3Dプリンタの開発を手がけるスタートアップ「Polyuse(ポリウス)」と高知県の建設会社「入交建設」が連携し、3Dプリンタ製の集水桝(水路に流れる水を受け止める構造物)を造形。
現場は、国土交通省の土佐国道事務所が管轄し、高知県安芸市で進められている国道55号南国安芸道路の改良工事で、2022年1月に現地に3Dプリンタで作られた集水桝が設置された。
実は、国内の公共工事で3Dプリンタを活用して構造物が製作されたのは今回が初めて。本記事では、2022年2月25日に開催された現場見学会の様子をレポートする。
高知県安芸市の道路工事の現場に、マスコミをはじめ、建設業界の関係者などが数多く集まる中、現場見学会がスタート。まずは、発注元である国土交通省の土佐国道事務所所長 岡本雅之氏が挨拶し、今回のプロジェクトの背景ついて言及した。
「入交建設とPolyuseから、“3Dプリンタによる土木構造物を国内初でつくってみませんか”とご提案いただいた。建設業界は深刻な人手不足の中、3DプリンタのようなITの力で、誰でも熟練工と同じような仕事ができる環境をつくることが大切。これからも、発注者の我々と建設会社、技術開発者などが連携して、すばらしい建設業界に変えていきたい」と、岡本氏は語る。
次に、本工事を請け負う入交建設の土木部工事課長 石川淳氏が登壇し、3Dプリンタを導入した背景を説明。
「新しい技術や魅力ある技術で、若者がワクワクする仕事にしなくてはいけない。そんな中、型枠がなくてもコンクリート構造物を作れて必要な職人さんの数を減らせる3Dプリンタに出会い、“これは絶対使ってみたい”と思った。3Dプリンタはすばらしい技術。未来に向かって進化しようと採用を決めた」と、業界のイメージ刷新に力を入れる。
そして、株式会社PolyuseのCOOで高知県出身の大岡航氏、同社のCTOとして技術部門を統括する松下将士氏、材料開発や本プロジェクトの管理を担う鎌田太陽氏(材料部門研究開発責任者)が登壇し、3Dプリンタの技術や概要を説明。
鎌田氏は「現場の方からのフィードバックや、行政の方からの意見をいただけると、3Dプリンタ技術をより広げるきっかけになるのではないかと」と、今後の展開に期待を寄せた。また、大岡氏が今回のプロジェクトの効果について言及。実際のデータから検証した結果、3Dプリンタ施工を導入したことで、「工期も人員も短縮につながっている」と言う。
従来のように型枠の組立てが必要な集水桝の施工は、「型枠組立(2〜3日)→コンクリート打設(1日)→養生(2〜3日)→据付(1日)」の流れで合計6日〜8日の工期を要するが、3Dプリンタ施工では「印刷造形(1日)→養生(1日)→据付(1日)」と合計3日へと短縮。
施工人数についても、従来の施工では型枠職人やコンクリート打設職人などの熟練技術者を含めて合計9人を要するが、3Dプリンタ施工では作業者の技術レベルを問わず合計4人までに短縮できたという。
そして、会場内では3Dプリンタで構造物をつくる実演がスタート。報道陣や建設業関係者など多くの人が間近で写真を撮り、機械が自動的に動いて構造物が作られる様子を興味深く凝視する姿が見られた。
さらにその後、実際に工事で据え付けられた集水桝を見学へ。現物の3Dプリンタ製集水桝を直に触ったり施工会社からのレクチャーを受けたりと、3Dプリンタ技術への理解を深めていった。
最後にPolyuseの3人が今回の取組みを振り返り、手応えや可能性についてこう話してくれた。
「今回の取組みでは、行政の方に、新しい技術を認めて改善点などを意見するのも発注者側の役目だとポジティブに捉えていただいた」(大岡氏)。
「本現場説明会には想像以上にいろいろな方が来てくれて、“こういう技術に触れられる機会はなかったので面白い”と感じていただけたようだ。今はモルタルを材料にしているが、高知県はコンクリートの専門家が多いため、3Dプリンタ用のコンクリートがどんどん開発されていっても面白いのではないかと」(大岡氏)
「前回の広島での3Dプリンタでの実証実験(デジコンのリポート記事もご覧ください:https://digital-construction.jp/column/318)をきっかけに、実演して多くの方に見てもらうことで、“こういうことができる”というイメージを持ってもらえるようになった。実際に“こうすればこんな構造物に使える”などの提案をいただくこともある。これからは現場間の声を吸い上げて開発に適応していきたい」(松下氏)
「3Dプリンタで印刷するためのデータを人力で入力する作業があるが、その部分を弊社のソフトウェアチームでバックアップするようにしていく。お客さんがより使いやすいように操作性に優れたインターフェースで、さらなる普及をめざしたい」(鎌田氏)
公共工事において国内で初めて3Dプリンタ施工が認められた、今回のプロジェクトの意義は大きい。エンジニアを増員し開発にますます力が入るPolyuse。
デジタル技術を取り入れて業界改革を進める入交建設。3Dプリンタが当たり前になり、多くの若手が建設業界で活躍する日が待ち遠しい。
入交建設 株式会社
高知県高知市南久保4−47
TEL: 088-855-4777
HP:http://www.iriken.co.jp/
株式会社 Polyuse
東京都港区浜松町2-2-15 浜松町ダイヤビル2F
HP:https://polyuse.xyz/
◎ 一部 撮影時のみマスクを外していただきました。
現場は、国土交通省の土佐国道事務所が管轄し、高知県安芸市で進められている国道55号南国安芸道路の改良工事で、2022年1月に現地に3Dプリンタで作られた集水桝が設置された。
実は、国内の公共工事で3Dプリンタを活用して構造物が製作されたのは今回が初めて。本記事では、2022年2月25日に開催された現場見学会の様子をレポートする。
行政と建設業者、スタートアップが連携
高知県安芸市の道路工事の現場に、マスコミをはじめ、建設業界の関係者などが数多く集まる中、現場見学会がスタート。まずは、発注元である国土交通省の土佐国道事務所所長 岡本雅之氏が挨拶し、今回のプロジェクトの背景ついて言及した。
「入交建設とPolyuseから、“3Dプリンタによる土木構造物を国内初でつくってみませんか”とご提案いただいた。建設業界は深刻な人手不足の中、3DプリンタのようなITの力で、誰でも熟練工と同じような仕事ができる環境をつくることが大切。これからも、発注者の我々と建設会社、技術開発者などが連携して、すばらしい建設業界に変えていきたい」と、岡本氏は語る。
次に、本工事を請け負う入交建設の土木部工事課長 石川淳氏が登壇し、3Dプリンタを導入した背景を説明。
「新しい技術や魅力ある技術で、若者がワクワクする仕事にしなくてはいけない。そんな中、型枠がなくてもコンクリート構造物を作れて必要な職人さんの数を減らせる3Dプリンタに出会い、“これは絶対使ってみたい”と思った。3Dプリンタはすばらしい技術。未来に向かって進化しようと採用を決めた」と、業界のイメージ刷新に力を入れる。
3Dプリンタの導入効果を検証。生産性向上へ
そして、株式会社PolyuseのCOOで高知県出身の大岡航氏、同社のCTOとして技術部門を統括する松下将士氏、材料開発や本プロジェクトの管理を担う鎌田太陽氏(材料部門研究開発責任者)が登壇し、3Dプリンタの技術や概要を説明。
3Dプリンタ技術の詳細はPolyuseの取材記事へ:
『建設用3Dプリンターを牽引する「Polyuse」。地道に泥くさく開発を進めるその先に、彼らが見据えるのは、人とテクノロジーが共存する、わくわくする未来だった』
『建設用3Dプリンターを牽引する「Polyuse」。地道に泥くさく開発を進めるその先に、彼らが見据えるのは、人とテクノロジーが共存する、わくわくする未来だった』
鎌田氏は「現場の方からのフィードバックや、行政の方からの意見をいただけると、3Dプリンタ技術をより広げるきっかけになるのではないかと」と、今後の展開に期待を寄せた。また、大岡氏が今回のプロジェクトの効果について言及。実際のデータから検証した結果、3Dプリンタ施工を導入したことで、「工期も人員も短縮につながっている」と言う。
従来のように型枠の組立てが必要な集水桝の施工は、「型枠組立(2〜3日)→コンクリート打設(1日)→養生(2〜3日)→据付(1日)」の流れで合計6日〜8日の工期を要するが、3Dプリンタ施工では「印刷造形(1日)→養生(1日)→据付(1日)」と合計3日へと短縮。
施工人数についても、従来の施工では型枠職人やコンクリート打設職人などの熟練技術者を含めて合計9人を要するが、3Dプリンタ施工では作業者の技術レベルを問わず合計4人までに短縮できたという。
そして、会場内では3Dプリンタで構造物をつくる実演がスタート。報道陣や建設業関係者など多くの人が間近で写真を撮り、機械が自動的に動いて構造物が作られる様子を興味深く凝視する姿が見られた。
さらにその後、実際に工事で据え付けられた集水桝を見学へ。現物の3Dプリンタ製集水桝を直に触ったり施工会社からのレクチャーを受けたりと、3Dプリンタ技術への理解を深めていった。
建設用3Dプリンタ開発の未来
最後にPolyuseの3人が今回の取組みを振り返り、手応えや可能性についてこう話してくれた。
「今回の取組みでは、行政の方に、新しい技術を認めて改善点などを意見するのも発注者側の役目だとポジティブに捉えていただいた」(大岡氏)。
「本現場説明会には想像以上にいろいろな方が来てくれて、“こういう技術に触れられる機会はなかったので面白い”と感じていただけたようだ。今はモルタルを材料にしているが、高知県はコンクリートの専門家が多いため、3Dプリンタ用のコンクリートがどんどん開発されていっても面白いのではないかと」(大岡氏)
「前回の広島での3Dプリンタでの実証実験(デジコンのリポート記事もご覧ください:https://digital-construction.jp/column/318)をきっかけに、実演して多くの方に見てもらうことで、“こういうことができる”というイメージを持ってもらえるようになった。実際に“こうすればこんな構造物に使える”などの提案をいただくこともある。これからは現場間の声を吸い上げて開発に適応していきたい」(松下氏)
「3Dプリンタで印刷するためのデータを人力で入力する作業があるが、その部分を弊社のソフトウェアチームでバックアップするようにしていく。お客さんがより使いやすいように操作性に優れたインターフェースで、さらなる普及をめざしたい」(鎌田氏)
公共工事において国内で初めて3Dプリンタ施工が認められた、今回のプロジェクトの意義は大きい。エンジニアを増員し開発にますます力が入るPolyuse。
デジタル技術を取り入れて業界改革を進める入交建設。3Dプリンタが当たり前になり、多くの若手が建設業界で活躍する日が待ち遠しい。
入交建設 株式会社
高知県高知市南久保4−47
TEL: 088-855-4777
HP:http://www.iriken.co.jp/
株式会社 Polyuse
東京都港区浜松町2-2-15 浜松町ダイヤビル2F
HP:https://polyuse.xyz/
◎ 一部 撮影時のみマスクを外していただきました。
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