コラム・特集
高取 佑 2021.9.27
BIM/CIM支援スタートアップ代表が語る。業界の未来と技術者が今やるべきこと

業界を飛び出して気がついた、土木・建設業界の現状(いま)

はじめまして、株式会社Malmeの高取佑(たかとり たすく)といいます。今回、デジコンさんから「BIM/CIMをテーマにいろいろ呟いてみない?」とお誘いを受けまして、このような機会を頂くことになりました。

簡単に自己紹介すると、私は建設コンサルタントとして気候変動対策やODA、日系企業の海外展開支援など諸々従事した後、ドローンのベンチャーに参加しICT施工現場での3D測量や3Dモデルの利活用に取り組んできました。現在は、建設・土木業界向けにBIM/CIMの支援サービスを提供する「株式会社Malme」を設立し、仲間と共にBIM/CIMの普及促進に励んでいます。


そんな中始まったこの機会、何から話すべきか頭を悩ませていましたが、土木・建設業界を一度離れて外から眺めてみた景色を皆さんに共有するのは、なかなか価値があるんじゃないかと思い至りました。そこで一回目の今回は、業界の歴史を軽く振り返りながら、業界が現在直面している課題を皆さんと認識合わせした上で、なぜいま建設DXに取り組まなければいけないのかを、一緒に考えていきたいと思います。アイスブレイク的な内容になると思いますが、お付き合いください。


社会問題の解決とともに発展した土木。抱える課題はさらに複雑多岐に


日本の土木は、第二次世界大戦後の復興から高度経済成長期にかけて、社会の変化とニーズに応えながら、日本の社会経済活動の発展を支えてきました。

高度成長期における集中的で大規模な社会基盤整備を通じて、土木工事は巨大化や機械化が進み、業界自体も目覚ましい発展を遂げました。国民の安全・安心な暮らしや豊かな生活、地域の発展のために土木事業が大きく貢献し、のちに偉人・賢人として語り継がれる土木技術者を数多く輩出しました。花形産業となった土木・建設業界には、優秀な若い人材がこぞって集まり、業界の門を叩きました。「公共事業を通して国を豊かにする」という高い意識と気概を持った若者が土木・建設業界を目指した“熱い”時代だったんだと思います。

さて近年、土木業界が取り組むべき課題は、複雑多様化しています。その一つが、激甚化する災害への対応です。数十年から数百年に一度と言われる規模の豪雨が近年頻発するなど、風水害が局地化・頻発化、激甚化しています。また巨大地震のリスクも年々高まっています。内閣府の中央防災会議によると、今後30年以内に発生が予想される巨大地震として、マグニチュード7程度の首都直下地震の発生確率を70%程度、マグニチュード8〜9クラスの南海トラフ地震の発生確率を70%〜80%と予想しています。


図 :土砂災害の発生件数の推移/出所:「国土交通白書2020」(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1115000.html(閲覧日:2021年8月17日)

一方、少子高齢化・過疎化・都市地域への人口集中など、社会環境の変化に伴って災害の様態も変化してきました。少子高齢化や過疎化が進む山間地域の自然災害、都市部で発生する集中豪雨により引き起こされる都市型水害などに対し、ハード・ソフトの両面からの対策が求められています。

写真:山間地域で発生した土砂崩れ(shutterstockより)

さらには、高度経済成長期に集中的に建設したインフラが一斉に更新の時期を迎えています。大規模自然災害に対する防災・減災を図りながら、老朽化対策を進めなくてはなりません。

図:単純時後更新を行った場合の維持補修・更新費の資産額の推移/出所:「インフラ維持補修・更新費の中長期展望(平成30年第3回経済財政諮問会議)」(内閣府)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0329/shiryo_03.pdf(閲覧日:2021年8月17日)

地球温暖化による気候変動についても、一刻の猶予も残されていません。気候変動は社会インフラに大きな影響を及ぼす反面、土木が貢献できる対策も広範にわたるため、土木には様々な役割が期待されています。

土木学会の地球温暖化対策特別委員会では、温室効果ガスの排出削減により温暖化の根治を図ろうとする「緩和策」と、既に始まっている異常気象や局所災害等の気候変動影響をできるだけ回避・抑制する社会の形成を目指す「適応策」の2つのアプローチを適切に組み合わせて対策を進めていくことが重要であると述べています。

土木は、社会基盤の整備を通じて中・長期的な二酸化炭素の排出にも深く関わっているため、土木工事における温室効果ガスの排出削減、低炭素エネルギー技術の開発・支援、低炭素都市システムの構築など、さまざまな面から二酸化炭素の排出削減に貢献することが可能です。

以上のように、大規模自然災害だけ切り取って考えても、その背後には複雑で広範な自然要因や社会問題を含んでいます。


土木・建設業界が苦しむ人手不足。解決には業界内部からの改革が必要


このように、土木・建設業界が解決すべき課題は複雑多岐にわたり、土木技術者に求められる役割も高度化していきます。

しかしその一方、土木・建設業界は慢性的な人材不足に陥っています。国土交通省の発表では、建設業の従事者のうち55歳以上の割合は35.2%、29歳以下は11.6%で、極めて深刻な高齢化と若手不足に直面しています。


図:産業別の就業者数の年齢構成の推移/出所:「国土交通白書2020」(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1113000.html(閲覧日:2021年8月17日)

業界の人手不足は、即席の労働人材を補うだけでは解決しないことを理解しておくことが重要です。他の業界、たとえば製造業やサービス業では、有期雇用の数を増やしたり、異業種からの再就職者や外国人労働者を積極採用することで、労働者不足の解消を図っています。

しかし土木・建設業界はそう上手くはいきません。下図からもわかるように、全産業や類似の公共サービス(運輸業、郵便業)と比較しても、土木・建設業だけが人材不足に悩まされているのは明らかです。高齢化や若手不足などの状況はどの業界も同じなはずなのに、なぜ土木・建設業界だけが人材獲得に悩まされているのでしょうか。

私見ですが、やはりこの業界は独特かつ高い専門性が求められる業務の割合が多いことが原因になっていると思います。外国人労働者や再就職組ではなかなかこなせない、いわゆる「代わりがきかない」業務の割合が多いのでしょう。たとえば、現場に精通した職人、施工時を指揮監督する現場代理人、熟練の設計技術者が持つスキルや経験は、そうそう置き換えられるものではありません。ちなみに、同じような現象は医療業界でも起きています。

図:産業別の就業者数/出所:「国土交通白書2020」(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1113000.html(閲覧日:2021年8月17日)

土木・建設業界の人材不足が今後さらに深刻化することが予想されるなか、外部からの人材調達でクリアできないのであれば、業界内部から質的・量的な人手不足を解決していく必要があります。


建設DX推進に向け、ひとりひとりが主体的に行動を


これまでの話をまとめると、今後の土木・建設業界が取り組むべき課題や役割は複雑多様化しており土木技術者の果たすべき責任は大きくなる一方、深刻化する人材不足の解決には外部からの人材調達だけでは難しいため、業界内部からの自発的な取り組みが不可欠ということです。

だからこそ、土木・建設業界を担うわたしたち一人一人の取り組みが非常に重要です。目先の仕事に追われてばかりでなく、土木業界全体の課題に対して「自らが当事者である」という認識を持ち、未来を見据えながら、働き方改革とともに生産性向上に取り組むことが不可欠です。

国土交通省は建設業界の人手不足解消と生産性向上に向けて、本格的な取り組みをはじめました。「i-Construction」は2016年度から施工業界で本格的に始動した先進的な取り組み事例です。

(shutterstockより)

  i-Construction への取り組みは、先行企業と遅れている企業ですでに二極化しつつあります。前職のドローンベンチャー時代、 様々な施工業者に対し、ドローン測量やBIM/CIM等ICT活用の支援を行ってきましたが、積極的にチャレンジした企業は、点群測量に始まる3D施工モデルの利活用まで発展させるなど、ノウハウをどんどん蓄積して生産性を大きく向上させていました。結果として、取り組みに遅れた企業との間で大きなノウハウの開きが出てしまっており、その差は開く一方といった印象です。

施工現場で起きているこのような変化が、これから設計業務を行う建設コンサルタント業界に流れてきます。去年8月には、国土交通省は BIM/CIM原則適用を2年前倒しし、「2023年度までにBIM/CIM原則適用」を決定しました。

BIM/CIMは、建設DXの要といわれます。土木・建設業界の生産性向上や働き方改革の推進のための取り組みであることを今一度業界全体で理解しながら、ひとりひとりが主体的に取り組んでいくべきです。高度成長期に日本を立て直したドボクの先輩諸兄を見習い、私達も土木業界のために今やるべきこと、できることを考え、土木業界のためにチャレンジしていきましょう。

次回以降、この業界をいちど離れてDX技術に従事してきた視点から、i-ConstructionやBIM/CIMなどの支援を通じて気づいたポイント、見えてきた課題などをお伝えしていく予定です。BIM/CIMを導入したい企業のみなさまに、ぜひ参考にしていただければと思います。




高取 佑  Tasuku Takatori
株式会社Malme代表。九州大学大学院修了後、建設コンサルタントにてODA(政府開発援助)や地球温暖化対策支援、日系企業の海外進出支援に従事。その後ドローンベンチャーに参画し、施工現場におけるICT技術の利活用を推進。ODAコンサル時の体験から日本の現状を危惧し、日本を再度盛り上げるため2021年3月にMalmeを設立。土木技術とデジタル技術を掛け合わせて「ドボクをアップデートする」がミッション。日本の失われた30年を取り戻すために日夜奮闘中。    




参考文献:
◎国土交通省(2020)「令和2年版国土交通白書」、国土交通省ウェブサイト https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/pdfindex.html (閲覧日:2021年8月17日)
◎国土交通省(2018)「建設産業をめぐる現状と課題(第19回基本問題小委員会)」、国土交通省ウェブサイト https://www.mlit.go.jp/common/001221442.pdf
◎内閣府(2018)「インフラ維持補修・更新費の中長期展望(平成30年第3回経済財政諮問会議)」、内閣府ウェブサイト https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0329/shiryo_03.pdf(閲覧日:2021年8月17日)


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高取 佑

株式会社Malme代表。九州大学大学院修了後、建設コンサルタントにてODA(政府開発援助)や地球温暖化対策支援、日系企業の海外進出支援に従事。その後ドローンベンチャーに参画し、施工現場におけるICT技術の利活用を推進。ODAコンサル時の体験から日本の現状を危惧し、日本を再度盛り上げるため2021年3月にMalmeを設立。土木技術とデジタル技術を掛け合わせて「ドボクをアップデートする」がミッション。日本の失われた30年を取り戻すために日夜奮闘中。
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