コラム・特集
平田 佳子 2020.12.16
いま注目の建設スタートアップ

東大研究室発スタートアップ「DeepX」ー 「AIによる完全自動の油圧ショベル」2021年を目標に製品化へ ー 【後編】

東京大学でAI研究を牽引する松尾研究室発のスタートアップで、準大手ゼネコン「株式会社フジタ」と協働で「油圧ショベル自動化AIプロジェクト」を推進している「株式会社DeepX」(ディープエックス)。

前編に続き、本記事ではプロジェクトの展望や企業としての動きについて、DeepXの取締役であり、同プロジェクトの開発責任者である冨山 翔司氏に聞いた。

オペレーションを煮詰め、2021年の製品化を目標に


ーー プロジェクトの進捗と今後の目標をお聞かせください。

冨山氏 これまでは実証実験に近いカタチでしたが、今はAIを工事に導入して、生産性が実施に上がるかどうかを見据えた開発に取組んでいます。目標としては、来年(2021年)あたりに製品化を実現したいですね。

写真:DeepX提供

正直、本件のような技術的難易度が高く前例のないプロジェクトは、ゼロからスケジュールを立てきれない部分もありまして(笑)。これまでに失敗もたくさんしてきましたし、開発してからはじめて分かることも多いんです。そんな中で、確度が最も高いものを選び続けてきた結果、今このステージまでたどり着けていると思います。

ーー 製品化を実現するための課題はなんでしょうか?

冨山氏
今、課題としてあるのが、実際に機械を自動化したときのオペレーションのやり方です。例えば土砂の積み込みの際に、今まではダンプとバックホウの運転手同士が阿吽の呼吸で、危険を察知した時には、安全のためのブザーを鳴らしていましたが、機械が無人になった場合は、別のコミュニケーション方法を考えなくてはいけません。

そういった「どんなオペレーションにすれば少ない負担で自動化できるか」というすり合わせをしていますが、開発とは違った難しさがありますね。

ーーなるほど。AIが人と仕事を進める際に、チームワークでどう機能していくかというところですね。

冨山氏 そうですね。AIのシステムが導入されていくことで、現場で作業する方の動きや意識も、今までとは変わっていくのではないかと思っています。

また、事故のリスクアセスメントは非常に重要です。建機の稼働範囲にわずかでも人が立ち入ったら認識して止まるなど、安全のためのガイドラインを作り、慎重に詰めていかなければなりません。

ユーザーに寄り添った開発を。現場のヒアリングも重要に


ーー 冨山さんが、今とくに力を入れていることはありますか?

冨山氏 ユーザーのニーズをAIの機能に落とし込むこと。いくら画期的な開発ができたと思っていても、現場で役に立たないと意味がありませんから。もちろん要求に応える開発技術もそうですし、DeepXとしてどれだけユーザーの声を丁寧にヒアリングできているかという部分も重要になりますね。

ーー ということは、施工現場でもよくヒアリングをされるのですか?

冨山氏 はい。そういう意味でも、今フジタさんと一緒にプロジェクトを進めているのは、私たちにとってアドバンテージになっていると思います。ゼネコンの方の目線で業界のさまざまな話を聞けますし、エンドユーザーにあたる現場のオペレーターの方々のリアルな声も伺えます。

オペレーターの方には「機械がどう動くとよいか」「AIと協調して仕事をする際にどんな情報が必要か」などをヒアリングしています。

5倍以上に生産性を上げ、安全性も高めていく


ーー あらためて、AIの導入でもたらされる価値や変化はどういうものだとお考えでしょうか。

冨山氏 私たちは、1人あたりの生産性を上げることを目指しています。具体的には、1人のオペレーターが管理室で5台・6台の建機を見ながら作業の指示だけを行い、実際に掘る、ダンプに積み込むなどの単純作業はAIにすべて任せて建機が勝手にやってくれる、というビジョンを描いています。

DeepX 取締役 兼 油圧ショベル自動化AIプロジェクト開発責任者 冨山 翔司氏 (写真:DeepX 提供)

まだ課題はありますが、早くて数年でそこまでのレベルに到達することを目標にしています。そうすれば、生産性が何倍にも上がり、建設業界の人手不足も解消できるのではないかと想定しています。

ーー そうなると、業界全体がクールなイメージになりそうですね。安全面でも変わることはありますか?

冨山氏 もちろん、AIを導入することで、安全面が良くなることは確実にあります。例えばバックホーやダンプカーが全部自動化されて無人になると、基本的に工事での人身事故はなくなるはずですし、災害現場などの危険な環境でも人がリスクを負わずに復興工事ができるようになります。そういった観点でも建機の無人化・自動化は非常に重要だと思いますね。

エンジニアを増員。開発を重ね、技術を広げていく


ーー 2020年7月に、総額16億円の資金を調達を実施されたということですが、今後のDeepXさんの展望をお聞かせください。

冨山氏 資金調達のおもな目的としては、開発するエンジニアの増員です。今、当社のメンバーは20名弱ですが、会社としてメンバーを増やして開発を重ね、現場にどんどん導入していくフェーズに入っています。

(写真:DeepX 提供)

当社では食品・建設・物流など幅広い産業を対象にしていますが、社内のさまざまなメンバーと業界やプロジェクトを横断しながら開発を進めています。というのも、一つの技術が業界を越えて共通で使えるような開発をめざしていますので。

ーー 先を見据えて、他業界の機械にも応用できる、汎用性が高い技術を開発されているのですね。

冨山氏 そうですね。今回の油圧ショベルで開発した技術も、他の機械に転用できる部分があるので、これからどんどん広げていきたいですね。油圧ショベルはブーム、アーム、バケットを動かしてものをつかむという部分は産業用ロボットに近いですし、油圧で動く他の重機への応用もできますし、多様な生産現場の向上につながるのではないかと思います。


【編集部 後記】
株式会社フジタと協働し、ゼロからスタートした「油圧ショベル自動化AIプロジェクト」。試行錯誤しながらも、業界の常識に捉われない視点で開発を進め、実際に製品化される日も近づいている。

冨山氏の話から、建設業界の課題に真摯に向き合い、開発に取り組んできた様子が伝わってきた。才能あふれるメンバーが集結し、生産現場の革新に向けて挑戦し続けるDeepXの今後の動きが楽しみだ。

また取材直後の2020年7月末日、DeepXは、油圧ショベル自動化AIシステムが、建設現場において、指定領域(動画では、縦横10×10mの領域)を掘削し掘り下げる作業を、無人かつ自動で行うことに成功したと公式に発表。

Demonstration experiment of DeepX's excavator automation system (DeepX YouTube公式チャンネルより) 

今後は、あらゆる機体に後付け可能なレトロフィットバックホウ自動化システムとして完成させ、現場に導入し、現場の劇的な生産性向上を推進していく。   前編の記事はこちら



取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田佳子


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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。

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