コラム・特集
高橋 奈那 2021.7.8
いま注目の建設スタートアップ

「業界への恩返しのために」。 現場の悩みに耳を傾け、伴走しながらBIM/CIM導入をサポートする「Malme」。彼らが描く、土木の未来像とは

BIM/CIMの導入支援サービスを主事業に掲げる株式会社Malme(マルメ/以下、Malme)は、2021年2月に設立されたばかりの企業だ。BIM/CIMの活用業務・工事の支援だけでなく、建設DX技術の「導入アドバイザー」という立場からさまざまな手続きのサポートも行っているという。

なぜ、BIM/CIMなのか。また今、現場が抱えている課題は何なのか。Malme代表の高取 佑氏(以下、敬称略)に話を聞いた。

土木・建設業界がDXの波にのるために。いま必要なサービスを


ーー Malmeの事業内容について教えていただけますか?

高取:Malmeでは、BIM/CIM活用業務・工事に取り組む事業者に対し、3Dモデルの活用提案からモデリング等の実務までトータルでサポートを行っています。お客様によってBIM/CIMの知識や理解度はさまざま。要望にあわせてアドバイスをさせていただいています。

株式会社Malme  代表 高取 佑氏

加えて、これからBIM/CIMに取組もうとされる事業者には、事業戦略や社内環境の整備、人材育成などのお手伝いもしています。「どこから何をやっていけばいいの?」という方も多いので、私たちが足並みを揃え、伴走しますよ、というスタイルでトータルサポートをご提案することもありますね。

ーー BIM/CIMについての知識ゼロ、という企業さんでもお願いできるのでしょうか。

高取:はい、むしろ、そういったお客様をメインに考えています。実際に現時点でいただいているお問い合わせの中で多いのは、「どこでつまずくかわからないので随時アドバイス」がほしいというご要望です。あとは、「BIM/CIMを活用してみたいけれど、提案書の作成方法や実施計画書の説明方法を教えてほしい」というお客様もいらっしゃいますね。

ーーBIM/CIM活用といっても、ソフト面のサポートだけでなく、中間業務にも対応しているのですね。総合的にカバーしてもらえるのは、安心ですね。MalmeがBIM/CIMに焦点を当てた事業内容にしているのには、何か理由があるのでしょうか。

高取:2020年9月に、国土交通省がBIM/CIMの2023年に原則適用とする発表がありましたが、あの発表は業界的にもかなり大きなインパクトでした。予定を2年前倒しにしてまで、国がBIM/CIMの活用を急いでいる。


Malmeはこの目標設定には全面的に賛同していますし、それ自体は素晴らしいことですが、現場目線で考えると無理難題を投げかけられている状態です。何もしてこなかった事業者さんにとっては無茶振りに等しいでしょう……。今まで2Dのルールの中で作ってきたものを、いきなり3Dに立ち上げろと言われてもなかなか難しい。そして2年後のBIM/CIM原則適用化に向けては、まだまだ人材が足りません。

ただ、この3次元化の波はこれまでどの業界にもあったものです。自動車をはじめとした製造業などは、苦労しながらも果敢に3次元化に挑戦した結果、3Dの利活用の方法を見出してからは圧倒的に成長スピードをはやめてきました。建築業も、BIMの在り方を必死に模索しており、芽が出始めています。そうした中において土木・建設業界は、「挑戦するのかしないのか」。いま、ある意味試されているのではないかと思うんです。

建設・土木における3次元化とは、今のところは「ICTの導入促進」と捉えて問題ないと思います。このICTを業界全体が上手に取り入れられれば、他の業界でも見られた数年後の圧倒的な変革と成長が、この業界にも訪れるのではと考えています。


建設コンサルとUAV事業、ふたつの経験を現場に還元


ーー高取さんのパーソナルな部分も少しお聞きしたいのですが、Malme設立以前は何をされていたのですか?

高取:大学で土木を学び、新卒で建設コンサルタント企業に就職しました。その後、ドローン関連のベンチャー企業に転職し、技術責任者というポジションでICT施工や設計業務へのUAV活用に約2年従事しました。ドローンベンチャーに在籍していた当時から感じていたのは、積極的に新技術の活用をはじめる事業者と、制度や基準が整備されていないことを理由になかなか踏み出さなかった事業者との間で生まれた「ノウハウの二極化」です。


デジタル技術というのは取っ付きにくいもので、測量にせよ設計にせよ、点群データや出来形の面的管理のように新しい概念を受け入れる柔軟性が必要です。でも、その中でICT化に舵を切った事業者は、どんどん実績を増やしている。

例えば、一度UAV測量を経験したら次の仕事につながり、その会社に仕事が集まる好循環が回っていく。UAV測量の経験を積んで3Dデータに慣れ親しんでくると、「設計データの3次元化にも挑戦できるのでは」とポジティブに考えるようになり、新しい事業の軸ができる。こうして先行者の強みが倍々で掛け合わさってしまうので、技術面の二極化が起きてしまう。

ーー今のお話でいうとMalmeでは、後者の事業者、すなわちICTをこれから導入したい企業への支援をメインに考えているのでしょうか?

高取:そうですね。年々、国の制度や基準が整備されていますが、数年前までは明確な基準がありませんでした。そんな不明瞭な状況で、高額な技術投資をしてBIM/CIM化を進めることは難しい。もともと建設コンサルタントにいましたし、現場の気持ちはとてもよくわかるんです。

「BIM/CIMに触れたことのある建設コンサルタントがご支援します」というのが、Malmeの強みだと考えています。前職時代にもBIM/CIM事業は行っていたのですが、その時にお客様から、土木知識がないと仕事をやりづらいという声がありました。


たとえば、お客様から渡された設計図面を、土木知識のない業者がモデリングしても、なかなかうまくはいきません。BIM/CIM業者が設計図面を読めなかったり、図面の裏にある設計意図や施工可能性を読み取れないと、設計思想から外れたモデルが出来上がってしまったり、施工現場のICT建機が不具合を起したりと、様々な問題が出てしまいます。

お互いの理解度を逐一すり合わせながら業務を進めるには、膨大なコミュニケーションコストがかかりますし、そんなストレスフルな環境で精度の高いものを作るのは難しいでしょう。

ーー 確かにそうですね。それでもBIM/CIMを導入するメリットは、なんでしょうか。

高取:「BIM/CIMなんて、ただ余計な仕事が増えるだけでしょ?」という現場の声を多く聞きます。でもそれは、おっしゃる通りなんですよ(笑)。2次元を3次元にするプロセスが、ラクなわけありません。ましてや、やったことがない業界・企業ならなおさらです。


しかし、平面図や地形・埋設物、周辺環境など、バラバラにやりとりしていたデータが、3次元上に集約できるようになると、2次元の図面上では気づかなかった問題を、事前に見つけることが出来るようになるかもしません。

たとえば橋梁関係の部署の担当者が、河川の部署が保有していたハザードマップと照らし合わせて、そこの潜むリスクに気づくことができる。他の部署に集まっていた情報に自由にアクセスすることで、これまでにない気付きが生まれるんです。しかしこれも、3次元化するメリットのほんの一例に過ぎません。

ーー 埋設物の情報は、維持・管理面でも大きな資産になりますよね。でもBIM/CIM化は決して簡単ではないと。苦しみを伴う変革をお客様に勧める時に、どのようにお話されていますか?

高取:「最初はしんどいです。一緒にがんばりましょう」というお話を正直にしています。今は業界の過渡期なんです。2次元で扱ってそれなりにやれていた業務をわざわざ3次元するような「矛盾」と向き合っている時期です。

そこに業務の効率化なんて一見、望むべくもない。ただ、他の業界が達成したように、3次元に慣れ親しんだ人が増え3Dの成果が一定数業界内に流通すれば、ブレークスルーはきっと起きる。BIM/CIMへの取組みに躊躇している方は、目先の業務効率よりも、業界全体と日本のドボクの未来のために、行動してみて欲しいというのが率直な気持ちです。

でも精神論だけでは、当然、お客様には納得していただけません。かといって、お客様がいつまでも2次元の設計図面しか扱わず、業者さんにその都度、3次元化を依頼するのでは、いつまで経っても業務効率は改善しません。


2次元を経由せず初めから3次元で考える。そして3次元図面を業者任せにするのではなく自分たちで触る。これを主流にしていく必要がある。苦労してBIM/CIMを使いこなせるようになった事業者さんは、まだごく少数ではありますが、時間短縮や工数を大幅に減らすことに成功した例もあります。

そうした事業者を少しでも多く増やしたい。ですので、悩みや相談に逐一お答えしながら、お客様がその利便性を理解していただくまで、Malmeはお客様に寄り添い、伴走していく覚悟で、事業を行なっているんです。

おもしろい土木業界を、もっともっと、おもしろくしていきたい


ーー Malmeは高取さんと野田敏雄さん、2名で立ち上げられたのですよね。設立間もないとはいえ、とてもお急がしそうですが……。

高取:ありがたいことに、今は、手が回らないくらい忙しいです(笑)。でも、ベンチャーを経験して、新しいサービスや価値を提供するためには、少人数のほうが有利だということを学びました。毎日のように事業環境が変わる中、仮説検証を繰り返しながら進むには、少人数の方が機動力が発揮できていいんです。結果的に、お客様の求めるサービスのカタチに早く辿り着ける。


Malmeのミッションは、DX化を通しての土木・建設業界への恩返しです。これを達成するためには、いたずらに会社の規模を大きくするのは避けたいと考えています。

ーー会社の規模拡大より、ミッションの達成を優先しているのですね。

高取:大学から約10年、土木・建設業界が私を一人前にしてくれたという恩があります。ドローンの企業でも土木・建設業界の方々とたくさん触れ合ってきましたが、根本にあるのは、この業界で働く人たちが好きだということ。公共性の高い事業を行っているからか、みなさん使命感にあふれている。でも本音を言うと、新技術へのチャレンジや新しい制度への受容性という点では相当苦戦している印象です。そこの打破をお手伝いするのが、Malmeができる一番の恩返しだと考えています。


ーー「ドボクをもっとおもしろく」というMalmeのミッションは「業界への恩返し」に繋がっているわけですね。ちなみに「ドボクをもっとおもしろく」というワードは、おふたりで考えたのですか?

高取:そうですね。野田とふたりでこれまでの経験も踏まえながら、どんな会社にしていきたいか話し合いました。いろんな感情が生まれて、それこそいろんな言葉が飛び交いましたが、それを列記していったときに、「業界をおもしろくしたい」という言葉が、シンプルで抽象的ですが、一番しっくりきました。


業界全体が新技術を積極的に取り入れ、楽しく働けるようになることはもちろん、これから業界に入る若者にとっても魅力的な業界にしていきたいですね。次世代の若手人材にこの業界の良さを認めてもらい、若手中心で回るような仕組みを率先して作らなければ、この業界に未来はないと断言できます。言い過ぎではなく今はそんな状況です。

土木は、知れば知るほど意義深いし、面白い。ただ身内でそんなことを言い合っていても始まらない。重要なことは、外にいる優秀な若手人材の皆さんとその思いを共有すること。この業界は、「最先端の技術にも触れられて、楽しく働ける。そして私の未来を変える大きな可能性を秘めている。とにかく、おもしろいんですよ!」ということを広く彼らと共有できたら、もっと多くの学生が土木・建設の門を叩いてくれるんじゃないかと思うんです。




【編集部 後記】

建設コンサルタント出身の高取 佑氏と野田 敏雄氏が設立した「Malme」。高取氏の「業界への恩返し」という言葉からも、MalmeがBIM/CIM導入支援サービスを通して「業界全体のアップデート」をしていくという、本気の姿勢が伝わってきた。ちなみに、Malmeというちょっと可愛らしい社名だが、創業メンバーである野田氏とともに赴いた「欧州インフラ視察」で最初に訪問したスウェーデンの街が「Malme」だったことから、命名したのだとか。二人の絆と土木への想いの強さが伺えるエピソードだ。



株式会社Malme
東京都中野区中野4-1-1 中野サンプラザ9F
HP:https://malme.net/



◎撮影時のみマスクを外していただきました。




取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋奈那 / 写真:宇佐美亮
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WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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