コラム・特集
AR/MRによる “可視化ソリューション mixpace(ミクスペース)” が、BIM活用を大きく推進していく【① 解説編】
担い手不足や伸び悩む生産性など、建設業界のさまざまな課題を解決するべく、ここ数年、同業界ではICTの活用が多角的なアプローチで模索されている。なかでも3Dデータに属性情報などを付与し、調査、設計、施工、管理・維持まで、一貫してその情報を活用していく「BIM /CIM」は建設ICT化の肝だ。
2023年度には小規模工事を除く全ての公共事業でBIM/CIMの原則適用化が予定されており、3Dデータを実務で活用する方法は業界内外を問わず注目度が高いテーマだ。
発注者から設計者、そして実際に現場に立つ作業者に至るまで、必ずしもICT知識が豊富ではない人たちが、最先端の技術を駆使して情報を共有するために必要なことは、技術の可能性や概念の浸透ではない。そんな中、VRやAR、MRなどのバーチャル技術を使ったソリューションが注目されはじめている。
VRとはVirtual Reality(仮想現実)のことで、家庭用ゲーム機でも対応しているソフトが増えており、専用ヘッドセットを装着することはここ数年で一般にも浸透してきている。
仮想世界に自らが入り込んでいくイメージ。
それに対してAR とはAugmented Reality(拡張現実)のことで、スマートフォンやタブレットやARグラスなどのデバイスに映した現実世界に、情報や映像を重ね合わせて表示する。
スマートフォン向けアプリ「ポケモンGO」で、スマホで映した実際の風景にポケモンが現れる技術と言えばわかりやすいだろうか。最近では家具を購入する際に、このAR技術を応用して、購入予定の「家具を配置した部屋の様子」を見ることができるなど、さまざまな活用方法が登場している。
そして、このVRとARの技術を合わせたものが、MR=Mixed Reality(複合現実)と呼ばれ、ヘッドセットを通して見た現実にバーチャルな映像や情報を映し出す技術だ。映し出した3Dモデルを自身の手で操作することができるプロダクトもあり、遠隔支援やバーチャルトレーニングに活用されている。
2019年2月、ソフトバンクグループの「SB C&S株式会社(以下、SB C&S)」とVR、AR技術開発のプロフェッショナル集団である「株式会社ホロラボ(以下、ホロラボ)」が共同開発した「mixpace」がリリースされた。
これは3D CADやBIMなどで作成した設計データをAR/MR化し、HoloLens2やiPadなどのデバイスを使用して現実空間に重ね合わせて見ることができる“可視化ソリューション”だ。
建設業界における3次元データの活用を大きく前進させる可能性を秘めている「mixpace」について、SB C&S 株式会社のICT事業本部 MD本部 ビジネスソフトウェア統括部 インダストリービジネス推進部 CAD&ドローン&AR事業推進課 AR /VR /MRプロジェクトマネージャー遠藤 文昭氏(以下、遠藤氏)にお話を伺いながら、実際に体験してきた。
「2014年頃から、VRには非常に興味を持っていたんです。VRで何かやりたいという思いはあったのですが、なかなかチャンスとアイデアがなくて」と遠藤氏。当時はまだVR技術をビジネスとして扱えるような環境ではなかったという。
その後2016年にマイクロソフトからヘッドマウントディスプレイ型拡張現実ウェアラブルコンピュータ『HoloLens』が発売。いち早くHoloLensを体験した遠藤氏は衝撃を受けた。「これはすごい!と思いましたね。色々と試したりしているうちに、3D CADでモデリングしたデータをHoloLensで見られるようにすれば面白いなって考えていました。」
「どこにでも気軽に持っていって、図面や製品を立体的にMRで見ることができればいいなと。また当時フリーランスで活躍していた中村 薫氏(現在はホロラボ代表)とは頻繁に交流があり、HoloLensを紹介してもらったことで何か一緒にやりたいですねって話していて、そういった流れでmixpaceの元になった「AR CAD Cloud」というプロトタイプを共同で作ることになったんです。」
「具体的にはホロラボが開発、SB C&Sが、営業やマーケティングを担当しています。3D CADデータをそのままではHoloLensで直接見ることができないので見れるように変換したりしないといけないのですが、 誰でも変換できるようにクラウド上で自動変換処理するプロトタイプのシステムとアプリケーションを作り、社内外問わず、多くの人に見てもらったり、イベントなどでも紹介したのが、このプロジェクトの実質的なスタートでしたね」
当初はCADデータを扱うことから製造業社などへのアプローチをしていたが、多くのイベントに出ているうちに、建設業界から注目されるようになった。BIMデータを扱えるようにアップデートするとますます建設業者からの問い合わせが増えていったという。
急ピッチでi-Constructionを推進している建設業界では、3Dデータの活用が重要課題でもあり、AR、MRなどのソリューションは、非常に相性がいいのだろう。
「2017年頃からどんどん建設業界のお客様も増えてきたので、こんな機能が欲しいとか、もっとこうして欲しいみたいな、お客様のご要望を直接聞いて回っていました。実際に建設現場に行って、BIMデータと重ね合わせたり、現場の方とお話しさせてもらったり、2017年当時はまだ商品化はしていなかったため、個別にフィードバックを頂き、カスタマイズしていくという作業を何度も行なっていました。私たちは建設業界では門外漢ですから、業界の方々に教えて頂きながら、数年かけてノウハウを蓄積していったんです」
「mixpaceは、課題発見・合意形成ソリューションとしてご紹介しています。従来は完成イメージを共有するためにPC画面や建設模型などを使って打ち合わせや確認をすることが多かったと思いますが、AR /MRを使うことで、実際にそこに実寸大の建物があるような感覚でコミュニケーションを取ることができます。」
「実寸大のバーチャルな建物ですので、実際には見えない天井裏にある配管や壁の内側がどうなっているか、違う角度から見たらどのように見えるかなどを工事に関わるすべての人とイメージを共有できるんです。」
見たい3DデータをクラウドにアップロードしてAR/MRに変換、あとはHoloLens2やiPadで表示するだけで簡単に3Dデータが可視化される。建設前の更地や、工事中の建物に完成イメージを重ね合わせれば、あたかもそこに建物が建っているような感じで見ることができたり、出来高を確認することができたりするのだ。現実と重ねて見ることで差分や進捗状況が直感的にわかるので、ミスや手戻りを防ぐことにもなる。
また特筆すべきなのは、誰でも簡単にデータ変換作業ができるということ。3DデータをAR/MR化するには、データの書き出し、軽量化、ポリゴン化、アプリ化という作業が必要になり、今までは数週間もかかっていた。
当然、作業には専門のエンジニアに頼まなければならない。ところがmixpaceは、Revit(Autodesk社の3D CADソフト。BIMに多く使用されている)などで作成したデータをクラウドにアップロードすれば、平均3分程度でデータが変換処理される。
あとはHoloLens2やiPadにダウンロードするだけでいい。圧倒的に早いだけでなく、特別なスキルやソフトウェアがなくても簡単にできることは、作業工程ごとに情報を共有し続ける建設現場では非常に重要なことだ。
クラウドサービスにはマイクロソフトのAzureを使用しているため、導入しやすく、またセキュリティ面でも信頼性が高い。開発当初からアップロードするだけでデータが変換できるようなシステムが念頭にあったという。専門家がいなければ利用できない先進技術に頼っていては、ICT活用が建設業界に浸透することは難しい。
隠れた課題が見えてくる。だから、現場に足を運ぶことを惜しまない
「AR/MRは現場のソリューションだと思っているので、現場の声を聞いて、その現場に最適化することが重要だと考えています。私もできるかぎり現場にも足を運んでいますし、今後もお客様とのコミュニケーションを深めていきたいですね」現場に赴くことで、ようやく“本当の課題”を見つけることができると遠藤氏はいう。
「ただ、どうですか?と聞いただけでは、なかなか本音はおっしゃっていただけません。ですが、現場に行って製品を使ってみたりその場で話をじっくり伺ってみると、これはこっちのほうにあった方がいいとか、ここが使いにくい、こんな資料が欲しいと、具体的な課題がどんどん出てくるんですね。そういったフィードバックがなにより大切なんです」。
次回、【② 体験レポート編】では、SB C&S 遠藤氏に「mixpace」の使い方を実際にレクチャーしていただきながら、その製品の魅力により迫っていく。【② 体験レポート編】の公開は12月28日(月)。
2023年度には小規模工事を除く全ての公共事業でBIM/CIMの原則適用化が予定されており、3Dデータを実務で活用する方法は業界内外を問わず注目度が高いテーマだ。
発注者から設計者、そして実際に現場に立つ作業者に至るまで、必ずしもICT知識が豊富ではない人たちが、最先端の技術を駆使して情報を共有するために必要なことは、技術の可能性や概念の浸透ではない。そんな中、VRやAR、MRなどのバーチャル技術を使ったソリューションが注目されはじめている。
そもそも、VR、AR、MRとは
VRとはVirtual Reality(仮想現実)のことで、家庭用ゲーム機でも対応しているソフトが増えており、専用ヘッドセットを装着することはここ数年で一般にも浸透してきている。
仮想世界に自らが入り込んでいくイメージ。
それに対してAR とはAugmented Reality(拡張現実)のことで、スマートフォンやタブレットやARグラスなどのデバイスに映した現実世界に、情報や映像を重ね合わせて表示する。
スマートフォン向けアプリ「ポケモンGO」で、スマホで映した実際の風景にポケモンが現れる技術と言えばわかりやすいだろうか。最近では家具を購入する際に、このAR技術を応用して、購入予定の「家具を配置した部屋の様子」を見ることができるなど、さまざまな活用方法が登場している。
そして、このVRとARの技術を合わせたものが、MR=Mixed Reality(複合現実)と呼ばれ、ヘッドセットを通して見た現実にバーチャルな映像や情報を映し出す技術だ。映し出した3Dモデルを自身の手で操作することができるプロダクトもあり、遠隔支援やバーチャルトレーニングに活用されている。
可視化ソリューション『mixpace』ってなんだ!?
2019年2月、ソフトバンクグループの「SB C&S株式会社(以下、SB C&S)」とVR、AR技術開発のプロフェッショナル集団である「株式会社ホロラボ(以下、ホロラボ)」が共同開発した「mixpace」がリリースされた。
これは3D CADやBIMなどで作成した設計データをAR/MR化し、HoloLens2やiPadなどのデバイスを使用して現実空間に重ね合わせて見ることができる“可視化ソリューション”だ。
建設業界における3次元データの活用を大きく前進させる可能性を秘めている「mixpace」について、SB C&S 株式会社のICT事業本部 MD本部 ビジネスソフトウェア統括部 インダストリービジネス推進部 CAD&ドローン&AR事業推進課 AR /VR /MRプロジェクトマネージャー遠藤 文昭氏(以下、遠藤氏)にお話を伺いながら、実際に体験してきた。
SB C&S 遠藤氏がHoloLensに感じた可能性
「2014年頃から、VRには非常に興味を持っていたんです。VRで何かやりたいという思いはあったのですが、なかなかチャンスとアイデアがなくて」と遠藤氏。当時はまだVR技術をビジネスとして扱えるような環境ではなかったという。
その後2016年にマイクロソフトからヘッドマウントディスプレイ型拡張現実ウェアラブルコンピュータ『HoloLens』が発売。いち早くHoloLensを体験した遠藤氏は衝撃を受けた。「これはすごい!と思いましたね。色々と試したりしているうちに、3D CADでモデリングしたデータをHoloLensで見られるようにすれば面白いなって考えていました。」
「どこにでも気軽に持っていって、図面や製品を立体的にMRで見ることができればいいなと。また当時フリーランスで活躍していた中村 薫氏(現在はホロラボ代表)とは頻繁に交流があり、HoloLensを紹介してもらったことで何か一緒にやりたいですねって話していて、そういった流れでmixpaceの元になった「AR CAD Cloud」というプロトタイプを共同で作ることになったんです。」
「具体的にはホロラボが開発、SB C&Sが、営業やマーケティングを担当しています。3D CADデータをそのままではHoloLensで直接見ることができないので見れるように変換したりしないといけないのですが、 誰でも変換できるようにクラウド上で自動変換処理するプロトタイプのシステムとアプリケーションを作り、社内外問わず、多くの人に見てもらったり、イベントなどでも紹介したのが、このプロジェクトの実質的なスタートでしたね」
「mixpace」は、建設業界にこそニーズがある
当初はCADデータを扱うことから製造業社などへのアプローチをしていたが、多くのイベントに出ているうちに、建設業界から注目されるようになった。BIMデータを扱えるようにアップデートするとますます建設業者からの問い合わせが増えていったという。
急ピッチでi-Constructionを推進している建設業界では、3Dデータの活用が重要課題でもあり、AR、MRなどのソリューションは、非常に相性がいいのだろう。
「2017年頃からどんどん建設業界のお客様も増えてきたので、こんな機能が欲しいとか、もっとこうして欲しいみたいな、お客様のご要望を直接聞いて回っていました。実際に建設現場に行って、BIMデータと重ね合わせたり、現場の方とお話しさせてもらったり、2017年当時はまだ商品化はしていなかったため、個別にフィードバックを頂き、カスタマイズしていくという作業を何度も行なっていました。私たちは建設業界では門外漢ですから、業界の方々に教えて頂きながら、数年かけてノウハウを蓄積していったんです」
「mixpace」がもたらす、新たなコミュニケーションのカタチ
「mixpaceは、課題発見・合意形成ソリューションとしてご紹介しています。従来は完成イメージを共有するためにPC画面や建設模型などを使って打ち合わせや確認をすることが多かったと思いますが、AR /MRを使うことで、実際にそこに実寸大の建物があるような感覚でコミュニケーションを取ることができます。」
「実寸大のバーチャルな建物ですので、実際には見えない天井裏にある配管や壁の内側がどうなっているか、違う角度から見たらどのように見えるかなどを工事に関わるすべての人とイメージを共有できるんです。」
見たい3DデータをクラウドにアップロードしてAR/MRに変換、あとはHoloLens2やiPadで表示するだけで簡単に3Dデータが可視化される。建設前の更地や、工事中の建物に完成イメージを重ね合わせれば、あたかもそこに建物が建っているような感じで見ることができたり、出来高を確認することができたりするのだ。現実と重ねて見ることで差分や進捗状況が直感的にわかるので、ミスや手戻りを防ぐことにもなる。
専門的なスキルや専用ソフトがなくても、簡単にデータ変換できる
また特筆すべきなのは、誰でも簡単にデータ変換作業ができるということ。3DデータをAR/MR化するには、データの書き出し、軽量化、ポリゴン化、アプリ化という作業が必要になり、今までは数週間もかかっていた。
当然、作業には専門のエンジニアに頼まなければならない。ところがmixpaceは、Revit(Autodesk社の3D CADソフト。BIMに多く使用されている)などで作成したデータをクラウドにアップロードすれば、平均3分程度でデータが変換処理される。
あとはHoloLens2やiPadにダウンロードするだけでいい。圧倒的に早いだけでなく、特別なスキルやソフトウェアがなくても簡単にできることは、作業工程ごとに情報を共有し続ける建設現場では非常に重要なことだ。
クラウドサービスにはマイクロソフトのAzureを使用しているため、導入しやすく、またセキュリティ面でも信頼性が高い。開発当初からアップロードするだけでデータが変換できるようなシステムが念頭にあったという。専門家がいなければ利用できない先進技術に頼っていては、ICT活用が建設業界に浸透することは難しい。
隠れた課題が見えてくる。だから、現場に足を運ぶことを惜しまない
「AR/MRは現場のソリューションだと思っているので、現場の声を聞いて、その現場に最適化することが重要だと考えています。私もできるかぎり現場にも足を運んでいますし、今後もお客様とのコミュニケーションを深めていきたいですね」現場に赴くことで、ようやく“本当の課題”を見つけることができると遠藤氏はいう。
「ただ、どうですか?と聞いただけでは、なかなか本音はおっしゃっていただけません。ですが、現場に行って製品を使ってみたりその場で話をじっくり伺ってみると、これはこっちのほうにあった方がいいとか、ここが使いにくい、こんな資料が欲しいと、具体的な課題がどんどん出てくるんですね。そういったフィードバックがなにより大切なんです」。
次回、【② 体験レポート編】では、SB C&S 遠藤氏に「mixpace」の使い方を実際にレクチャーしていただきながら、その製品の魅力により迫っていく。【② 体験レポート編】の公開は12月28日(月)。
WRITTEN by
角田 憲
有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。
いま注目の建設スタートアップ
- AR/MRによる “可視化ソリューション mixpace(ミクスペース)” が、BIM活用を大きく推進していく【① 解説編】
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