コラム・特集
三浦 るり 2022.11.15

日立ソリューションズが手掛ける海外アライアンス活動【前編】~ なぜ海外スタートアップに注目するのか!? ~

日立グループのSIerである株式会社日立ソリューションズは多種多様なビジネスソリューションを提供しており、自社開発、共同開発に加えて、海外製の商材も扱う。

建設テック系の海外商材においては、近年、アメリカ・シリコンバレーを始めとする欧米のスタートアップ系企業発の商材が多く見受けられるようになってきた。

今、日立ソリューションズが、海外スタートアップの商材に注目するのはなぜなのだろうか。

デジコン編集部は、世界中のスタートアップとのアライアンス(提携契約)業務を手掛ける、株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 戦略アライアンス部 市川博一氏(以下、敬称略)と、日立ソリューションズアメリカ社 ビジネスデベロップメントアライアンスグループ 北林拓丈氏(以下、敬称略)にインタビューを行った。

アライアンス先の選定に関する際のこだわりや契約交渉の流れ、同社が注目する世界の最新トレンドについて語っていただいた。

アライアンス活動によるデジタルソリューション事業の推進


―― 日立ソリューションズでは海外のスタートアップの商材を発掘し、日本で展開していくという事業に取り組まれているそうですね。

市川:私たちは日立グループのデジタル事業をけん引する中核企業として、社会生活や企業活動を支える多種多様なソリューションを提供しています。

株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 戦略アライアンス部 市川 博一氏

日立グループでは日立製作所が旗振り役となってデジタルソリューションを重点に置く「Lumada(ルマーダ)」事業を展開しています。私たちはグループの一員として各事業部からあがってくるDX関連のニーズに対し、さまざまな商材を世界中から発掘してくるという業務を手掛けているのです。

日立ソリューションズ内におけるリエゾン活動の位置づけ(資料提供:日立ソリューションズ)

私は経営戦略統括本部 戦略アライアンス部に所属しており、北米を中心に、世界中にある良い商材を日本で展開させるための契約や環境整備などを手掛けています。

―― 北米を中心に新しい商材を見つけるのですね。

北林:はい。日立ソリューションズグループの米国拠点である日立ソリューションズアメリカ社はカリフォルニア州のシリコンバレーにオフィスを構えており、私も普段はそちらで仕事をしています。米国以外に、欧州やイスラエル発の商材も視野に入れて、情報を入手するようにしています。

日立ソリューションズアメリカ社 ビジネスデベロップメントアライアンスグループ 北林拓丈氏

市川:彼らがアメリカで見つけてきた商材の候補を、戦略アライアンス部が市場ニーズとのマッチングを行い、また、海外のスタートアップとの再販契約もサポートしています。海外の商材を見つけてきて、日本で事業化するまでの一連の流れを、当社では「リエゾン
活動」と呼んでいます。

シリコンバレーに拠点を置き差別化商品の発見・アライアンスを進めている(資料提供:日立ソリューションズ)

――新しいソリューションや面白そうなスタートアップを探すにあたり、何か方針はあるのですか?

市川:年度ごとに事業戦略としてジャンルごとにキーワードを定めています。例えば、スマートテックでARをやってみようとか、メタバースに注目してみよう……といった感じですね。こういったキーワードは各事業部から上がってくるニーズを参考に選定しており、今年度は建設業界向けのテックに力を入れています。

2022年度リエゾン注目カテゴリ(資料提供:日立ソリューションズ)

――リエゾン活動を始められてから何年になるのですか?

市川:2007年にスタートし、これまでに累計で65社(2022年10月現在)とアライアンスを結んできました。比較的長い歴史があり、豊富な経験を活かしながら日本国内に初めて進出するようなスタートアップを支援しています。

―― リエゾン活動は具体的にどのような流れで進めていくのですか?

市川:策定したキーワードを念頭に日立ソリューションズアメリカ社のメンバーが展示会を回って見つけるというやり方のほかに、当社はベンチャーキャピタルへの出資も行っていまして、そちらから紹介いただくケースもありますし、アクセラレーターから情報収集を行うこともあります。

社内タスクフォースを組むなど各所と連携して事業化へつなげる(資料提供:日立ソリューションズ)

私たちの部署では、海外の商材について日本での再販契約を結ぶところまでが一つのゴールになります。その途中では、調達や法務といったスタッフ部門との連携も欠かせません。早い段階からタスクフォースを組み情報共有を行いながら、ニーズにマッチしたものをできる限りスムーズに日本に持って来られるように努めています。

――市川さん、北林さんはそれぞれどんな業務を手掛けられているのですか?

市川:私は各事業部からあがってくるニーズを把握するほか、国内のトレンド分析も行っています。同時にアメリカや欧州の状況、新しい商材やスタートアップの情報を収集し、ロングリストを作成して提案活動を行うといったことを担当しています。

北林:日立ソリューションズアメリカ社では、メンバーそれぞれが得意分野を活かして商材の調査を行っています。私はFuture of Work(未来の働き方)、セールステック、エンタープライズSaaS、新規事業領域といったジャンルを得意としています。


建設テックは専門のメンバーが担当しているというのではなく、私やIoT/マニュファクチャリングを得意とするメンバーの担当領域に含まれている状況ですね。

また、Agya Ventures Fund L.P. (アギャベンチャーズ)という建設テックに特化したベンチャーキャピタルに弊社は出資していまして。日本でほかに出資しているのはゼネコンや不動産会社ばかりなのですが、そこでの情報共有からアライアンスにつなげていくこともあります。

――各方面から広く情報を集めた後、アライアンスの候補はどのように絞っていくのですか?

市川:大きく二つの流れがあります。ひとつが、社内で選定されたキーワード、各部署から寄せられるニーズに見合うものを探すという道。こちらが主になります。


もう一つが、日立ソリューションズアメリカ社のメンバーが仕入れてきた欧米のトレンド情報から、活かせるものを模索する道です。ニーズが明確なものに対応するだけでなく、未来に求められそうな商材も常にチェックするようにしています。


欧米の最新トレンド、注目を集めるテクノロジーとは?


――そうなんですね。アメリカでいま注目度が高まっているテクノロジーにはどんなものがあるのでしょうか?

北林:北米ではやはりWeb3.0関連ですね。サステナビリティというカテゴリーでは、特にESGレポーティングやサプライチェーンのトレーサビリティーですとか…。

――ESGレポーティングというのは、どういったものですか?

北林:「E」はenvironment(環境)、「S」はsociety(社会)、「G」はgovernance(統治・管理)の頭文字で、企業が持続可能な社会の実現に向けて取り組んだ内容を体系的にスコア化して、レポートを作成し、評価するという動きですね。ここ1、2年はグローバル企業を中心に、ESGスコアをいかに高めるかで各企業は奔走しています。


売上高や実績だけでなく、ダイバーシティの軸で女性幹部の割合ですとか、CO2の排出量ですとか、環境や社会価値に影響を与える活動を数値で見える化し、サステナビリティレポートや統合報告書に記載する動きは、欧米に加え、日本でも増えてきていますね。

例えば女性幹部の数が少ないとSのスコアが落ちるわけです。こういった動きに対してアメリカの企業はやはり打ち手が早く、グローバル展開を進める日本企業でも同じような動きが出てきています。

――なるほど。建設テックの最新トレンドもチェックされていますか?

北林:実はアメリカのカンファレンスは毎年、9月から11月に集中しているんですよね。ですから、最新のトレンドはまさにこれから明らかになっていくんです。

今はまだ正確にはお答えできないのですが、一つの大きな流れとして、デジタルツインを使ってモデル化したデータを進捗管理に活用するといったように、建設現場で生じがちな進捗管理のズレをITで補正していくという試みに取り組む企業が目立ちます。


市川:進捗の見える化に関する商材は世界中で増えていますね。他には、日本でも話題になってきていますが、メタバースやブロックチェーン、NFTですかね。

北林:ブロックチェーンの活用としては、不動産での契約管理との親和性が高いように感じますね。紙を電子化する延長線上で、改ざんできないようにする技術も確実に発展しています。

所有権を譲渡したり、賃貸・転貸したりする際にも、ブロックチェーンを使えばトレーサビリティーを確保できますから。これに関してはお金を掛けてでもやりたいという機運も高まっていますね。

――そうなのですね。建設系の契約書類や決済を扱うようなNFTサービスを手掛ける会社はアメリカでいくつかあるのですか?

北林:少し前に、不動産に特化したNFTプラットフォームが出てきて話題になっていましたね。ほかにブロックチェーンのプラットフォーム上にそういった機能を実装したという事例も最近増えています。アメリカでは接客でのロボット活用やドローンの導入も積極的です。

――アメリカをはじめ海外と日本の市場の差は大きいのでしょうか?

市川:我々はSIerですので、業界の内部をすべて把握できているわけではありません。ただ、お付き合いのある企業様から伺う話などからあぶり出された課題をテクノロジーでいかに解決していくかに注力しています。


とはいえ、海外のテクノロジーを持ってくるというのはやはり容易ではありません。まだアナログでのオペレーションが多く残る建設業界に最新のテクノロジーを入れるには、セキュリティの問題など課題は多くあり、私たちも苦心している部分ではあります。


建設スタートアップ企業が熱視線を注ぐ先は?


――そうでしょうね。国が変われば業界特性や商慣習も異なりますから。日本では今のところ建設テックを手掛けるスタートアップというのは数が限られていますが、アメリカにはたくさんあるのでしょうか?

北林:はい、ありますね。アメリカを中心に、欧州もチェックしていて、各地で一気に増えている印象です。高層ビルがどんどん建つ国には新しいテクノロジーが入りやすいんですよ。アメリカならサンフランシスコやニューヨーク。国単位ならシンガポールですね。


シンガポールは言語が英語系なので、北米で成功したスタートアップがアジア地域の中で進出しやすのでしょう。物価も比較的高く、建設案件が多いので関心を持つのでしょうね。

――欧米のスタートアップから見ると、建設ラッシュのある東南アジアの方が日本より注目度は高いのでしょうか?

市川:新しいテクノロジーをスピーディに取り入れられるので、魅力を感じるのかもしれませんね。


北林:とはいえ、日本の市場は無視できないという声をスタートアップからよく聞きますよ。ただ、独特の文化があり安全性にも厳しいので、なんでもすぐデジタル化できるわけではないという状況です。

市川:やはり設計や施工といったメインどころにARを導入するよりも、「あるとより便利」というようなソリューションの方が受け入れやすいですね。

――私たちが取材する中では、国や県はICTに積極的になっている一方で、市町村は腰が重いという印象があります。とはいいつつも、労働人口の減少は待ったなしの状況ですから、解決できるのは新しいテクノロジーしかないのではと感じています。

市川:人手不足を補うために新しいテクノロジーを入れたいというご要望は、ゼネコン各社様から多く寄せられています。建築現場では、気候や場所など危険な環境で働かれている方が少なくありません。作業現場を画像で撮って解析し、アラートを出すといったAIは需要が高まっていますね。


私たちはSIerとして、ただお客様に言われたものだけを用意するのではなく、スタートアップと手を組むことで満足度の高いソリューションを提供するというのを一つの武器にしているのです。

北林:スタートアップから見て、日本の建設業界は難しいけれどもチャレンジする価値のある、魅力的な市場のようです。


二人三脚で海外スタートアップの日本進出をサポート


――現地のスタートアップにはどのようにアプローチしていくのですか?

北林:海外のスタートアップと日本初の再販契約を結ぶですとか、初の日本進出をサポートするケースが多いんですね。海外の展示会でもブースの規模が大きくなかったり、2、3名のスタッフで対応しているようなスタートアップをしらみつぶしに見て回るようにしています。


私は新型コロナウイルス感染症が拡大する直前に赴任したのですが、いまも基本的に、初回の訪問はオンラインですね。スタートアップ側はいつも誰かがオフィスにいる状態ではないので。

――そうなると、カンファレンスや展示会は新しいテクノロジーを仕入れる場でもありつつ、人となりを見る貴重な場となっているのですね。

北林:そうですね。対面でのイベントごとに対する思い入れは強まっていると感じます。去年までは、オンラインと対面のハイブリッド形式で開催されていたイベントが多かったのですが、今年は対面での開催が多くなりそうなので、参加者の期待は高まっているのではないでしょうか。

――そもそも「スタートアップを発掘する」という方針を取っているのはなぜなのでしょうか?

市川:海外スタートアップを日本に持ってくることを私たちは長年やっていますが、それほど簡単ではないんです。

スピード感が必要でありながら、スタートアップでは商材の開発体制や人財が整っていないこともよくあります。だから私たちは「海外スタートアップの日本法人になる」という気概でサポートしているんです。


――アライアンス先を選定するにあたり明確な基準はあるのですか?

市川:そうですね。もちろん、建設テックなら何でもいいわけではありません。取り扱う基準は設けていまして、一例としては、SaaSで受け入れ可能な商材ですね。

理由としては、事業化する際に体制が整えやすいのと、リスクが比較的少ないためです。ハードウェアの場合、ジャンルにもよりますが、例えば、センサーであればメンテナンスの手間がかかります。


また、生産を海外に頼ることになり、そうすると近年の不安定な世界情勢の中で流通に乗せるまでに大きなリスクがともないます。

――長年蓄積されたノウハウと得意分野を活かしているのですね。日立ソリューションズのリエゾン活動に関して、今後のロードマップを教えてください。

市川:建設テックに関しては当面、積極的に取り組んでいく予定です。「Web3.0」のような大きなトレンドワードが、何年かごとに出てきますが、新しいテクノロジーの中に建設業界で応用させられそうなものがあれば、どんどん提案していきたいですね。


例えば社員を管理するためのソリューションがあったとして、現場作業員の管理にも使えそうだとか。柔軟な発想でお客さまのニーズにお応えしていきたいと考えています。



【編集部 後記】

日本の建設業界の状況をかんがみて、DX化を推進するような建設テックのラインナップに尽力している日立ソリューションズ。新型コロナウイルス感染拡大の影響に苦心しながらも、安心して使える便利なソリューションを世界中から発掘している。

本記事(前編)ではアライアンスを取るまでの流れをうかがったが、次回記事(後編)では、契約を結ぶまでのスタートアップ企業とのやりとりや、同社が注目する最新の建設テックについても紹介していただく。

株式会社日立ソリューションズ
東京都品川区東品川四丁目12-7
HP:https://www.hitachi-solutions.co.jp/



◎撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン編集部 / 文:三浦るり /撮影:砂田耕希
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WRITTEN by

三浦 るり

2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。

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