オーストラリアに本社を構えるAppen(アッペン)は、AI開発の中でも教師データの準備や管理に強みを持つ。同社は全世界170ヶ国に及ぶグローバルネットワークを持ち、業界最先端のAI支援型データアノテーション・プラットフォームを提供している。
今回、アッペンの日本法人であるアッペンジャパン バイス・プレジデント 吉崎哲郎氏(以下、敬称略)にお話しをうかがい、世界や日本でのAI活用事例と同社が提供しているサービスについてご紹介いただいた。
土木・建設業界にも造詣が深い吉崎氏に、日本の土木・建設現場においてAI活用を成功させるために大切なポイントについても語っていただいた。
――まずはAppenがどのような企業なのか、というところから教えていただけますか?
吉崎:アッペンという企業自体は1996年に設立、今年(2023)で27年目を迎えます。もともとはAIの中でも言語の領域から始まりました。
音声認識のほか様々な言語の音声データを文字に起こしたり、音声を認識したりするといった技術からスタートし、その後、検索エンジンでの入力とその結果の関連性を調べる業務、動画解析・認識といったいわゆるコンピュータビジョンと呼ばれる分野へと6~7年かけて拡大していきました。
――言語系の領域から画像の領域へと拡大していったのですね。
吉崎:AIで専門性を高めてきたこともあり、クライアント様はGoogle、Microsoft、amazonといったIT系が多いです。とはいえ製造業や建設業など、幅広い業種とのお付き合いがあります。
――どのようなサービスを提供されているのですか?
吉崎:私たちの対応範囲はトレーニングデータに関わる一連のサービスで、メインはAIモデルの教師データ、正解となるデータにラベル付けやタグ付けをするような業務ですね。お客様がデータをお持ちであればそのデータを処理しますし、無ければ、教師データとなるデータを揃えるところ、例えば、画像を撮影し撮りためていくといった業務も手掛けています。
――教師データといった用語は、5~6年ほど前からよく耳にするようになった印象ですが、御社はかなり早くからAI関連サービスを展開されてきたのですね。
吉崎:5年前というと中国市場が大きく成長した時期にあたります。中国では自動車の自動運転技術の分野が非常に盛り上がっており、自動運転を実現させるための肝ともいえるアノテーションの部分で弊社に対するニーズも高まっています。
アノテーションとは、データを有効に活用するためにタグ付けを行なう作業のことで、自動運転では、カメラが撮影した画像の中から前方を行く自動車や歩行者などの障害物を検知する、また、LiDARで取得した点群データの中から物体を検知するといった技術です。
自動車の自動運転レベルはある程度高まってきており、次の分野として注目されてきているのが建設機械です。建機の自動化においてもアノテーションが重要な役割を持つといえます。私どものお客様でもゼネコンやスーパーゼネコンさんが年々増えてきております。
――御社が提供するサービスに「データアノテーション・プラットフォーム」というものがあるそうですね。
吉崎:「アノテーション」とは英語で「注釈」という意味で、AI開発においてはデータに情報を付加する工程を指します。たとえば顔認識なら、人の画像の頭の部分にバウンディングボックスと呼ばれる四角い枠を付けて、性別や年齢層といった属性情報を付け加える作業のことです。
Appenのデータアノテーション・プラットフォームは、人的サービスと最先端のモデルを組み合わせてAIの教師データを作成するサービスです。
自社で開発したソフトウェアを用い、プラットフォーム上で音声を収録したり、その音声を書き起こしたりといったことができます。音声の書き起こしは人間が聴き取って、単語の区切りなどに注意しながら、テキスト入力しているというのが特徴の一つです。
――自然言語処理や画像解析などに関するソリューションを総称したものを「データアノテーション・プラットフォーム」と呼んでいるんですね。
吉崎:プラットフォーム自体も販売していますし、個別のオーダーに対応するために、社内で教師データを整えていく業務にも用いています。また、お客様によっては、社内ですでに使っているシステムに対応させて欲しい」という要望もあり、その場合は弊社のプラットフォームを使わずに遂行するケースもあります。
――日本企業への導入状況を教えていただけますか?
吉崎:徐々に広まってきています。先ほどAppenは27年目と申しましたが、アッペンジャパンの設立は2021年7月です。
それ以前からオーストラリアの本社と契約をいただいていたり、中国にあるグループ会社とお取引があったりする日本の企業様がいまして、続々と新しいプロジェクトが立ち上がっていたり、別の事業部にご紹介いただき広がっている状況ですね。
ニーズとしては、以前は音声認識や機械翻訳用の音声データ、翻訳データを提供するような言語系のプロジェクトが多かったのですが、日本法人の設立以降は製造業や建築業のお客様から画像や動画を使ったAIに関するお声がけが増えています。
――製造業の検品作業など、AI検知は国内でも注目が高まっていますよね。土木・建設系での事例があれば教えてください。
吉崎:そうですね、大きく3つのカテゴリにわけられるかと思います。ひとつは「働き方改革関連法」関連です。いわゆる2024年問題ですね。お客様は法適用開始に向けて段階的に施策を進めています。
たとえば休日に施工現場へ人が立ち入っていないかをAIを使って監視するとか、業務中の作業従事者の動きを把握するといったこと。また、より効率的に施工業務が進むように、AIを使って人の動きや人数を分析したいといったご依頼もあります。
――AIを活用してどのように分析を行なうのですか?
吉崎:現場を撮影した動画や静止画から、作業者の動きや導線を確認したり、作業員の数に過不足がないか分析したり、建機の稼働状況を確認することができます。
こういったご要望はゼネコンやスーパーゼネコンなど比較的大手企業さんが多く、すでに自社内でもある程度の開発には取り組んでいるが、作業ボリュームが増えてきたとか、自分たちでは対応できない内容についてお手伝いするようなニーズが多いです。
――なるほど。自社である程度やっていて、御社のような専門性の高いところに外注するケースもあるという。
吉崎:PoC※など、初期の開発で自社の基準を作られていれば、その基準に合うように対応しています。たとえば、ある時刻の動画のフレームデータにラベル付けをするとか、IDとして人を認識するだけでなく、どの作業員がいつ出入りしたか、どれくらい滞在していたといったことを認識するようなご要望もあります。
――詳細なデータを収集することで業務効率化の糸口を見つけようとしていると。他にどのようなニーズがありますか?
吉崎:紙のドキュメントをデータ化したいというDX化のニーズです。見積書、コンペの提案書、設計図、施工の指示書などの書類を電子化した後、次に活かすためにキーワードや数値など検索にかけるべき用語を抽出して辞書化したいというご要望は増えています。
従来の方法であれば、書庫に行って図面の棚を開いて地道に探し出すという作業ですが、それを電子化するというものです。キーワード検索が行えるようにパラメーターを体系的に整備するのが第一段階。
次に抽出の方法ですが、以前は既存の検索エンジンを使って単語で検索をかけるという手法が主流でした。それが昨今はチャットGPTのような自然言語処理と言われる、自然な話し言葉や書き言葉で求めている情報を導き出すのを最終的なゴールとするケースが増えています。
――そのような検索ができたら便利ですね。
吉崎:たとえばプラントエンジニアリング業界では、10年~20年前に作ったものの設計データや指示書に書かれている手書きデータが必要というお話もあります。
ある一定の年齢層のエンジニアであれば紙の書類を探すことに慣れているのですが、若い年齢層にとっては難しく感じられるとのことで……、今後を見据えて過去の書類の手書き部分も電子化して検索できるようにしたいというニーズがございます。
――そういったニーズは増えているのですか?
吉崎:多いですね。同じような要望は、土木・建設業界に限らず金融や保険、製造業のお客様からもうかがっています。チャットGPTは大規模言語モデルと呼ばれる大量のデータを学習して言語処理を行っているのですが、業種ごとや企業によって独特な用語がありますよね。そういった業界用語は追加で学習する必要があります。
吉崎:先ほどお話した、辞書化したいというニーズではこのような業種特有のものや会社特有の単語や表現や数値を認識することが重要になってきます。
――そのようなオーダーの場合、指示は具体的になっているのでしょうか?
吉崎:お客様が基準を明確に決められていて、その基準に則して単語を抽出するケースもあれば、基準がまだ煮詰まっていないので一緒に考えて欲しいというケースもあり、さまざまです。
――コンサル的な関わり方もあるのですね。そういった業務はどのようなポジションの方が担当されるのですか?
吉崎:プロジェクトマネージャーです。日本法人は主にセールス部門を担っています。プロジェクトマネジメントは、中国のオフィスにいる日本・中国語・英語が堪能なメンバーが担当するケースが多いですね。
そして、実際に作業を行なうのは、弊社と提携している世界中のクラウドワーカーです。現在、登録メンバーは全世界に100万人以上いまして、地域性や専門性に応じて募集をかけ、プロジェクトを組んでいます。
――クラウドワーカーはどんな業務を担当しているのですか?
吉崎:指定した現場に行って写真を撮影してくるとか、ドローンを飛ばして画像を収集するとか。道路や橋梁、ビルなどコンクリートの亀裂の画像を集めて来てもらうというのもあります。
日本のお客様のご依頼であっても、物によっては国内で撮影していなくてもいいという条件もありますので。まずはどこのものでも構わないが、ゆくゆくは特定の国や地域で撮影したデータで進めたいなど、ご要望に応じています。
――顧客の要望に合わせて対応しているのですね。打ち合わせはどのように行われるのですか?海外のプロジェクトマネージャーを交えてですか。
吉崎:そうですね。ただ、オンライン会議でもメールでもやり取りは日本語で行っています。
――日本語がわかるスタッフが対応してくれるのは安心ですね。
吉崎:3つ目のカテゴリとしては、建機の自動化に関する技術です。施工現場で何か画像を収集したり、画像認識したりしようとするのは危険が伴いますよね?
建機の運転席から見える範囲、カメラが認識できる範囲には限りがあり、死角が生じます。実際に人が試すとなると危険ですので、建機そのものや施工現場そのものの合成データを作成して、人も人工的に作り上げて配置したり動かしたりして、認識するべき環境を完全に合成で作るといったアプローチもあります。
――CGの世界を作るようなイメージですか?
吉崎:そうですね。その中でヘルメットやベルトなど安全保護具を付けている、付けていないなども変えられます。合成データの中である程度の検証が行えるようになっています。
こういったデータは、実際の現場の映像を収集するまでの間に合成データとしてモデルを開発しておいて、後で実際のデータと差し替えて精度の検証を行なうといった使い方もしています。
――きめ細やかなサービスが充実している印象ですが、お客様からはどのような反響がありますか?
吉崎:弊社は、ありもののデータを使用するのではなく、ご要望に合わせて対応しております。その点はご好評いただいていますね。しかも、結構な人数でプロジェクトを組んで、比較的短い期間で納品できますので。
――教師データは多ければいいわけでもないでしょうが、それでも相当のデータ量が必要になり、人的リソースも欠かせませんが、御社は対応力があるわけですね。
吉崎:コストを抑えるために人件費が抑えられる国にオフショア(海外に業務委託)するような企業もありますが、弊社は全世界にネットワークを持っていますので、業務内容に応じて作業者を柔軟に選択可能です。
日本語がわかる中国人だけでなく日本人スタッフも揃っていますので、曖昧な仕様を理解することもできます。また、やりとりは日本人が担当し、最終的な品質チェックは海外で行うなど、工程ごとにご予算に応じて調整できるというのが弊社の強みだと考えています。
――アッペンジャパンの今後の展望をお聞かせください
吉崎:あり物のAIモデルを使って画像認識や物体検知を行ない「AIのシステムが動いた」レベルで満足せず、AIに判定を任せることによって必要な人的リソースを何分の1にも縮小できたなど、費用対効果がきちんと見込めるプロジェクトを増やしていきたいと考えています。
――AIを活用することで利益が生まれるレベルを目指されていると。
吉崎:AIはアメリカと中国がいま圧倒的に進んでいるのですが、そういった国では独自に開発したAIで売上が増えたり、省人化できて余った人材を他の業務に充てられたりといった実績が続々と増えています。
日本ではAIを活用して自社を変革するというアウトプットまで至っている日本企業はまだ限られているでしょうね。AIを使った結果、何を成果とするか。そのゴール設定が明確になっていないという印象があります。
――AIのソリューションを導入することで成果を何倍にするとか、1人分の業務量を何時間分も削減するとか、具体的な数値目標が設定されているケースはまだ少ないのですね。
吉崎:海外のクライアントですと、リーダークラスの方やプロジェクトマネージャーの方がプロジェクトを成功させて出世しようという意欲で推進しているケースが珍しくなく、短期間でゴールを実現させるというモチベーションがあります。
――そのような中でAppenは多様なオーダーに対応できるソリューションをお持ちなんですね。
吉崎:AI判定のためのモデルはこの5年~10年で急速に発展し、その仕組み自体はかなり行き着くところまで来ていると言われています。そのような状況で差別化になるポイントは、データです。弊社としても顧客の業種や実務にフィットするデータで学習させるという点で差別化できればと考えています。
――吉崎さんが考える「使えるAI」とは、どのようなものでしょうか?
吉崎:画像認識について、画像や映像でできることは多いだろうと注目されているかと思いますが、場合によっては映像だけで認識することは難しいです。映像に加えてもう一つ違う要素、たとえば音声情報などを加えて判定することでより精度が上がるケースもあると考えています。
弊社の事例ではないですが、たとえば高速道路の照明器具の点検作業はいま目視で行っています。大変な労力である一方、さびた照明器具を見逃すと最悪、落下して事故になりかねません。
この点検作業を画像認識で行おうとすると、一見さびているようでも実はすでにペンキで補修した後というものも混じっており、難しいです。
このような状況でいかに正確に判定していくか。一案としては海沿いや雨が多い地域などさびやすい条件の地域はあらかじめグループわけしておいて画像判定を行ってはいかがでしょう…というようなご提案をしています。
――そのような提案は契約の前段階から行っているのですか?
吉崎:やはり上申する際に、この投資がどれくらいの価値を生み出すかとか費用対効果が不明瞭だと稟議も通り難いですので。企画書の段階から参考になるデータや情報の提供は行っています。アイデア出しのレベルや現状抱えられている課題を改善するために何ができるか…という段階でもご相談は承っています。
――そうなんですね。御社のような専門性が高い企業は敷居が高いイメージがあり、費用も予測しにくいですが、気軽に相談できると聞くと安心できますね。
吉崎:個人的に私は過去にCADソフトの開発会社に勤務しており、建設・土木業界の状況は理解していますので、ぜひ頼りにしていただけるとありがたいですね。
アッペンジャパン株式会社
東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング 9F
HP:https://appen.co.jp/
今回、アッペンの日本法人であるアッペンジャパン バイス・プレジデント 吉崎哲郎氏(以下、敬称略)にお話しをうかがい、世界や日本でのAI活用事例と同社が提供しているサービスについてご紹介いただいた。
土木・建設業界にも造詣が深い吉崎氏に、日本の土木・建設現場においてAI活用を成功させるために大切なポイントについても語っていただいた。
音声認識や画像認識で実績のあるAppen。近年は自動運転技術で存在感を示す
――まずはAppenがどのような企業なのか、というところから教えていただけますか?
吉崎:アッペンという企業自体は1996年に設立、今年(2023)で27年目を迎えます。もともとはAIの中でも言語の領域から始まりました。
音声認識のほか様々な言語の音声データを文字に起こしたり、音声を認識したりするといった技術からスタートし、その後、検索エンジンでの入力とその結果の関連性を調べる業務、動画解析・認識といったいわゆるコンピュータビジョンと呼ばれる分野へと6~7年かけて拡大していきました。
――言語系の領域から画像の領域へと拡大していったのですね。
吉崎:AIで専門性を高めてきたこともあり、クライアント様はGoogle、Microsoft、amazonといったIT系が多いです。とはいえ製造業や建設業など、幅広い業種とのお付き合いがあります。
――どのようなサービスを提供されているのですか?
吉崎:私たちの対応範囲はトレーニングデータに関わる一連のサービスで、メインはAIモデルの教師データ、正解となるデータにラベル付けやタグ付けをするような業務ですね。お客様がデータをお持ちであればそのデータを処理しますし、無ければ、教師データとなるデータを揃えるところ、例えば、画像を撮影し撮りためていくといった業務も手掛けています。
――教師データといった用語は、5~6年ほど前からよく耳にするようになった印象ですが、御社はかなり早くからAI関連サービスを展開されてきたのですね。
吉崎:5年前というと中国市場が大きく成長した時期にあたります。中国では自動車の自動運転技術の分野が非常に盛り上がっており、自動運転を実現させるための肝ともいえるアノテーションの部分で弊社に対するニーズも高まっています。
アノテーションとは、データを有効に活用するためにタグ付けを行なう作業のことで、自動運転では、カメラが撮影した画像の中から前方を行く自動車や歩行者などの障害物を検知する、また、LiDARで取得した点群データの中から物体を検知するといった技術です。
自動車の自動運転レベルはある程度高まってきており、次の分野として注目されてきているのが建設機械です。建機の自動化においてもアノテーションが重要な役割を持つといえます。私どものお客様でもゼネコンやスーパーゼネコンさんが年々増えてきております。
きめ細やかさが特徴の「データアノテーション・プラットフォーム」
――御社が提供するサービスに「データアノテーション・プラットフォーム」というものがあるそうですね。
吉崎:「アノテーション」とは英語で「注釈」という意味で、AI開発においてはデータに情報を付加する工程を指します。たとえば顔認識なら、人の画像の頭の部分にバウンディングボックスと呼ばれる四角い枠を付けて、性別や年齢層といった属性情報を付け加える作業のことです。
Appenのデータアノテーション・プラットフォームは、人的サービスと最先端のモデルを組み合わせてAIの教師データを作成するサービスです。
自社で開発したソフトウェアを用い、プラットフォーム上で音声を収録したり、その音声を書き起こしたりといったことができます。音声の書き起こしは人間が聴き取って、単語の区切りなどに注意しながら、テキスト入力しているというのが特徴の一つです。
――自然言語処理や画像解析などに関するソリューションを総称したものを「データアノテーション・プラットフォーム」と呼んでいるんですね。
吉崎:プラットフォーム自体も販売していますし、個別のオーダーに対応するために、社内で教師データを整えていく業務にも用いています。また、お客様によっては、社内ですでに使っているシステムに対応させて欲しい」という要望もあり、その場合は弊社のプラットフォームを使わずに遂行するケースもあります。
――日本企業への導入状況を教えていただけますか?
吉崎:徐々に広まってきています。先ほどAppenは27年目と申しましたが、アッペンジャパンの設立は2021年7月です。
それ以前からオーストラリアの本社と契約をいただいていたり、中国にあるグループ会社とお取引があったりする日本の企業様がいまして、続々と新しいプロジェクトが立ち上がっていたり、別の事業部にご紹介いただき広がっている状況ですね。
ニーズとしては、以前は音声認識や機械翻訳用の音声データ、翻訳データを提供するような言語系のプロジェクトが多かったのですが、日本法人の設立以降は製造業や建築業のお客様から画像や動画を使ったAIに関するお声がけが増えています。
土木・建設業界で増えているAI活用のニーズとは?
――製造業の検品作業など、AI検知は国内でも注目が高まっていますよね。土木・建設系での事例があれば教えてください。
吉崎:そうですね、大きく3つのカテゴリにわけられるかと思います。ひとつは「働き方改革関連法」関連です。いわゆる2024年問題ですね。お客様は法適用開始に向けて段階的に施策を進めています。
たとえば休日に施工現場へ人が立ち入っていないかをAIを使って監視するとか、業務中の作業従事者の動きを把握するといったこと。また、より効率的に施工業務が進むように、AIを使って人の動きや人数を分析したいといったご依頼もあります。
――AIを活用してどのように分析を行なうのですか?
吉崎:現場を撮影した動画や静止画から、作業者の動きや導線を確認したり、作業員の数に過不足がないか分析したり、建機の稼働状況を確認することができます。
こういったご要望はゼネコンやスーパーゼネコンなど比較的大手企業さんが多く、すでに自社内でもある程度の開発には取り組んでいるが、作業ボリュームが増えてきたとか、自分たちでは対応できない内容についてお手伝いするようなニーズが多いです。
――なるほど。自社である程度やっていて、御社のような専門性の高いところに外注するケースもあるという。
吉崎:PoC※など、初期の開発で自社の基準を作られていれば、その基準に合うように対応しています。たとえば、ある時刻の動画のフレームデータにラベル付けをするとか、IDとして人を認識するだけでなく、どの作業員がいつ出入りしたか、どれくらい滞在していたといったことを認識するようなご要望もあります。
――詳細なデータを収集することで業務効率化の糸口を見つけようとしていると。他にどのようなニーズがありますか?
吉崎:紙のドキュメントをデータ化したいというDX化のニーズです。見積書、コンペの提案書、設計図、施工の指示書などの書類を電子化した後、次に活かすためにキーワードや数値など検索にかけるべき用語を抽出して辞書化したいというご要望は増えています。
従来の方法であれば、書庫に行って図面の棚を開いて地道に探し出すという作業ですが、それを電子化するというものです。キーワード検索が行えるようにパラメーターを体系的に整備するのが第一段階。
次に抽出の方法ですが、以前は既存の検索エンジンを使って単語で検索をかけるという手法が主流でした。それが昨今はチャットGPTのような自然言語処理と言われる、自然な話し言葉や書き言葉で求めている情報を導き出すのを最終的なゴールとするケースが増えています。
――そのような検索ができたら便利ですね。
吉崎:たとえばプラントエンジニアリング業界では、10年~20年前に作ったものの設計データや指示書に書かれている手書きデータが必要というお話もあります。
ある一定の年齢層のエンジニアであれば紙の書類を探すことに慣れているのですが、若い年齢層にとっては難しく感じられるとのことで……、今後を見据えて過去の書類の手書き部分も電子化して検索できるようにしたいというニーズがございます。
――そういったニーズは増えているのですか?
吉崎:多いですね。同じような要望は、土木・建設業界に限らず金融や保険、製造業のお客様からもうかがっています。チャットGPTは大規模言語モデルと呼ばれる大量のデータを学習して言語処理を行っているのですが、業種ごとや企業によって独特な用語がありますよね。そういった業界用語は追加で学習する必要があります。
吉崎:先ほどお話した、辞書化したいというニーズではこのような業種特有のものや会社特有の単語や表現や数値を認識することが重要になってきます。
――そのようなオーダーの場合、指示は具体的になっているのでしょうか?
吉崎:お客様が基準を明確に決められていて、その基準に則して単語を抽出するケースもあれば、基準がまだ煮詰まっていないので一緒に考えて欲しいというケースもあり、さまざまです。
――コンサル的な関わり方もあるのですね。そういった業務はどのようなポジションの方が担当されるのですか?
吉崎:プロジェクトマネージャーです。日本法人は主にセールス部門を担っています。プロジェクトマネジメントは、中国のオフィスにいる日本・中国語・英語が堪能なメンバーが担当するケースが多いですね。
そして、実際に作業を行なうのは、弊社と提携している世界中のクラウドワーカーです。現在、登録メンバーは全世界に100万人以上いまして、地域性や専門性に応じて募集をかけ、プロジェクトを組んでいます。
――クラウドワーカーはどんな業務を担当しているのですか?
吉崎:指定した現場に行って写真を撮影してくるとか、ドローンを飛ばして画像を収集するとか。道路や橋梁、ビルなどコンクリートの亀裂の画像を集めて来てもらうというのもあります。
日本のお客様のご依頼であっても、物によっては国内で撮影していなくてもいいという条件もありますので。まずはどこのものでも構わないが、ゆくゆくは特定の国や地域で撮影したデータで進めたいなど、ご要望に応じています。
――顧客の要望に合わせて対応しているのですね。打ち合わせはどのように行われるのですか?海外のプロジェクトマネージャーを交えてですか。
吉崎:そうですね。ただ、オンライン会議でもメールでもやり取りは日本語で行っています。
――日本語がわかるスタッフが対応してくれるのは安心ですね。
吉崎:3つ目のカテゴリとしては、建機の自動化に関する技術です。施工現場で何か画像を収集したり、画像認識したりしようとするのは危険が伴いますよね?
建機の運転席から見える範囲、カメラが認識できる範囲には限りがあり、死角が生じます。実際に人が試すとなると危険ですので、建機そのものや施工現場そのものの合成データを作成して、人も人工的に作り上げて配置したり動かしたりして、認識するべき環境を完全に合成で作るといったアプローチもあります。
――CGの世界を作るようなイメージですか?
吉崎:そうですね。その中でヘルメットやベルトなど安全保護具を付けている、付けていないなども変えられます。合成データの中である程度の検証が行えるようになっています。
こういったデータは、実際の現場の映像を収集するまでの間に合成データとしてモデルを開発しておいて、後で実際のデータと差し替えて精度の検証を行なうといった使い方もしています。
ワールドワイドに展開するAppenだからできる対応力
――きめ細やかなサービスが充実している印象ですが、お客様からはどのような反響がありますか?
吉崎:弊社は、ありもののデータを使用するのではなく、ご要望に合わせて対応しております。その点はご好評いただいていますね。しかも、結構な人数でプロジェクトを組んで、比較的短い期間で納品できますので。
――教師データは多ければいいわけでもないでしょうが、それでも相当のデータ量が必要になり、人的リソースも欠かせませんが、御社は対応力があるわけですね。
吉崎:コストを抑えるために人件費が抑えられる国にオフショア(海外に業務委託)するような企業もありますが、弊社は全世界にネットワークを持っていますので、業務内容に応じて作業者を柔軟に選択可能です。
日本語がわかる中国人だけでなく日本人スタッフも揃っていますので、曖昧な仕様を理解することもできます。また、やりとりは日本人が担当し、最終的な品質チェックは海外で行うなど、工程ごとにご予算に応じて調整できるというのが弊社の強みだと考えています。
――アッペンジャパンの今後の展望をお聞かせください
吉崎:あり物のAIモデルを使って画像認識や物体検知を行ない「AIのシステムが動いた」レベルで満足せず、AIに判定を任せることによって必要な人的リソースを何分の1にも縮小できたなど、費用対効果がきちんと見込めるプロジェクトを増やしていきたいと考えています。
――AIを活用することで利益が生まれるレベルを目指されていると。
吉崎:AIはアメリカと中国がいま圧倒的に進んでいるのですが、そういった国では独自に開発したAIで売上が増えたり、省人化できて余った人材を他の業務に充てられたりといった実績が続々と増えています。
日本ではAIを活用して自社を変革するというアウトプットまで至っている日本企業はまだ限られているでしょうね。AIを使った結果、何を成果とするか。そのゴール設定が明確になっていないという印象があります。
――AIのソリューションを導入することで成果を何倍にするとか、1人分の業務量を何時間分も削減するとか、具体的な数値目標が設定されているケースはまだ少ないのですね。
吉崎:海外のクライアントですと、リーダークラスの方やプロジェクトマネージャーの方がプロジェクトを成功させて出世しようという意欲で推進しているケースが珍しくなく、短期間でゴールを実現させるというモチベーションがあります。
――そのような中でAppenは多様なオーダーに対応できるソリューションをお持ちなんですね。
吉崎:AI判定のためのモデルはこの5年~10年で急速に発展し、その仕組み自体はかなり行き着くところまで来ていると言われています。そのような状況で差別化になるポイントは、データです。弊社としても顧客の業種や実務にフィットするデータで学習させるという点で差別化できればと考えています。
――吉崎さんが考える「使えるAI」とは、どのようなものでしょうか?
吉崎:画像認識について、画像や映像でできることは多いだろうと注目されているかと思いますが、場合によっては映像だけで認識することは難しいです。映像に加えてもう一つ違う要素、たとえば音声情報などを加えて判定することでより精度が上がるケースもあると考えています。
弊社の事例ではないですが、たとえば高速道路の照明器具の点検作業はいま目視で行っています。大変な労力である一方、さびた照明器具を見逃すと最悪、落下して事故になりかねません。
この点検作業を画像認識で行おうとすると、一見さびているようでも実はすでにペンキで補修した後というものも混じっており、難しいです。
このような状況でいかに正確に判定していくか。一案としては海沿いや雨が多い地域などさびやすい条件の地域はあらかじめグループわけしておいて画像判定を行ってはいかがでしょう…というようなご提案をしています。
――そのような提案は契約の前段階から行っているのですか?
吉崎:やはり上申する際に、この投資がどれくらいの価値を生み出すかとか費用対効果が不明瞭だと稟議も通り難いですので。企画書の段階から参考になるデータや情報の提供は行っています。アイデア出しのレベルや現状抱えられている課題を改善するために何ができるか…という段階でもご相談は承っています。
――そうなんですね。御社のような専門性が高い企業は敷居が高いイメージがあり、費用も予測しにくいですが、気軽に相談できると聞くと安心できますね。
吉崎:個人的に私は過去にCADソフトの開発会社に勤務しており、建設・土木業界の状況は理解していますので、ぜひ頼りにしていただけるとありがたいですね。
アッペンジャパン株式会社
東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング 9F
HP:https://appen.co.jp/
WRITTEN by
三浦 るり
2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。
建設土木の未来を
ICTで変えるメディア