コラム・特集
平田 佳子 2021.5.20
i-Constructionの先駆者たち

「ICTを使って、楽しくラクして稼ごう」。 最新技術に熱量を込めて、山梨県でi-Constructionを牽引する平賀建設

山梨県に本社を持つ「平賀建設 有限会社」。社員数20 名ほどの小規模な建設会社ながら、ICT 技術をいち早く取り入れ、多くの現場でi-Construction を実践し続けてきた。

2021 年3 月には、スタートアップ企業 ARAVと連携し、クローラダンプの遠隔操作システムの実証に成功。果敢に新しいことに取組み続ける同社の代表取締役・平賀健太氏に、ICT 導入のきっかけやメリット、連携プロジェクトについてなどを伺った。

お金がなくて人もいない……。そんな状況を、とにかく打開したかった


ーー 平賀建設では2018年頃からICTを積極的に取り入れていますね。何かきっかけがあったんでしょうか?

平賀氏:そもそも平賀建設は祖父が創業した会社で、下請け工事を手がけていました。私は18 歳の頃に入社し、一度は離れて別の会社で働いてましたが、30 歳の頃に戻って社長になったんです。その当時は会社が大きな赤字を出してギリギリの経営だし、人もいなくてまさに背水の陣……。

平賀建設 有限会社  代表取締役 平賀健太氏

“この状況を何とかしなきゃ”という時に、敬愛する同業者の社長さんから“アイ・コンストラクションって知ってる?”と言われたんです。最初はちんぷんかんぷんでしたね(笑)。話を聞くと、写真から3D データができて丁張り(施工前に建物の位置や高さを図るための仮囲い)などの作業も不要になり省人化できると。ほんとにそれができるならやりたいと思いましたね。



―― 経営に対する危機感が背景にあったのですね。最初に導入したICTは何だったのでしょうか?

平賀氏:まずはドローンを取り入れました。空撮で現場の写真を撮ることから始まって、測量にも使うようになり、専用のソフトやPC を導入してデータ化していきました。それで手応えを感じたので、自動追尾のトータルステーションも取り入れていったんです。

ーー資金はどうされたのでしょう?

平賀氏:当時、会社が経営難で簡単に融資を受けられる状態ではなく、設備投資がある金融機関を探して資金を準備しました。でも、次にICT建機を導入しようとすると、さらに高額で頭を抱えました……。


それで評判が良かったキャタピラー・ファイナンス(大手建機メーカーであるキャタピラー社専用の金融会社)に相談し、“日本で一番ICT で成功している人に会わせてほしい”と懇願しました。実際に稼いでいる方に話を聞けば、早いなと考えたんです。

ーー成功している方をまねしてみようと。

平賀氏:そうです。それで、紹介されたのが和歌山県の西建工業さん。和歌山県は山梨県と同様、決して大きい県じゃないし、公共事業も多くない。


そんな中で、社長の西口さんは会社を創業して5 年ほどでICT 建機を駆使しながら、13 億円もの売上げを出していました。その場でICT 導入方法や、社員教育の仕方などの経営面から全てを教えてもらい、多くのことを学びましたね。その帰り道に早速、ローンでICT の重機を1 台頼みました。その時のことは、今でもよく覚えています。。

ICTで、ラクで楽しくて、稼げる仕事へ


ーー ICTを導入したことで、変化を感じることはどこですか?

平賀氏:ICTを取り入れたことで、現場の管理や施工など、すべてのプロセスでスピードも生産性も上がっています。


業績も計画通りに伸び続け、年商は2 億円から今期で6 億円に。社員数も2倍に増えましたし、給料の高さは県内の同業者で10 本の指に入ると思います。数年前と比べたら、まるで別の会社のようですね(笑)。


ーー 短期間でそんなに変化があったのですね。ICTに関して一から勉強するのは大変じゃなかったですか?

平賀氏:私は、自分ができないこと・わからないことは詳しい人に聞けばいいというスタンスで、建設会社やメーカーなどの様々な方と関わりながらICT の知識や技術を習得してきました。そしてそれを社員と共有しながら社内で平準化したことは会社としての強みだと思ってます。一度覚えてしまえば、いろいろな現場で活用できますから。

ーー なるほど。最近、新しく導入された技術はありますか?

平賀氏:トプコンさんの杭ナビショベルは、去年、デモ機1号機に触って速攻買いました。衛星に頼らないし、安くて、使い勝手も良くて。


私の場合、スマートコンストラクション・レトロフィットキットと杭ナビショベルをどちらも建機に付けて、今日はどちらを立ち上げようかと楽しみながら動かそうかなと考えています。

杭ナビショベルとレトロフィットキット の片方だけしか取り付けちゃいけないなんて法律はないわけですし、「こうすべき、ああすべき」という固定概念を疑って工夫することで、初めて、仕事って楽しくなると思うんです。


あとは単純に、自分で試行錯誤しながら、使い分けできたら楽しいんじゃないですか。衛生下か非衛生下だけでなく、その日の気分でテクノロジーを使い分けできるなんて、最高ですよ。


ICT化へのサポートや、スタートアップとの連携も


ーー ほかの建設会社に対してi-Constructionをサポートするサービスもされていますね。

平賀氏:当社には、i-Construction のコンサルティングをメインで請け負うICT 事業部があります。静岡支社には専門のICT アドバイザーがいて約50~60 社のお客様がいらっしゃいますし、神奈川、岩手、沖縄など日本全国からお問い合わせいただいています。今はサポートと相談がメインですが、今後は様々なIICT 施工現場受注やCT 商品を取い扱い、販売・取り付け・キャリブレーションなどまで手がけていく予定です。


ーーお客様にはどのようなアドバイスをされているのでしょうか。

平賀氏:“ICT はやってみたいけど何からすれば良いかわからない”というお客様も多く、状況に応じたアドバイスやサポートをしています。ICT 製品の買い方から導入の仕方、機械の使い方、社員教育の進め方、稼ぎ方まで何でも相談を受けていますね。最初はお金がかかると抵抗があるかもしれませんが、“やらない理由はないし勇気を出して踏み込めばいいじゃん”って思いますね。

ーーロボット工学を生かして建設業界のDXを目指すスタートアップ「ARAV」や、「日建」と連携して、クローラダンプの遠隔操作のシステムを開発されていますね。このプロジェクトのきっかけを教えていただけますか?

平賀氏:去年たまたまARAVさんのTwitterでバックホーを遠隔で動かす動画を見て、“これやりたい”と思って私から連絡させていただきました。


それで白久代表と新しい技術でどんなことができるのかを話す中で、うちにあったクローラダンプを遠隔操作することにしたんです。クローラダンプは、林道など車が走れないコンディションの道路でも土砂などを運搬できる建機。今ある機械に後付けで装置を搭載し、スマホやパソコンから遠隔で現場の重機を動かせるようにしました。

ーーすごい。建設現場にはいつ導入されるのでしょうか。

平賀氏:すでにシステムは完成していますが、遠隔操作に関する国のルールがまだないので、今は国土交通省などに相談しながら実用化に向けて進めています。現場への導入は今年夏頃の予定です。もちろん、遠隔で安全に操作できることが大前提なので、絶対に事故が起こらないシーンで導入していこうと。当社での実例をベースにしながら、今後、法令に落とし込むキッカケになってくれたらいいですね。

ーーそれは早いですね。建設業界の中でも、続々とスタートアップ企業が出てきていますが、平賀さんはどう感じますか?

平賀氏:スタートアップ企業が面白い取組みをされているのは、素直に嬉しいですし、大いにやってほしいと思いますね。私も良い機器を買って早く使いたいですし(笑)。


ARAVさんの時もそうでしたが、気になる企業には自ら交渉しています。ゼロイチの段階から関わっていきたいですし、市場に出るまで待ってはいられませんから(笑)。

ーーお話を伺っていると、平賀さんご自身も楽しんでいる印象を受けますね。これからの指針などはありますか?

平賀氏:仕事は楽しいレクリエーションのようなものですね。私たちはこれからも健全な利益を出すために、新しいICT技術をどんどん取り入れていきたいと思っています。


経営者としても、一緒に働いている仲間のために結果を出さなきゃいけないし、そのためにICTがある。ICTを導入すれば現場の負担が圧倒的に減るので、ラクだし楽しいし、こんなにもうかる業界はない。私は本当にそう思っているんですよ。




【編集部 後記】

ICTを活用したことで経営難と人材不足を解消。そして、新しい技術にいち早く着目して挑戦し続ける平賀建設代表の平賀氏。専用のPCを自作したり、米国大手メーカーのシステムのバグを解析して改善に繋げたりと、常識にとらわれず、平賀氏自らが、徹底的にICT化に取り組む姿も印象的だった。ICTに力を入れる理由は、「ラク。稼げる。そして、楽しい」とシンプルだ。仕事はレクリエーション。という言葉も響いた。建設業界の待遇の改善が叫ばれる中、同社の取組みが業界の新たなモデルとなっていくのではないか。




平賀建設 有限会社
山梨県韮崎市藤井町坂井613




取材・編集:デジコン編集部 /文:平田 佳子 /写真:宇佐美 亮
印刷ページを表示
WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
i-Constructionの先駆者たち

建設土木の未来を
ICTで変えるメディア

会員登録

会員登録していただくと、最新記事を案内するメールマガジンが購読できるほか、会員限定コンテンツの閲覧が可能です。是非ご登録ください。