コラム・特集
デジコン編集部 2025.12.9
大人気シリーズ!【いまさら聞けない?】測量のことイチから解説 〜 連載記事一覧 〜

《 PPP-RTK / PPP / DGPS / RTK 》の違いとは? 建設ICT・測量向け衛星測位の仕組みと精度を徹底比較!

CONTENTS
  1. 1. 衛星測位の精度を左右する「3つの誤差要因」
    1. A:衛星ごとの誤差(衛星軌道・衛星時計のズレ)
    2. B:伝搬経路(宇宙空間~大気圏)の誤差
    3. 受信機周辺の誤差
  2. 2. PPP(高精度単独測位)とは?~ 世界中どこでも、基準局なしで高精度 ~
    1. PPPの仕組みと特徴
    2. PPPのメリットとデメリット
  3. 3. PPP-RTK(準天頂衛星CLASなど)とは ~ PPPの手軽さと、RTKの精度を両立 ~
    1. PPP-RTKの仕組みと特徴
    2. PPP-RTKはなぜ高精度なのか?(CLASの仕組み)
  4. 4. 【比較】「PPP-RTK」vs「RTK(VRS)」現場で使うならどっち?
    1. ① RTK(ネットワーク型RTK/VRS)
    2. ② PPP-RTK(CLAS)
    3. 結論:使い分けのポイント
  5. 5. DGPS(ディファレンシャルGPS)との違い
  6. 6. 【実践編】その高精度測位、現場でどう活かす? スマホ測量アプリという選択肢
    1. 衛星測位 × iPhone LiDAR で「1人測量」を実現
  7. まとめ
建設現場のICT化(i-Construction/i-Construction2.0)において、高精度な位置情報はすべての基盤となる。

ICT建機の自動制御、ドローンやトータルスキャナーによる測量、スマホ測量アプリや地上型レーザースキャナーなど、あらゆる場面でGNSS(全球測位衛星システム)が活用されている。

しかし、カタログや仕様書には「RTK」「PPP-RTK」「DGPS」といった専門用語が並び、「結局、どれを選べば良いのか?」と迷う技術者も少なくない。

特に近年は、基準局不要でセンチメートル級精度を実現する「PPP-RTK(CLAS)」の登場により、選択肢が広がっている。

本記事では、注目の「PPP-RTK」を中心に、従来の定番である「RTK」や「PPP」との違いを、現場視点で徹底解説する。

1. 衛星測位の精度を左右する「3つの誤差要因」


各方式の違いを理解するためには、まず「なぜGPS(GNSS)には誤差が生まれるのか」を知る必要がある。

衛星から受信機までの道のりには、主に以下の3つの誤差要因が存在する。


A:衛星ごとの誤差(衛星軌道・衛星時計のズレ)


衛星の位置情報そのもののズレや、搭載されている原子時計の極めて微細なズレ。

B:伝搬経路(宇宙空間~大気圏)の誤差


  • 電離層遅延:太陽活動などの影響を受ける電離層を通過する際の遅れ。
  • 対流圏遅延:地表近くの空気や水蒸気の層を通過する際の遅れ。

受信機周辺の誤差


マルチパス(反射波)や受信機ノイズなど、地上の環境に依存するもの。

これらの誤差を「どうやって」「どこまで」取り除くかが、各方式の決定的な違いとなる。

2. PPP(高精度単独測位)とは?~ 世界中どこでも、基準局なしで高精度 ~


PPP(Precise Point Positioning)は、その名の通り「精密単独測位」と呼ばれる手法だ。


日本では、準天頂衛星みちびきの実証実験を経て、2024年4月から本運用が開始された「MADOCA-PPP」サービスがこれに該当する。

PPPの仕組みと特徴


通常のGPS測位(単独測位)に「A:衛星ごとの誤差(精密な軌道・時計情報)」の補正データを加えて計算を行う。

  • 補強対象:誤差要因「A」のみ
  • 基準局:不要(アンテナ+受信機1台で完結)
  • エリア:世界中どこでも(アジア・オセアニア地域等、広域で利用可)

PPPのメリットとデメリット


最大のメリットは、日本周辺だけでなく広範囲なエリアで利用できる点だ。

一方で、「B:伝搬経路の誤差(電離層・対流圏)」を外部データとして受け取らないため、精度は後述するRTKやPPP-RTKには及ばない。

一般的な精度としては、水平30cm以下、垂直50cm以下(95%値)とされており、センチメートル級が求められる施工管理よりも、海洋工事や広域の概略測量などに適している。

また、精度が安定する(初期収束)までに時間がかかる点にも注意が必要だ。

3. PPP-RTK(準天頂衛星CLASなど)とは ~ PPPの手軽さと、RTKの精度を両立 ~


PPP-RTKは、現在もっとも注目されている技術の一つだ。

日本では準天頂衛星「みちびき」が配信する「CLAS(シーラス:センチメータ級測位補強サービス)」において、この技術が採用されている。

PPP-RTKの仕組みと特徴


PPPで補正していた「A:衛星の誤差」に加え「B:伝搬経路の誤差(電離層・対流圏)」の補正情報も衛星から配信する。

  • 補強対象:誤差要因「A」+「B」
  • 基準局:不要(受信機1台で完結)
  • エリア:日本全域

PPP-RTKはなぜ高精度なのか?(CLASの仕組み)


大気の状態(電離層・対流圏の遅延)は、場所によって異なる。CLASでは、国土地理院が管理する全国1,300か所以上の「電子基準点」のデータを活用している。

国土を12の領域に分け、それぞれのエリアに最適な「大気の補正情報」を生成・配信することで、日本全国どこでも均質にセンチメートル級の高精度を実現しているのだ。

4. 【比較】「PPP-RTK」vs「RTK(VRS)」現場で使うならどっち?


これまで建設現場の標準は「RTK(ネットワーク型RTK/VRS)」であった。

ここに「PPP-RTK(CLAS)」が登場したことで、現場選定の悩みが生まれている。両者の違いを明確に比較しよう。

① RTK(ネットワーク型RTK/VRS)


  • 仕組み:携帯電話回線(インターネット)を通じて、補正データ配信事業者から現在位置に応じた補正データを受け取る。

《 RTKのメリット 》

  • 初期化(Fix)までの時間が非常に短い(数秒程度)。
  • 実績が豊富で、あらゆる測量機器が対応している。

《 RTKのデメリット》

  • 通信圏外では使えない(山間部など)。
  • 通信費や配信サービスへの契約料(ランニングコスト)がかかる。

② PPP-RTK(CLAS)


  • 仕組み:準天頂衛星「みちびき」から直接、補強信号(L6信号)を受信する。

《 PPP-RTKのメリット 》

  • 通信圏外でも使える(空が開けていればOK)。
  • 補強情報の利用料が無料(対応受信機のみでOK)。

《 PPP-RTKのデメリット 》

  • 初期化(収束)に多少の時間(数十秒~1分程度)が必要な場合がある。
  • L6信号に対応した専用の受信機(アンテナ)が必要。


結論:使い分けのポイント


「山間部で携帯電波が入らない」「ランニングコストを抑えたい」場合はPPP-RTK(CLAS)が圧倒的に有利だ。

一方、「樹木の下など空の視界が悪い」「一瞬でも早く測りたい」というシビアな環境では、依然としてRTK(VRS)に分があるケースもある。

5. DGPS(ディファレンシャルGPS)との違い


参考までに、従来技術であるDGPSについても触れておく。

DGPSも「基準局データで補正する」点は同じだが、決定的な違いは「距離の測り方」にある。

(DGPSイメージ図:MoGIST WEBサイトより引用)

DGPS(コード測位): 「定規」で測るようなもの。精度はメートル級(亜メートル級)。
PPP-RTK(搬送波測位): 「ノギス」で測るようなもの。電波の波の数を数えるため、センチメートル級の精度が出る。

DGPSの精度では不十分なケースが多く、RTKまたはPPP-RTKの利用が前提となっている。

6. 【実践編】その高精度測位、現場でどう活かす? スマホ測量アプリという選択肢


ここまで、PPP-RTKやRTKといった測位技術の違いについて解説してきた。しかし、重要なのは「その技術を使って、いかに業務を効率化するか」だ。


そこで紹介したいのが、高精度な位置情報を手軽に活用できるスマホ1人測量アプリ「OPTiM Geo Scan」だ。

衛星測位 × iPhone LiDAR で「1人測量」を実現


「OPTiM Geo Scan」は、iPhone Proなどに搭載されたLiDARセンサーを活用し、対象物をスキャンするだけで高密度な3次元点群データを取得できるアプリである。


Geo Scanはアプリで測量する際に、小型GNSSレシーバーを活用するため、この記事で解説した「GNSS測位(RTKやPPP-RTK)」で位置情報を取得する仕組みだ。そのため、測量したデータに正確な位置座標を、リアルタイムで付与できる。

プリズムを持つ補助員も不要で、スマホとGNSSレシーバーがあれば、たった1人で測量が完了してしまうのだ。

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まとめ

本記事では、衛星測位の基礎から最新のPPP-RTK(CLAS)まで、その違いと仕組みを解説してきた。

かつて、高精度測位といえば「RTK(VRS)」一択であり、通信圏外の現場では基準局設置の手間が必要だった。

しかし、「PPP-RTK(CLAS)」の実用化により、我々は通信環境に依存せず、かつ無料でセンチメートル級の精度を享受できる新たな選択肢を手に入れた。

結論として、現場における技術選定は以下の基準で行うと良いだろう。

  • 通信圏外、またはランニングコストを抑えたいなら「PPP-RTK(CLAS)」: 山間部の土工現場や、広範囲を移動するドローン測量などでは、基準局不要で圏外でも使えるCLASの独壇場となる。
  • 厳しい遮蔽環境、または即応性を最優先するなら「RTK(VRS)」: 樹木や建物の影響を受けやすい場所、あるいは1秒でも早く計測を開始したいシビアな現場では、初期化が早く実績豊富なRTK(VRS)が依然として信頼性が高い。

重要なのは、どの技術が優れているかという優劣論ではなく、現場の環境や制約条件に合わせて最適な方式を選ぶ「知識」を持つことだ。

そして、その高精度な位置情報を「OPTiM Geo Scan」のような最新ツールで活用し、現場作業そのものを効率化していくことこそが、これからの建設現場に求められるICT施工のあり方であると言えるだろう。


WRITTEN by

デジコン編集部

建設土木のICT化の情報を日々キャッチして、わかりやすく伝えていきます。
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