コラム・特集
「内田建設(静岡)」に聞いた、「河道掘削工事」におけるICT活用法とは?【後編】〜 ICTで自社に新しい武器を作ろう 〜
ICT活用工事の5段階を内製化している、静岡県袋井市に拠点を構える内田建設。前編では、ICT活用までの経緯や課題などを聞いたが、この後編では河道掘削工事の現場に伺い、具体的なICT建機の活用方法などを、内田建設の内田翔 氏に解説してもらった。
ーーこちらの現場では、どのような工事を行っているんでしょうか?
静岡県袋井市は花火大会が有名なのですが、その会場となる河川の堆積土砂の撤去を行っています。3次元測量、3次元設計データの作成、ICT建機による施行、3次元出来形管理、3次元データの納品という建設プロセスの5段階全てでICTを活用して実施している現場です。
今回の工事では計4箇所の河川に点在するの河道掘削を行うのですが、工区によっては川幅2mという建機が入るのも困難な狭い河川もあります。
この工事の特徴は2点あって、① 県の持っている航空LP点群データのある工区は、起工測量済みで受注時に頂く仕様になっている点 ②1工区の土量が140m3程度の小規模土工3現場すべてにICTを活用している点です。
ーー ICTの利便性は大規模になればなるほど発揮されるイメージがあるのですが、小規模の場合、費用対効果の面でプラスになるのでしょうか?
もちろん大規模に越したことはありませんが今回の河川の場合、たとえ川幅が狭くても延長があります。
また、道路工事などとは異なり、河川土工は設計図面が無いことがほとんど。そのため、測量の後に設計図面を起こすというプロセスが必要になるんです。3次元測量を行えばすぐに設計データを起こすことができるので、総合的に考えると、ICT活用の利便性を生かせる現場なんですよ。
また、3D設計を行えば、MC(マシンコントロール)を搭載したICT建機での施工が可能になり、丁張り作業を省略することができます。技術者の数が限られている弊社では、丁張りに割く時間が無くなるのは助かります。3D設計データとMCを搭載したICT建機を使って、大幅に業務量を削減することができました。
ーー小規模現場であっても、充分コスト削減が実現するのですね。それ以外に、今回の現場でポイントになっているICT技術はありますか?
こちらの現場では施工履歴データも使用しているため、出来形計測でも効率化を図ることができています。施工履歴を使用されている方もいるとは思いますが、簡単に説明すると施工履歴とは、位置座標を持つMC重機の刃先のログデータのことです。
そのログデータを使用して出来形評価をすることで、改めてドローンなどの出来形計測はしません。水の中で常に形状変化を伴う河床掘削では目から鱗の出来形管理です。イメージとしては重機モニターの施工進捗を知るための色塗りが、そのまま出来形評価になっていく感じです。
ーー 設計図面と施行状況の確認は、従来はどのように行っていたのですか?
これまでは、施行完了後に川に入り、設計通りに掘れているかを巻き尺やレベルで計測して確認、さらに河床内にポイントを設置したりしなければなりませんでした。施工した河道全域の管理測点を水浸しになりながら一つずつ確認して、出来形管理資料を作成していたのが、施行と同時に計測も終わる。河道掘削の大革命でした。
それに、川底は水の中ですから、施工エリア全域の施工が、設計通りに完了しているかが不確かな部分もありました。施工履歴を利用した3次元出来形管理データを使えば、正しく施工が完了しているという品質の証明にもなりますよね。
ーー 測量、設計、施行、管理で省力化が実現したんですね。2017年からICTを導入して以来、多くの現場を経験されていますが、初めてICT活用した工事を受注した時には、困ったことはありませんでしたか?
最初はICT活用工事の施工者希望型からの挑戦で、県の基準類がまだ整備されていない状況でどんな協議を進めていくのかわからない状況に困りました。
そんな状況をサポートしてくれたは、静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課建設ICT推進班の芹澤さんと杉本さんのお二人です。
4年前に初めてICTの工事を受けることが決まった時に「協議にわからないことがあったらいつでも呼んでください」とその協議の場に駆けつけていただいて、さらに「わからないことはその後も随時問い合わせてください」と、親身になっていただけたことが本当に心強かったですね。
今でこそ小規模の案件も増えていますが、当時のICT活用工事のイメージはは大規模案件がメインで、小規模自体がめずらしいという状況。県ではICTを推進するため、5段階の「できる部分だけ」をやってくれたら良いと言っていただけたことも、気負わずスタートできるきっかけとなりました。結果的にその工事は、全工程を行うことが出来て自信がついていきました。
ーー 行政の働きかけやサポートが大きかったのですね。他には何か印象的なエピソードはありますでしょうか?
実はとてもいい経験をさせて頂いたことがあって、私のその後の挑戦にも生かされているんですが、ICT活用工事に基準がまだない頃の「施工履歴への挑戦」はとても印象的でした。
挑戦した頃は、まだ履歴に関する国の要領や施工管理基準も無く、推進班のお二人から「(活用工事の中で新しい履歴の評価を)やってみませんか?」と声をかけていただいて、管理基準に無い工事に挑戦することになりました。
工事を行った翌年には、新しい管理基準が策定・公開されて、私たちの事例の積み重ねが新たな基準の原型になっていったのことは、その後の私の挑戦を促してくれる良い経験となりました。行政と建設会社が双方向的に働きかけ、積極的に事例を作っていくことで、建設業の環境はもっと良い方向に進んでいくと思っています。
ーー行政との間で新たなICT活用にチャレンジされましたが、内田さんご自身が、今後やってみたいICT活用法などはありますか?
楽しみにしていることが2つあって、1つ目は、どんどん簡易に3次元計測が可能になっているので、例えばi Phone12Proの「LiDAR」機能を使用して、より身近に3次元計測を活用していきたいと思っています。
動画を撮影するような感覚で手軽に点群を測定することができるので、例えば、打ち合わせに行った時にそのまま携帯で現場の測量をしたり、出来形計測のタイミングを待たずに現場のそばにいるスタッフに3次元測量をお願いする、なんてことも可能になりそうでワクワクしています。
点群データがあれば、すぐに概算の見積もりも作成できることもあるので、これによって計測や計画から施工までのスピードがすごく上がります。
それに、現場の地形データさえ手元にあれば、工事や工事以外にも無限に活用することができますから。活用方法をあれこれ考えるのも楽しいですね。そういう意味では次回の静岡県西部版の『VIRTUAL SHIZUOKA』オープンデータも本当に楽しみにしています。
2つ目は最近購入したHoloLens 2です。
HoloLens 2は3Dホログラムを映し出すレンズで、現場でレンズをかければ、3Dモデル、平面図が現地の風景に重ねて見ることができるというものです。今回導入した機器は自動追尾型の測量機器(TS)と連携することで、現地で位置補正をかけた状態でモデルを見ることができるんです。
完成形を実際に目で見ながら施行ができるなんて、考えるだけでワクワクしてしまって…。完成形の共有や実際の現場打合せにも役立つし、このレンズをかけた姿の現場監督や作業員を街で見かけるのって近未来的で面白いなと思って(笑)。
ーー 最後に、ICT活用工事の魅力は、なんだと思いますか?
私の感じるICT活用最大の魅力は、これまでの作業や効率の限界を簡単に突破してしまうところだと思います。土木って手順が昔から変わらないところがあって、ある意味洗練されていたと思うんです。そこを新しい技術で組み立て直して、提案していける、そのチャンスは若手にもあるぞ!って、次の現場の課題にワクワクしています。
私自身、「こんなに仕事が楽しくなると思わなかった!」というくらい、この日々を楽しんでいます。これからも武器やノウハウを積極的に増やして、効率化を図りながら業務の幅をさらに広げていきたいですね。
株式会社 内田建設
静岡県袋井市久能2350-2
TEL:0538-43-2855
MAIL:info@uchida-const.com
HP: http://uchida-const.com/index.php?FrontPage
ICTを活用して、測量・設計・施工を効率化
ーーこちらの現場では、どのような工事を行っているんでしょうか?
静岡県袋井市は花火大会が有名なのですが、その会場となる河川の堆積土砂の撤去を行っています。3次元測量、3次元設計データの作成、ICT建機による施行、3次元出来形管理、3次元データの納品という建設プロセスの5段階全てでICTを活用して実施している現場です。
今回の工事では計4箇所の河川に点在するの河道掘削を行うのですが、工区によっては川幅2mという建機が入るのも困難な狭い河川もあります。
この工事の特徴は2点あって、① 県の持っている航空LP点群データのある工区は、起工測量済みで受注時に頂く仕様になっている点 ②1工区の土量が140m3程度の小規模土工3現場すべてにICTを活用している点です。
ーー ICTの利便性は大規模になればなるほど発揮されるイメージがあるのですが、小規模の場合、費用対効果の面でプラスになるのでしょうか?
もちろん大規模に越したことはありませんが今回の河川の場合、たとえ川幅が狭くても延長があります。
また、道路工事などとは異なり、河川土工は設計図面が無いことがほとんど。そのため、測量の後に設計図面を起こすというプロセスが必要になるんです。3次元測量を行えばすぐに設計データを起こすことができるので、総合的に考えると、ICT活用の利便性を生かせる現場なんですよ。
また、3D設計を行えば、MC(マシンコントロール)を搭載したICT建機での施工が可能になり、丁張り作業を省略することができます。技術者の数が限られている弊社では、丁張りに割く時間が無くなるのは助かります。3D設計データとMCを搭載したICT建機を使って、大幅に業務量を削減することができました。
ーー小規模現場であっても、充分コスト削減が実現するのですね。それ以外に、今回の現場でポイントになっているICT技術はありますか?
こちらの現場では施工履歴データも使用しているため、出来形計測でも効率化を図ることができています。施工履歴を使用されている方もいるとは思いますが、簡単に説明すると施工履歴とは、位置座標を持つMC重機の刃先のログデータのことです。
そのログデータを使用して出来形評価をすることで、改めてドローンなどの出来形計測はしません。水の中で常に形状変化を伴う河床掘削では目から鱗の出来形管理です。イメージとしては重機モニターの施工進捗を知るための色塗りが、そのまま出来形評価になっていく感じです。
施工履歴の活用で、革命的な効率化が実現
ーー 設計図面と施行状況の確認は、従来はどのように行っていたのですか?
これまでは、施行完了後に川に入り、設計通りに掘れているかを巻き尺やレベルで計測して確認、さらに河床内にポイントを設置したりしなければなりませんでした。施工した河道全域の管理測点を水浸しになりながら一つずつ確認して、出来形管理資料を作成していたのが、施行と同時に計測も終わる。河道掘削の大革命でした。
それに、川底は水の中ですから、施工エリア全域の施工が、設計通りに完了しているかが不確かな部分もありました。施工履歴を利用した3次元出来形管理データを使えば、正しく施工が完了しているという品質の証明にもなりますよね。
行政と建設会社、双方向的な働きかけで、ICT環境を整えていく静岡
ーー 測量、設計、施行、管理で省力化が実現したんですね。2017年からICTを導入して以来、多くの現場を経験されていますが、初めてICT活用した工事を受注した時には、困ったことはありませんでしたか?
最初はICT活用工事の施工者希望型からの挑戦で、県の基準類がまだ整備されていない状況でどんな協議を進めていくのかわからない状況に困りました。
そんな状況をサポートしてくれたは、静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課建設ICT推進班の芹澤さんと杉本さんのお二人です。
4年前に初めてICTの工事を受けることが決まった時に「協議にわからないことがあったらいつでも呼んでください」とその協議の場に駆けつけていただいて、さらに「わからないことはその後も随時問い合わせてください」と、親身になっていただけたことが本当に心強かったですね。
今でこそ小規模の案件も増えていますが、当時のICT活用工事のイメージはは大規模案件がメインで、小規模自体がめずらしいという状況。県ではICTを推進するため、5段階の「できる部分だけ」をやってくれたら良いと言っていただけたことも、気負わずスタートできるきっかけとなりました。結果的にその工事は、全工程を行うことが出来て自信がついていきました。
ーー 行政の働きかけやサポートが大きかったのですね。他には何か印象的なエピソードはありますでしょうか?
実はとてもいい経験をさせて頂いたことがあって、私のその後の挑戦にも生かされているんですが、ICT活用工事に基準がまだない頃の「施工履歴への挑戦」はとても印象的でした。
挑戦した頃は、まだ履歴に関する国の要領や施工管理基準も無く、推進班のお二人から「(活用工事の中で新しい履歴の評価を)やってみませんか?」と声をかけていただいて、管理基準に無い工事に挑戦することになりました。
工事を行った翌年には、新しい管理基準が策定・公開されて、私たちの事例の積み重ねが新たな基準の原型になっていったのことは、その後の私の挑戦を促してくれる良い経験となりました。行政と建設会社が双方向的に働きかけ、積極的に事例を作っていくことで、建設業の環境はもっと良い方向に進んでいくと思っています。
ーー行政との間で新たなICT活用にチャレンジされましたが、内田さんご自身が、今後やってみたいICT活用法などはありますか?
楽しみにしていることが2つあって、1つ目は、どんどん簡易に3次元計測が可能になっているので、例えばi Phone12Proの「LiDAR」機能を使用して、より身近に3次元計測を活用していきたいと思っています。
動画を撮影するような感覚で手軽に点群を測定することができるので、例えば、打ち合わせに行った時にそのまま携帯で現場の測量をしたり、出来形計測のタイミングを待たずに現場のそばにいるスタッフに3次元測量をお願いする、なんてことも可能になりそうでワクワクしています。
点群データがあれば、すぐに概算の見積もりも作成できることもあるので、これによって計測や計画から施工までのスピードがすごく上がります。
それに、現場の地形データさえ手元にあれば、工事や工事以外にも無限に活用することができますから。活用方法をあれこれ考えるのも楽しいですね。そういう意味では次回の静岡県西部版の『VIRTUAL SHIZUOKA』オープンデータも本当に楽しみにしています。
2つ目は最近購入したHoloLens 2です。
HoloLens 2は3Dホログラムを映し出すレンズで、現場でレンズをかければ、3Dモデル、平面図が現地の風景に重ねて見ることができるというものです。今回導入した機器は自動追尾型の測量機器(TS)と連携することで、現地で位置補正をかけた状態でモデルを見ることができるんです。
完成形を実際に目で見ながら施行ができるなんて、考えるだけでワクワクしてしまって…。完成形の共有や実際の現場打合せにも役立つし、このレンズをかけた姿の現場監督や作業員を街で見かけるのって近未来的で面白いなと思って(笑)。
ーー 最後に、ICT活用工事の魅力は、なんだと思いますか?
私の感じるICT活用最大の魅力は、これまでの作業や効率の限界を簡単に突破してしまうところだと思います。土木って手順が昔から変わらないところがあって、ある意味洗練されていたと思うんです。そこを新しい技術で組み立て直して、提案していける、そのチャンスは若手にもあるぞ!って、次の現場の課題にワクワクしています。
私自身、「こんなに仕事が楽しくなると思わなかった!」というくらい、この日々を楽しんでいます。これからも武器やノウハウを積極的に増やして、効率化を図りながら業務の幅をさらに広げていきたいですね。
株式会社 内田建設
静岡県袋井市久能2350-2
TEL:0538-43-2855
MAIL:info@uchida-const.com
HP: http://uchida-const.com/index.php?FrontPage
WRITTEN by
高橋 奈那
神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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- 「内田建設(静岡)」に聞いた、「河道掘削工事」におけるICT活用法とは?【後編】〜 ICTで自社に新しい武器を作ろう 〜
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