コラム・特集
高橋 奈那 2024.2.21

「社員の半分は10代、20代」。働く楽しさを “岩手県”から発信する「小田島組」の“人の可能性を見つけ、育てる” 組織づくりとは

岩手県に本社を構える建設会社「小田島組(おだしまぐみ)」は、昭和45年の創業以来、地元の土木・建設事業を担ってきた。

一方で、今年(2021)幕張メッセで開催された建設・測量生産性向上展「CSPI-EXPO 2021」でも注目を集めた施工写真管理サービス『カエレル』の開発も手がけている。

そんな同社、社員構成を聞けば、おそらく誰もが驚くだろう。2021年現在の社員数は150名を越え、そのうちの90名、つまり半数以上が10〜20代の若手社員なのだとか。現在も積極的に新卒採用を行い、次年度(2022年度)にも23名の新卒社員の入社が見込まれているそうだ。


異色の建設会社の全容を探るべく、デジコン編集部は岩手県・北上市にある小田島組 本社に向かった。到着してまず驚いたのが、同社のオフィスだ。スタイリッシュで開放感のある空間。お揃いのTシャツを着て働く社員たち。しかもみんな若い。まるで都内のスタートアップ企業のようだ。とても建設会社とは思えない。

編集部が面食らっていると、同社代表の小田島 直樹氏(以下、敬称略)が出迎えてくれた。早速、私たちは小田島代表に同社の取組みについて、前のめりで話を聞いた。


赤字経営から生まれた、新しい小田島組


ーー まず小田島組の事業内容についてお聞きします。建設会社の働き方改革をサポートする施工写真管理サービス『カエレル』をリリースされていますが、小田島組は、そもそも建設会社なのですよね?

小田島:小田島組の主要事業は、今も昔も建設事業です。1970年に父である小田島敏夫がこの会社を創業し、これまで国や岩手県、北上市から受注した公共事業を中心に、土木・建設の施工に携わってきました。

株式会社小田島組  代表取締役社長 小田島 直樹氏

私が社長に就任した2003年は、土木・建設業界は不況の煽りで景気も右肩下がりになり、岩手県の産業も同じく不況の真っ只中で……。どうにかみんなで力を合わせ、耐え抜こうという世の中でしたね。ところが当時の私は、会社の将来よりも、同業者や地元の経営者グループと親交を深めることばかりを優先していたんです……。

ーー小田島代表が変わるキッカケは、なんだったのでしょうか?

小田島:転機となったのは、社長に就任して数年後のことです。「なんとかなるだろう」と気楽に構えていたものの、業績は悪化の一途をたどり、ついに赤字を出すまでに落ち込みました。このままでは会社を潰してしまうかもしれないと、本気で焦ったとき、初めて社員一人ひとりの生活を案じました。


これまでは外面ばかり気にして、社員と真摯に向き合ってこなかった自分に気がついたんです……。そこからは、なんとか業績を立て直そうと一念発起。同業者や地元経営者との馴れ合いを断ち、がむしゃらに働きました。そして数年後、ようやく売上が回復してきた頃でしょうか。ふと、「財産」について考えたんです。もちろんお金は財産です。しかし、いくら収益を上げても私の幸福度は上がらなかったんですよ……。


それよりも、次代を担う若者の成長をサポートする方が、何倍も魅力的だと感じたのです。そう、自分にとって財産とは「人を育てることだ」という、人生の答えにたどり着いたんです。そこから覚悟を決めて、学生の新卒採用を本格的にスタートさせていきました。

すべては、若手に活躍の場を与えるために。自社サービスすらも生み出していく。


ーー 現在に至るまで、社員数はかなり増えたのではないですか?

小田島:中途も含め積極的に採用活動を続け、当時は35名だった社員も、いまでは150名。そのうち90名が10~20代の若手社員です。来年も23名の高卒・大卒社員が入社する予定です。

ーー 半数以上が若手社員とは驚きです。しかし、経験の浅い社員が現場で行えることは限られていますよね。若手社員はどのような業務を担当しているんですか?

小田島:当然、高校や大学を卒業したばかりの彼ら・彼女らに、熟練作業員のようなスキルはありません。しかし業務の一部であれば、任せることはできるはずです。一連の業務を細分化してみると判ってきます。その中には、わざわざ現場に入る必要がないものや、ITスキルさえあればこなせる業務があるんですよ。若手にはまず、そういった部分だけを担当してもらえば充分。そう考えました。


この発想のキッカケをくれたのが、新卒採用を始めたばかりの頃に入社してくれた女性社員たちです。当時、高卒の女性採用は初めてでしたから、「彼女たちには何を任せればよいだろう?」と悩みました。そして、いろいろ逡巡した末に、施工プロセスの中でも「写真管理」であれば、未経験の彼女たちでも任せられると気づいたんです。そしてこのアイデアが起点となり施工写真整理サービス『カエレル』が生まれました。

CSPI-EXPO 2021 小田島組展示ブースの様子

『カエレル』は、施工現場で撮影される写真の整理・管理を遠隔で代行するサービスです。撮影した現場写真をサーバーにアップロードすれば、整理・管理業務は当社のスタッフが代行いたします。工期中は、バックオフィススタッフを派遣するかのように、密にサポートさせていただきます。自社の課題を解決するために生まれたサービスですが、今では、岩手県の内外に関わらず、多くの施工会社様にご利用いただいています。

カエレルのサービス概要/小田島組プレスリリースより 

ーー 若手社員を育て、伸ばすために、できる業務を見つけてチャンスを与える。言うのは簡単ですが、売上げを出し続けなければいけないビジネスの現場で、それを実践されているのは、単純に驚きました。小田島代表がそこまでされる理由を、もう少し聞かせてください。

小田島:建設業界の課題が山積している現状を、そのまま次の世代に渡すことは、私のポリシーとは大きく異なるからです。岩手県で若者の雇用を生み出し、女性が活躍できる環境を整えることは、社会全体で取組むべき課題でもあるでしょう。


これまで日本は男性優位の社会でしたし、女性たちは今でもその名残の中で闘っています。特に土木・建設業は、体力勝負の現場仕事が多いですから、肉体的に男性優位である事実は、そう簡単には覆りません。向上心や実力をもつ女性たちが、スタート地点で否定されているのが現状です。しかし、よくよく業務を見直せば、身体的ハンデを伴わない仕事がたくさんあるんですよ。現に『カエレル』には、性別も体力の有無も関係ありません。

ーー なるほど。改革前と後では小田島組の組織体制も大きく変化したと思うのですが、現在の編成はどのようになっていますか?

小田島:施工を担当している「工務部」、公共工事の入札などを行う「営業部」。「総務・経理部」、そして「カエレル部」と「ブランディング部」の合計5つの部署に分かれて業務を推進しています。カエレル以外にも、当社では新技術の導入や新しい働き方を積極的に取り入れています。



ほんの一部をご紹介すると、工務部ではICTを活用した測量や施工を行っていますし、ブランディング部は、Web広告代理店のような業務を行っています。会社案内や『カエレル』用の販促ツールのデザイン、SNSの運用やWeb広告の企画・プランニングなど、さまざまなクリエイティブをこの部署が生み出しています。新社屋の『O2』というコンセプトも、当部署が考えたものなんです。



『O2(キタカミオーツー)』から、地方ならではの価値を生み出していく


ーー 建設会社の枠を越えた部署がたくさんありますね。2020年2月に移転した本社ビル『O2(キタカミオーツー)』について、教えてください。

小田島:生きるために酸素が必要なように、学びとは働くうえで欠かすことのできないものです。そこで、『学び』をコンセプトとする新社屋を設けました。



1Fのエントランススペースは一般開放しており、地域の方にも自由に使っていただけるようにしています。近所の高校生たちが下校時間になると、フラッと立ち寄ってくれるんですよ。自習をしたり友達と談笑したりと、みんな思い思いに過ごしています。当社のスタッフの提案で、無料のWi-Fiも完備しました。

ーー 学生たちにとって、快適な空間でしょうね。将来の採用につなげるという狙いもあるのでしょうか?

小田島:就職先として小田島組を選んでもらえるのであれば、それはとても嬉しいです。でも一番の理由は、子どもたちに大人たちの働く姿を、間近で見てもらえる場所を作りたかったんです。

例えば、中学生や高校生たちに「“働く”という言葉からどんなイメージを連想する?」と質問を投げかけたらどうでしょう?おそらく「生きるため」「家族を養うために」とか、「ストレス」「憂鬱」とか、あまり良い返答がもらえないような気がするんですよね(笑)。


もちろん私たちだって、毎日楽しいことやハッピーなことばかりではありません(笑)。利益を出すために、いまだに胃をキリキリさせる時だってありますし、社員のみんなだって、課題や問題を乗り越えるために、必死なことも多いです。


でも少なくとも小田島組のメンバーは、どんなに困難なことがあっても前向きに行動しています。そしてその困難を突破した先の歓びを知っているメンバーがほとんどです。

ーー「苦」を知っているからこそ「歓び」がわかると。

小田島:そうです。本来、仕事とは食べるため、生きるためだけのものではなく、自分の理想を成すための“いち手段”であるはずです。だからこそ、働く大人たちの姿を学生たちにも見てもらって、何かを感じ取ってもらえたらなと。


ーー さまざまなセミナーやスクールを一般向けに開催しているのも、そういった想いからですか?

小田島:はい。社内研修を目的とした勉強会『O2カレッジ』では、測量や3D CADソフトの操作方法といった建設業向けの研修を扱っており、一般からの参加も受け付けています。


また、労務局の認定を受けた重機資格教習所『きたかみトレーニングセンター』では、建設業の方を広く受け入れ、スキルアップをサポートしています。ほかにも、フラダンス教室やオンラインゲームの集いなど、建設業とはまったく関係のないスクールもたくさん開講しています。


ーー 型に縛られない『学び』を提供されているのですね。通常業務と併行して地域に対して開かれた場所を提供する。これも多大な労力がかりますよね。活動の原動力となっているものは何なのでしょうか?

小田島:小田島組が目指しているのは、“東京に負けない企業”になることです。旧態依然とした働き方を続ける限り、岩手県はいつまでたっても地方扱いのままです。働く場所として魅力を感じられず、若いみなさんはこの街を離れてしまうでしょう。


東京と同レベルにするためには、生産性を上げ、給与水準を引き上げていく必要があります。時間をかけて取組んできた採用活動や新事業は、すべてこのためです。会社も私自身も、岩手県に育ててもらった恩がありますから、仕事で恩を返し、岩手県北上市を、若い世代が誇れる魅力ある街に育てていきたいんです。

理想は、当社のような企業が北上市、そして岩手県に増えていくことです。これまではどれだけ多く収益を上げるかを重視してきましたが、これからはいかに社員やその家族に喜んでもらえるか。そして若者にとって魅力ある会社になれるかを、地元企業さんたちと競い合っていきたい。同じ思想を持つ企業が30社集まれば、北上市に新しい文脈の競争や価値観が生まれますよ。この街は間違いなく“岩手の最先端”となり、地方の希望になるでしょう。


小田島組は、北上市や岩手県を魅力ある地域にするための最初の一歩を踏み出す、ファーストペンギンです。今はまだ珍しい存在かもしれませんが、小田島組の働き方が、岩手県のスタンダードになる未来を目指して、全力で挑戦をつづけていきますよ。


【編集部 後記】

読者のみなさんには、小田島組の取組みがどのように映っただろうか。もしかしたら、「面白い会社だけど、うちには無理だな」「変わったことをしているな」と捉えた方もいるかもしれない。

しかし、素敵なオフィス空間も、若手の積極雇用も、SNSでの発信も。一つひとつの取組にはそれを行うための確固たる理由があり、インタビュー中、終始笑顔で対応してくれた小田島代表のその目からは、「地元・岩手県を魅力ある地域にしていく」「若い人たちにたくさんのチャンスを与えたい」といった気概も感じられた。

「特異な会社」「ユニークな会社」と一言で片付けてしまうのは簡単だが、少なくともこれからの時代、小田島組のような建設会社が増えていかなければ、業界全体が明るい方向へと変わっていくのは、難しいのではないだろうか。



株式会社 小田島組
住所:岩手県北上市藤沢20地割35
[HP]:http://www.odashima.co.jp/
[Twitter]@odapin_official
[Instagram]@odashima_official
YouTube株式会社 小田島組 公式チャンネル





取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋奈那 / 写真:宇佐美亮
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WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。

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