コラム・特集
高橋 奈那 2023.4.7

『2023国際宇宙産業展 ISIEX』をレポート! 月面開発・火星居住・資源調査など、超スピードで進む最新の宇宙産業を紹介!

2023年2月1日(水)〜3日(金)の3日間、日刊工業新聞社が主催する4つの展示が東京ビッグサイトで開催された。

本記事では、共同展示の一つ「2023国際宇宙産業展 ISIEX」の展示ブースを紹介する。宇宙ビジネス単独では、国内最大級の規模での開催というだけあって、会場内は活気に溢れていた。


2回目の開催となる今回は、昨年の開催時より規模を拡大し、75社もの企業が全国から集結。宇宙開発事業や月面開発事業に特化した製品開発、ロケットの開発、製造や打上げインフラ等々の宇宙関連サービスなど、業界・企業規模ともに多様で、宇宙開発分野がまさに成長中の分野であると感じさせられた。


主たる目的はビジネスマッチングではあるが、親子で開場を訪れている来場者も多いのは、宇宙開発分野ならではだろう。以下、デジコン編集部が注目した7つのブースを解説していく。

月面開発フォーラム NIKKANKOGYO MOON PRESS


月面をデザインした大きなアーチが目を引くこのブースは、イベントを主催する日刊工業新聞社が企画したブースだ。


今後さらなる成長が期待されている宇宙産業のなかでも、日本の優位性として注目されている「月面開発」がテーマだ。




すでに研究開発に取組んでいる事業者と、新たに参入を検討している企業との交流を図る機会創出が主な目的で、月面探査を疑似体験できる展示や、最新の研究内容や技術開発状況を紹介するデザイン性の高いパネルなど、月面開発にまつわる最先端のトピックスを楽しみながらインプットできる工夫をこらした展示物が並んでいた。







宇宙居住施設「マーズグラス」「ルナグラス」 / 鹿島建設



水面や緑、建造物が壁に張り付いているように見えるのは、火星での宇宙居住施設「マーズグラス」。


自転による遠心力で、人工的に重力を生み出す仕組みで、マーズグラスのほかに、月面を想定した筒状の居住施設「ルナグラス」の2つがある。





地球上の暮らしでは特に意識することもないが、無重力空間では、身体機能を健やかに保つことが困難なのだという。

食料や水、エネルギーに並ぶ重要なインフラとして「重力」に着目した京都大学と鹿島建設は、2022年より研究開発を進めている。SF映画やロボットアニメを思わせる、宇宙の居住空間。もし実現すれば、長期におよぶ宇宙での研究開発や、生活の拠点を宇宙に移すことも現実のものとなるのかもしれない。





月面探査車「YAOKI」 / ダイモン


コロッとしたフォルムが可愛らしいこのロボットは、月面無人探査車「YAOKI」。メインボディが筒状になっており、両端のタイヤも半円型なので、月面のような悪路でも転がるようにして、走り続けることができる。


498gという超軽量モデルで、手のひらにおさまるコンパクトなサイズ感だが、100Gもの衝撃に耐え、洞窟などへ投げ込み探査もできるタフさを兼ね備えている。


月面への輸送は、現在、1kgあたりおよそ1億円かかるといわれている。無人探査車を月面に送り込むだけで莫大なコストがかかるため、研究開発も思うように進まない。しかし「YAOKI」なら、低コストで月面調査が可能になるため、民間企業の月面開発事業への参入増も期待できるだろう。




月面の水資源調査 / 横河電機


測定技術に強みをもつ横河電機が、月面のインフラ安定化のため、新たなソリューションの開発を進めている。

この装置は、ドリルで月面を掘削し、熱を与えて揮発性成分を蒸発させ、レーザーガス分析計で組成を調べるためのものだ。




このように、月面で測定したデータに基づいたソリューションを研究機関に提供するため、水資源探査分析計や水素サプライチェーンなどの宇宙対応をすすめている。


月面水素サプライチェーン構築計画もそのなかの一つだ。水氷を溶かして水素と酸素に電気分解すれば、月面への長期間滞在が可能になるばかりか、研究・産業開発の拠点を地球から月へ移設することもできるだろう。





北海道スペースポート(HOSPO) / 経済産業省・北海道経済産業局


北海道スペースポート(HOSPO)は、北海道大樹町にあるシェアスペースポートだ。世界中の民間企業や大学研究機関が自由に使える、宇宙港(スペースポート)を設置するのは、アジア初の試みだという。


2021年よりシェアスペースポートとしての運営が本格的にスタートしたが、実は1995年から政府や大学・民間を対象に一部の設備を稼働させていたため、すでに実験・打ち上げ設備が揃った状態からのスタートだった。

そのため、打上げ試験から実際の発射までを、施設内でスムーズに実施できる。設備環境以外にも、この場所の魅力がある。




恵まれた立地にも注目が集まっている。この地域特有の晴天率の高さや、東と南どちらにも開かれた海など、ロケット打ち上げに適した条件が既に揃ったエリアなのだ。

宇宙版シリコンバレーをつくることを目標に、2021年春から稼働。施設は今後もさまざまなロケットの打上げに対応すべく、射場や組立棟、試験場などの設備拡張・整備をすすめるという。

将来的な目標として有人スペースシャトル(宇宙旅行などに使われるスペースプレーン)の滑走路の新設を構想に練り込むなど、宇宙への玄関口として設備の整備をすすめていく。





衛星軌道投入ロケット / AstroX


民間企業が小型衛星の開発に成功しても、射場不足がネックとなり、宇宙開発の遅れをとる可能性が高い。そんな日本が抱える打上げ環境不足という課題解決に向け、研究開発に取り組んでいるのが、このAstroXだ。

(AstroXプレスリリースより)

「誰もが気軽に宇宙を使える未来」をめざし、日本初の衛星軌道投入ロケットの開発を行っている。大きな特徴は、ロックーン方式で衛星軌道投入を行う、という点だ。

ロックーン方式とは、気球で成層圏まで気球でロケットを運び、成層圏からロケットの空中発射を行う方法で、射場の成約やコスト面の課題を同時に解決する画期的な方法。


2022年冬にはモデルロケットの空中発射試験を実施し、成功を収めている。安定した発射が可能になれば、民間企業の開発した小型人工衛星が宇宙へと飛び立つ機会が格段に増え、日本における宇宙産業市場が急速に発展していくに違いない。





地球観測用超小型人工衛星「CE-SAT-I」 / キヤノン電子


ビジネスや医療の現場で活躍するデジタル機器や、精密機器を開発・製造するキヤノン電子は、長年培ってきた光学技術や精密機器技術を活かし、宇宙へと活躍の場を広げている。


事業の主たる取組みは、カメラを搭載した超小型地球観測衛星の製造・販売だ。

同社開発の人工衛星に搭載されたカメラは、地上面の様子を宇宙空間からでも高精細画像に捉える。たとえ夜間や星あかり、間接照明といった、地上面の明かりの少ない場合も、安定的に高解像度撮影が可能だ。




昼夜を問わず地上の様子を詳細に把握できるため、防災・減災や農作物の管理、火山の調査など、様々なシーンで役立つだろう。


誰もが衛星を活用する利便性を享受できる未来を目指す同社は、世界でもまだ前例の少ない、人工衛星の量産化にも前向きな姿勢を示している。今後の開発状況によっては、カメラのように人工衛星を普段遣いにする未来が待っているかもしれない。





取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋 奈那 / 撮影:砂田 耕希
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WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。

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