BIM/CIM施策の導入・発展のために活動を続ける「一般社団法人Civilユーザー会」。その団体の幹事を務める長谷川充氏に、様々なテーマで「BIM/CIM」について語っていただく。5回目の今回は、足元をしっかり固めることの重要性について。
少し前の話になりますが、2016年に国交省から赤黄チェックについて通達設計成果の品質確保について平成28年10月31日資料2が出されたのは記憶に新しいところと思います。これを彷彿とさせるかのように先日、ある自治体からも実施設計時に留意すべき点について通達されました。簡単にまとめると以下のようです。
趣旨は、スムーズな施工を実現するために埋設物の管理者間事前協議を確実に行い、その結果および状況を報告させ、引き継ぎをきちんとしようとするものであり、次のような事象を軽減する狙いと推察されます。
① 埋設物の調査漏れ等による接触事故が頻発していることから事業費の増大を招いている。
② 実施設計段階で移設が容易でない埋設物の事前協議が十分なされていないために、施工段階で想定していない時間が長くかかってしまう。
③ 主要な埋設物の移設や防護、あるいは近接施工について、管理者との協議が不十分なために合意を得るための時間が長くかかってしまう。
④ 移設可能と想定される埋設物供給管であっても、調査結果をもとに移設図を作成し管理者と協議しておかないと施工段階で必要以上に時間を要してしまう。
⑤ 特に主要地方道、国道を施工範囲とする場合に道路管理者との協議に時間が長くかかってしまう。
ますます、埋設物の把握が重要視されてきている印象を受けますが、この問題は、はるか昔から言われていることであって、今だから出てきたものではありません。今も昔も変わっていないです。やり方が変わっていないのだから、当然といえば当然ですか。
ただ、従前に比べると電子化の波およびペーパーレスの浸透によって単純なものほど照査がおろそかになった、ということは言えるのかもしれません。
字面にすると「しっかり調査・確認・協議をしなさい」という簡潔な文章で終わりになってしまうのですが、これがなかなかうまくいかないのです。理屈は簡単でもうまくいかないのには理由があるはずです。では何が課題になっているのでしょうか。思いつくことを列記してみます。
これまでの、BIM/CIMがない状態では、上記の課題を一つずつ解決していくしかありませんでしたよね。その解決方法は次のような感じでしょうか。
Aについて
対象区間内のすべての先行埋設物について、施工年順にリストして施工年次の古い順に復元する。
Bについて
作業分担する場合は、作業の全体像を共有して自分の範囲とほかの人の範囲が連携していることを理解し、かつ、統括管理できる経験者を配置する。
C について
施工年代の違いによる道路線形の変化や管理者の違いによる図の書式の意味を理解できるようにマニュアル化する。
D について
自然流下管、圧力管、ケーブル管等の特徴やルールを整理し復元配管する際にあり得ない接続や曲部にならないようにする。
E について
その業務対象となる構造物が何か、区間がどこか、どのような目的のものかを関与する人すべてに周知して目的を達成するために必要なものが何かを理解したうえで作業する。
と、例示してみました。やはり、どの対応策も埋設物に対して一定の知見を有する必要がありそうですね。この中でも特に統括管理する人の一人当たり管理業務量が多くなり目が行き届かなくなっている、裏を返せば、その知見や経験を持った人が少なくなっている、というのが冒頭に掲げた通達の本当の原因なのかもしれません。
私が代表を務める有限会社 水都環境の例でも、管理技術者は方針や根本的な見当違いを是正する役割を担い、照査技術者は設計図書間の不整合等を精査する役割がありますが、それぞれ対象業務量に対して与えられる時間が短いのではないか、と感じる場面が多くあります。
当初の作業工程作業計画は、きちんとその予定を組んでいるので理論上はあり得ないことですが、実際の現場では、ある程度成果に近くなったそのとき、それまでの協議結果を覆すような突然の条件変更が出てくることしばしばです。
むろん、大半は不測の事態等やむを得ず起きていることなので、施工着手前に気づいて良かったと思うことが大半を占めています。反面、長く業界を見ていると、少数事例であっても終点期限が近づかないと本腰が入らない、という多くの人間が持つルーズさが一因となっているような気がしてやみません。
これによって、変更修正作業に時間を奪われ、特に条件変更によって配置が変わっているにも関わらず当初計画で照査されている項目についてスルーされてしまうようなケースが発生しているのではないでしょうか。
だとするならば、根幹的な解決策としては業務全体を早い段階で可視化する知見を有した熟練者を増員するか、それが叶わなければ自動化を進めるか、の選択になるというものですが、前者について、年代別の人口分布から建設業界に従事する今後を担う世代の人口が減ってくることは周知の事実ですので、おおよそ現実的とは言い難いでしょう。そうなれば選択肢は必然的に後者になるわけです。考えてみればそもそもそれがBIM/CIMを打ち出してきた要因の一つでもあったりします。
もしもBIM/CIMができていたら、形状のみならずその属性情報を付加追記していく流れになるので、前述の問題は自然に解決されているかもしれません。
どんなに立派なお城を設計して作ったとしても、その城を支える石垣がふわふわだったとしたら、ちょっとしたきっかけですぐに崩壊してしまいます。土木インフラもどんなに堅牢な、あるいは複雑な構造物を計画したとしても、その土台となる情報がふわふわでは、本来目指した姿にならないでしょう。
都市計画に属するライフライン系は、特に日本の狭い道路に密集して埋設されるものですから、その占用位置や施工法の決定は収集整理した情報の精度によって大きく変化しているのが現状です。
今の時代の土台は、対象範囲のデジタル化だと考えています。業務が始まったら、真っ先に行うのは礎となる地形の取得です。従前は二次元の平面図を請求して道路台帳などの貸与を受けてからスタートしていましたが、今はまず国土地理院から数値地図とメッシュデータを取得し概要から深化するのが当然のルーチンになりつつありますよね。そこへより精緻な収集した平面図等を重ねていき、精度を高めていこうとしているのです。
公開している地形が入手できたら、貸与された詳細な地形図を重ねて道路の構造物や占用物の位置を把握し、さらに対象範囲の狭い詳細設計などの場合は、その上にレーザスキャナ等の計測器を用いてまず地表面の現況を復元していきます。地表面の復元ができたら、次はかねてより問題になっている地下空間の復元です。
地下埋設物の復元は、目視、あるいは見通せるものについては実測を行い、そうでないものは竣工図、それが存在しないものは管理台帳からの復元になります。近頃では、地下で見通せるものは、点群計測の利用も進んできました(実用新案登録第3218374号)。
ここで注意しなければならないことがあります。竣工図や管理台帳から復元したときに、一度探し出した資料は二度と探さない工夫をする、ということです。全く別の事例ですが人は1日に少なくとも15分程度は探し物をしているのだそうです。
片付けをしているにも関わらずです。なぜ探すのでしょうか。理由はそれぞれありますよね。。。そこはご想像におませいたします。
特に複数人で手分けをして作業するような場合、この探す時間は命取りだと思っています。私はこの探し物のために、真綿で自分の首を締め付けられるように、じわじわと苦しくなっていく経験を嫌というほど味わっています。下図には一例を示しましたが、こんなことも身近にできるBIM/CIMだと思います。
そして、次に重要なことは復元する順番だと考えています。見通しがきくもの、位置が明らかなものから復元する、という原則です。
例えば、下水道管とガス管だったらどちらの位置が確実に抑えられるか、を考えるということです。この順番を間違えてしまうと、何度も何度も修正しなければならないことになります。最悪の場合は、既存管の占用位置を取り違える可能性もあるのではないでしょうか。
仮に収集資料から施工年度順が分かった場合、その順番に復元するのが常套なのですが、それにも増して、私は見通せるものから復元する、ということを愚直に守っていきたいと思います。理由は言うまでもないですよね。
さて、そうして出来上がったものは何だと思いますか
そうです。今私たちが目指しているものは、非常に小さい範囲のデジタルツインなのです。一気にBIM/CIMっぽくなってきたでしょう(笑)。
ともあれ、私は数十年後の次世代の仲間のために、「I(あい)」を少しだけでも残していくことができれば良いのかな、と考えているので、今できる小さなBIM/CIMを今いる仲間と共に進めていこうとしています。
今も昔から埋設物の把握が大切
少し前の話になりますが、2016年に国交省から赤黄チェックについて通達設計成果の品質確保について平成28年10月31日資料2が出されたのは記憶に新しいところと思います。これを彷彿とさせるかのように先日、ある自治体からも実施設計時に留意すべき点について通達されました。簡単にまとめると以下のようです。
- 他企業埋設の確認を十分行う。
- 開削を伴う場合には、移設等の必要な埋設物協議を行えるようにする。
- 道路管理国県市区町村道の区分を明確にする。
趣旨は、スムーズな施工を実現するために埋設物の管理者間事前協議を確実に行い、その結果および状況を報告させ、引き継ぎをきちんとしようとするものであり、次のような事象を軽減する狙いと推察されます。
① 埋設物の調査漏れ等による接触事故が頻発していることから事業費の増大を招いている。
② 実施設計段階で移設が容易でない埋設物の事前協議が十分なされていないために、施工段階で想定していない時間が長くかかってしまう。
③ 主要な埋設物の移設や防護、あるいは近接施工について、管理者との協議が不十分なために合意を得るための時間が長くかかってしまう。
④ 移設可能と想定される埋設物供給管であっても、調査結果をもとに移設図を作成し管理者と協議しておかないと施工段階で必要以上に時間を要してしまう。
⑤ 特に主要地方道、国道を施工範囲とする場合に道路管理者との協議に時間が長くかかってしまう。
ますます、埋設物の把握が重要視されてきている印象を受けますが、この問題は、はるか昔から言われていることであって、今だから出てきたものではありません。今も昔も変わっていないです。やり方が変わっていないのだから、当然といえば当然ですか。
ただ、従前に比べると電子化の波およびペーパーレスの浸透によって単純なものほど照査がおろそかになった、ということは言えるのかもしれません。
字面にすると「しっかり調査・確認・協議をしなさい」という簡潔な文章で終わりになってしまうのですが、これがなかなかうまくいかないのです。理屈は簡単でもうまくいかないのには理由があるはずです。では何が課題になっているのでしょうか。思いつくことを列記してみます。
これまでの、BIM/CIMがない状態では、上記の課題を一つずつ解決していくしかありませんでしたよね。その解決方法は次のような感じでしょうか。
Aについて
対象区間内のすべての先行埋設物について、施工年順にリストして施工年次の古い順に復元する。
Bについて
作業分担する場合は、作業の全体像を共有して自分の範囲とほかの人の範囲が連携していることを理解し、かつ、統括管理できる経験者を配置する。
C について
施工年代の違いによる道路線形の変化や管理者の違いによる図の書式の意味を理解できるようにマニュアル化する。
D について
自然流下管、圧力管、ケーブル管等の特徴やルールを整理し復元配管する際にあり得ない接続や曲部にならないようにする。
E について
その業務対象となる構造物が何か、区間がどこか、どのような目的のものかを関与する人すべてに周知して目的を達成するために必要なものが何かを理解したうえで作業する。
と、例示してみました。やはり、どの対応策も埋設物に対して一定の知見を有する必要がありそうですね。この中でも特に統括管理する人の一人当たり管理業務量が多くなり目が行き届かなくなっている、裏を返せば、その知見や経験を持った人が少なくなっている、というのが冒頭に掲げた通達の本当の原因なのかもしれません。
土台作り
私が代表を務める有限会社 水都環境の例でも、管理技術者は方針や根本的な見当違いを是正する役割を担い、照査技術者は設計図書間の不整合等を精査する役割がありますが、それぞれ対象業務量に対して与えられる時間が短いのではないか、と感じる場面が多くあります。
当初の作業工程作業計画は、きちんとその予定を組んでいるので理論上はあり得ないことですが、実際の現場では、ある程度成果に近くなったそのとき、それまでの協議結果を覆すような突然の条件変更が出てくることしばしばです。
むろん、大半は不測の事態等やむを得ず起きていることなので、施工着手前に気づいて良かったと思うことが大半を占めています。反面、長く業界を見ていると、少数事例であっても終点期限が近づかないと本腰が入らない、という多くの人間が持つルーズさが一因となっているような気がしてやみません。
これによって、変更修正作業に時間を奪われ、特に条件変更によって配置が変わっているにも関わらず当初計画で照査されている項目についてスルーされてしまうようなケースが発生しているのではないでしょうか。
だとするならば、根幹的な解決策としては業務全体を早い段階で可視化する知見を有した熟練者を増員するか、それが叶わなければ自動化を進めるか、の選択になるというものですが、前者について、年代別の人口分布から建設業界に従事する今後を担う世代の人口が減ってくることは周知の事実ですので、おおよそ現実的とは言い難いでしょう。そうなれば選択肢は必然的に後者になるわけです。考えてみればそもそもそれがBIM/CIMを打ち出してきた要因の一つでもあったりします。
もしもBIM/CIMができていたら、形状のみならずその属性情報を付加追記していく流れになるので、前述の問題は自然に解決されているかもしれません。
どんなに立派なお城を設計して作ったとしても、その城を支える石垣がふわふわだったとしたら、ちょっとしたきっかけですぐに崩壊してしまいます。土木インフラもどんなに堅牢な、あるいは複雑な構造物を計画したとしても、その土台となる情報がふわふわでは、本来目指した姿にならないでしょう。
都市計画に属するライフライン系は、特に日本の狭い道路に密集して埋設されるものですから、その占用位置や施工法の決定は収集整理した情報の精度によって大きく変化しているのが現状です。
今の時代の土台は、対象範囲のデジタル化だと考えています。業務が始まったら、真っ先に行うのは礎となる地形の取得です。従前は二次元の平面図を請求して道路台帳などの貸与を受けてからスタートしていましたが、今はまず国土地理院から数値地図とメッシュデータを取得し概要から深化するのが当然のルーチンになりつつありますよね。そこへより精緻な収集した平面図等を重ねていき、精度を高めていこうとしているのです。
積み上げる
公開している地形が入手できたら、貸与された詳細な地形図を重ねて道路の構造物や占用物の位置を把握し、さらに対象範囲の狭い詳細設計などの場合は、その上にレーザスキャナ等の計測器を用いてまず地表面の現況を復元していきます。地表面の復元ができたら、次はかねてより問題になっている地下空間の復元です。
地下埋設物の復元は、目視、あるいは見通せるものについては実測を行い、そうでないものは竣工図、それが存在しないものは管理台帳からの復元になります。近頃では、地下で見通せるものは、点群計測の利用も進んできました(実用新案登録第3218374号)。
ここで注意しなければならないことがあります。竣工図や管理台帳から復元したときに、一度探し出した資料は二度と探さない工夫をする、ということです。全く別の事例ですが人は1日に少なくとも15分程度は探し物をしているのだそうです。
片付けをしているにも関わらずです。なぜ探すのでしょうか。理由はそれぞれありますよね。。。そこはご想像におませいたします。
特に複数人で手分けをして作業するような場合、この探す時間は命取りだと思っています。私はこの探し物のために、真綿で自分の首を締め付けられるように、じわじわと苦しくなっていく経験を嫌というほど味わっています。下図には一例を示しましたが、こんなことも身近にできるBIM/CIMだと思います。
そして、次に重要なことは復元する順番だと考えています。見通しがきくもの、位置が明らかなものから復元する、という原則です。
例えば、下水道管とガス管だったらどちらの位置が確実に抑えられるか、を考えるということです。この順番を間違えてしまうと、何度も何度も修正しなければならないことになります。最悪の場合は、既存管の占用位置を取り違える可能性もあるのではないでしょうか。
仮に収集資料から施工年度順が分かった場合、その順番に復元するのが常套なのですが、それにも増して、私は見通せるものから復元する、ということを愚直に守っていきたいと思います。理由は言うまでもないですよね。
さて、そうして出来上がったものは何だと思いますか
そうです。今私たちが目指しているものは、非常に小さい範囲のデジタルツインなのです。一気にBIM/CIMっぽくなってきたでしょう(笑)。
ともあれ、私は数十年後の次世代の仲間のために、「I(あい)」を少しだけでも残していくことができれば良いのかな、と考えているので、今できる小さなBIM/CIMを今いる仲間と共に進めていこうとしています。
WRITTEN by
長谷川 充
Civilユーザー会 幹事/水都環境 代表。昭和45年名古屋生まれ埼玉育ち。現在はCivilユーザ会の幹事兼、有限会社 水都環境の代表。夜間大経済学部在学中にアルバイト入社した企業が“水コン”と呼ばれる会社だったことがこの世界に入ったきっかけ。水の魅力に惹き込まれるとともに、PCを用いた仕事に興味を持つ。平成18年に水専門の建設コンサルタントを創業し、Pipeline BIMのパイオニアを目指す傍ら、専門学校でCIMの講義を受け持つなどBIM/CIM普及活動に繋げている
身近なところから始めるBIM/CIM
- 第5回 埋設物をしっかり把握する重要性
建設土木の未来を
ICTで変えるメディア