コラム・特集
デジコン編集部 2022.2.28

【島根県建設技術セミナー レポート vol.1】「ICT普及促進の最新動向について」 ~ 新田恭士氏(国土交通省総合政策局公共事業企画調整課)の講演より~

2021年12月23日、島根県松江市の「くにびきメッセ」で島根県建設技術セミナー2021『ICT普及促進の最新動向、インフラ分野のDX推進』が開催された。


「最新動向と実例紹介」とのサブタイトルがつけられた同セミナーでは、国・自治体、そして民間企業の専門家が講演。最初に、国土交通省総合政策局公共事業企画調整課施工安全企画室長新田恭士が、ICT普及促進の最新動向について報告と展望を語った。その概要をレポートする。


高齢者・女性を活かして生産性を高めるのもICTの大きな狙い


ソーシャルディスタンスを保ちながら席が設けられた会場はほぼ満員。島根県の建設業者のICTに対する関心の高さをうかがわせた。新田氏はまず、完全自動運転のクルマを開発する米テスラ社の取り組みを紹介。

国土交通省 総合政策局 公共事業企画調 整課施工安全企画室長 新田 恭士 氏

AIが映像から読み取った情報をいかに学習し、あらゆる状況に対応するかを紹介し、「技術の進歩のスピードはものすごく速くなっている。かつては20~30年かけて進んだものが、最近は2、3年で実現されている。3次元データを扱うことも当たり前のことにもうすぐなるだろう」としたうえで、次のように続けた。


ICT施工も世の中のスタンダードにしなければならない。国としても普及のために、税制などの法整備や補助金制度の制定、さらにカーボンニュートラルを視野に入れた電動化などに取り組んでいるが、さらに認定制度をつくって普及の後押しをしたいと考えている」


建設業界においては、長年、担い手不足が深刻な課題となっているが、新田氏はいわゆる「生産性年齢人口」の急激な減少を指摘する一方で、65歳以上や女性の就業者が増えている事実を指摘。「我々は人間の機能を拡大する、疲労を減少させるということも考えている。高齢者や女性が増えているということを活かして生産性を高めるためには、そういった取り組みも重要であり、まさにICT化の大きな狙いのひとつ」と話した。


適用範囲拡大で中小規模工事でもメリットを実感


ただし、ICT化の普及拡大はまだまだこれから、というのが現状だ。新田氏よれば、建設業におけるICT技術の導入はまだ全体の1%ほど。しかも関連機械は自社保有より多くはレンタル業者を通して利用されている。


「ICT施工は書類が多くて大変、という話しを聞いたことがある。生産性を上げるというのは、原価を減らして利益を増やすことに他ならない。そういった視点でも考えていかなければならない。生産性2割向上を目指してICT化を全面的な活用をすすめている国交省としても、そうした種類の必要性の見直しなどに取り組んでいきたいと考えている」(新田氏)

とりわけ大きな課題が、中小規模工事でのICT普及だ。小さな現場ではまだまだICTのメリットが感じられていないのが原因ではないか、と新田氏はいう。


「国交省では、・3次元での起工測量 ・3次元での設計図作成 ・その設計図に基づいたマシンコントロール ・3次元データを用いた出来形の納品 などのメリットを掲げてICTの普及に取り組んでいるが、中小規模の現場ではなかなか効果が上がっていないのが実情だ。そうしたことを打破するために、5000㎥未満の工事でもICTのメリットを実感できるよう積算基準を整備し、さらには指定発注の範囲を拡大していくといったことなどに地道に取り組んでいる」(新田氏)

今後は、資格認定制度などを新たに設け、講習会も増やしていくなど、ICT普及の取り組みに拍車をかけていく方針だという。


「なかでも画期的一歩と考えているのが、3次元データ管理の適用拡大だ。これまで3次元データの活用は、土工を中心にやってきたが、これからはいよいよ橋梁や橋台といった構造物にも適用範囲を拡げて展開していこうと考えている。躯体の厚みなどもバーチャルで計測できる、あるいは法面や地盤のズレといったことも3次元データで計測できるようになれば、たとえば従来3人で行っていた作業を一人でできるようになるし、また出来形管理室を設けなくてよくなるかもしれない。徹底的に効率化でき、工事の生産性は大幅にあがるはずだ」(新田氏)


「OPTiM Geo Scan」の実証実験も紹介


国交省では、ICTの普及拡大に向けさまざまな基準づくりに取り組んでいるが、「不都合があればすぐに変えて、より使いやすいものにする。民間からもどんどんご提案いただきだい」と新田氏は話す。


その一環として進められているのが、茨城県つくば市にある「建設DX実験フィールド」で行われている実証実験だ。国土技術政策総合研究所内になるこの実験場では、スマホを使ったICT化の実証実験も行われている。

講演では、株式会社OPTiMと松尾建設株式会社が共同開発したスマホで活用できる高精度3次元測量プロダクト「OPTiM Geo Scan」の実証実験の様子も紹介され、会場の注目を集めた。


「こうしたスマート技術を用いて、誰でも簡単にICTを活用できるようにしたいと考えている。普及拡大を進めるには、ハードルを下げ誰でも使えるようにすることが肝要だ。そのためのワーキンググループをつくり、ICTの汎用性を高めたい。民間企業の技術開発のスピードはものすごく速く、国が追いついていけない部分もあるのが、正直なところ。まずはどんどん使って試してみる。そして開発者にフィードバックし、スピーディに基準なりを定めていける、そんな環境をつくりたいと考えている」(新田氏)


今後はICT化がさらに進み、近い将来には無人化施工というものも広がっていくだろう、と新田氏。それに向け、建設機械メーカーだけではなく、株式会社OPTiMなどのようなベンチャーIT企業などからも積極的にご提案いただきたい、と新田氏は締めくくった。






◎登壇者はセミナー中のみマスクを外して講演。
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