行政・政策
加藤 泰朗 2022.9.13
測量アプリの現在地〜現場で使える?最新事例を紹介

2022年度改定!「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」で新たに工種が拡充。押さえるべきポイントを解説!

CONTENTS
  1. 2022年(令和4)3月版改定で何が変わった?
  2. ICT構造物工の多様な「計測方法」を理解する
  3. 小規模現場のICT要領追加で、中小建設企業のICT活用への道を開く
  4. 今後、どのような工種が追加されるのか?

2022年(令和4)3月版改定で何が変わった?


2022年3月31日、国土交通省は「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」〔以下、「管理要領(案)」〕を改定、令和4年3月版を公開した。

国土交通省は、土工におけるICT活用のための基準類拡充を進めており、2016年度(平成28年度)以降、毎年「管理要領(案)」に記載する工種を拡充してきた。

令和4年3月版では、ICT構造物工の「基礎工(矢板工・既製杭工・場所打工)」(第11編)、「擁壁工」(第12編)、「構造物工(橋脚・橋台)」(第13編)と、小規模現場に対応する「土工(1,000m3未満)・床堀工・小規模土工・法面整形工」(第14編)の各工種が追加された。

そのほかにも、公共工事に関わる民間企業などからの提案をもとに、ICTローラの施工履歴データを用いた出来形管理やステレオ写真測量を用いた路面切削工の出来形管理などの許可、無人航空機(UAV)写真測量における等対高度撮影の要領化など、多岐にわたって変更が加えられている。

本記事では、追加工種に焦点を絞って改定のポイントを整理したい。キーワードは、「使用可能な3次元計測技術は何か」だ。

各追加工種の第1章の解説には、「『土木工事共通仕様書』、『土木工事施工管理基準及び規格値(案)』、『写真管理基準(案)』及び『土木工事数量算出要領(案)』で定められている基準に基づき、3次元計測技術を用いた出来形管理の実施方法、管理基準等を規定する」とある。

つまり変わったのは「3次元計測技術を用いた」部分であり、それ以外の検査項目や基準値、規格、帳票などは、基本、従来通りということだ。

実際に、どのような3次元計測技術が認められたのだろうか。まず第11-13編として追加された各「ICT構造物工」から見てみよう。


ICT構造物工の多様な「計測方法」を理解する


① 基礎工
基礎工に使用可能な3次元計測技術は、単点計測多点計測の2種類がある。

単点計測技術として認められたのは、トータルステーション(TS:等光波方式/ノンプリズム方式)。

基準に定められた位置の座標値をTSで取得し、それをもとに出来形の実測値を算出して帳票に記入する。実測値の計算には任意のソフトウエアを使用してよい。また、TS出来形の使用も認められている。


TS出来形ならば座標をもとにした出来形の実測値計算や出来形帳票作成を自動で行えるため、効率的に作業を進められる。

一方、多点計測の対象技術は、レーザースキャナ(TLS:地上型/地上移動体搭載型)である。TLSで取得した計測点群から、縦断方向(道路線形方向、橋軸方向など)とそれに直交する横断方向の断面から±50mm以内にある点群を切り出して断面表示。表示画面上に目視で測線を引き測定項目の実測値を算出し、出来形帳票に入力する。


なお、基礎工の適用工種(場所打ち杭工、矢板工、既製杭工の3種)で選択できる計測方法が異なる。場所打ち杭工の場合は単点計測と多点計測のどちらでも計測できるが、矢板工と既製杭工は、単点計測のみである。

② 擁壁工
擁壁工で使用可能な3次元計測技術も、基礎工と同様、単点計測多点計測2種類

単点計測で認められる計測技術は、TS(等光波方式/ノンプリズム方式)とRTK-GNSS。計測する断面あるいは測線上から、計測項目として定められた箇所(端部など)の座標値を取得し、実測値を算出。実測値算出に使用するソフトウエアの指定はなく、またTS出来形の使用も可能だ。


多点計測では、TLS(地上型/地上移動体搭載型/無人航空機搭載型)と空中写真測量(UAV)が対象技術だ。機器で取得した計測点群から、計測する断面あるいは測線から±100mm範囲内にある任意の3次元座標を選び、座標値を取得。実測値を算出して帳票に入力する。

③ 構造物工(橋脚・橋台)
構造物工(橋脚・橋台)で用いる3次元計測技術は、単点計測TS等光波方式と、多点計測TLS(地上型/無人航空機搭載型)、空中写真測量(UAV)。

単点計測の場合、橋軸方向の中央・両端部および寸法表示箇所で、計測項目の3次元座標を計測し、座標値を取得する。出来形の実測値を算出するソフトウエアには規定はないが、TS出来形は使用できない。

一方、多点計測では、取得した計測点群から、計測する橋軸方向の中央・両端部および寸法表示箇所の3次元座標を任意に選択するか、計測箇所端部を構成する面上から座標値を取得し、出来形の実測値を算出し、帳票に入力する。

なお、構造物工(橋脚・橋台)では、「出来ばえ管理」と、「写真計測技術を用いた表面状態の把握と記録(ひび割れ管理)」が認められたことも留意したい。

出来ばえ管理は、出来形管理のために計測した点群データと、評価用に加工した3次元設計データ(面データ)とを重ね合わせて、差分(垂直方向のズレ)をヒートマップで示し、凹凸の良否判定をするというもの。

ひび割れ管理は、出来形計測時に撮影した写真から構造物表面の0.2mmのひびが確認できる場合に限り、目視および「スケールによる測定」を写真調査に置き換えるという内容だ。


小規模現場のICT要領追加で、中小建設企業のICT活用への道を開く


次に、小規模現場に対応する第14編「土工(1,000m3未満)・床堀工・小規模土工・法面整形工」の改定のポイントを見る。この編での注目点は2つ。


一つは、小型のマシンガイダンス(MG)技術搭載バックホウの使用が認められたこと。従来のICT施工は、現場規模が大きく中型MGバックホウの使用が標準だった。一方で、都市部や市街地などの狭小現場では、中型よりも小型バックホウのほうが扱いやすく、施工性や作業効率の向上と、それによる人員(現場補助員など)削減も期待できる。小型MGバックホウの工種別の適用範囲は以下の通り。

  • 小型MGバックホウの工種別適用範囲
  • ICT土工:1,000m3未満の施工
  • ICT床掘工:平均施工幅2m未満の施工
  • ICT小規模土工:土工量100m3未満や施工幅1m未満
  • ICT法面工:1,000m3未満の法面整形作業

使用する小型MGバックホウには、全球測位衛星システム(GNSS: global navigation satellite system)を実装するか、自動追尾型トータルステーション(TS)などを活用する。

もう一つは、3次元計測機器として簡易なモバイル端末の使用が認められたこと。TS(等光波方式/ノンプリズム方式)か、RTK-GNSSによる単点計測技術を用いた断面管理を「標準的な出来形管理手法」としたうえで、TLSやUAVに加え、簡易なモバイル端末による面管理および断面管理(多点計測)が可能と明記されている。

簡易なモバイル端末とは、LiDAR(light detection and ranging)機能を実装したAppleの「iPhone 12 Pro/Pro Max」「iPhone 13 Pro/Pro Max」「iPhone 14 Pro/Pro Max」、そして一部の「iPad Pro」などのこと。これらのデバイスに、「OPTiM Geo Scan」などの、規定の測定精度・設計密度を保証する3次元測量アプリをインストールすれば、計測機器として使用可能になる。

(写真:デジコン編集部)

小規模現場でICTが進まない理由の一つに、TLSやドローンといった測量機器の導入がコスト面で釣り合わないことがある。市販のモバイル端末の使用が認められたことで、今後は小規模な現場でのICT活用が進むことが予測される。

(写真:デジコン編集部)

なお、簡易なモバイル端末を使用に関しては、面計測を行うと工事成績1点が加点されるインセンティブも設けられている。



今後、どのような工種が追加されるのか?


以上、各追加工種で認められた3次元計測技術を整理した。どの計測技術を採用するかは、計測手間だけでなく、実測値の算出、帳票作成作業の効率(手動か、自動か)にまでかかわる。現場の環境に最適な方法を選択してほしい。

最後に、今後の工種追加の予定を概観する。

国が発注する直轄工事におけるICT活用工事件数は、年々増加傾向にある。一方で、都道府県・政令市が発注する中小規模の工事に関しては、実施件数は伸び悩んでいる。

(表:土木工事におけるICT施工の実施状況/出典:国土交通省「ICT施工の普及拡大に向けた取組」)

ICT活用工事のさらなる推進のためには、中小規模工事への対応が欠かせない。

国は2020年度より「簡易型ICT活用工事」をスタート。ICT活用工事では起工測量から電子納品までの全段階で必須だった3次元データ活用が、「一部の段階のみでの工事成績への加点(1点)」を認めるなど、比較的規模の小さい現場でもICT技術を利用しやすい環境整備を進めてきた。今回の小規模現場にかかわる工種拡充もその課題に応えるものだ。

2022年7月28日に開催された第15回ICT導入会議では、「管理要領(案)」の2023年改定で、モバイル端末を用いた出来形管理の適用対象を管渠、暗渠、管路工等まで拡大することなどが検討された。引き続き動向に注目していきたい。


画像:Shutterstock
WRITTEN by

加藤 泰朗

人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、2019年独立。フリーランスとして、書籍・雑誌・Webで編集・ライティングに従事。難しい内容をわかりやすく伝えることを大切にしています。
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