コラム・特集
高橋 奈那 2021.5.24

【CSPI-EXPO 2021レポート】特別セミナー『国交省における建設施工のDX化の取組み』。国土交通省 総合政策局公共事業企画調整課 新田 恭士氏

2021年5月12日(水)〜14日(金)に幕張メッセで開催された『建設・測量生産性向上展(CSPI-EXPO)』。建設機械や測量機器BIM/CIMをはじめとするソフトウェアサービス会社など、次世代の土木・建設業界を担う数々の企業が一堂に会し、大盛況のうちに幕を閉じた。


本記事では、14日(金)に行われた、国土交通省総合政策局公共事業企画調整課 施工安全企画室室長 新田 恭士氏による講演の様子をお届けする。建設施工のDX化をめざした最新の取組みを紹介するとともに、今後の展望について具体的な施策が語られた。

当日は緊急事態宣言下という状況を踏まえ、事前収録されたビデオによる講演となった。

i-Construction推進に向けた取組みを振り返り、見えた課題


新田氏の在籍する施工安全企画室では、建設施工の安全性を高めるICT化やロボット技術の導入を始めとする、安全対策、積算基準や機械設備の企画・施策が行われている。

建設施工現場では、担い手不足に対応するため、徹底的な省力化が求められてる。省力化を進めていくためには、人の手により培われてきた熟練技術を活かすための情報化。そして、自動化を進めるための具体的施策の導入が早急な課題だ。


本講演では、土木・建設分野のICT技術推進の最前線から捉えた、新技術導入の実態や、現状の課題について次のように振り返った。

1.三次元データを使う機械施工の自動化・自律化

ICT建機を活用したMC・MG技術などの実用化が進んでいる。

しかし、機械施工の自動化と一概に言っても、現在のガイドライン上では、遠隔操作と遠隔監視ができることを条件としている。何をもって自動化なのか?という明確な基準がないため、共通の認識を定める必要がある。


2.人間拡張技術

具体的な実用化に向け、作業員の疲労を軽減させたり、筋力を増幅するパワーアシストスーツの実証実験を行っている。さらに今後は、人の力を増幅する技術に加え、バイタル情報等を外側から与えることで、人がもともともつ能力を拡張する技術開発も進めていく。

昨年度からスタートした本施策は、今年度各地方整備局で実証・展開していく予定だとした。

3.AI技術開発の支援

UAVが撮影した大量の写真画像の点群化には、AIが自動でデータ処理をするソフトウェアなどが活用されている。さまざまな企業が土木・建設分野の技術開発に参入している動きをさらに活性化していくためにも、AIの開発支援プラットフォーム作りに取り組んでいく考えを示した。


また、今年度から新たに取組む施策について、次の二つが挙げられた。

一つは、人材育成制度だ。ICT施工の経験企業を増やし、さらなる普及拡大を図るために、未経験企業の技術者に向けた教育・指導の場を整備するとした。ICT技術をすでに活用している事業所の作業員を技術指導員としてアドバイザー認定する、ICTアドバイザー制度を、本年度からスタートする。

そして二つ目が、ICT適用工事の工種拡大だ。本年度から適用工種を拡大され、土工に加え新たに構造物へICT技術が進んでいる。

また、当初に設定した目標では、ICT施工の実施目標を全体の3割としていたが、現状は国直轄工事で9.2%、自治体発注工事では1.5%と、まだまだICT活用割合が低い状況だ。今後も、ICT化の妨げとなっている現場の課題を見極め、具体的な施策をもって取組んでいくとした。


本質的な作業効率化をめざし、今後も民間提案を広く募る


次に、民間提案がきっかけとなり、新たに策定された基準を挙げ、今後も官民連携によるICT技術活用を進めていきたい考えを示した。

たとえば、ICT施工時にバックホーの刃先に設置したGPSで軌跡を収集し、施工履歴を出来形管理に活用する方法は、民間提案により新たに基準に加えられた事例だ。

新技術を活用するだけではなく、本質的な作業効率化のために、どのような基準の策定が必要なのか、今後も検証が進められるという。また、工事内容や現場の特性に応じて技術を選択できるよう、多様なシーンを想定した基準の策定と、新技術の適用化に務めたいとした。

令和5年度のBIM/CIM実用化を見越したAPIの拡大



昨年9月、令和3年度のBIM/CIMの原則適用化が発表された。これを受け、国交省本省本庁にもDX推進本部を設置し、一気通貫ですべての生産プロセスに三次元データを活用するためのモデル検証を進めているという。

ICT技術活用が進み、実作業に三次元データが用いられる事例も増加しているなか、新田氏が指摘したのは、データの汎用性についての問題点だ。

ICT測量で収集した点群をもとに設計データを作成し、ICT施工を行う一連のプロセスのなかで、すべての情報が三次元化されていれば問題はない。しかし、実際の現場では、そう一筋縄ではいかない。

多くの現場ではレンタルやリースでICT建機を使用している。MC・MG時に使用するソフトウェアはICT建機に紐付いているため、レンタルしたICT建機が採用しているデータ形式に合わせ、その都度データを作成し直す必要があるのだという。その際、レンタル会社が建設会社をサポートするケースが多く見られるそうだ。

これでは本来目的としている三次元データ活用とは言えないとした上で、機械をもたない事業所が多様なソフトウェアやアプリケーションに対応する難しさについてもふれた。

アプリケーション間のデータ共用と共通利用のために、クラウドをベースとしたデータ活用環境の整備を喫緊の課題としたうえで、国交省でも建設施工におけるAPI(Application Interface)の活用を推進したい考えを示した。


民間コンソーシアムの技術開発から、ASPからAPIへの転換を考える


データ活用・連携への課題にたいし、民間コンソーシアムから応募があった二つのプロジェクトが紹介された。

一つは、株式会社Landlogを中心に、株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク、株式会社オプティム、RECONSTRUCT INC.の4社が編成されたコンソーシアムによる、【現場で収集したデータを活用した「UAV自動運行及び衝突回避技術」と「計測データのクラウド連携技術」】。

そして、株式会社アクティオを中心に、西尾レントオール株式会社、株式会社カナモト、ソフトバンク株式会社、日立建機株式会社、福井コンピュータ株式会社、株式会社建設システム、エアロセンス株式会社、株式会社トプコンポジショニングアジア、株式会社ニコン・トリンブルの10社が編成したコンソーシアムによる【非衛星測位環境下でのUAV画像とWebAPIプラットフォーム間連携による4D施工管理アプリ群】だ。


従来競合関係とされてきた民間企業が、手を取り合いながら協調領域としてデータ連携の取り組みを進めている例を挙げ、国交省としても全面的に協力する意向を示した。

PDF化された資料をWeb上に集約して、限られたメンバーが閲覧できるASPサービスが主流となっている。これをさらに進化させ、APIを推進していく必要性について、次の用に語った。APIをベースとしたデータ活用により、ICT技術活用や新サービスの開発が進むだけでなく、受発注者間のやり取りも、大幅に効率化できるという。

たとえば、進捗の報告や書類のやりとり、工事の立ち会いなど、施工会社が適宜報告していた内容も、作業完了とともにAPIに集約されるため、確認作業もスムーズになるだろう。

そのためにも必要なのは、官民共通のストレージの整備だ。データの使用権、アクセス権なども含め議論を進めていくとしている。

クラウドベースでデータ活用する仕組みが整備されれば、ICT建機を借りるだけでなく、用途に応じてアプリケーションを選択・活用する、サブスクリプション制の実現可能性などにも触れ、講演を終えた。

本公演で繰り返し語られたのは、単なる新技術活用に終始せず、仕事の進め方を軸とした技術活用の必要性だ。

これまでi-Construction推進事業は、現場の声を汲み上げることで新基準の整備が進められてきた。今後、官民連携やデータ活用環境の整備がどのように実施されていくのかにも、注目していきたい。



編集:デジコン編集部 / 取材・文:高橋奈那 /写真:宇佐美 亮 
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高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。

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