コラム・特集
角田 憲 2021.1.12

【OPTiM INNOVATION 2020 レポートvol.3】 〜ランドログが描く建設業界の未来〜

すぐに活用できるAIIoTソリューションや、AI・IoTの最新活用事例を紹介するオンラインイベント「OPTiM INNOVATION 2020」(株式会社オプティム主催)。

本年は「今、感染拡大を防ぎながら、経済活動を活発化させるためにAI・IoTができること」をテーマに、2020年10月26日(月)、27日(火)の2日間にわたって開催された。

本記事では27日(火)に配信された「ランドログが描く建設業界の未来」の様子をお伝えする。本ウェビナーは2部構成となっており、前半、株式会社ランドログ(以下、ランドログ)代表取締役の井川甲作氏が登壇しランドログの成り立ちから、ランドログがもたらすソリューションについてなど、後半では株式会社ランドログマーケティング(以下、ランドログマーケティング)の岡安一将氏が、ランドログマーケティングのミッションなどについて語った。

IoTオープンプラットフォーム「Landlog」

 
株式会社ランドログ 代表取締役 井川甲作氏

世界初のコト化オープンプラットフォームとして、今、建設業界で注目集めている「Landlog」。建設土木を中心とした様々なデータを収集、蓄積し、APIを通して使いやすい形でアプリケーションに提供している。

その「Landlog」を運営しているのが、株式会社小松製作所(以下、コマツ)、株式会社NTTドコモ、SAPジャパン株式会社、株式会社オプティム(以下、オプティム)の4社により設立されたランドログだ。


データや技術をオープンにすることのメリットを最大限に活かしてソリューションを提供している同社だが、その元々のアイデアはコマツによるものだという。

技術の共有とオープンイノベーション


建設業界では、ここ何年もの間、担い手不足が問題となっており、少子高齢化が加速するこれからの日本においては、生産性向上が解決の鍵になっていることは間違いない。そこでコマツは2013年頃から建機の進化、いわゆるICT建機によってこの問題に取り組んでいる。ICT建機を活用した作業は、状況次第で2倍以上の施工スピードになることもあるという。


しかし現場には資材や、掘削した土を運ぶ作業、コンクリートの打ち込み作業など、それぞれ異なる作業があり、当然、建機以外にも様々なヒト、モノがある。つまり全体のプロセスの中で、ICT建機を活用できる作業はほんの一部しかなく、工事全体が効率化されているとは言い難い。


そういった現実を受け止め、2015年スマートコンストラクションを開始。そこでは工事の前段階である、調査測量、設計などの3次元データを蓄積、活用し、効率的な施工を提案するアプリケーションを開発している。まだ発展途上ではあるが、すでに10,000以上の現場で利用されている。


そして、そこで培った技術やノウハウを、コマツだけで囲ってしまうのではなく、建設業に関係する他の事業者にも提供するべきだ、という考えから、2017年にランドログが設立された。


「現場」の全てをデジタル化、そして可視化するために、環境、地形、ヒト、モノなどのデータを日々、収集、蓄積しているとのことだ。


またパートナー企業とのオープンイノベーションも積極的に行っている。リアルタイムで生コンの打ち込み量を確認できたり、山奥など電波の届き難い場所でも、バケツリレーの要領で、「Landlog」へデータを送信するソリューションが、動画も交えて紹介された。

全建機ICT化への夢と壁


KOMATSU PC 200などの製品も登場し、ICT化が進んでいるように見える油圧ショベル。しかし実際に現場で使われている全油圧ショベルのうち、ICT化されているのはたったの2%ほどだと言われている。

確かに、油圧ショベルは10年以上稼働すると言われておりそう頻繁に買い替えるものではない。また、ICT化された油圧ショベルは通常製品よりも値段が高くなるため、買い替え時にすべてのお客様がICT化された製品に買い換えるわけではない。既存で販売されている後付けタイプのICTキットもあるが、700万円以上するものが多く、中古の油圧ショベルが500万円前後で購入できることを考えると足踏みしてしまうのも肯ける。

つまり採算の取りやすい大規模現場ではICT化も進んでいるように見えるが、小中規模の現場では決してそうとは言えない。その問題を解決すべく、コマツとランドログが共同開発したソリューションが「スマートコンストラクション・レトロフィットキット(以下、レトロフィットキット)」だ。


この製品は、センサーを取り付けるだけで、通常の油圧ショベルをICT油圧ショベルに変えることができる。いわゆる後付けキットだが、先に述べたように既存の後付けキットは700万円以上することが多く、採算が合うことが少ないのだが、なんとこの「レトロフィットキット」は既存製品の数分の一程度の価格で販売されているとのこと。


世界中のセンサーメーカーと交渉し、安くて高性能なセンサーを調達することで、このコストパフォーマンスを実現することが可能になったという。以前は非常に高価だったIMU(慣性計測装置)などのセンサーが、自動車をはじめ様々なモノで、大量に使用されたことから、ここ何年かで急激に値下がりしていることも追い風になっている。

この価格帯であれば、すべての油圧ショベルがICT化されることも、決して夢物語ではないだろう。

ランドログマーケティングの使命


レトロフィットキットをはじめとした、DX(デジタルトランスフォーメーション)ツールは、様々な建設事業者に提供していく段階を迎えているが、ランドログには販売機能がない。そこでオプティムが、新たにランドログマーケティングを設立し、販売、マーケティングの部分で協業するという。


そして開発から販売までの一連のプロセスを用意することで、今後も建設業界に対して様々なソリューションを提供していきたいと目標を語り、井川氏の講演は終了した。

続いて、Q&Aコーナーを挟みランドログマーケティングの岡安一将氏が登壇。ICT活用工事の実施率が伸びないこと、大型現場でしか普及が進んでいかない現状、地方の中小企業では未経験な工事に足踏みをしてしまっていることなどの問題を取り上げた。

[画面右上]株式会社ランドログマーケティング 岡安一将氏

そして今後、130万人もの人材が不足すると言われている建設業界では、ICT技術の導入は必須の状況であり、ランドログデバイス販売、マーケティング、そしてオプティムのAI技術を積極的に活用することで、その課題解決に貢献していくことがランドログマーケティングに課せられたミッションだという。


ランドログマーケティングが展開する3つのソリューション


具体的には大きく分けて3つのソリューションに取り組んでいるという。まず「中小規模の現場でも導入しやすいデバイス」。これは先の井川氏も紹介した「レトロフィットキット」や、測量機器「スマートコンストラクション・ローバー」などコストパフォーマンスに優れた製品を提供し、低コストでのICT導入を支援するとのことだ。


次に「中小規模現場向け3D測量」として、タブレットで現場を撮影するだけで3D測量できるアプリケーション「OPTiM Geo Scan」。



特別な測量技術を持たない方でも簡単に高精度な3D測量ができることが特徴であり、まさに測量革命と呼ぶのに相応わしいソリューションだ。現場測量や土木測量で大いに活躍が期待される。残念ながら、まだ発売はされていないが、一日も早い正式発表に期待したいところだ。


そして「建設ICT導入サポート」。実際、デバイスやアプリケーションを購入しても、設定や取り付け自体が困難であったり、3Dデータの取扱いに慣れていなかったりする事業者も少なくない。そこで現在、全国各地に拡大している販売代理店に、メーカー認定技術者を配置し、取り付けや設定、データの活用までサポートしてくれる体制を構築しているそうだ。

またスマホやスマートグラスを活用した遠隔支援の用意もあるので、緊急のトラブルでも現場停止を最小限に食い止められることが期待できる。有料サポートは、プランを選択すできるため、将来的には社内にICT施工の技術者を育て内製化を進めることで、さらにランニングコストを抑えることができる。製品をできるだけ低価格に抑えていることと、プラン選択可能な有料サポートを組み合わせることで、無理なくICT技術を導入することが可能になるそうだ。


そして、建設ICTナレッジとして、建設ICTの最新情報を発信する当メディア「デジコン」についても言及。導入事例や基本知識など建設ICTを誰にでも理解して頂けるように、わかりやすく説明しており、事業者が読んで活用できるコンテンツになっていると紹介している。

新たなチャレンジの先にある、建設業界の未来


前後半合わせて約40分間、オープンプラットフォーム「Landlog」を中心に様々なソリューションを介して、それぞれの役割や今後の業界の展望が語られた。問題解決の根本を見据え、本当に必要な改革を進めていくため、今後も新たなチャレンジを繰り返し続けていくのだろう。建設ICTの未来を少しだけ垣間見た気がした。

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WRITTEN by

角田 憲

有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。

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