コラム・特集
平田 佳子 2021.8.23
i-Constructionの先駆者たち

「売上UP!採用率UP!社員のやる気UP!」ICT化で実現した「細村建設(埼玉)」の働き方改革。若手や女性もどんどん活躍できる職場に

埼玉県・東松山市を拠点に、堤防工事や調整池工事などの重機土工を手がける株式会社 細村建設。建設機械のリース・販売で埼玉県内トップクラスの実績をもつ「東リース」のグループ会社でもあり、同グループと連携しながら、2021年にはランドログマーケティングが販売する「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」を自社で同時に3台導入。積極的にICT化を進め、会社を挙げて働き方改革に取組んでいる。


「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」は、さまざまなメーカーの油圧ショベルに、後付けすることでICT建機化ができる製品だ。


細村建設の働き方改革は一体どんなものなのか。その全容を探るべく、改革への想いや、ICT化を推進していく中での変化、今後の展望について細村建設 代表取締役である佐々木 達也氏、社長室長の黒図茂雄氏、土木部長の水谷力氏(3名以下、敬称略)に話を伺った。

ICTは、働き方改革の土台


ーー 細村建設では「i-Construction」を社全体で掲げて、ICT化を進めると同時に働く環境も改革されていますが、どんなキッカケがあったのでしょうか?

佐々木:私は建設業の出身ではなく、約4年前に細村建設の代表に就任しました。就任当時は、土木・建設業界について詳しく知りませんでしたが、プロフェッショナルである黒図と水谷を社内組織に迎え入れ、「会社を魅力的にしていくためには、どうすればいいか」。その議論を重ねていきました。当社も業界全体と同じ人材不足や育成に課題があり、国土交通省が「i-Construction」を掲げて、ICT化を推進していることから、その課題を解決するために、活用を模索してきました。

株式会社 細村建設 代表取締役 佐々木 達也氏

ーー 現場において課題を感じることはありましたか?


黒図:当社は下請け工事が多く、ICT土工の工事では、元請け会社さんから支給されたICT建機を使用していました。しかし、それだとどうしても自社で保有する機械の稼働率が低下する問題に直面しました。

株式会社 細村建設 社長室長 黒図 茂雄氏

また、2019年の台風19号による被害が埼玉県各所で発生し、ICT土工が加速化する中で災害復旧工事が多く発注され、ICT機械の需要が急拡大しました。このままでは、元請けから支給されるICT建機だけでは足りなくなると、危機感を覚えました。

佐々木:私がこの会社に就任した当初は、若手や女性を積極的に採用したいと思っても、そもそも応募がないことや、せっかく採用しても、定着しないことなどがあり、働く環境を変えようとしても、様々な課題がありました。


一般産業のように休日を確保したくても、建設業では、なかなか休日が取れなかったり、若手の教育でも“仕事は見て覚えなさい”という職人気質の世界で技術を身に付けにくかったりと……。この業界に来て疑問に感じたことはたくさんありました。ですから、細村建設はもちろん、この業界自体を現場から変えていきたいと、本気で思いましたね。

ーー佐々木さんが良い意味で業界を知らなかったからこそ、気づくことも多かったのですね。実際には、ICTをどう取り入れていったのでしょうか。

佐々木:グループ会社で建設機械器具のレンタル・販売を手がける「東リース」と連携してICT建機を揃えたり、埼玉測機社と3次元による測量を展開したりと、積極的にICT化を進めました。最初はグループ会社で導入したものを当社でも活用しようと思ったのですが、自社でICT機械を持たなければ、ICTの波に乗れないのではないかと考え、自社でICT機械を導入して、そして、できれば自社で完結できるようにしたいと思いました。そこで、日本キャタピラーのフルコントロールマシンを2台、機械を後付けでICT化できる「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」を3台同時に導入しました。


黒図:若手がこの業界を魅力的に感じてもらうための肝となるのがICTだと考えます。20代の若手社員用に新しい建機を購入して、その建機に「スマートコントラクション・レトロフィットキット」を後付けしたんです。従来のようにベテランが一方的に教えるのではなく、経験の浅い若手でもICT建機であれば、自分でどんどん操作に慣れ、スキルを身につけられるのは大きいですね。


水谷:私は元請け会社出身でして、これまで多くのICT施工に関わってきました。そしてその実績を評価していただき、細村建設に入社。当社の現場で、ICT施工の指導をしています。ICT建機の導入など現場のICT化に関しては、最初、抵抗感を示す作業員もいました 。しかし、実際に導入して動かしてみて、その簡単さや、生産性の高さを実感してもらうと、現場の空気感も徐々に変わっていったんです。今ではベテランから若手まで、約7割の作業員が一人でICT建機を扱えるようになっています。そしてやはり、若手の方がICTに関する知識の習得は断然、早いですね(笑)。

株式会社 細村建設 土木部長 水谷 力氏

ーーなるほど。現場の作業効率も変わりましたか?

黒図:私たちは施工だけでなく、全体システムなども含めてトータルでICT化を進めています。例えば、当社に適したデジタル日報や集計などのシステムをソフトウェア会社に依頼して作っていただいたり、施工管理や情報共有にiPadのアプリを活用したりと。


iPadアプリで日報作成や進捗管理をすることで、現場に直行直帰できて、移動時間のロスもなくなりました。一般的には、ICT化により作業効率は約3割上がると言われますが、私は3割以上だと感じています。

佐々木:iPadで写真を撮って元請け会社さんや施主さんに共有すれば、作業内容や工数が明確になり、働いた分はきちんと請求させていただくことができます。社内の情報共有の際も、毎回社員全員を集めることなく、iPadでメンバー全員に情報が行き渡り、いつ何をすべきかがわかるので、とても便利ですね。


水谷:タブレットはみんな使いこなしています。オペレーターがiPadを持って動き回っているのは、現場レベルではまだまだ少ないのではないでしょうか。さらに、2021年6月からは施工管理アプリ「ANDPAD」を導入して、工程管理を行っています。


週休2日制を整え、人材育成にも注力していく


ーー社内の働く環境や制度はどのように変えていったのでしょうか。

佐々木:まずは、週休2日制を実現することに注力しました。給料が出ないのに休日出社するなどのグレーな部分をなくして、平日に公休が取れるようにするなど、オペレーターからダンプ運転手まで社員全員がクリーンに働けるように、変革していったんです。



黒図:やはり、ICTの導入なくしては、週休2日制は成されなかったと思います。

ーー 週休2日制を叶えている中小の事業者はまだ少ないと思うので、すごいです。

佐々木:あとは社員の人材育成にも力を入れています。全社員が建設キャリアップシステムに登録し、資格取得支援制度も取り入れました。


今は1級・2級土木施工管理技士や1級・2級建設機械施工技士の有資格者も多いですし、熟達した作業能力や豊富な知識、マネジメント能力を備えて専門団体の資格認定を受けた基幹技能者は14人も(2021年8月現在)います。

水谷:建設キャリアアップシステムは、大手ゼネコンさんが本格的に導入する前から、細村建設では取り入れているんです。実は、私が元請け会社にいた頃は、建設キャリアアップシステムも基幹技能者も知りませんでした(笑)。


佐々木:もちろん、資格の勉強のために学校や講座に通う費用や勉強中の残業代も支給しています。資格試験に合格したらお祝い金や資格手当も支給しているんですよ。少しでも社員が前向きに働いてくれたらとその一心で、様々なことを考えています。

黒図:会社が社員の人生を応援し、多くの社員が資格を取っているので、若手も将来が見通しやすくなっているのではないかと、手前味噌ながらそう感じています。今までは資格に興味を示さなかったのに「建設機械施工管理技師の国家試験に合格したので、次は2級土木管理技師にチャレンジします!」と20代の社員がこの間、言ってくれたんです。「積極的に学びたい」という若手の意識の変化を感じています。


人材不足を解消し、女性の活躍の場も


ーー業界自体がいわゆる「3K」のイメージもある中で、社員のみなさんは働きやすさを感じているでしょうね。

佐々木:そうだといいです。売上の面でも、私が社長に就任した当初から比べて、ICT化を進めていったことで、昨年(2020年)は倍近くの売り上げまでアップしました。その分、社員の給料も上げることができているので、待遇面も改善されたと思います。


黒図:実は当社では、男性も女性も若手もベテランも給料の差はつけていません。20代でも外国製の車やバイクに乗っている社員もいますから(笑)。

ーーそれは夢がありますね。働く環境や待遇を整えたことで、採用状況は変わりましたか?

佐々木:業界全体で人材不足が叫ばれているので、そもそも、うちのような下請け会社は大変です。しかし、私が細村建設に来て変革を遂行してから、8人の方が新しく入社しました。若手も今は20代が3人、30代が8人まで増えました。制度や待遇が良くなったからか、一旦、細村建設を離れて戻ってきてくれた社員も何人かいますよ(笑)。


また当社では「紹介制度」を設けています。これは、社員の紹介で入社した方が、半年間在職したら報奨金を出す仕組み。この制度で入社した方も多数いて、会社をよく知る社員が紹介してくれる方なので、ミスマッチも少ないんです。

黒図:土木・建設業界は男社会のイメージがあると思いますが、女性も積極的に採用したいと考えています。そのためには、女性も活躍できる環境を整えるのが、なにより大切。当社では今、アルバイトから正社員になった方がいるのですが、そんな方が、管理職に就くことができれば、女性視点で働きやすい環境を整備してくれるのではないかと、期待しているんです。

佐々木:私は、当社で働く社員には、資格を取り、手に職をつけて長く安心して、そしてしっかり稼げる環境をつくりたいと本気で考えています。結婚しても出産しても、いつでも安心して戻れる場が用意できたら嬉しいなと。


i-Constructionのその先に


ーー今後、この業界はどうなっていくと感じていますか?

水谷:i-Constructionが掲げられてから、ICT化のスピードが非常に早く感じます。その中で下請け会社が生き残るには、技術や安全性などの面で、いかに信頼されるかがカギになると思いますね。


黒図:私もそう思います。これからi-Constructionがスタンダードになり、下請け主体でICT施工を行っていくことになるでしょう。そうなれば下請け会社でも、ある程度、自社で3D測量からICT施工、3Dによるデータ作成までできないと、“うちにはできません”と旗を降ろす部分も出てきてしまいます。だから、私たちは早めにICT化を進め、あらゆる業務に自社で対応できるように準備しておこうと、覚悟があるんですよ。

佐々木氏:うちのような下請け会社だとICT建機1台を買うにも大きな設備投資で、とても勇気がいります。しかしその一方で、元請けが下請け会社を選ぶ際に、単に「安く施工できるかどうか」が基準になっている側面もあります……。業界全体のレベルを上げるためにも、ICT施工や人材育成など、働き方改革に前向きに取組んでいる会社がきちんと評価されることを、期待したいですね。

黒図:少し極端な話かもしれませんが、私たちがめざすのは“土木業界のフェラーリ”。技術力や人間力、そして施工を通しての“見えない価値”を理解してくれるお客様と一緒に前進していきたいと思っています。現在は有難いことに、これまで縁がなかった企業様からも次々とお声がけをいただいています。元請け会社のICTに頼っていたのでは、状況が目に見えていますし、技術面でも確かな価値はありますから。


―― お話を伺い、細村建設が社内環境の向上のために、血肉を削るようにしてICT化を推進されてきたことを、実感しました。最後に、今後の目標を教えていただけますか。

黒図:まずは、スマートコンストラクション・レトロフィットキットを全ての建機につけたいですね。あと、遠隔操作によるバックホウやダンプの操作にも興味があります。


佐々木:グループ会社の「東リース」でもICT部門が立ち上がり、ICTをトータルでサポートする体制が構築されました。グループの強みを生かしながら、測量調査、施工、出来高管理までワンストップのサービスを実現し、さらに生産性を上げていきたいですね。


また、当社では国交省のICTアドバイザーとして、県内大手の現場で若手や新入社員へのICT勉強会を行っています。これからは当社も主体的に、ICT土工の教育と普及の一端を担っていきたいと考えています。



【編集部 後記】
働きやすい環境を整備するために、経営陣が本気で考え、真摯に改革に取組んでいる姿勢が、端々から感じられた。また取材時、会社を案内してもらったのだが、オフィス内もトイレも駐車場も広場も、とにかく清掃が行き渡っていたのに、驚いた。

佐々木代表いわく、現場から戻ってきた建機やトラック、ダンプなどは必ず毎日、洗浄して綺麗にするのだとか。道具を大切にするトップアスリートのように、マシンを大切にする建設会社は、きっとどんどん向上していく。そう感じさせられた、細村建設の働き方改革だった。

レトロフィットキット 製品サイト
https://ll-m.co.jp/scretrofit
レトロフィットキット お問い合わせはこちら
https://ll-m.co.jp/contact?params[product_id]=0

株式会社 細村建設
〒355-0061 埼玉県東松山市大字葛袋1342-3
TEL:0493-35-0211
HP:http://hosomura.co.jp/

◎撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田佳子 / 撮影:宇佐美亮
 
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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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