コラム・特集
デジコン編集部 2021.8.2
いま注目の建設スタートアップ

スマホやPCで建機をラクラク操作! 遠隔操作で業界をスマートに変革していく、ARAVの開発スピリット

2020年4月に設立され、建設業界に特化して遠隔操作技術の開発を手がける、ARAV株式会社。東大キャンパス内の東大系スタートアップが集まるインキュベーション施設に拠点を構え、今年(2021)6月にはこれまでのプロダクトをバージョンアップさせパッケージ化した遠隔操作システム「Model V」の提供をスタートした。


今回の取材では同社の創業者であり、代表取締役である白久レイエス樹氏(以下、敬称略)に、創業のきっかけや同社の遠隔操作技術の強み、今後のビジョンについて伺った。

自動車系スタートアップから、確度が高い建設業界へ


ーー まずはARAV設立までの経緯をお聞かせいただけますか。

白久:東大の大学院生だった頃からロボット関連の事業をしていまして、数年前にシリコンバレーでトラックなどの商用車を対象にした自動運転のスタートアップを立ち上げました。そこで開発していたリモート操作技術の動画をSNSに投稿したら、日本のゼネコンの方から「建設業界を手伝ってほしい」という依頼があったんです。それが、ARAVを立ち上げるきっかけになりました。

ARAV株式会社 代表取締役 白久レイエス樹氏

今、ARAVは建設業界に特化してロボット技術を提供していますが、当初は建設業界にはなじみがなかったですね。仕事を通して、学んでいきました。

ーー 自動車業界から建設業界へと舵を切った理由はありますか。

白久:スタートアップが事業をはじめるときは、押さえるべき評価軸が三つあると考えています。まず一つ目が技術的に実現可能か。二つ目が法的に問題ないか。そして、三つ目が買う人がいるか。業界の方の話を聞いて自分でも調査をする中で、建設業界はこの3つがうまくマッチして自動車業界より確度が高そうだと思いました。

スマホやPCからでも、遠隔で建機を動かせるように


ーー なるほど。今年の6月に建機に後付けして遠隔操作ができる「Model V」が提供開始されましたが、今取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

白久:ヒアリング段階も含めると、現在は並行して20~30ぐらいのプロジェクトが動いています。“この建機を遠隔化・自動化してほしい”というお客様のオーダーを受けてから設計していて、最新の建機から20年前の建機でも後付け可能です。とくに今は、出荷台数が多い油圧ショベルに関するご依頼が増えていますね。


ジョイスティックやハンドルなど建機ごとにカスタマイズする部分と、操作コマンドや映像を配信するモジュールなどの共通で使える部分を組み合わせて、遠隔操作を実現しています。

ーー ARAVならではの遠隔操作技術の特徴はありますか?

白久:一つ目のポイントが、インターネット経由でどこからでも遠隔操作ができることです。遠隔操作技術の歴史を辿ると、約30年前から雲仙・普賢岳の災害復旧作業で無人化施工が行われていましたが、当時はラジコン装置を使うなどの短距離の遠隔操作でした。私たちの技術では、インターネットにつながっていれば距離が離れていても遠隔操作ができます。極端な話、理論上では地球の反対側からでも遠隔操作して建機を動かすことができるんです。

ARAV 公式YouTubeチャンネルより 

ーー 物理的な距離が遠くてもリモートで動かせると。

白久:そうですね。二つ目のポイントは、どんなデバイスにも対応していることです。特別なパソコンは必要ありませんし、専用のソフトウエアやアプリのインストールも必要ありません。お持ちのスマートフォンやノートパソコンのブラウザからログインして、遠隔操作ができますから。これは他社にはないARAVならではの強みですね。

ARAVオフィス(都内)から静岡県富士市に常設してあるミニチュア建機を実際に遠隔操作する白久氏

ーー 特別なソフトウエアやアプリも要らないとは、驚きました。


白久:もちろん、実際の建機の操縦席に近いジョイスティックなどでも操作は可能ですが、オペレータが少ない中で遠隔操作のハードルをなるべく低くしたくて、マルチデバイスを実現しました。例えば北海道ではオペレータの手が余っているけど沖縄では施工が逼迫している場合も、マルチデバイスならすぐにマッチングできますし。


パソコンからでも特別なソフトは不要。一般的なWEBブラウザから遠隔操作が可能

ーー なるほど。確かに遠隔操作を導入しやすくなりますね。


白久:あと3つ目の特徴は、「遠隔操作」から「人が乗って運転する手動操作」への切り替えが、スイッチ一つでできることです。

ARAV プレスリリースより 取り付けイメージ

最初は単に遠隔操作ができればいいと思っていたのですが、現場の話を聞くと、細かい部分はオペレータ自身が手動で調整したいと。

ARAV プレスリリースより プロダクトイメージ※画像は制作途中のもの

遠隔操作は長時間の単純作業には最適ですが、作業を終えて例えば倉庫にバックで駐車するような時は手動の方が操作しやすいんです。そういう時であっても、建機に搭載した遠隔装置をわざわざ取り外す必要はありませんから、簡単に手動操作に切り替えられます。

ーー インターネット経由、マルチデバイス、ワンタッチで手動に切り替えと、操作性がとても高いですね。すでに多くの現場にプロダクトが導入されていますが、現場のお客様の反応はいかがでしょうか。

白久:最初から100点満点ではないと思いますので、使っていただきながら“もっとこうしたい”という現場のご要望をおうかがいし、積極的に取り入れています。私たちのプロダクトは納品して終わりではなくて、そこからどんどん良くしていきますので。


現場の状況を知るためにも、私もエンジニアもかなりの頻度で現場に行っています。開発前に現場でどんな機械を使っているかをヒアリングしながら計測しますし、納品後も調整やトラブルがあれば現場まで対応しに行きます。「操作の速度を落としてほしい」「もう少し位置を調整したい」といった内容なら、当社のエンジニアが遠隔でプログラミングしてすぐに調整もできます。

過酷な建設現場を、スマートで安全に、働きやすく


ーー ゼネコンや中小の建設事業者がARAVに求めるニーズはどういったことでしょうか。単に「遠隔操作がしたい」という側面だけではないと感じますが。

白久:そもそも遠隔操作がどうして今求められているかというと、建設業界が人手不足だからです。その背景には3K(きつい・汚い・危険)のイメージがあり、新しくこの業界に入る若手が少ないんです。


しかも、建設業界では年間で約300名もの方が亡くなっています。全産業の中で労働をしている間に亡くなる方の約33%が建設業の方なんです。そんな過酷な現場を遠隔操作で安全にし、働き方を改善したいという、中小企業の経営者の強いニーズがありますね。

ーーそうだったのですね。やはり現場での事故が多いのでしょうか。

白久:事故もありますし、危険な現場ではなくても、有毒ガスや粉じんなどが発生する中で肺にダメージを受けてしまったり、激しく振動する建機に座っていて腰痛になってしまったり、爆音で聴力障害になってしまったり……。そういった現場で長く働いていると、健康被害も気になりますよね。 実際に、そんな身体的な理由から「遠隔操作に取組みたい」と連絡をくださる事業者の方もいらっしゃいます。

ーーARAVの遠隔操作では、安全面はどうなのでしょうか。

白久:遠隔操作中でも、ボタンを押せばすぐ安全に停止できる緊急停止のスイッチがあります。周囲に人がいたら自動的に停止するなどのAIを使った安全機能は今開発しているところです。


もちろん、法律上もクリアしています。一般の道路を走る自動車と違って、建機は限定されたエリアで現場監督者の配下で行われますので、リーガルチェックでも問題ありません。

遠隔操作を当たり前に。業界のイメージが変われば若者も増える


ーー ARAVのお客様は、どういった建設事業者が多いのでしょうか。

白久:実際にお声がけいただく企業のほとんどは、ICT施工でトップを走っているようなゼネコンや事業者さんが多いですね。早くからICT建機を使いこなされていて、「さらに効率化したい、安全にしたい、楽をしたい」と、遠隔操作を導入されています。


あとは、建機メーカーの方もいらっしゃいます。メーカーでは機械関係のエンジニアが多く、突然ICTやDXと言われても社内に対応できる人が少ない。それでIT系スタートアップと組みたいという企業も多いんです。

ーー業界の中でも意識が高い企業は、遠隔操作を当たり前のようにやってみたいと思われているのですね。

白久:おっしゃる通りです。例えば、山梨県の平賀建設さんはICT建機でマシンガイダンスを使っている中で「1人で複数台を操作できればもっといいんじゃないか?」と考えられていて、ARAVにお声がけいただきました。そこで、まずはキャリーダンプの遠隔操作装置をつくりました。当時はまだ、ARAVは私1人だけでしたけれど(笑)。

ーーARAVとして、これからめざすことをお聞かせいただけますか。

白久:2021年8月現在、ARAVにはエンジニアを中心に11ほどのスタッフがいて、自動運転技術の開発に力を入れています。それで、建設現場のオペレータの作業時間や負担をさらに減らせればと。技術的には遠隔操作のプラットフォーム上に追加で開発していて、AI技術を用いて遠隔操作から自動運転に切り替えることを目指しています。


ーー 自動運転でさらに効率化や省人化を目指すということですね。これから建設業界はどうなっていくと思いますか。

白久:ICT施工の普及率はまだ2%と言われていますので、まだまだこれからも伸びていくでしょう。遠隔操作や自動運転は大企業が行っているイメージがありますが、建設業界の中小企業の数は多く、建機の遠隔化・自動化に取り組みたいという企業は増えていくと思います。そんな時に、ARAVがお力になれるんじゃないかと思いますね。

ーー ARAVの遠隔操作などのプロダクトが、従来の建設業界のイメージを変えるきっかけにもなるのではないでしょうか。自らやりたいと思う若者も出てくるのではないかと。

白久:まさに建設業界は今、若い方が少ないです。ゼネコンのお客様からは、若い方がインターンに来てもアナログで大変な現場を見て、尻込みして入社を辞退したという話も聞きます。


今、スマートフォンでゲームを楽しむ若い方は多いですが、ARAVのシステムではスマートフォンなどでも建機を動かせますので、業界の入り口として興味をもっていただけるのではないかと思います。

遠隔操作を導入すれば作業が効率化されて、働く環境も改善されます。「自分も工事で建機を動かしてみたい」「働く人を大切にしている会社だな」と感じて業界に入ってくれる若者が増えてくれたら喜ばしいことですよね。




また、若者を雇用する立場にある事業者さんやゼネコンさんに向けては、2021年7月から、「model V」の実機体験会をスタートしました。今後、この「実機体験会」も月に1、2回の頻度で、積極的に開催していけたらと考えています。ミニチュア建機での操作体験会に関しては、常時受け付けていますので、遠隔操作に少しでも興味のある業界関係者の方は、お気軽にお問い合わせいただければと思います。まずは、見て、触れて、遠隔操作の楽しさや魅力を知ってもらえたら、嬉しいです。



【編集部 後記】

遠隔操作技術に強みを持ち、建設業界のICT化・DX化を牽引するARAV。今回取材させていただいた白久氏はロボット工学を専門に学び、東大大学院時代に起業後、大手自動車メーカーのエンジニアとして活躍。その後、渡米してスタートアップを立ち上げたという多彩な経歴を持つ。

遠隔操作というと難しく感じるかもしれないが、取材中、実際に操作させていただいたところ、とにかく使いやすく、タイムラグもほとんどない。誤解を恐れず言えば「ゲーム感覚で建機を動かせる」と思ったほどだ。ARAVの取組みの先に、若者にも魅力的な業界へと変化している未来が見えてきた。




ARAV株式会社
東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ
HP:https://www.arav.jp/

「Model V」プロダクトサイト
レガシーな建機でも後付けで遠隔操作が可能
https://www.remotecontrol.arav.jp/modelv/





取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田 佳子 / 撮影:宇佐美 亮
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デジコン編集部

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