コラム・特集
デジコン編集部 2022.3.1

【島根県建設技術セミナーレポート vol.2】「静岡県が目指すVIRTUAL SHIZUOKAによる近未来サービス」 ~ 杉本直也氏(静岡県交通基盤部政策管理局建設政策課イノベーション推進班班長)の講演より~

島根県建設技術セミナー2021(2021年12月23日開催)では、全国に先駆けてICT化を進めてきた静岡県の杉本氏も壇上に登場。


3次元点群データのオープンデータVIRTUAL SHIZUOKA」を活用した取り組みを発表した。記憶に新しい2021年7月の熱海市伊豆山土石流災害など災害対応に加え、街づくりへの活用、さらにはゲームエンジンを使った3次元点群データ活用の今後の展望など、多岐にわたる話題に参加者は興味深そうに目と耳を傾けた。

3次元点群データの活用で国土交通大臣賞を受賞!


静岡県は、2016年4月に国土交通省が「i-Construction」をスタートさせた2か月後に早くもICT化の普及促進に着手し、「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」を立ち上げた。とりわけ3次元点群データの活用に積極的で、その取り組みが評価され、2019年度の「i-Construction大賞」の地方自治体等の部門で国土交通大臣賞を受賞している。


「建設業の生産性向上はもちろんだが、県としては、i-Constructionをきかっけに点群データのオープンデータ化を進め、『VIRTUAL SHIZUOKA』を構築するのも大きな目標のひとつだった」と、杉本氏は振り返る。


『VIRTUAL SHIZUOKA』とは、レーザースキャンなどを駆使し、県内全域の点群データを取得し、それをG空間情報センターという機関に主役。さらにオープンデータ化することで、誰もが自由に静岡県をバーチャル体験できる、という構想だ。

静岡県交通基盤部政策管理局建設政策課イノベーション推進班班長 杉本直也氏

「いわゆる行政情報は、個人情報などの機密性の高い情報と公開可能な情報に大別できるが、単にホームページで公開している情報はオープンデータではない。オープンデータとは、誰もが自由に二次使用できる情報のこと」(杉本氏)


静岡県が点群データの取得、そしてオープンデータ化に積極的だったのは、いつ来るやも知れぬ災害への備えがきかっけだった。近い将来の発生が予想される東南海地震や頻発する水害などのリスクもあって、静岡県における防災意識は全国でもかなり高い。


「災害が起きる前に点群データを取っている自治体はあまりない。データを取るといっても、今までは人が危険な場所にリスクを背負って計測しなければならなかった。しかし、レーザースキャンやドローンといった3次元点群データを活用することで、計測作業は4割減ったし、危険はほぼゼロといえるまでになった」と、杉本氏は話す。


点群データが可能にした熱海市伊豆山土石流災害への早期対応


2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山土石流災害は、今なお行方不明者がいるなど甚大な被害をもたらした。この災害発生直後に、『VIRTUAL SHIZUOKA』を活用した「静岡点群サポートチーム」が杉本氏を中心に結成された。産官学の有志からなるこのサポートチームには、県内だけではなく県外のスペシャリストも参加。被害状況の速やかな把握、そして二次災害の防止に貢献した。


「一報を聞いた直後はどこで発生したかもわからなかったが、10年ほど前に伊豆半島のグラ運土データを取っていたこともあって、メンバーの分析、そしてzoomでの会議で被害状況などを比較的早く把握することができた」

「当初、近くのメガソーラーパネル設置施設が原因ではないかとも言われたが、点群データを分析することによって、ソーラーパネルは関係なく盛土が崩れた可能性が高いことがわかり、すぐに副知事にメールを送った」


「また、救援物資などを運ぶルートの橋に異常がないかどうかもMMS(モービルマッピングシステム)を活用して確認。こうした早期の対応が可能だったのも、『VIRTUAL SHIZUOKA』がオープンデータだったからだ。誰もが自由に活用できたからこそ、県外の人が遠隔地からサポートしてくれたのだ」と、杉本氏はオープンデータ化の重要性を強調した。


ちなみに、原因とされた地点には54,000㎥もの盛土がされていたことも点群データの分析で判明。さらに、土石流発生後もなお20,000㎥ほどの盛土が残っていそうなこともわかったという。犠牲になった方々には気の毒の極みだが、点群データがあったからこその早期対応だと言えるだろう。


さまざまな分野で広がる3次元点群データ活用の可能性


災害への備えからはじまった『VIRTUAL SHIZUOKA』だが、国交省が推進するi-Constructionはもちろんのこと、さまざまなサービスの展開が考えられている。

「たとえば、クルマの自動運転。バスなどの公共交通の自動運転というと都市部が想像されがちだが、じつは過疎地でのニーズが高い。高齢化や人口減少が進み、運転手の担い手が減っているからだ。いざ自動運転化を実現しようとしたときに課題となるのが、磁気マーカーの埋め込みといったインフラ整備の部分」


「これは土木建設業の領域で、3次元点群データを活用することでコストを抑えられる。また、完成後の街をバーチャル体験してもらうことで、住民や関係者の合意も得られやすい。各社が自動運転化に取り組んでいる自動車産業のピラミッドは、今後、領域を広げて拡大していくだろう。しかも、その頂点に立つのは、自動車メーカーではないかもしれない。街づくりという観点が必要になるからだ。3次元点群データを活用することによって、土木建設業がその街づくりの主役になれるのではないだろうか」(杉本氏)


さらに杉本氏は、歴史的建築物のデータを取得して「地域の『記憶』を『記録』する」、城やジオサイトなどの観光名所をVR化した「バーチャルツアー体験」など、『VIRTUAL SHIZUOKA』を活用したサービス提供の展望を披露。次のように語って講演を締めくくった。


「3次元点群データの可能性はじつに広い。いろんなことにぜひ活用してほしい。静岡県ではそのためのフィールドの提供や規制の緩和など全面的にバックアップしていきたいと考えている。県内だけではなく、県外の方も興味があればあればぜひご連絡いただきたい」


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