コラム・特集
三浦 るり 2022.3.3

2030年実用化に向けて動き出す、NTTの『IOWN構想』とは?【前編】〜 光技術でインターネット世界を書き換える〜

通信最大手のNTTは、次世代コミュニケーションの基盤となる「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」の実用・普及を推進している。

IOWN構想の2030年ごろの実用化に向けて、2020年1月にはインテル、ソニーと共に「IOWN Global Forum」を設立。同フォーラムでは、各分野のパートナー企業と共に新しい技術を使用したフレームワーク、リファレンスデザインなどに取組む。

「これまでのインフラの限界を超え、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会の創造」を目指すというIOWN構想。具体的にどのような技術が用いられ、世の中をどのように変えていくのだろうか?土木・建設業界に及ぼす影響も気になるところだ。

今回はIOWN構想の推進に携わるNTT 研究企画部門 森 俊介氏(R&D推進担当 担当部長)、八木 毅氏(R&Dビジョン担当 担当部長)、三橋 慎氏(プロデュース担当 担当課長)、藤村 滋氏(プロデュース担当 担当課長)とNTTインフラネット SmartInfra推進部 高木 洋一郎氏(プラットフォーム戦略担当 担当部長)、 箱石 隆氏(ビジネスアライアンス担当 担当課長)の6名に話をうかがった。(以下、すべて敬称略)


次世代コミュニケーション基盤の構想


――まずは、「IOWN構想」とは何か?というところから聞かせてください。

森:IOWN構想を端的に表すイメージをまずはご理解いただきたいと思います。人が花を見るとき、左の黄色い花のようにその色鮮やかな姿を感じ取って「きれいだな」と眺めていますよね。一方で、ハチには花が右のように見えているのです。(蜜のある部分が強調された画像を示す)

  ハチが見ている花の姿(資料提供 NTT)

ハチの目的は蜜を探し出すことで、きれいな花が見たいわけじゃない。ハチの世界というのはこういうものなのです。我々も実は同じようなことが言えるのではないでしょうか?一人ひとり本当に必要としている情報は異なり、見ている世界はそれぞれ違うのではないかと。

NTT 研究企画部門 R&D推進 担当部長 森 俊介氏

生物それぞれが自らの感覚や身体を通して知覚する世界を“環世界”といいます。インターネットの世界においてそのような環境を提供したいと私たちは考えているのです。

旧来のインターネットにはそれを実現できる性能はありません。広告主や情報の作成者がテキストや画像・映像を作り、発信するという構造です。この構造を一変させて、誰もがありのままの情報を扱えるようになり、人それぞれに欲しい情報を受け取ることができるようにネットワークを進化させていきたいのです。

――それぞれが目的に合わせて欲しい情報を手に入れられる環境というのがポイントなんですね。ところでネットワークを進化させるとは、どのように?

八木:どのような進化が必要かというのは、現在のインターネットが抱える課題と密接に関係しています。

NTT 研究企画部門 R&Dビジョン 担当部長 八木 毅氏

インターネット上で行き交うデータ量は年々増え続けており、既存の情報通信システムでは情報の伝送能力と処理能力の双方に限界が訪れています。情報処理に使われる電力も増える一方で世界的な問題になっています。

電力の増大、コンピューティング基盤の限界(資料提供 NTT)

また、半導体技術の進化するペースを表す「ムーアの法則」がありますが、近年では動作周波数や電力消費の制約が壁となり、半導体技術の進化は限界に達しつつあることがわかってきました。これまでの延長では、私たちの考える“ありのままの情報を扱える“インターネットの世界は実現できそうにない。そこで、これを解決する手立てとして“光”を今まで以上に活用するのが良いのではないか、と考えました。

――“光”を活用するとは、どういうことですか?

八木
:プロセッサレベルまで含めた光技術による通信です。ゆくゆくはすべての通信を光で行えるようにしていきたいと考えています。


従来のインターネットの通信はIPネットワークといって情報を送るときに電気信号に変換していました。情報をいったん細分化し、中継路上で宛先ごとに振り分ける処理を経てまた元の形に戻す手間があるため、送るのに時間がかかり電力消費も多かったのです。光のネットワークになると通信相手と専用の光パスで接続され、広帯域かつリアルタイムで通信できるようになるでしょう。すべて光(フォトニクス)のネットワークでつなぐことを、「オールフォトニクス・ネットワーク」と私たちは呼んでいます。


オールフォトニクス・ネットワークをコントロールしていき、すべてのICTリソースの最適な調和を目指す「コグニティブ・ファウンデーション」、そして実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」。IOWN構想はこういった要素から成り立っています。


情報通信システムに、大きな変革を


――オールフォトニクス・ネットワークについて詳しく教えていただけますか?

八木:いわばネットワーク、端末、伝送装置のすべてを光でつなぐということです。

森:通信の進化を例にするとわかりやすいかもしれません。電話の初期の方式というのは、音声をマイクで集音して電気信号に変え、銅線を使って送っていました。ただ、その電気信号は銅線の中で劣化しやすい。そこで、劣化した信号をNTTが増幅装置を使って復活させて届けていました。遠方と電話する時などは何度も信号を復活させるので声が届くまで時間がかかりますし音質もノイジーになっていました。


それで、その電気信号をデジタル信号に変えようと誕生した技術がISDNです。デジタルでは音声を0・1の情報に変換します。その情報が届きさえすれば復号したときにきれいな音声になるので。とはいえ、デジタル信号では届けられる情報量に限界がある。

より速く、大容量を届けたいという需要の高まりに対し、次に開発されたのが光ファイバーです。光は1秒間に地球を7周半するほど速く、劣化も少ないので遠くに届く。光ファイバーという器にピカッと光を閉じ込めるときだけエネルギーを使うので、消費電力は大幅に削減できます。

――光の技術を用いたことで通信の質も速度も各段に向上し、消費電力も抑えられるようになったのですね。

八木:端末間の通信だけでなく、コンピュータなどデバイスの内部でも光を活用していきます。

――今まで伝送だけだったのが、処理もやっていくということですか。

八木:今のところ通信というのは家の中では電波を使ったWi-Fiが使われ、家から外に出たところに光ファイバーが引かれています。それを個々の端末の中まで持ってくる、さらには端末の中のチップ間の伝送もすべて光の技術を使おうという考えです。そうすると究極の省エネになるんですね。


オールフォトニクス・ネットワークの研究開発では、電力効率を100倍に、伝送容量を125倍に、遅延を200分の1にするという性能目標を掲げています。


光トランジスタの開発


――現時点でのIOWN構想の進捗を教えてください。

八木:オールフォトニクス・ネットワークは、光技術による伝送とご紹介しましたが、電子技術による処理も欠かせないため、これらを融合させた“光電融合型”の処理というのを中心にIOWN構想を進めています。

2019年にNTTの研究所が世界初となる光トランジスタを実現しました。トランジスタとは、電気信号に制御信号を与えることで適切な形に出力できる変換装置のことです。信号を変換することはスイッチングと言います。光をスイッチングするいままでの装置は、とても大きなものでした。それが今回、光トランジスタの実現により、かなり小型化することができます。

光デバイスの進展(資料提供 NTT)

続いて、全光スイッチ、光理論ゲートといった装置の開発を経て、現在は直接変調レーザというものの開発に取組んでいます。これらはすべて光のネットワークを実現していくのに必要なパーツです。

――こういった装置を使ってコンピュータ内の処理を光で行っていくんですね。

八木:できる限り、ほぼすべて光でつなげたいという構想を少しずつ実現させています。


光でつながった後の世界


―― 先ほどオールフォトニクス・ネットワークが整備されると広帯域でもほぼリアルタイムで情報を送受信できるとおっしゃっていましたね。

八木:そうです。通信の遅延の解消レベルは「世界が変わる」と感じるほどだと、さまざまな分野の技術者から評価いただいています。

オールフォトニクス・ネットワークになると国内はもちろん、世界のどこにいてもほとんどタイムラグなしに音声を受け取れるようになります。これにより交通情報などリアルタイム性が非常に重要な分野にもさまざまなサービスを提供できる基盤ができるでしょう。


こういった世界を実現できた際に想定しているポイントが2つあります。ひとつは、「データセントリック」という考え方です。これまではすべてのデータをクラウドにアップロードして処理していましたが、データの使い方によっては身近なところでデータを処理した方がいい、と考えたのが「データハブ」です。

データは分散データノードに蓄積されるとともに、データを処理する際に、処理に必要なデータが処理ノードに転送されます。これによりデータの最適な処理と高速転送が可能になります。

データセントリックとディスアグリゲーテッドコンピューティング(資料提供 NTT)

もうひとつが「ディスアグリゲーテッドコンピューティング」です。パソコンも似たような構造ですが、サーバにはインターフェースがあり、CPU、メモリ、ストレージが揃っています。CPUが指示を出して、メモリに一時的に情報をため、CPUが計算した結果の情報をストレージにためこんでいくという流れがありました。


CPUが電気信号でいちいち指示を出して動かしていたのですが、先ほどの光電融合デバイスを使えばサーバそれぞれにCPUやメモリが揃っている必要がなくなります。ある筐体にCPUがあり、別のところにメモリがあり、それを光でつなぐことであたかも一つのサーバ上に膨大なCPUやメモリが搭載されているような状況を作り出せるのです。処理能力が高まるのはもちろん、従来のサーバと比較して圧倒的に低消費電力、さらに必要なだけパーツを追加できるので使い勝手もよくなります。

――正直、とても難解ですが、徐々に光の凄さがわかってきました。

八木:続いては、オールフォトニクス・ネットワークが整備された後の情報の管理の仕方についてご紹介したいと思います。

情報の流通量が増えた時、適した使い方やリソースの管理が重要になってきます。それを集中管理するのが「コグニティブ・ファウンデーション」です。ICTリソースの配備や構成の最適化といったライフサイクルマネジメントを自動化・自律化することができるようになります。


そして、ユーザのみなさんにネットワークのサービスを届ける部分も大事ですね。アクセスネットワークというのですが、こちらのニーズも変化してきます。遠距離間を接続するネットワークがいいものであっても、みなさんにサービスを届けるアクセスネットワークがダメだと台無しですよね。ここでは、広帯域や低遅延は前提として、柔軟性・拡張性・信頼性もポイントになると考えています。

そこで「多段ループ」という手法を取ることにしました。ネットワークのループ(円)を複数作っておき、どこかで通信障害が発生したときに別のループを経由させて転送するのです。このようにして信頼性の高いアクセスネットワークを構築していきます。


次世代光アクセスネットワーク(資料提供 NTT)

無線アクセスネットワークに関しては、実証実験を行っている事例があります。北海道大学と岩見沢市そしてNTTグループの連携プロジェクトでは、遠隔監視下での農機自動走行に関する研究・技術開発等を進めています。田んぼと田んぼを移動する間に、異なる無線ネットワークがまたがっても、トラクタを安心・安全に遠隔監視でき、かつ自動制御も利かせるための技術の実証実験を行っております。

八木:ネットワークに関する話の最後に、光ファイバー自体をセンサーとして使う構想をご紹介します。あちこちに光ファイバーを張り巡らせておくと、何かあったときに振動やひずみ、温度、損失などの変化を感知するセンサーになり得るんですね。

センサーでキャッチした情報から周辺環境を推定したデータをさまざまな社会サービスに活用していきたいと考えています。

――光のネットワークが整備されると通信性能が向上するだけでなく、これまでにない情報を扱えるようになるのですね。こういった光技術の研究開発に取り組んでいるのはNTTだけなのですか?

八木:ほかにも国内外問わず、大学の研究機関などでも研究は進められています。NTTとしても重要な技術分野だと考えており、実用化を目指して研究開発に取り組んでおります。

――世の中の見え方が変わる、技術によって見えていなかった世界が見えるようになっていくのですね。

森:IOWN構想では世の中にあふれるあらゆるデータをすべて集め、目的に応じてベストな手段を自由に選べるようになることを目指しています。

そのような状況を叶えるにはもちろん、それだけのコンピュータの処理能力が必要になってくるんですけども。それが実現できれば、全く新しい世界を作ることができるでしょう。


【編集部 後記】
インターネット内の情報流通量の増加、通信データ量の増加、そしてそれに伴う消費電力量の増加といった通信を取り巻く課題は光技術がブレイクスルーできると考える、NTT。IOWN構想では情報通信システムの変革によって、現状のICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現を目指すという。新たな情報通信基盤については【後編】で詳しく紹介する。


日本電信電話株式会社(NTT)
東京都千代田区大手町一丁目5番1号
HP:https://group.ntt/jp/

特設サイト:「IOWNってなあに?


◎撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン編集部 / 文:三浦 るり/写真:宇佐美 亮
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WRITTEN by

三浦 るり

2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。

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