コラム・特集
楠田 悦子 2021.12.3
モビリティジャーナリスト楠田悦子と考える、暮らしやすい街づくりとインフラ

自転車や低速小型モビリティと道路政策について。国交省大臣官房審議官(道路局担当)の倉野泰行氏に聞く


『移動貧困社会からの脱却―免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』の編著者であるモビリティジャーナリスト楠田悦子が、国土交通省大臣官房審議官(道路局担当)の倉野泰行氏(以下、敬称略)と特別対談。倉野氏とともに、これからの社会・モビリティ・道路について考えた。


倉野 泰行 氏
国土交通省大臣官房審議官(道路局担当)
1991年建設省入省、2003年福岡県企画振興部交通対策課長、2014年復興庁参事官(原子力災害復興班)、2015年独立行政法人都市再生機構経営企画部長、2018年国土交通省都市局都市政策課長、2020年同局総務課長


30年振りの久しぶりの道路局勤務


楠田:ご経歴を教えてください

倉野:私は現在の三重県伊勢市内のまちはずれの出身で、平成3年に旧建設省に入省した事務官、法律職になります。今年の7月から現在のポストに就任していますが、本省の道路局勤務としては、入省時に道路局に配属されて以来、実に30年振りとなります。

国土交通省大臣官房審議官(道路局担当) 倉野泰行氏

道路局から異動して以降、様々な行政分野を経験させていただきました。担当した行政分野の中では、比較的、都市計画をはじめ、まちづくりに関する仕事が多かった一方、印象深かった仕事は災害対応や復興に関する業務で、阪神・淡路大震災や東日本大震災の復興にも関わりました。また、福岡県庁に出向し、公共交通に関する仕事も担当しました。

楠田:デジタル対応についてどのようにお考えですか?

倉野:災害対応や被災地の復興にとって、道路がいかに重要なインフラであるか、よく承知しているつもりです。今回は、自転車の活用推進に関するインタビューですが、これからも、災害に強い道路というだけでなく、災害から人の生命や経済を守る道路ということを常に頭に置きながら、仕事に当たりたいと考えています。


道路分野におけるデジタルの活用と言っても、様々な側面があります。私として特に大切に感じるのは、いわゆるDXの活用による道路の安全性の確保です。特に、技術者の担い手不足も深刻化する中、橋梁やトンネルなどこれまで人が直接目視などにより点検してきたところを、ドローンAIなどの技術を活用し、点検の効率化・高度化を図る取組を行っています。

自動運転については、道路局だけでなく、国土交通省を挙げて、技術開発や実装に向けた取組を進めています。将来的には、より高いレベルの自動運転が実装されるのでしょうが、地方の出身で、かつ、公共交通の仕事もしたことのある私としては、先ずは、地方都市で、あまり高くないレベルの自動運転、つまり、一定の決まった区間をゴルフカートのような簡易な車両が定期運行するといった取組が拡がり、地域の足の一つとなればと考えています。


自転車を巡る政策の展開と自転車活用推進法


楠田:ここからは自転車や道路の活用について伺います。これまでの道路政策、自転車政策についてのお考えは?

モビリティジャーナリスト 楠田悦子

倉野:
道路法体系の中に自転車に関する政策が始めて登場するのは、戦後になってからと思われがちです。しかし、今から100年以上前の大正8年(1919年)、旧道路法の政令の一つである街路構造令の第3条第3項に「広路には必要あるときは……自転車道を設くべし。」と規定されています。

当時の交通事情について、現時点で察するのは困難ですが、国土交通省の調べによると、大正8年における全国の自動車保有台数は7,051台ですが、一般財団法人自転車普及協会によると、自転車の保有台数は100万台を超えていたとのことです。まだ自動車が少なくとも現代のようには一般的な移動手段とはなっていなかった一方、自転車も一つのモビリティとしての評価を得ていたのではないでしょうか。

道路に限らず、日本のインフラの整備が急速に進んだのは高度経済成長期以降です。昭和39年の東京オリンピックを契機に、新幹線や首都高速道路が整備されたのはご存じのとおりです。自動車保有台数も急速に増加する中、道路は、人流・物流の主要部分を担い、経済成長の下支えとなるインフラとしての役割が求められました。このため、大量のクルマをいかに速く運ぶことかという点に重点が置かれたことから、クルマ中心の道路整備、社会形成が進んだことは、ある意味当然であり、必然の結果であったと思います。


一方、自転車を巡る戦後の政策は、自転車に伴う社会問題を個別に解消する形で進められてきました。一つの社会問題は、自転車の交通事故の問題です。昨年の自転車乗車中の事故死者数は419人となっていますが、昭和35年(1960年)から10年間程度は2,000人前後で推移しています。これは、高度経済成長期に自動車交通量が急増したため、自動車と自転車との事故が非常に多かったものと考えられます。

このような事態を受け、一つには、昭和45年(1970年)に、「自転車道の整備等に関する法律」が成立し、以降、大規模自転車道の整備が進められるなど、自動車と自転車の分離が進められました。また、現在でも、道路交通法上、自転車は軽車両に当たるため、車道の左端を通行するのが原則ですが、交通事故対策のため、同年に道路交通法が改正され、一定の要件のもと、歩道を通行することが法律上認められるようになりました。

これらの政策により、自動車と自転車との事故が大きく減少したことは事実ですが、自転車の歩道通行が常態化したため、自転車の走行空間の整備にとって一つの障害になるとともに、逆に、自転車と歩行者との事故の件数はあまり減少していない、ほぼ横ばいの状況になったと批判する意見があることも事実です。


もう一つの社会問題は、放置自転車の問題です。内閣府の調査によると、駅周辺の放置自転車の台数は、令和元年には4.4万台まで減少しています。しかし、昭和56年(1981年)には100万台近くに達して社会問題になっており、その前年の昭和55年には、「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」、現行の「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」が成立し、駐輪場の整備や放置自転車の取締り強化といった放置自転車対策が進められてきました。

このように、繰り返しになりますが、自転車活用推進法制定以前の自転車政策は、自転車による社会課題を個別に解消する形で進められてきており、自転車を一つのモビリティとして積極的に評価し、その利用推進を図るというものではありませんでした。


一方、平成28年(2016年)に成立した自転車活用推進法は、自転車の効用について、環境負荷の低減、災害時の交通機能の維持、国民の健康増進の観点から評価し、一つのモビリティとして積極的に評価した上で、その活用推進のため、国や自治体をはじめとする関係者が進めるべき施策や体制について、総合的に法的な整理・位置付けをしたものとなっています。

その意味で、自転車のいわば負の側面としての社会課題を個別に取り扱ってきたこれまでの政策を、全面的に再構築したものと評価しています。自転車活用推進法が制定された意義を正しく理解した上で、自転車活用推進を、ある意味前向きなムーブメントとして捉え、取組みを進めて参りたいと考えています。なお、この法律に基づき、自転車の活用を推進する政府の組織として、自転車活用推進本部が設置されており、本部長は国土交通大臣ですが、私は事務局長代理となっています。


自転車活用推進計画に基づき、力を入れてきた施策とは


楠田:2021年5月に第2次自転車活用推進計画が策定されまた。第1次の推進計画を振り返ってください。

倉野:自転車活用推進法は、平成29年(2017年)5月に施行されました。それを受けて、第1次の自転車活用推進計画は、関係者間の調整などを経て、約1年後の平成30年(2018年)6月に、昨年度末までの3カ年計画として策定されています。

第1次の計画においては、自転車走行空間の計画的整備や、スポーツ・観光面での振興、そして安全面の問題に至るまで、国や地方公共団体をはじめとする関係者が取り組むべき施策が、かなり網羅的に盛り込まれています。


その中で、私が重要であったと思う取組、第1次の計画期間中に大きく変化したと思う状況などについて、何点か紹介します。

先ず大切なことは、自治体の首長の皆さまをはじめ、職員の方々や、地域住民の方々が、観光振興等の地域おこしの側面もそうですが、それだけでなく、ラストワンマイル、ツーマイルを担う最も身近な移動手段として、自転車に対する関心を高めていただき、その安全な走行空間の確保などに関する認識を深めていただくことと思います。

その意味で、地方、特に市区町村の自転車活用推進計画の策定は、地域の関係者の皆さまの自転車への認識を深めていただき、自転車の活用のあり方について議論の場を提供する重要な施策であると考えます。第1次の計画期間の3年間で、都道府県レベルでは、47の全ての都道府県、市区町村レベルでも、100を超える市区町村で計画を策定していただくことができました。


また、特に急速に進みつつあるのがシェアサイクルの導入です。国としても、今年度から、その導入促進に向け、税制や財政上の支援措置も創設しました。シェアサイクルは、自転車の利便性向上を図る手段であることはもちろんですが、ある意味、公共交通に近い、公共交通を補完する移動手段であるとも評価しており、シェアサイクルの導入拡大に向けた方策の検討を今後とも続けていきたいと考えています。

サイクルツーリズムの振興の観点から、令和元年にナショナルサイクルルートという制度を創設しました。この制度は、ルート設定や走行環境、利用者の受入環境等に関し、様々な基準を満たす必要がありますが、日本を代表し、世界に誇りうるサイクルリングルートとして、国の名のもとに指定するものです。第2次自転車活用推進計画策定直後の第2次指定分も含め、これまで6つのルートを指定しましたが、今後とも、サイクリストの利便性の向上を図るとともに、地域の活性化にもつながるよう、関係自治体などとも連携し、それぞれのルートの一層の磨き上げが必要と感じています。

ほかにも、自転車通勤を推進するため、令和元年には、企業が自転車通勤を導入する際に検討すべき事項や事例をとりまとめた手引きを作成するといった取組もしています。

楠田:第1次と第2次の自転車活用推進計画の違い、力を入れている点について教えてください。


倉野:第1次の計画が3カ年計画という比較的短期の計画であったこともあり、基本的な考え方や方向性は、第2次の計画でも共通です。また、第2次の計画に記載された取組内容についても、基本的には、第1次の計画に記載された取組を一層促進したり、ブラッシュアップしたりしたものがほとんどとなります。

それに加えて、最近の動向を踏まえ、2つの施策を追加しています。多様な自転車の開発・普及の促進と自転車損害賠償責任保険などへの加入促進です。


人口減少が進む一方、我が国における自転車の活用状況は海外と比較しても結構高い水準にありますが、その要員の一つは、個人的には、電動アシスト付き自転車の普及にあると考えています。特に、高齢者の方々にとって運転免許返納後の移動手段、障害者の方々の移動手段を確保する上で、多様なニーズに応える自転車の新たな技術や製品の開発・普及は重要な鍵となるものと考えており、この施策を第2次の計画に追加しています。


自転車活用推進計画は、あくまでも自転車活用推進法に基づく法定計画ですので、「自転車」という枠の中で記載していますが、楠田さんの著作の表題を借りれば、「移動貧困社会」の中、高齢者や障害者をはじめ様々な条件の方がいらっしゃる中、できるだけ多くの方々が自立して移動することが可能となるよう、個人的には、電動車イスといった自転車の範疇には入らないものも含め、多様な移動手段の開発、普及が進むことが望ましいと考えています。

自転車損害賠償責任保険等への加入促進については、自転車活用推進法の制定時から、政府に対し、制度面の検討が求められていた課題になります。一方、保険加入を巡る制度については自治体における取組が先行しており、昨年度末時点で、既に3分の2以上の都道府県で、自転車の利用に際し、保険加入を義務付け又は努力義務とする条例を制定していただいています。今回は、このような条例制定が進んでいる実態を踏まえ、自転車を安全・安心に利用していただくもう一つの側面として、保険加入の促進について、第2次の計画に盛り込んだものです。


自転車の利用者への保険加入の促進策としては、販売店などを通じた働きかけや保険加入の確認が中心になるものと思います。一方、自転車駐車場整備センターという公益財団法人があり、全国14の都府県の駅前などで駐輪場の整備・運営を行っています。この財団が、自身の運営する駐輪場の定期券を購入している方に対し、財団の負担で、自動的に、対人事故の場合の賠償保険を付けるサービスを行っています。自転車利用者の方にとっては、積極的に意識しなくとも保険加入がされることにもなりますので、このような財団の取組を通じて保険加入を促進することも、一つの効果的な施策になるものと考えています。


多様なモビリティの普及で移動の選択肢が増えることに期待


楠田:電動キックボードなど新たなパーソナルモビリティをどのように捉えていますか?


倉野:自転車の活用推進という立場からすれば、電動キックボードについて、いろいろな考え方や意見があり得るものと思います。当然、自転車の走行空間で競合するものとして、否定的に捉える意見もあるかと思います。

しかし、個人的な意見としては、私は、電動キックボードに限らず、新たな低速小型のモビリティの登場について、共存のあり方は十分に検討する必要はありますが、そのもの自体を決して否定的には捉えているものではありません。

特に、大都市部はともかく、地方都市になればなるほど、一般的に公共交通が弱く、移動手段の多様性、選択の幅が狭くなり、自動車への依存度がどうしても高くなる傾向があります。実際、日本の自転車の交通手段としての分担率は、全国平均では、欧米諸国に比べてもかなり高い水準にあるのですが、一方で、都市間で相当大きな差があり、一部の都市では自転車の利用率が非常に低く、自動車に頼り切っている都市や地域もあるのが現状です。


クルマへの依存度が非常に高いため、近くの自動販売機に行くためクルマを出すという話も聞いたことがあります。私も地方出身者の一人ですが、地元の知り合いからは、「東京の人はよく歩くよね」とも言われます。特にこのようクルマへの依存度が過度に高い地域において、自転車もその一つですが、新たな様々なモビリティが普及することは、高齢者の方や、運転免許を持たない人のみならず、移動についていろいろな条件や嗜好を有する地域住民の方々がいる中で、移動の選択肢の幅を拡げることにつながるものと期待しています。

この電動キックボードなどの新たな低速小型のモビリティについては、第2次の自転車活用推進計画にも記載があります。具体的には、これらのモビリティが自転車通行空間に影響する可能性があるとしながらも、自転車通行空間の一層の整備推進を進めることはもちろん、様々な移動手段のベストミックスを実現するための自転車通行空間のあり方を検討すると記載されています。


新たなモビリティとの安全な共存方策の検討を進めて行くに当たっては、自転車の走行空間の充実といったハード面の対策、新たなルールの策定やその遵守に向けた取組といったソフト面の対策のいずれにおいても、新たなモビリティの利用者のみならず、自転車利用者を含む道路利用者や、地元住民の方々といった関係者のご理解をいただくことが重要です。今後とも、関係機関が十分に連携して、それぞれのモビリティが安全に共存できるための方策の検討を進めてまいりたいと思います。

私自身、コロナ前は、結構山登りを楽しんでいました。登山にも安全確保のため様々なルールがあります。例えば登りと下りの人が登山道ですれ違う場合、どちらが優先するか、待つ方はどのような体制で待つかなど、いろいろな決まりがあります。また、一時、トレールランという登山道を走るスタイルのスポーツが流行したことがあります。通常の登山者とスピードが大きく異なることもあり、登山道という非常に限られた空間の中、後ろから急に追い上げられたりすると、私自身危険を感じることもありました。


このような環境で安全に登山を楽しむために大切なことは、登山道がきちんと安全に管理されていることも必要ですが、それぞれの登山者がルールを守ることは当然、声かけなどのマナーやお互い譲り合う心がけを持つことと思います。

このことは、道路上の限られた空間で、自転車や歩行者、電動キックボードも含め、様々なモビリティが共存する場合にも通じることと思います。必要な走行空間が確保・管理されていることも当然必要です。それと併せ、多少情緒的な表現になりますが、歩行者も含め、個々のモビリティの利用者がルールを遵守し、マナーを大切にするとともに、互いを理解し、必要に応じ譲り合うことが、最も大切な安全な共存方法になるものと私は考えます。

楠田:免許返納問題、高齢者と自転車、多様な自転車の活用について

倉野:高齢者の方が運転免許を返納する時点では、多くの場合、運動機能などが衰えていることが多いものと見込まれますので、より元気な段階で自転車に慣れていただき、免許返納後のスムーズな移行を図ることが重要です。

また、このように早い段階から自転車に親しんでいただくことは、健康寿命を延ばすことにもつながるものと思います。実際、私のまわりにいらっしゃるご高齢の方々を見ても、普段から自転車を利用されている人は、そうでない方に比べ、非常にお元気な方が多いことを実感しています。


多くの高齢者の方にとって、自転車はあまり距離の長くない区間での移動手段となりますので、日常の生活圏の広さを考えると、公共交通やまちづくりとの連携も重要であると、私は考えます。高齢化が急速に進む中、公共交通などとの連携が図られることにより、自転車だけでなく、電車など複数の移動手段を組み合わせ、活用することにより、運転免許返納後の方も含め、高齢者の方々が自立した移動手段を確保し、安定的な日常生活を送ることができるようになるものと思います。


サイクリストの受入環境を整備し、利便性を高めていきたい


楠田:東京2020オリンピック・パラリンピックで自転車も活躍しました

倉野:東京2020オリンピック・パラリンピックでの自転車競技について、私も注目してニュースなどを見ていました。オリンピックでも日本人のメダリストが出ました。また、特に、パラリンピックの自転車ロード競技で、杉浦選手が2つの金メダルを獲得されたことは、障害者の方々だけでなく、日本中のサイクリストの皆さまに感動と希望を与えたものと思います。今後の日本のサイクルスポーツの振興にもつながるものと大いに期待しております。


スポーツの振興を図ることは、超高齢化社会に入り、今後、医療費などによる財政制約が一層厳しくなるものと見込まれる中、私が申し上げるまでもなく、他人の介護などに頼らず自立して生活が可能ないわゆる健康寿命を延ばすことにつながるものであり、非常に重要な施策です。

人間の筋肉の3分の2以上が足を中心とする下半身にあると聞きます。自転車は、これら下半身の筋肉を維持・増進させるだけでなく、サイクリストの方が書かれた著書によると、体幹を鍛えることにも有効なツールの一つであるとのことです。そうした意味でも、健康寿命を延ばす観点から、スポーツとしての自転車の振興を図ることは、時代の要請に即した取組であると考えます。当然のことながら、第2次の自転車活用推進計画でも、「サイクルスポーツの振興等による活力ある健康長寿社会の実現」を目標の一つに掲げているところです。


一方、スポーツとしての自転車活用と言っても、多種多様で様々なレベルのものが存在します。今回のオリパラでも、屋外で行う競技だけでなく、屋内で行われる競技もありました。また、スポーツのレベルとしても、競輪に代表されるようなプロ級のものから、競技という形ではなく、健康のために週末自転車を楽しむという方々も多くいらっしゃいます。


屋内で行われるプロ級の本格的な自転車競技に対し、国、特に道路行政の立場から何か直接的に支援できるかと問われると、回答が難しいというのが本音です。ただし、一般的なサイクルスポーツの振興のため道路行政として支援すべきことは、自転車の安全で快適な走行空間をきちんと整備し、管理していく。

また、先ほどサイクルツーリズムのところでも申し上げましたが、地域の関係者の方々とも協力して、サイクリストの受入環境を整備し、利便性を高める、それができれば、スポーツとして自転車を楽しむ人も増えるものと思います。その意味では、登山における登山道の管理や、山小屋における受入体制の整備と通ずるところがあるものと思います。

楠田:最後に、自転車の活用について今後期待することは

倉野:これまでもお話ししましたが、一つは、サイクルスポーツ、サイクルツーリズムを通じ、地域おこし、地域の活性化につなげていただくことです。コロナ禍の影響もあるのか、最近、自転車に対して改めて再評価が進んでいるように思います。


SNSを見ても、本当に多くのサイクリストの方々が動画や画像を投稿されています。このため、サイクルルートを整備するなど、自転車を活用して地域の活性化につなげたいというご相談を、全国各地からいただくようになっています。我々としましても、例えば、ナショナルサイクルルートにおける取組や知見を展開するなど、今後とも、関係自治体や地元の関係者の皆さまと連携しつつ、自転車を地域の活性化策として活用していただくよう、その普及活動などに努めてまいりたいと考えています。


もう一つは、高齢者をはじめとする方々にとって、過度に自動車に頼らない移動手段として活用されることです。これは、健康増進という意味もありますが、昨今高齢ドライバーの運転操作ミスによる不幸な事故が注目される中、運転免許返納後においても、他人に頼らなくても自立的に移動することができる手段として、自転車や電動車イスなど多様な移動手段を確保するという観点からも重要です。

我々としましても、引き続き、安全な走行空間の確保について支援してまいりますし、各自治体においても、多様な移動手段の確保の必要性について改めて評価していただきたいと思います。その上で、高齢者などの皆さまができるだけ自立的な移動手段を活用し、安定的な日常生活を送ることができるようになるとともに、そのご家族の方々にとっても安心できる世の中の実現に、少しでもつながることができれば幸いに思います。



◎取材時のみマスクを外していただきました。


 
楠田悦子 / モビリティジャーナリスト

〜Profile〜
心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決に向けて活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。

「東京モーターショー2013 スマートモビリティシティ2013」編集デスク、国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。

共著に「最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本 」(ソーテック社2020年)。『移動貧困社会からの脱却―免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』編集・著書(時事通信社 2021年)

 

写真:砂田耕希
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WRITTEN by

楠田 悦子

モビリティ―ジャーナリスト。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。

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