コラム・特集
平田 佳子 2022.1.18
いま注目の建設スタートアップ

デジタルツイン・プラットフォーマー企業「シンメトリー」が見据えるクールな未来。【後編】 〜 “データの民主化”で情報にもっと価値を 〜

アメリカに本社を構え、「デジタルツイン(現実空間から収集した様々なデータをデジタル空間で再現する技術)」をキーワードに、コンサルティングや技術開発を行うスタートアップ、Symmetry Dimensions Inc.(以下、シンメトリー)。同社が開発した土木・建設業界向けのVRソフトウェア「Symmetry」は、世界113ヵ国に約2万人のユーザーがいるという。2021年6月には、様々なデータを連携してデジタルツインを構築する「SYMMETRY Digital Twin Cloud」をリリースした。


本記事【後編】では、シンメトリーのビジョン、2021年、静岡県と連携して行われた災害時のプロジェクトについて、同社のFounder兼CEOである沼倉 正吾氏(以下、敬称略)に話をうかがった。


“データの民主化”が新しい市場や価値を生む


ーー 国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化を推進するプロジェクト「PLATEAUプラトー)」が、SYMMETRY Digital Twin Cloud リリースの少し前に発表されましたね。

沼倉: PLATEAUには、行政だけで都市の課題を解決するのではなく、データをオープンにして大手企業やスタートアップと連携し、課題を解決していこうという狙いがあります。

Symmetry Dimensions Inc. Founder兼CEO 沼倉 正吾氏

そこから一気にデジタルツインやスマートシティの方向に国が動いたのは、ここ数年の出来事の中でも、大きかったですね。次々と都市の3Dモデルが整備され、デジタルツインで使えるデータがどんどん出てきています。

ーー 着実に各都市の3Dデータが反映されてきましたね。

沼倉:PLATEAUの他にも、国や自治体がオープンデータ化を進めています。これからは、オープンデータと自社のデータ、さらにそれ以外の他社のデータなどを、いかに組み合わせて使うかが、重要になると考えます。


これまで、自社が抱えるデータは自社の業務で活用して終わりという企業が多かったかと思います。しかしこれからは、3D CAD、GIS、点群、IoT、国や自治体のオープンデータなど、いろいろなデータと連携して“データの価値を上げていく”。それを私たちは「データの民主化」と呼んでいるんです。そこから、新しいサービスや新しい働き方、新しい市場が生まれていくと考えています。

ーーなるほど。それは面白いですね。建設現場でのデータの連携について、具体的なイメージはありますか?

沼倉:SYMMETRY Digital Twin Cloudに、ある会社が施工データをアップするとします。すると別会社が同じような施工をする時には、クラウド上にある施工データを事前に確認して、「ここがこうなっているからこう施工すればいい」と検討できる。


そうすれば、現場の作業もすごく楽になって、生産性も上がりますよね。すると、価値あるデータを共有した会社にお金が支払われるようになるでしょう。現在、ゼネコンや大手デベロッパーも自社のデータをオープンにすることを、前向きに検討しているようです。

沼倉:私たちも含めて、1社の力はそんなに大きくありません。しかし、データをオープンにして連携できるようすることで、それぞれの企業がそれぞれの強みを出して、仕事ができるようになります。とくに中小企業やスタートアップが、新規事業を立ち上げられたり業務を拡大できたりと、大きなシナジーが生まれると考えています。


今、シンメトリーでも様々なスタートアップ企業との連携を強化しています。例えば、3D点群解析のスキャン・エックスさん、人工衛星のスペースシフトさん、災害情報等のレスキューナウさん、人流データのレイ・フロンティアさんなどです。以前は都市のデータを集めて解析できるのは大手企業だけだと思われていましたが、スタートアップ企業同士でデータ連携をすることで、むしろこれまでにない画期的な取組みも実現できるのではないのかと。


社会にインパクトを与えた、災害時のデータ連携


ーーこれまでに印象的だったプロジェクトはありますか?

沼倉:事業ではないのですが、特にインパクトが大きかったのが、2021年7月に静岡県で起きた大規模な土石流災害のサポートです。7月3日午前に災害が発生し、同日13時頃に静岡県から建設会社さん経由で私たちのところに連絡が入りました。以前、私たちが静岡県のプロジェクトで取得した点群データに今回の土砂災害の場所が入ってないかと聞かれ、急いで確認したら、あったんです。


静岡県や建設会社の方、シンメトリーの他に、火山学者や測量会社の方もオンラインで集まる中、その点群データを共有して、誰もが見られるようにしました。テレビやSNSで現地状況もリアルタイムで追いながら「この辺りから発生している可能性がある」「3次元で見ると土砂の流れは窪地に沿っていくからこう流れたんじゃないか」などの仮説・検証を進め、SYMMETRY Digital Twin Cloud上で3次元の線を書きながら打ち合わせをしました。

ーー SYMMETRY Digital Twin Cloudのプラットフォームに、静岡県のVIRTUAL SHIZUOKAや学者さんが有していたデータを入れて使ったのですか。

沼倉:そうです。従来だと災害時が発生してから調査委員が立ち上がり、現地調査に行って、詳細な状況が報告されるまでに、約1~2カ月は有してしまいます。


それが、災害が起きた当日中に、SYMMETRY Digital Twin Cloud で3Dデータを見せながら静岡県・副知事に状況や予測原因をご説明できたんです。

―当日中とはすごい。多くの自治体からも注目されますね。

沼倉:ただこの時は、たまたま静岡県と地元の建設会社さんと私たちが普段からLINEやメッセンジャーでやりとりをしていた間柄だったからできたというのもあるんです。


実際に各自治体で災害に対応する場合、データをアップする場所や、メンバーが集まるためのURLやウェブ会議システムを決めておかないと、ダメだと気付きましたね。ウェブ会議がシステムと一緒になっていればスムーズだったなあと思ったり。こうした課題については今、取組んでいます。


ある意味、エバンジェリスト。かっこよくて面白そうと感じてほしい


ーー 今、現場で働く事業者さんも、沼倉さんたちのようなスタートアップの方々も、面白がって楽しそうに仕事をしていると感じます。それは、若手が業界に興味をもってもらうためにも、大事なことだと思うんですよね。

沼倉:それは思いますね。業務用ソフトウェアは、細かいメニューがたくさんあって、操作が難しそうなものが多い印象を受けてしまいます。私は、画面を見ただけで“何か、かっこいい”って思わせたいんですよね。ですから、ノードベースのプログラミングにしてUIも工夫しているんです。

シンメトリー プレスリリースより

むかし、PerformerというMac用の音楽制作ソフトウェアが登場した時、それまでは数字ばかりが並んでいた画面デザインだったのに、Performerは、リアルタイムで動いて楽譜もバリバリ表示されて、すごくかっこよかった。Apple製品もそこを突き詰めていますよね。その「なんか、かっこいい」って感覚って、とても大切じゃないかと。

写真左:Symmetry Dimensions Inc. 事業開発部 逸見 貴人氏 /ミーティング時の様子

ーー ソフトやプロダクトをいじるだけで、テンションが上がるのはいいですね。


沼倉:私たちはある意味、エバンジェリストなんじゃないかと思うんです。テクノロジーを通して、「建設業界で働くと、こんなに面白いことができるんだよ!」と伝え、届けていく。若い子たちにもぜひ、建設や土木にしろ、ICTにしろ、デジタルツインにしろ、「何かおもしろそう」「あれ、超かっこいいからやりたい!」と気軽に思ってくれたら嬉しいんですよね。




【編集部 後記】

沼倉氏がアメリカで立ち上げたグローバルなスタートアップ企業「シンメトリー」。同社では様々な自治体や企業のデジタル系のコンサルティングや開発を担っているが、「とくに盛り上がっているのは土木・建設業界」と語る沼倉氏。デジタルツインを通して、効率性や使いやすさだけでなく、「かっこよさ」を追求する姿勢が印象的だった。建設・土木業界のイメージを一新するプロダクトに、ワクワクする未来を垣間見た。


Symmetry Dimensions Inc.
米国本社:108 W, 13th St, Wilmington, Delaware 19801 USA
日本事務所:東京都渋谷区代々木3-45-2 西参道Kハウス 4F
HP:www.symmetry-dimensions.com/?hsLang=ja-jp
代表 沼倉正吾 twitter:@ShogoNu


◎撮影時のみマスクを外していただきました

取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田佳子 / 撮影:宇佐美 亮
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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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