コラム・特集
衛星測位での【DOP値 / マルチパス / 仰角マスク】とは? 〜GNSS測位の精度低下には理由があった!〜
建設現場におけるICT施工や測量において、GNSS(衛星測位システム)はもはや欠かせない技術である。
「衛星の数が多ければ精度が良いはず」と思われがちだが、実際には「衛星が多数受信できているのにFIX解が得られない」「精度が安定しない」というケースに遭遇することがある。
その原因は、単なる衛星数ではなく、「DOP値」「マルチパス」「仰角マスク」という3つの要素が複雑に関係していることが多い。
本記事では、測位精度を左右するこれら3つの重要キーワードについて、国土地理院や公共測量作業規程などの基準を交えて解説する。
まず1つ目は「DOP(ドップ)値」だ。これは「衛星の配置による精度低下率」を指す指標である。
(画像元:Shutterstock)
簡単に言えば、上空にある衛星が「どれだけバランスよく散らばっているか」を表す数字だ。
たとえ受信できている衛星数が多くても、それらが北の空だけに固まっていたりすると、DOP値は悪くなり、正確な位置を割り出すことが難しくなる。
一般的にDOP値が「3」を超えると、高精度な観測には向いていないとされる。
2つ目の要素は「マルチパス」である。
これは、衛星から発信された電波が直接アンテナに届くのではなくビルや樹木、地面、壁などに反射・回折してから届いてしまう現象を指す。
衛星測位は「電波が衛星から受信機に届くまでの時間」を計測して距離を割り出す仕組みだ。
〈画像元:みちびき(準天頂衛星システム)WEBサイトより引用〉
反射した電波は、直接届く電波よりも回り道をする分、到達時間が遅れる。この遅れが距離計算に誤りを生じさせ、測位位置がずれてしまうのだ。これを「マルチパス誤差」と呼ぶ。
なお、近年普及している2周波以上のGNSS受信機では、アイオノフリー演算により「電離圏遅延」は除去できるが、「マルチパス誤差」は計算で除去することが困難であるため、現場での物理的な対策が極めて重要となる。
国土地理院の資料などでも、GNSS測量の誤差要因としてマルチパスは大きな課題とされている。
3つ目は「仰角マスク」だ。
これは受信機の設定機能の一つで、「地平線に近い(角度が低い)衛星の電波を使わないようにする」フィルタリング機能である。
地平線近く(低仰角)にある衛星の電波には、以下のリスクがある。
これら「質の悪い電波」を計算に含めると、FIX解が得られるまでの時間が長くなったり、精度が低下したりする。
そのため、あえて低い角度の衛星を切り捨てる(マスクする)設定を行うのだ。
日本の測量現場において、一つの基準となるのが国交省の「公共測量作業規程」である。
これまでの一般的な公共測量(GNSS測量)では、「仰角15度以上」の衛星を使用することが標準とされてきた。
実際のRTK測量においても、多くの受信機で仰角マスク15度がデフォルト設定になっていることが多い。
一方で、世界的には「10度」が一般的であり、近年の受信機性能の向上や衛星数の増加に伴い、10度設定でも十分な精度が出せるケースも増えている。
ここで重要になるのが、仰角マスクとDOP値のトレードオフ(二律背反)の関係だ。
仰角マスクの設定を変更すると、以下のようなメリット・デメリットが発生する。
実際の測量では、一律の設定ではなく、現場環境に合わせて調整を行う柔軟性が求められる。
ここまで、測位精度を維持するためのDOP値やマルチパス対策、仰角マスク設定の重要性について解説してきた。
しかし、現場の技術者からは「毎回そこまで細かい設定を気にするのは大変だ」「高精度な測量機は重くて高価で、手軽に導入できない」という声も多く聞かれる。

そこで、近年急速に普及しているのが、スマートフォン(iPhone)を活用した1人測量アプリ「OPTiM Geo Scan」だ。
特に高性能GNSSレシーバーを用いて測量することで、これまでの測量機の常識を覆す特徴を持っている。
前述の通り、マルチパス(反射波)の影響を軽減し、FIX解を安定させるためには、多周波の利用が非常に有効だ。
(画像:高性能GNSSレシーバー)
高性能GNSSレシーバを活用すれば、ビル街や山間部など、従来の測量機でも苦戦する環境下において粘り強い測位性能を発揮する。
従来の測量機はかなりの重さがあり、持ち運びや設置だけでも一苦労だった。しかし「OPTiM Geo Scan」は、iPhoneとコンパクトなGNSSレシーバーだけで完結するのだ。

「DOP値」や「マルチパス」の理屈を理解することはもちろん重要だが、それを最新のテクノロジーで解決してくれるツールを選ぶことも、これからの建設ICTには求められる視点であろう。
最後に、GNSS測量の精度を決定づける3つの要素の相互関係を整理しよう。
これらを踏まえた、現場での実践ポイントは以下の通りだ。
これらの要素を意識することで、建設現場における高精度なGNSS測量が実現できるはずだ。
「衛星の数が多ければ精度が良いはず」と思われがちだが、実際には「衛星が多数受信できているのにFIX解が得られない」「精度が安定しない」というケースに遭遇することがある。
その原因は、単なる衛星数ではなく、「DOP値」「マルチパス」「仰角マスク」という3つの要素が複雑に関係していることが多い。
本記事では、測位精度を左右するこれら3つの重要キーワードについて、国土地理院や公共測量作業規程などの基準を交えて解説する。
1. DOP値(Dilution of Precision)| 衛星の「配置バランス」
まず1つ目は「DOP(ドップ)値」だ。これは「衛星の配置による精度低下率」を指す指標である。
(画像元:Shutterstock)簡単に言えば、上空にある衛星が「どれだけバランスよく散らばっているか」を表す数字だ。
- DOP値が小さい(1に近い): 衛星が東西南北、天頂にまんべんなく配置されている(精度が良い)
- DOP値が大きい: 衛星が片方の空に偏っている(精度が悪い)
たとえ受信できている衛星数が多くても、それらが北の空だけに固まっていたりすると、DOP値は悪くなり、正確な位置を割り出すことが難しくなる。
一般的にDOP値が「3」を超えると、高精度な観測には向いていないとされる。
2. マルチパス(多重経路) | 反射による「ゴースト信号」
2つ目の要素は「マルチパス」である。
これは、衛星から発信された電波が直接アンテナに届くのではなくビルや樹木、地面、壁などに反射・回折してから届いてしまう現象を指す。
なぜ測位精度が落ちるのか?
衛星測位は「電波が衛星から受信機に届くまでの時間」を計測して距離を割り出す仕組みだ。
〈画像元:みちびき(準天頂衛星システム)WEBサイトより引用〉反射した電波は、直接届く電波よりも回り道をする分、到達時間が遅れる。この遅れが距離計算に誤りを生じさせ、測位位置がずれてしまうのだ。これを「マルチパス誤差」と呼ぶ。
なお、近年普及している2周波以上のGNSS受信機では、アイオノフリー演算により「電離圏遅延」は除去できるが、「マルチパス誤差」は計算で除去することが困難であるため、現場での物理的な対策が極めて重要となる。
マルチパスへの対策
国土地理院の資料などでも、GNSS測量の誤差要因としてマルチパスは大きな課題とされている。
- 場所の選定: 上空が開けた場所を選ぶことが基本である。
- 準天頂衛星「みちびき」の活用: 日本の真上(天頂)付近に長時間留まる衛星を利用することで、ビル街でも高仰角の衛星を確保しやすくなる。一般的に高仰角の衛星信号は、障害物に遮られにくくマルチパスの影響も受けにくいため、測位精度の向上に貢献する。
- アンテナの性能: チョークリングアンテナなど、地面からの反射波をカットする性能を持つ機材を選定することも有効だ。
3. 仰角マスク(Elevation Mask) | 低空衛星の「カット」
3つ目は「仰角マスク」だ。
これは受信機の設定機能の一つで、「地平線に近い(角度が低い)衛星の電波を使わないようにする」フィルタリング機能である。
なぜ低い位置の衛星を使わないのか?
地平線近く(低仰角)にある衛星の電波には、以下のリスクがある。
- 大気層の影響: 電波が大気の中を通る距離が長くなるため、大気遅延誤差が大きくなる。
- 遮蔽・マルチパスのリスク: 地上の建物や地形に遮られやすく、前述のマルチパスの影響を受けやすい。
これら「質の悪い電波」を計算に含めると、FIX解が得られるまでの時間が長くなったり、精度が低下したりする。
そのため、あえて低い角度の衛星を切り捨てる(マスクする)設定を行うのだ。
最適な角度設定は?(15度が標準)
日本の測量現場において、一つの基準となるのが国交省の「公共測量作業規程」である。
これまでの一般的な公共測量(GNSS測量)では、「仰角15度以上」の衛星を使用することが標準とされてきた。
実際のRTK測量においても、多くの受信機で仰角マスク15度がデフォルト設定になっていることが多い。
一方で、世界的には「10度」が一般的であり、近年の受信機性能の向上や衛星数の増加に伴い、10度設定でも十分な精度が出せるケースも増えている。
仰角マスクとDOP値のジレンマ
ここで重要になるのが、仰角マスクとDOP値のトレードオフ(二律背反)の関係だ。
仰角マスクの設定を変更すると、以下のようなメリット・デメリットが発生する。
【仰角マスクを高く設定(例:20度、25度)】
- メリット: マルチパスや大気遅延の影響を受ける質の悪い低仰角衛星を確実に除外できる。
- デメリット: 計算に使用できる衛星数が減少し、DOP値が悪化する可能性が高まる。
【仰角マスクを低く設定(例:5度、10度)】
- メリット: 多くの衛星を使用でき、衛星配置が改善されるためDOP値が良くなる。
- デメリット: 低仰角衛星のノイズや誤差が混入しやすくなる。
測量現場での最適解は?
- 空が開けている現場: 基本の「15度」設定で十分である。
- ビル街や樹木の多い現場: ノイズを避けるために「20度」程度に上げる選択肢もある。
- 注意点: 「25度」を超えると衛星数が不足し、DOP値が急激に悪化するケースが多いため注意が必要だ。
実際の測量では、一律の設定ではなく、現場環境に合わせて調整を行う柔軟性が求められる。
4. 難しい設定や重い機材は不要!スマホ測量アプリ「OPTiM Geo Scan」という選択肢
ここまで、測位精度を維持するためのDOP値やマルチパス対策、仰角マスク設定の重要性について解説してきた。
しかし、現場の技術者からは「毎回そこまで細かい設定を気にするのは大変だ」「高精度な測量機は重くて高価で、手軽に導入できない」という声も多く聞かれる。

そこで、近年急速に普及しているのが、スマートフォン(iPhone)を活用した1人測量アプリ「OPTiM Geo Scan」だ。
特に高性能GNSSレシーバーを用いて測量することで、これまでの測量機の常識を覆す特徴を持っている。
3周波対応で、しかも「マルチパス」に強い
前述の通り、マルチパス(反射波)の影響を軽減し、FIX解を安定させるためには、多周波の利用が非常に有効だ。
(画像:高性能GNSSレシーバー)高性能GNSSレシーバを活用すれば、ビル街や山間部など、従来の測量機でも苦戦する環境下において粘り強い測位性能を発揮する。
ポケットサイズで、準備の手間を激減
従来の測量機はかなりの重さがあり、持ち運びや設置だけでも一苦労だった。しかし「OPTiM Geo Scan」は、iPhoneとコンパクトなGNSSレシーバーだけで完結するのだ。

「DOP値」や「マルチパス」の理屈を理解することはもちろん重要だが、それを最新のテクノロジーで解決してくれるツールを選ぶことも、これからの建設ICTには求められる視点であろう。
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5. まとめ:GNSS測位精度を左右する3つの要素
最後に、GNSS測量の精度を決定づける3つの要素の相互関係を整理しよう。
GNSS精度を構成する3大要素
- DOP値(衛星配置)→ 衛星が四方八方にバランスよく散らばっているか
- マルチパス(反射誤差)→ 建物や地面による反射波が混入していないか
- 仰角マスク(衛星選別)→ 質の悪い低仰角衛星を適切に除外できているか
これらを踏まえた、現場での実践ポイントは以下の通りだ。
- 測量前に衛星配置シミュレーションを実施 → DOP値が「3以下」となる時間帯を選定する。
- 上空が開けた場所を選ぶ(可能であれば)→ マルチパス誤差を最小化する。
- 仰角マスクは「15度」を基本とし、現場状況で調整 → 衛星数(DOP値)とのバランスを重視する。
- マルチGNSS対応受信機の活用→ GPS単独よりも利用衛星数が増え、DOP値の改善が期待できる。
これらの要素を意識することで、建設現場における高精度なGNSS測量が実現できるはずだ。
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大人気シリーズ!【いまさら聞けない?】測量のことイチから解説 〜 連載記事一覧 〜
- 衛星測位での【DOP値 / マルチパス / 仰角マスク】とは? 〜GNSS測位の精度低下には理由があった!〜
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