コラム・特集
時代の先を読み【働き方改革】を実践する老舗建設会社「ヤマウラ(長野)」の巧みな戦略 〜アシストスーツ/ICT建機/LiDAR測量/オフィス業務も!〜
「生きている限り自立した生活を実現したい。」をミッションに、困っている人を支える「人のためのロボット」の研究・開発を進める東京理科大学発ベンチャー・イノフィス。
同社が開発するパワーアシストスーツ(PAS)は、これまでに介護施設をはじめ、物流、農業、製造業など、重労働が求められるさまざまな現場での利用が拡大している。
今回、デジコン編集部は訪問したのは、長野県駒ヶ根市に本社を置く建設会社・ヤマウラ。創業は1920年(大正9年)の、100年以上続く老舗企業だ。
374名の社員を抱え(2021年3月時点)、建築・土木の企画・設計・施工などの建設事業、エンジニアリング事業、開発事業など、幅広い事業を展開している。
ヤマウラがイノフィスのパワーアシストスーツ(PAS)を初めて導入したのは2015年7月、いまから6年半前のことだ。
当時は介護施設での利用が中心だったイノフィスのPASを、なぜ土木・建設の現場に導入したのか。
自らがパワーアシストスーツ(PAS)導入のきっかけとなる提案をしたという、ヤマウラ 土木部長の埋橋輝(うずはし・あきら)氏に導入の経緯と、PAS導入を含めた同社が進める「働き方改革」の考え方についてうかがった。
「たしか2014年10月に開かれた現場の施工方針を決める社内会議の場だったと思います。それ以前に介護系のメディア記事でパワーアシストスーツ(PAS)の存在を知り、自分たちの事業にも使えるのではいかと考え、会議で導入の提案をしました」。
埋橋氏は、導入検討の経緯をそう振り返った。
翌2015年7月、ヤマウラはイノフィスのPAS「MUSCLE SUIT(マッスルスーツ)」を2台購入。2018年2月に、国土交通省から受託した駒ケ根市内を南北に流れる天竜川河川敷の土木工事で初めて、「MUSCLE SUIT (マッスルスーツ)」を現場に投入した。
天竜川の上流に位置するこの地は、川の傾斜が急で、流れが早い。急流で河川敷のコンクリートが摩耗することを防ぐために、この現場では護岸表面に玉石を積む、石積(張)工が採用された。
石積み工事は機械化が難しく、石積み職人の技術が欠かせない。ただし、当時すでに職人の高齢化が問題になっていたという。
職人のほとんどが70代、まれに60代の方もいるが、逆に80代ということもあります」(埋橋氏)。
玉石の1個あたりの重量は平均30~40kg。それを一つ一つ職人が持ち上げて傾斜のある河川敷に並べる作業は、若い人にとっても重労働で、高齢者となるとなおさらのことだ。
「長野は天然石が豊富で、それを地元の工事に使うことはよいこと。河川敷の保護目的だけでなく、天然石を使う文化を残したいという思いもあり、職人の負担を軽減させる技術としてイノフィスの『マッスルスーツ』の現場投入を決めました」(埋橋氏)
ただし、現場の職人の反応は、当初、あまりよくなかったという。
「当時のイノフィスさんの製品はコンプレッサが付属した大掛かりのもので着脱がやや面倒でした。そのため、装着への抵抗感があったようです。動ける範囲も制限されましたし。
そもそも一般に職人は、従来とは違う新しいことに対して保守的です。実際に使用すると作業がラクになるとわかっても、なかなか積極的には装着してくれませんでした」(埋橋氏)
それでも一定の効果が確認でき、2019年にはイノフィス製の新型「MUSCLE SUIT Every(マッスルスーツエブリィ)」を2台購入。現在、長野県飯田市で実施している「令和3年度 天竜川水系小沢川砂防堰堤付替道路工事」における法面工事にて、モルタルミキシング作業の際にPASを着用しているという。
これまでイノフィスの「マッスルスーツ」「マッスルスーツエブリィ」の2モデルの現場投入を果たした経験から、パワーアシストスーツ(PAS)には次のような課題があると埋橋氏は指摘する。
「つねに石を積むだけ、あるいはモルタルのミキシング作業だけを続けるのならばPASはかなり有効です。ただし実際は、その作業員が現場で行う業務は他にもたくさんあります。別の作業をしようとしたとき、動きづらさ、あるいは着脱の手間をどう評価するかは、人によって分かれるでしょう」
そこでヤマウラは、イノフィスも含めた5社のPASを一堂に集めて、試着会を開催。実際にさまざまな機種のパワーアシストスーツ(PAS)を装着することで、現場使用の可能性を探った。
「たとえば、ただ羽織るだけのパワーアシストスーツ(PAS)は、大きな力が出るわけではないので、重量のある物を扱う作業には不向きですが、現場で交通整理する作業員が装着することで、負担を軽減できることがわかりました。作業内容に適したPASの選択には、より多様な労働負担を軽減する可能性があると思います」(埋橋氏)
埋橋氏が会社にイノフィスのPAS使用を提案は、現場作業員の負担軽減、つまりは時代を先取りした現場の働き改革の一環だ。
ヤマウラは、イノフィスのPAS以外にも、社内の働き方を改善するためのさまざまな施策を実施している。
たとえば、i-Constructionという言葉が使われ始めた2016年には、マシンガイダンス(MG)機能搭載のICT建機を導入。
2019年には社内の基幹システムを刷新し、社内事務員の帳票整理や写真整理などの事務作業を効率化、空いた時間を現場監理担当社員のアシストに回すなどして、社内全体の作業負担の軽減を進めている。
また、本社だけでなく、現場事務所の環境の改善にも取り組んでいる。事務所内を清潔に保ち、最新の設備・機器を設置。最近は現場でもパソコン作業が必須なので、Wi-Fiを完備し、リモート会議などにも対応できる環境を整えている。
「現場事務所中心に何年も過ごす社員はたくさんいます。本社だけ改善しても意味はありません。現場が働きやすくなることが、なにより重要なのです」(埋橋氏)。
ヤマウラの働き方改革へ意識は、社内だけに止まらず、協力会社にも向けられている。
「今はコロナ禍でなかなか実施できていませんが、協力会社向けの定期講習会を年2回開催しています。半日の講習会で、講習参加者には、収入の補償目的で日当25,000円をお支払いしています」(埋橋)
「どうしても講習会は土曜日開催になってしまい、建設業界でまだ土曜日休みが浸透していない現状では、講習参加者は仕事を休むことになるからです」(埋橋)
「なんとか講習に参加してもらい、それを通じて協力会社の職人のレベル向上を図るとともに、当社の方向性も理解してもらいながら互いに成長していきましょうという取り組みです」(埋橋氏)
なぜヤマウラは、こうした働き方改革に積極的に取り組むのか。その背景には、会社経営陣が常日頃から口にする「建設業のイメージを変えなければならない」という危機感がある、と埋橋氏は指摘する。
「3Kといわれる建設業界はとにかくイメージがよくありません。たたでさえ将来の働き手不足が懸念されています。人を集めるためにはまずイメージを変える必要があるという課題意識を会社として持ち続けています」(埋橋氏)
たとえば、埋橋氏がインタビューの際に身につける作業着は、「なるべく建設業らしくないデザイン」を意識して、数年前に変更したものだ。そのほかにも学校などに出向き建設業のイメージアップにつながる発信を積極的にしているという。
「先日は保育園で、重機の見学会を開催しました。園児たちは重機が大好きなんですよね。小型のバックホーを持っていって一緒に乗って運転してみたり、写真を撮ったりしました。いろいろなかたちで興味のある人に情報を積極的に発信していかなければ、人は集まってきません」(埋橋氏)
いよいよ2024年4月、建設業に与えられていた時間外労働の上限規制の猶予期間が終わり、建設業界の働き方改革はまったなしの状況に突入する。
イノフィスのPAS使用を含め、この課題に危機感を持って取り組むヤマウラのさまざま働き方改革の実践には、近い将来、天竜川の急流が生み出す荒波のごとく押し寄せる建設業界の課題を乗り切るヒントがたくさん隠されている。
株式会社ヤマウラ
長野県駒ヶ根市北町22番1号
TEL:0265-81-6010(代)
HP:https://yamaura.co.jp/
同社が開発するパワーアシストスーツ(PAS)は、これまでに介護施設をはじめ、物流、農業、製造業など、重労働が求められるさまざまな現場での利用が拡大している。
今回、デジコン編集部は訪問したのは、長野県駒ヶ根市に本社を置く建設会社・ヤマウラ。創業は1920年(大正9年)の、100年以上続く老舗企業だ。
374名の社員を抱え(2021年3月時点)、建築・土木の企画・設計・施工などの建設事業、エンジニアリング事業、開発事業など、幅広い事業を展開している。
ヤマウラがイノフィスのパワーアシストスーツ(PAS)を初めて導入したのは2015年7月、いまから6年半前のことだ。
当時は介護施設での利用が中心だったイノフィスのPASを、なぜ土木・建設の現場に導入したのか。
自らがパワーアシストスーツ(PAS)導入のきっかけとなる提案をしたという、ヤマウラ 土木部長の埋橋輝(うずはし・あきら)氏に導入の経緯と、PAS導入を含めた同社が進める「働き方改革」の考え方についてうかがった。
現場作業員の負担軽減のために、イノフィスの「マッスルスーツ」を採用
「たしか2014年10月に開かれた現場の施工方針を決める社内会議の場だったと思います。それ以前に介護系のメディア記事でパワーアシストスーツ(PAS)の存在を知り、自分たちの事業にも使えるのではいかと考え、会議で導入の提案をしました」。
埋橋氏は、導入検討の経緯をそう振り返った。
翌2015年7月、ヤマウラはイノフィスのPAS「MUSCLE SUIT(マッスルスーツ)」を2台購入。2018年2月に、国土交通省から受託した駒ケ根市内を南北に流れる天竜川河川敷の土木工事で初めて、「MUSCLE SUIT (マッスルスーツ)」を現場に投入した。
天竜川の上流に位置するこの地は、川の傾斜が急で、流れが早い。急流で河川敷のコンクリートが摩耗することを防ぐために、この現場では護岸表面に玉石を積む、石積(張)工が採用された。
石積み工事は機械化が難しく、石積み職人の技術が欠かせない。ただし、当時すでに職人の高齢化が問題になっていたという。
職人のほとんどが70代、まれに60代の方もいるが、逆に80代ということもあります」(埋橋氏)。
玉石の1個あたりの重量は平均30~40kg。それを一つ一つ職人が持ち上げて傾斜のある河川敷に並べる作業は、若い人にとっても重労働で、高齢者となるとなおさらのことだ。
「長野は天然石が豊富で、それを地元の工事に使うことはよいこと。河川敷の保護目的だけでなく、天然石を使う文化を残したいという思いもあり、職人の負担を軽減させる技術としてイノフィスの『マッスルスーツ』の現場投入を決めました」(埋橋氏)
ただし、現場の職人の反応は、当初、あまりよくなかったという。
「当時のイノフィスさんの製品はコンプレッサが付属した大掛かりのもので着脱がやや面倒でした。そのため、装着への抵抗感があったようです。動ける範囲も制限されましたし。
そもそも一般に職人は、従来とは違う新しいことに対して保守的です。実際に使用すると作業がラクになるとわかっても、なかなか積極的には装着してくれませんでした」(埋橋氏)
それでも一定の効果が確認でき、2019年にはイノフィス製の新型「MUSCLE SUIT Every(マッスルスーツエブリィ)」を2台購入。現在、長野県飯田市で実施している「令和3年度 天竜川水系小沢川砂防堰堤付替道路工事」における法面工事にて、モルタルミキシング作業の際にPASを着用しているという。
現場使用で見えてきたPASの課題と大きな可能性
これまでイノフィスの「マッスルスーツ」「マッスルスーツエブリィ」の2モデルの現場投入を果たした経験から、パワーアシストスーツ(PAS)には次のような課題があると埋橋氏は指摘する。
「つねに石を積むだけ、あるいはモルタルのミキシング作業だけを続けるのならばPASはかなり有効です。ただし実際は、その作業員が現場で行う業務は他にもたくさんあります。別の作業をしようとしたとき、動きづらさ、あるいは着脱の手間をどう評価するかは、人によって分かれるでしょう」
そこでヤマウラは、イノフィスも含めた5社のPASを一堂に集めて、試着会を開催。実際にさまざまな機種のパワーアシストスーツ(PAS)を装着することで、現場使用の可能性を探った。
「たとえば、ただ羽織るだけのパワーアシストスーツ(PAS)は、大きな力が出るわけではないので、重量のある物を扱う作業には不向きですが、現場で交通整理する作業員が装着することで、負担を軽減できることがわかりました。作業内容に適したPASの選択には、より多様な労働負担を軽減する可能性があると思います」(埋橋氏)
イノフィスのPASもその一例。ヤマウラが実践する「働き方改革」とは?
埋橋氏が会社にイノフィスのPAS使用を提案は、現場作業員の負担軽減、つまりは時代を先取りした現場の働き改革の一環だ。
ヤマウラは、イノフィスのPAS以外にも、社内の働き方を改善するためのさまざまな施策を実施している。
たとえば、i-Constructionという言葉が使われ始めた2016年には、マシンガイダンス(MG)機能搭載のICT建機を導入。
2019年には社内の基幹システムを刷新し、社内事務員の帳票整理や写真整理などの事務作業を効率化、空いた時間を現場監理担当社員のアシストに回すなどして、社内全体の作業負担の軽減を進めている。
また、本社だけでなく、現場事務所の環境の改善にも取り組んでいる。事務所内を清潔に保ち、最新の設備・機器を設置。最近は現場でもパソコン作業が必須なので、Wi-Fiを完備し、リモート会議などにも対応できる環境を整えている。
「現場事務所中心に何年も過ごす社員はたくさんいます。本社だけ改善しても意味はありません。現場が働きやすくなることが、なにより重要なのです」(埋橋氏)。
ヤマウラの働き方改革へ意識は、社内だけに止まらず、協力会社にも向けられている。
「今はコロナ禍でなかなか実施できていませんが、協力会社向けの定期講習会を年2回開催しています。半日の講習会で、講習参加者には、収入の補償目的で日当25,000円をお支払いしています」(埋橋)
「どうしても講習会は土曜日開催になってしまい、建設業界でまだ土曜日休みが浸透していない現状では、講習参加者は仕事を休むことになるからです」(埋橋)
「なんとか講習に参加してもらい、それを通じて協力会社の職人のレベル向上を図るとともに、当社の方向性も理解してもらいながら互いに成長していきましょうという取り組みです」(埋橋氏)
土木・建設業界の現状への強い危機感。変化の荒波を乗り越えるヤマウラの挑戦
なぜヤマウラは、こうした働き方改革に積極的に取り組むのか。その背景には、会社経営陣が常日頃から口にする「建設業のイメージを変えなければならない」という危機感がある、と埋橋氏は指摘する。
「3Kといわれる建設業界はとにかくイメージがよくありません。たたでさえ将来の働き手不足が懸念されています。人を集めるためにはまずイメージを変える必要があるという課題意識を会社として持ち続けています」(埋橋氏)
たとえば、埋橋氏がインタビューの際に身につける作業着は、「なるべく建設業らしくないデザイン」を意識して、数年前に変更したものだ。そのほかにも学校などに出向き建設業のイメージアップにつながる発信を積極的にしているという。
「先日は保育園で、重機の見学会を開催しました。園児たちは重機が大好きなんですよね。小型のバックホーを持っていって一緒に乗って運転してみたり、写真を撮ったりしました。いろいろなかたちで興味のある人に情報を積極的に発信していかなければ、人は集まってきません」(埋橋氏)
いよいよ2024年4月、建設業に与えられていた時間外労働の上限規制の猶予期間が終わり、建設業界の働き方改革はまったなしの状況に突入する。
イノフィスのPAS使用を含め、この課題に危機感を持って取り組むヤマウラのさまざま働き方改革の実践には、近い将来、天竜川の急流が生み出す荒波のごとく押し寄せる建設業界の課題を乗り切るヒントがたくさん隠されている。
株式会社ヤマウラ
長野県駒ヶ根市北町22番1号
TEL:0265-81-6010(代)
HP:https://yamaura.co.jp/
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i-Constructionの先駆者たち
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