コラム・特集
楠田 悦子 2020.12.21
モビリティジャーナリスト楠田悦子と考える、暮らしやすい街づくりとインフラ

自動運転時代の信号機メーカーの挑戦

モビリティジャーナリストとして活動する楠田悦子氏による本連載

“モビリティ”を主軸に、人々の暮らしや移動には欠かすことができない、ライフラインについても言及してもらうことで、この変化著しい時代の中で、人々が本当に暮らしやすい街や社会インフラについて考えていく。

2回目の今回は、自動運転時代における企業の取組みについて解説してもらった(デジコン編集部)。


浦和レッズのホームスタジアムがある街として知られる浦和美園(埼玉県さいたま市)。東京メトロ南北線と直通運行する埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線の終着駅だ。都市開発が進むことを見据えて、美園タウンマネジメントを中心に、公民プラス学連携で進める壮大な次世代技術の実証実験フィールドとしても有名だ。

筆者は2020年11月9日~11月13日に浦和美園駅周辺で行われた、自動運転バスの公道実証実験に足を運んだ。この実証実験は、開業予定の順天堂大学病院、埼玉スタジアム、イオンモール浦和美園といった、徒歩では少し遠い浦和美園駅周辺の拠点間のアクセスを改善するものだ。

実施主体は、美園タウンマネジメント、群馬大学、イオンリテール、バスの国際興業、日本信号、長谷川工業、MaaSアプリを提供するジョルダン、埼玉高速鉄道の8社だ(協力は埼玉県、さいたま市)。

日本信号やオムロンが積極的


この自動運転バスの実証実験の取材で印象深かったことは、信号機メーカーの日本信号が力を入れていた点だ。同社は浦和美園で、信号機と自動運転バス車両の路車間連携の実証実験に2年連続で取組んでいる。

自動運転バスが走行した道路は、主に埼玉県道381号東大門安行西立野線だ。埼玉高速鉄道の東側に位置し幹線道路であるため、自動車の交通量が非常に多い。それを挟む形で、住宅街、商業、公的施設が立地し、子育て層が急激に増えているため通学する子どもの横断も多い。

歩行者が横断し自動車の交通量の多い交差点を右折する自動運転バス(写真:楠田悦子)

そのため、自動車交通や交差点を横断する歩行者に気を配りつつバスは運行する必要がある。信号機のインフラ側からの支援が必要不可欠だ。

そこで日本信号は、交差点で発生する危険状態を予測して、自動運転バスが交差点で急発進したり、急加速したりするのを未然に防ごうとしている。具体的には、信号機から収集する信号情報と、信号機とは別に設置したカメラで認識した交差点の画像情報の2つを複合制御機で融合して、クラウドを介さずに自動運転バスに送るというものだ。

信号機メーカーが勝手に、交通管理者である警察が設置した信号機の情報を取得することができるのかという問いが浮上する。その点に関しては、警察庁が2018年3月から開始した「信号情報を車両に送る無線装置を信号機に接続する機会を民間事業者に提供する申請要領」に基づいて、日本信号は実施している。未来投資会議2017で触れられた内容で、警察庁も協力的だ。

信号情報とカメラで認識した画像情報を複合制御機で融合(写真:楠田悦子)

この信号機の車両への支援は、歩行者横断見落とし防止支援システム、右折時衝突防止支援システム、左折時衝突防止支援システムなどの安全運転支援システム(Driving Safety Support Systems, DSSS)の技術が使われている。

問われるインフラ側のサポート


他地域の自動運転バスでも信号機に関する実証実験が行われている。2020年度に行われた主な自動運転バスの実証実験は、国土交通省経済産業省と連携し、中型自動運転バスによる公共移動サービスの事業化に向けた検証がある。

それに選定された5地域(滋賀県大津市、兵庫県三田市、福岡県北九州市・苅田町、茨城県日立市、神奈川県横浜市)のうち、大津市、北九州市で信号機の実証がみられる。

北九州市では、西日本鉄道と西鉄バスが2020年10月22日から11月29日までに実施したもので(朽網駅~北九州空港線 約10.5キロメートル)、日本信号が2つの信号機による支援の実証実験を行った。1つ目は、10の交差点において、信号の灯色や残り時間をリアルタイムに通知して、信号から黄色信号への切り替わりを予め把握して、急ブレーキによる信号停止を防止するもの。

2つ目は、見通しの悪い交差点で、車両、自転車、歩行者などとの衝突リスクAIを活用して予測して自動運転バスへ送ると言うもの(公道では初めての取組み)。

大津市では、京阪バスがJR大津駅とびわ湖大津プリンスホテル間の自動運転バス運行を担った。ここでの信号機の実証実験を行ったのはオムロンソリューションズだ。運行区間には京阪電気鉄道の石山坂本本線が横切っており、交差点と踏切で2つの実証を行った。踏切の遮断機に監視装置を設置し、遮断機の情報や電車の到着情報を送信した。

交差点の右折を苦手とする自動運転バスだが、試乗した浦和美園の自動運転バスでは、スムーズに右折して交差点を通行していった。自動運転バスの実証実験では、車両に注目されがちだが、信号機などのインフラ側も一体となって安全な運行をサポートしていく必要があると改めて感じだ。



楠田悦子/ モビリティジャーナリスト

〜Profile〜
心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較し、社会課題の解決に向けて活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。「東京モーターショー2013 スマートモビリティシティ2013」編集デスク、国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。共著に「最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本 」(ソーテック社2020年)。

 
【ミニコラム】日本信号(株)の製品が建機にも採用されていた!
交通インフラという公共性の高い事業に携わる「日本信号株式会社」。同社のプロダクトで、ホームドア用センサとして広く普及している「3D距離画像センサ」。実はこの製品、コベルコ建機株式会社の油圧ショベルカーにも採用され、世界初の「衝突軽減システム」(品名:K-EYEPRO)として商品化されている。また、舗装用のタイヤローラにおいても緊急ブレーキ装置としても同製品が採用されている。

雨や霧といった外部環境に左右されることなく、的確に障害物のみを検知。人の目となり、安全・安心をサポートするこの製品。ICT化が加速し、より安全な現場環境が求められる建設業界でも高いニーズがあるということだろう(デジコン編集部)。
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WRITTEN by

楠田 悦子

モビリティ―ジャーナリスト。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。

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