアが珍しいということもあるのかもしれませんが、特に日本という国は、お金はあるけれど課題先進国で、課題を解決する新しい技術が求められていることを日本の投資家の方々からも強く感じました。

その中でも建設業界は少子高齢化が進んで人口が減る中で何とかして現場を効率化しなきゃいけないと課題が山積みでしたので、建設系テックはチャンスも大きいと。

現場の声から、課題を解決するためにプロダクトを開発


—— たしかに、建設テックは可能性に溢れていますよね。「スキャン・エックスクラウド」開発のきっかけについても教えてください。

宮谷氏 私たちは技術力には自信がありますが、建設現場のことは詳しくわかりません。だから、会社設立後に建設会社の技術者の方に現場の課題をヒアリングさせていただいたんです。

資料:ScanX 提供

そして、日本では3D点群データを解析するソフトウェアの価格が高い上、ハイスペックなワークステーションも必要で、UIも使いにくいなどの課題が見えてきました。それらを解決するために開発を始めたのが、「スキャン・エックスクラウド」です。

—— 建設事業者の方々とも、関わりが深いのですね。

宮谷氏 開発前から建設会社の方とお会いし、ソフトウェアのアイデアをブレストしたり、アドバイスをいただいたりもしました。そしてプロトタイプができたら、実際に試していただいてフィードバックをもらってブラッシュアップし、正式に「スキャン・エックスクラウド」をリリースしたんです。


最初は不安もありましたが、建設会社の方から「これはいいね」とコメントをいただく中で、いけると確信しましたね。

クラウドで複数現場の解析を可能にし、フィルタリングで工数も削減


——「スキャン・エックスクラウド」の特長についても教えていただけますか?

宮谷氏 これまで3D点群データの解析はデスクトップ型のソフトウェアがメインでしたが、クラウド型にすることで、誰でもどこでもデータのアップロードや閲覧ができるようにしました。データはリンクが発行されて誰とでも共有でき、ブラウザとインターネットさえあれば自宅や外出先でも見られます。

資料:ScanX 提供

しかも、複数のユーザーが同時並行で作業できるので、複数の現場を一気に解析処理することも可能です。今は建設業界もコロナ禍の影響でリモートワークが多くなり、オンライン化が進んでいます。そんな時代にマッチした働き方に対応していることも、お客様に喜ばれていますね。

——クラウドで共有もしやすいと。他にもポイントはありますか?

宮谷氏  大きな特長が、3D点群データを取得した後の「ゴミ取り」と言われる煩雑な作業を自動化したことです。もともとの3D点群データには、地表面のほか、ノイズ、樹木、建物など様々なデータがあり、そのままでは使えません。


これまでは余計なものを、人の手で取り除いて地表面を抽出する作業が必要で、多くの手間がかかっていました。そこで、3D点群データからノイズや地表面・樹木・建物などを自動でフィルタリングできるようにしたんです。これで、必要な情報を選んで効率よく抽出できます。

——簡単に使いやすくて、工数をかなり削減できますね。

宮谷氏  時間的にも、これまでは50GB以下の3D点群データの解析処理に人の手では約5日間かかっていましたが、自動化することで12時間以内に短縮できました。5GBのデータなら約1時間で処理が済みますね。

高精度なフィルタリング技術は、世界でも最先端


——ScanXならではの新しい技術はどういった点にありますか?

宮谷氏 これまで3D点群データをAIで分類して実装までしたソフトウェアはほぼありませんでしたが、「スキャン・エックスクラウド」でそれを実現しました。機械学習でいろいろなデータを用いて「これは木」「これは家」などとコンピュータに覚えさせ、圧倒的に高精度なフィルタリングを可能にしています。


——精度としてはどの程度なのでしょうか?

宮谷氏 例えば、点群データから木を1本1本区別し、木の数や直径、樹高も自動で算出できます。密な森林でも判定可能ですし、大きい木の下に小さい木があってもそれぞれ分けられます。こうしたフィルタリング技術は世界的にも最先端だと思いますね。


この技術は、林業で必要な森林台帳にも使えますし、工事現場でも山を切り崩すときに、伐根(ばっこん)調査や伐採費用算出の際にも利用できるんです。

——サブスク型で月2万9800円(税込)という価格の安さにも驚きました。業界にどんどんインパクトを与えていきそうですね。

宮谷氏 インパクトを起こしますよ(笑)。国がi-ConstructionによるICT化を推進する一方で、日本の建設業界ではレーザースキャナーや3D点群データがまだまだ広がっていないと感じています……。

資料:ScanX 提供

その理由の一つに、やはりレーザースキャナーや、データ解析ソフトの価格が高くて、とくに地方の中小企業の建設業者の方には導入ハードルが高いことにあると思います。だから、誰もが始めやすい3万円以下の価格に設定したんです。

ユーザー数は想定以上。売上も着実にアップ


——「スキャン・エックスクラウド」のニーズは確実にあると感じていますか?

宮谷氏  無料体験も含めるとリリースから3ヶ月の登録社数は300社ぐらいで、想定よりもニーズが高くて驚きました。今は既存ユーザーからの紹介や口コミからのお客様が多いですね。建設業界が9割のほか、林業系、鉱山系、損害保険系、オイルプラント系など、幅広い業界のお客様にもご利用いただいています。



【編集 後記】
世界レベルの技術力と、日本の慣習にとらわれない発想で、建設業界に風穴を開けていく注目のスタートアップ「ScanX」。【後編】では、会社としての強みやこれからのビジョンに迫る。【後編】の公開は2月12日(金)。



《お知らせ》

「スキャン・エックス×VIRTUAL SHIZUOKA」3D点群データの活用やBIM化についての“無料オンラインセミナー2/19開催!”


スキャン・エックスCEO 宮谷聡氏が、静岡県土をバーチャルで再現する「VIRTUAL SHIZUOKA」を推進する静岡県庁の杉本直也氏をゲストに迎え、
2月19日(金)14:00からオンラインセミナーを開催する。

セミナーでは、静岡県が公開している3D点群データ「Shizuoka Point Cloud DB」の利活用例、点群のBIM化、「VIRTUAL SHIZUOKA」のこれからを解説。事前に参加者からの質問やリクエストも受付け、それに応じた内容も紹介する予定。

■日時:2021年2月19日(金)14:00~15:00
■参加費:無料(要事前申し込み)
■申込み先:https://share.hsforms.com/1dGxf6O40Q3qXhW8Z1GB8ng4sewc





取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田 佳子 / 撮影:宇佐美 亮
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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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