コラム・特集
平田 佳子 2021.9.15
いま注目の建設スタートアップ

建設用3Dプリンターを牽引する「Polyuse」。地道に泥くさく開発を進めるその先に、彼らが見据えるのは、人とテクノロジーが共存する、わくわくする未来だった

2019年に創業し、3Dプリンター技術の先駆者として業界の注目を集めるスタートアップ「株式会社 Polyuse(以下、ポリウス)」。独自の建設用3Dプリンターを開発し、2021年6月には前田建設工業株式会社と3Dプリンターを活用した実証実験を行い、土木構造物の現場施工を成功させた。

さらに、そんな革新的な取組みが評価され、『週刊東洋経済 すごいベンチャー100  2021年版(2021年9月4日号)』にも選出されている。

今回、ポリウスが神奈川県・鎌倉市に構える開発施設に出向き、同社のCEO 岩本 卓也 氏、COO大岡 航 氏、CTO エンジニア 松下将士氏(以下、敬称略)に、ポリウスの設立背景やビジョン、さらに開発技術や今後の展望など、たっぷりと話しをうかがった。


創業メンバーの4人が出逢い見えてきた、3Dプリンターの可能性


ーーまずは、ポリウスの立ち上げ経緯を教えていただけますか。

岩本:私は大学でバイオ系の研究をしていたのですが、大学院ではもともと興味があった経営を学んでいました。院生の頃に人材のウェブマッチング系のスタートアップに携わる中で大岡と親しくなり、一級建築士の伊勢崎 勇人(創業メンバー/現取締役)とも出会って。

三人で話している時に、伊勢崎が建設の3Dプリンターの海外事例を紹介してくれて、僕と大岡が「3Dプリンター、めっちゃおもしろい!可能性がある」と乗っかったのが、立ち上げのきっかけになりました。2018年の12月頃ですね。

株式会社 Polyuse CEO 岩本 卓也 氏

大岡:私は大学時代にIT系ソフトウェアの開発会社を京都で創業し、卒業後に東京に拠点を変えました。それから同世代のスタートアップの方や、著名な投資家、経営者とお話しする中で視野が広がり、ゲームやエンタメなどの流行を追うビジネスでなく、第一次・第二次産業のように基盤がしっかりした業界の非効率な部分をTech(IT技術)で解決したいと考えるようになったんです。岩本や伊勢崎と話す中で、土木・建設業界ならそれが実現できるのではないかと感じました。

株式会社 Polyuse COO大岡 航 氏

岩本:
でも、私も大岡も伊勢崎も開発ができない……。それで、私の高校時代からの知り合いで開発技術のスキルが抜群に優れていた松下に、手伝ってほしいと声をかけたんです。

松下:前職では本田技術研究所でエンジンの開発をしていましたが、岩本の話を聞いておもしろそうだと思い、参画することにしたんです。当初は、国外から建設用3Dプリンターを購入し、追加の開発を行い、日本市場での最適化を行うつもりでいました。しかし、実際購入には大きなコストがかかる上に海外製品を使うとなると、そもそもの使用素材や既存業界とは大きく異なるオペレーション等々が多々あり、日本の建設市場には合ってないんじゃないか?と考えるようになりました。それで、自分たちで開発を始めることにしたんです。


地に足のついた開発を。小さな構造物から始動


ーー 4人が集まったことで、建設業界や3Dプリンター、自社開発の方向性が見えてきたんですね。そこから3Dプリンターの開発・導入をどう進めたのでしょうか?

大岡:最初は海外のように、建設用3Dプリンターを橋梁や住宅などの大型構造物に適用しようとしていましたが、日本では法律や業界的な縛りが多くて難しく……。それで、建設会社さんや建築事務所さんなど業界の様々な方と、「建設用3Dプリンターをどう活用したら日本の現場に根づくか」をディスカッションしていきました。その中で今の日本の建設市場では、職人不足などの根本的な課題があることがわかったんです。


岩本:京都のゼネコン・吉村建設工業さんとは、ポリウス創業期から「現場でどう適用していくか」を一緒に考えさせていただいています。例えば、小型構造物の「集水桝」をつくるアイデアもそこから生まれました。集水桝は側溝の水や泥を溜める四角形の設備です。従来は型枠工という専門の職人さんが施工していましたが、今は型枠工も人材不足だから、3Dプリンターで自動施工すれば、省人化できると。まずは“地に足をつける”ことを大切に、小さな構造物からスタートして、業界の課題をひとつずつ解決していきたいと思いましたね。

ーー海外は3Dプリンターの導入が進んでいるイメージがありますが、日本では事情が違うのですね。“地に足をつける”とはどういうことでしょう?

大岡:ポリウスの思想として、「現場」「現実」「現物」を重視する「三現主義」が基本にあります。施工の現状やお客様の声などを知るために、ゼネコンさんや施工会社さんなどにヒアリングの機会を設け、一社一社の課題やニーズを深掘りすることに重きを置いていますね。


建設用3Dプリンターを開発している日本のベンチャーは、まだほぼゼロですし、私たちは建設業の出身ではありません。ですから、きちんと現状を把握しないと、「日本の建設会社さんが本当にほしいもの」と「私たちがやりたいこと」にズレが生じてしまうと考えています。


「マシン」「ソフト」「素材」。三位一体の高度な開発技術


ーー 土木・建設業界の構造物を3Dプリンターでつくる場合、どのような技術が必要になってくるのでしょうか?

岩本:3Dプリンターでは、モルタルの粉状の素材に水を混ぜて固めながら幾重にも重ね、構造物を造形していきます。そのため、プリンターから出るまではドロっと流れるように流動性が高くて、出た後は固まって形状を保持する力が高くないといけません。




それを、マシンや素材、ソフトウェアで相互に関連させながらコントロールしていく複雑な技術を開発しています。私たちが使っている素材は通常のモルタルとは異なり、水を加えて素材の状態が変わるスピードが早くて可使時間が圧倒的に短いので、センシティブなコントロールが必要なんです。

ーー3Dプリンターは簡単にモノを作れるイメージがありましたが、そのためには、マシン、素材、ソフトを組み合わせた技術が不可欠で難度が高いのですね。


松下:日本の建設用3Dプリンターの開発では先人がいませんし、海外の技術も素材が違うので応用することが難しいんです。この領域の技術はレベルが高く、365日、試行錯誤ばかりして開発していますね(笑)。でも大手メーカーでは一部の開発しか携わることができませんが、ポリウスでは自分でゼロから考えて新しい技術を習得しながら開発に集中できので、私個人としてはとてもやりがいを感じているんですよ。

ーー そもそも3Dプリンターはどうやって動かすのでしょうか。

松下:Wi-Fi経由でタブレットや、パソコン、スマートフォンで操作できます。操作性については、これからも現場の声を聞きながら、どんどん改善を重ねていきたいですね。

前田建設工業と共同で、国内初の現場での施工製造に挑戦


ーー 2021年6月に前田建設工業との3Dプリンターを用いた実証実験がニュースになりましたが、このプロジェクトについて教えてください。

岩本:実証実験では、老朽化した集水桝の取り替え工事で、当社の建設用3Dプリンタで造形を行い、集水桝の埋設施工を行いました。今回の実験は日本で初めて、3Dプリンターを使って、現場で施工製造を行いました。



Polyuse製の建設用3Dプリンター「ASHIGARU」による円柱型集水桝の蓋部分

ーー プロジェクトを進めていく中で大変に感じることはありましたか?

岩本:現場は屋外なので、天候や季節などによって日々環境が変わります。環境が変われば、素材の質が変わり、機械の不調が起こったりします。その改善のためにデータを収集し、強度や時間による変化の検査も進めていく予定です。

現場写真/Polyuse製の建設用3Dプリンタ「ASHIGARU」による円柱型集水桝の造形(提供:Polyuse)


ーー変化が大きい現場の環境下でできたのは大きいですね。前田建設工業との共同開発には、どういう背景があったのでしょう?

岩本:前田建設工業さんは以前から3Dプリンターの開発をしていましたが、土木・建設業界は長年ハードウェアの開発が中心だったので、3Dプリンターのようにソフトウェアなどをミックスした技術になると難しいと。


私たちのコア技術は、先ほど申しましたように、ハードウェア、マテリアル、ソフトウェアを組み合わせたトータルな開発技術です。しかも、創業から10カ月という圧倒的に速いスピードで3Dプリンターの実利用まで実現できたため、私たちと連携することが、現場の普及につながると考えたのではないでしょうか。


大岡:ポリウスは、外部から専門知識を取り入れられるコンソーシアム型開発を大切にしています。前田建設工業さんは3Dプリンターの知見もあり世に広めようという姿勢が強く、研究設備もお持ちでしたので、共同開発に大いに意味があると思いましたね。今のところ施工や製造物にトラブルもなく、一緒にナレッジを保有できたのは良かったと感じています。

人が効率的に、そして、クリエイティブに働くためのテクノロジー


――3Dプリンターで土木・建設業界はどうなっていくとお考えですか。

岩本:2030年には今の土木・建設業界の職人さんの3分の1が不足する試算がされています。そのために、私たちがめざすのは「人とテクノロジーの共存施工」です。職人さんがもっと効率的に、もっとクリエイティブな作業ができるように、「この構造物なら機械で十分」「そこまで時間や頭を使わなくてもいい」という部分を、テクノロジーで効率化できればと。


ーー 現場の方々が少しでも楽になるようにと。

大岡:そうですね。また、施工は天候や新型コロナなどの外的状況に左右され、工程や予算を管理するのも複雑で大変です。ロボティクスならあらかじめ稼働時間が見える化され、管理もしやすいと思いますね。

ーー なるほど。マネタイズの面はどうなるのでしょうか。


大岡:3Dプリンターを実際に使うのは、下請けの施工会社の現場の職人さんが中心です。海外で3Dプリンターを買うと大体3,000万〜5,000万もしますが、例えば数百万円で買えたり、1日数万円で借りられたりと敷居を低くし、下請け会社さんが導入しやすいようにと考えています。詳細はこれからパートナー企業さんと一緒に詰めていく予定です。

ーー それが叶えられたら、中小規模の建設事業者さんでも3Dプリンターを導入できる可能性が高くなりますね。

岩本:そう思いますし、そうしないと日本の建設業は変わらないと思うんです。

ーー 今日お話を聞くまで、ポリウスは大手ゼネコンさんと共に、ダイナミックなことをスマートに達成しているイメージが強かったので、ここまで現場に寄り添い、地道に開発を重ねていることが、驚きでした。

岩本:投資を受けている企業さんからも、「非常に泥くさい会社」って言われています(笑)。その泥くささがおもしろいと言ってくださって。


大岡:毎日、コンクリートにまみれているので、実際、ほんとうに泥くさいんですけどね(笑)。

業界イメージを一新し、次世代をつなぐ架け橋に


ーー 今、建設現場ではどういった声が上がっているんですか。

大岡:最近、私が地方の建設会社さんからよく聞くのは、「コロナ禍の中で密はつくらず、でも、工期を遅らせることもできない。だから、ICTを活用して効率的に作業をしよう」という声。会社の規模に関係なく、古いやり方に固執せずに、アフターコロナに向けてロボティクスなどTechの活用を前向きに検討している人が多い印象です。


ーーコロナを機に地方の現場の方とも方向性が合ってきて、ポリウスとしてもやりたいことができると。

大岡:そうですね。また、環境に配慮するSDGs(持続的な開発目標)も追い風になっています。これまでの建設現場ではコンリートが余ったり型枠の端材などを廃棄したりと、環境面での問題もありましたが、3Dプリンターでは型枠が必要なく、最初から構造物に必要な素材の量が分かるので残コンもほぼ出しません。環境に良い建設用3Dプリンターを使うべきだと、後押ししてくれる企業も増えましたね。

ーー中小の建設事業者や地場のゼネコンでもテクノロジーをうまく生かしていこうという動きがあるのですね。最後に、Polyuseのこれからのビジョンをおうかがいできますか。

岩本:まずは現場の方々に3Dプリンターを使ってもらうことが、ファーストステップです。ゆくゆくは北海道から沖縄まで環境条件が異なる全国の現場で、3Dプリンターを普及できればと思っています。


中長期的なビジョンでは、3Dプリンターを使った日本の土木技術を海外に輸出していきたいですね。日本はいい意味で建設の基準が厳しく、インフラ技術のレベルが高い国。3Dプリンターでデータに基づいて出力すれば高品質のインフラができて災害に備えられますので、国際貢献ができるのではないかと思いますね。

大岡:エンジニア集団がICTを活用した技術を積極的に開発して土木・建設業界をアップデートしていけたら、「最もダイナミックにものづくりできるのは建設の世界だ」と、10代、20代の若手が憧れる業界になると私は信じています。


その流れをつくる一つとして、Polyuseが業界の次世代をつなぐ橋掛になればすごく嬉しいですね。これからも世の中にインパクトがあって、職人さんたちが楽になって、ゼネコンさんからも求めていただけるような、プロダクトをつくっていきたいです。


写真左:株式会社 Polyuse エンジニア CTO 松下 将士氏


松下:あとは、社内エンジニアも増やしていきたいと考えています。今は大学の現役ドクター生も入ってきているところです。初めて挑戦することも多いので、知的好奇心が旺盛で広い視野をもちながら物事を深掘りして追求できる方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。また、多くの共同開発プロジェクトが進んでいますが、さらなるコンソーシアム先も探しています。様々な企業様と連携し、建設用3Dプリンターを一緒に盛り上げていきたいですね。






【編集部 後記】

独自の建設用3Dプリンターを開発し、日本での導入を進めるPolyuse。海外の大きな事例ばかりにとらわれず、日本特有の業界の課題と向き合い、現場ニーズに適した、地に足のついた技術開発で現場に定着させていく。そんなPolyuseの真摯な事業姿勢と意気込みが取材を通して感じられた。今回、取材した創立メンバーの3人は全員20代。土木・建設業界を変えていく、斬新な発想や新しい開発技術が期待される。


株式会社Polyuse
東京都港区浜松町2-2-15 浜松町ダイヤビル2F
HP:https://polyuse.xyz/




◎撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン編集部 /文:平田 佳子 /撮影:宇佐美 亮


印刷ページを表示
WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
いま注目の建設スタートアップ

建設土木の未来を
ICTで変えるメディア

会員登録

会員登録していただくと、最新記事を受け取れたり、その他会員限定コンテンツの閲覧が可能です。是非ご登録ください。