
建設業界にとって夏場の熱中症対策は命に関わる重要な課題である。
実際、厚生労働省の統計によると、職場における熱中症による死亡災害は2年連続で30人レベルに達しており、その約7割が屋外作業で発生している。
このような深刻な状況を受け、令和7年(2025年)6月1日から労働安全衛生規則が改正され、熱中症対策の強化が図られることとなった。
この改正により、建設現場をはじめとする高温環境での作業を行う事業者には、新たな義務が課せられる。
従来の予防策に加えて、より具体的で実効性のある対応策の整備が求められるのである。
平成24年から令和5年にかけての熱中症災害発生状況は憂慮すべき状況を示している。
特に令和2年には1,178件の災害が発生し、死亡者数も50人を超えるなど、過去最悪レベルの被害が記録された。

さらに注目すべきは、熱中症による死亡災害の分析結果である。
100件の分析事例のうち、実に78件が「発見の遅れ」、41件が「異常時の対応の不備」が原因となっている。
これは、適切な初期対応システムがあれば防げた可能性の高い災害が大半を占めていることを意味している。
同時に、夏季(6月から8月)の平均気温も年々上昇傾向にある。
平成3年から令和2年の30年間のデータを見ると、明らかに気温の上昇が確認できる。この環境変化により、従来以上に厳格な熱中症対策が不可欠となっているのである。
今回の改正では、対象となる作業が具体的に定義された。
建設現場においては、多くの屋外作業がこの条件に該当することになる。特に夏季の日中作業では、ほぼ確実にこの基準を満たすことになるだろう。
事業者は以下の体制を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知しなければならない。
この体制には、具体的な連絡先や担当者の明示が含まれる。重要なのは、作業者が躊躇なく報告できる環境を整えることである。
さらに、以下の内容を含む緊急時対応手順を策定し、関係作業者に周知することが義務付
けられる。
これらの手順は、現場の実情に応じた具体的な内容でなければならない。
厚生労働省が示している基本的な考え方は、「見つける」「判断する」「対処する」という3段階のアプローチである。
作業員の様子に異変がないか、常に注意深く観察することが求められる。厚生労働省では以下のような初期症状を見逃さないよう注意喚起している。

これらの症状は、一見軽微に見えても重篤な熱中症の前兆である可能性が高い。
異変を発見した場合、速やかに適切な判断を行う必要がある。
医療機関への搬送が必要かどうかの判断は、専門的な知識を要するため、迷った場合は医療機関に相談することが重要である。
症状に応じて、以下のような対処を行う。
特に重要なのは、「医療機関までの搬送の間や経過観察中は、一人にしない」という原則である。
WBGT値(暑さ指数)とは
厚生労働省によるとWBGT基準値は「暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数のこと」と定義されている。
日本産業規格JIS Z 8504では「高温環境における作業場所で測定できない場合には、熱中症予防情報サイト等でWBGT基準値を把握」することが推奨されている。
この指標が重要な理由は、気温だけでは分からない「体感的な暑さ」を数値化できる点にある。
例えば、同じ30度の気温でも、湿度が高い環境と低い環境では体への負担が大きく異なる。また、直射日光の下と日陰では、実際に体が感じる暑さに大きな差が生じる。
WBGT値は、こうした複合的な要因を考慮した、より実用的な指標なのである。
改正規則では、このWBGT値(暑さ指数)の活用が重要な要素となっている。身体作業強度に応じたWBGT基準値は以下の通りである。

建設作業の多くは中程度から高い作業強度に該当するため、28度未満でも注意が必要である。
厚生労働省によると熱中症予防には以下の4つの対策が重要であ。
WBGT値の低減等(直射日光並びに高温の室内及び地面からの照り返しを避ける等)
休憩場所の整備(高温多湿作業場所の近傍に冷房を備えた涼しい休憩場所を設ける等)
労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合の適切な作業管理、労働者自身による健康管理等が重要である。
厚生労働省によると以下のような周知方法の例が示されている。
重要なのは、すべての作業者が確実に情報を受け取れる複数の方法を組み合わせることである。
現場では以下のような項目を明確にしておく必要がある。
これらの情報は、現場の見やすい場所に掲示し、すべての作業者が迅速にアクセスできるようにしておくことが重要である。
令和7年6月1日の施行に向けて、事業者は以下の準備を進める必要がある。
対象作業の洗い出し
報告体制の構築
緊急時対応手順の策定
教育・訓練の実施
令和7年6月1日から施行される労働安全衛生規則の改正は、建設業界にとって熱中症対策の新たな転換点となる。
これまでの予防中心の対策から、「発見」「判断」「対処」という具体的な行動指針に基づく実効性のある対策への転換が求められている。
特に重要なのは、熱中症による死亡災害の多くが「初期症状の放置・対応の遅れ」によって引き起こされているという事実である。
新しい規則により義務化される報告体制と緊急時対応手順の整備は、まさにこの課題に対する直接的な解決策といえる。
建設事業者にとっては、新たな義務の追加により負担が増加する面もあるが、作業者の生命と健康を守るという本質的な目的を考えれば、必要不可欠な措置である。
最終的に重要なのは、規則の遵守にとどまらず、現場の実情に応じたより効果的な熱中症対策を継続的に改善していく姿勢である。気候変動により今後さらに厳しい環境での作業が予想される中、この改正を機に建設業界全体の安全意識を向上させていくことが期待される。
実際、厚生労働省の統計によると、職場における熱中症による死亡災害は2年連続で30人レベルに達しており、その約7割が屋外作業で発生している。
このような深刻な状況を受け、令和7年(2025年)6月1日から労働安全衛生規則が改正され、熱中症対策の強化が図られることとなった。
この改正により、建設現場をはじめとする高温環境での作業を行う事業者には、新たな義務が課せられる。
従来の予防策に加えて、より具体的で実効性のある対応策の整備が求められるのである。
改正の背景:深刻化する熱中症の現状
職場における熱中症災害の実態
平成24年から令和5年にかけての熱中症災害発生状況は憂慮すべき状況を示している。
特に令和2年には1,178件の災害が発生し、死亡者数も50人を超えるなど、過去最悪レベルの被害が記録された。

さらに注目すべきは、熱中症による死亡災害の分析結果である。
100件の分析事例のうち、実に78件が「発見の遅れ」、41件が「異常時の対応の不備」が原因となっている。
これは、適切な初期対応システムがあれば防げた可能性の高い災害が大半を占めていることを意味している。
気温上昇という環境変化
同時に、夏季(6月から8月)の平均気温も年々上昇傾向にある。
平成3年から令和2年の30年間のデータを見ると、明らかに気温の上昇が確認できる。この環境変化により、従来以上に厳格な熱中症対策が不可欠となっているのである。
気になる改正内容は?
対象となる作業の明確化
今回の改正では、対象となる作業が具体的に定義された。
それは「WBGT(湿球黒球温度)28度以上又は気温31度以上の環境下で、継続して1時間以上又は1日4時間を超えて実施が見込まれる作業」である。
建設現場においては、多くの屋外作業がこの条件に該当することになる。特に夏季の日中作業では、ほぼ確実にこの基準を満たすことになるだろう。
新たに義務化される2つの重要な措置
1. 報告体制の整備と周知
事業者は以下の体制を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知しなければならない。
- 「熱中症の自覚症状がある作業者」からの報告を受ける体制
- 「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」からの報告を受ける体制
この体制には、具体的な連絡先や担当者の明示が含まれる。重要なのは、作業者が躊躇なく報告できる環境を整えることである。
2. 緊急時対応手順の策定と周知
さらに、以下の内容を含む緊急時対応手順を策定し、関係作業者に周知することが義務付
けられる。
- 作業からの離脱方法
- 身体の冷却手順
- 医師の診察又は処置を受けさせるための手順
- 事業場における緊急連絡網
- 緊急搬送先の連絡先及び所在地
これらの手順は、現場の実情に応じた具体的な内容でなければならない。
基本的な対応の流れ:「見つける」「判断する」「対処する」
厚生労働省が示している基本的な考え方は、「見つける」「判断する」「対処する」という3段階のアプローチである。
第1段階:「見つける」
作業員の様子に異変がないか、常に注意深く観察することが求められる。厚生労働省では以下のような初期症状を見逃さないよう注意喚起している。

- 手足がつる
- 立ちくらみ・めまい
- 吐き気
- 汗のかき方がおかしい(汗が止まらない/汗が出ない)
- あの人、ちょっとヘン
- イライラしている
- フラフラしている
- 呼びかけに反応しない
- ボーッとしている
これらの症状は、一見軽微に見えても重篤な熱中症の前兆である可能性が高い。
第2段階:「判断する」
異変を発見した場合、速やかに適切な判断を行う必要がある。
医療機関への搬送が必要かどうかの判断は、専門的な知識を要するため、迷った場合は医療機関に相談することが重要である。
第3段階:「対処する」
症状に応じて、以下のような対処を行う。
- 作業離脱と身体冷却の実施
- 意識状態の確認
- 水分摂取の可否判断
- 医療機関への搬送要請
特に重要なのは、「医療機関までの搬送の間や経過観察中は、一人にしない」という原則である。
WBGT基準値の活用と具体的な予防策
WBGT値(暑さ指数)とは
WBGT値(湿球黒球温度)とは、熱中症の危険性を判断するための国際的な指標である。単純な気温だけでなく、湿度、輻射熱(太陽光など)、気流という4つの要素を総合的に評価して算出される。
厚生労働省によるとWBGT基準値は「暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数のこと」と定義されている。
日本産業規格JIS Z 8504では「高温環境における作業場所で測定できない場合には、熱中症予防情報サイト等でWBGT基準値を把握」することが推奨されている。
この指標が重要な理由は、気温だけでは分からない「体感的な暑さ」を数値化できる点にある。
例えば、同じ30度の気温でも、湿度が高い環境と低い環境では体への負担が大きく異なる。また、直射日光の下と日陰では、実際に体が感じる暑さに大きな差が生じる。
WBGT値は、こうした複合的な要因を考慮した、より実用的な指標なのである。
WBGT値による作業管理
改正規則では、このWBGT値(暑さ指数)の活用が重要な要素となっている。身体作業強度に応じたWBGT基準値は以下の通りである。

- 安静(0):33度
- 軽い手作業(1):30度
- 継続的な手足の作業(2):28度
- 激しい腕や胴体の作業(3):26度
- 最大速度の激しい活動(4):25度
建設作業の多くは中程度から高い作業強度に該当するため、28度未満でも注意が必要である。
4つの予防対策
厚生労働省によると熱中症予防には以下の4つの対策が重要であ。
1. 作業環境管理
WBGT値の低減等(直射日光並びに高温の室内及び地面からの照り返しを避ける等)
休憩場所の整備(高温多湿作業場所の近傍に冷房を備えた涼しい休憩場所を設ける等)
2. 作業管理
- 作業時間の短縮等
- 暑熱順化(作業者を作業に従事させる場合の暑熱順化期間を設けること等)
- 水分及び塩分の摂取
- 服装(熱を吸収し、又は保温しやすい服装の着用、透湿性及び通気性の良い服装の着用等)
- 作業中の巡視
3. 健康管理
- 健康診断結果に基づく対応等
- 日常の健康管理等
- 労働者の健康状態の確認
- 身体の状況の確認
4. 労働衛生教育
労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合の適切な作業管理、労働者自身による健康管理等が重要である。
現場での実践的な対応策
手順や連絡体制の周知方法
厚生労働省によると以下のような周知方法の例が示されている。
- 朝礼やミーティングでの周知
- 会議室や休憩所などわかりやすい場所への掲示
- メールやイントラネットでの通知
重要なのは、すべての作業者が確実に情報を受け取れる複数の方法を組み合わせることである。
緊急時の連絡体制整備
現場では以下のような項目を明確にしておく必要がある。
- 緊急時の責任者と連絡先
- 医療機関の連絡先と所在地
- 救急搬送の手順
- 社内への緊急連絡網
これらの情報は、現場の見やすい場所に掲示し、すべての作業者が迅速にアクセスできるようにしておくことが重要である。
事業者が今すぐ取り組むべき準備事項
体制整備のチェックリスト
令和7年6月1日の施行に向けて、事業者は以下の準備を進める必要がある。
対象作業の洗い出し
- 自社の作業でWBGT28度以上又は気温31度以上の環境での作業を特定
- 作業時間の実態調査
報告体制の構築
- 現場責任者の明確化
- 連絡手段の整備
- 報告フォーマットの作成
緊急時対応手順の策定
- 現場に応じた具体的な手順書の作成
- 医療機関との連携体制の確立
- 搬送手段の確保
教育・訓練の実施
- 作業者への周知徹底
- 緊急時対応の訓練実施
- 熱中症に関する知識の普及
- 継続的な改善の重要性
まとめ
令和7年6月1日から施行される労働安全衛生規則の改正は、建設業界にとって熱中症対策の新たな転換点となる。
これまでの予防中心の対策から、「発見」「判断」「対処」という具体的な行動指針に基づく実効性のある対策への転換が求められている。
特に重要なのは、熱中症による死亡災害の多くが「初期症状の放置・対応の遅れ」によって引き起こされているという事実である。
新しい規則により義務化される報告体制と緊急時対応手順の整備は、まさにこの課題に対する直接的な解決策といえる。
建設事業者にとっては、新たな義務の追加により負担が増加する面もあるが、作業者の生命と健康を守るという本質的な目的を考えれば、必要不可欠な措置である。
最終的に重要なのは、規則の遵守にとどまらず、現場の実情に応じたより効果的な熱中症対策を継続的に改善していく姿勢である。気候変動により今後さらに厳しい環境での作業が予想される中、この改正を機に建設業界全体の安全意識を向上させていくことが期待される。
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