コラム・特集
高橋 奈那 2021.8.27

静岡県主催「3次元データ活用講座」&「OPTiM Geo Scan 測量体験会」に、デジコン編集部が参加してきました!

国交省では今年(令和3年)度よりi-Constructionの推進に伴い、新技術の取得・活用に向けた研究・教育体制の強化方針を発表している。そして、それに呼応するかのように各自治体、地方整備局、様々な民間団体や企業では、ICT土工に関する事業者向けセミナーを催している。

そこで本記事では、自治体が主催した講座の模様をお伝えしていく。

今回、デジコン編集部が訪れたのは、2021年6月21日(月)と6月22日(火)に静岡県建設技術監理センターにて開催された『3次元データ活用講座』(本記事では6月22日の模様を紹介)だ。


主催は静岡県が事務局をしている「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」で、同県は全国の自治体の中でもとくにi-Constructionの普及に力を入れていることで知られている。本講座に集まった受講者は、i-Constructionに関心がある、またはすでに取組んでいる地元・事業者らが主で、同時配信されたオンラインでの受講者においては県外の事業者の参加も目立った。


また当日は、株式会社オプティムによる測量アプリケーション「OPTiM Geo Scan」のプレゼンテーションと、実機を用いた体験会も行われた。


3次元モデル完成までの工程を、一つずつ丁寧に解説


本講座の講師を務めたのは、静岡県・伊豆の国市に拠を構える「株式会社正治組」だ。正治組は、i-Constructionが始まる2016年よりも前から、ICTを活用して業務効率化を図ろうと試行錯誤を重ねてきた企業で、以前デジコンでも紹介した大矢洋平氏は、正治組に在籍しながらもi-Construction普及のために、全国各地に出向き、ICTの活用・啓蒙のためのアドバイスやコンサルティングを積極的に行なっている。

株式会社 正治組 伊藤優貴氏

本講座では、3次元モデル作成に必要な実践的ノウハウを、実際にソフトを操作しながら学んでいった。解説および手ほどきをメインで行なっていったのは、正治組の伊藤優貴氏。


 
実は伊藤氏、異業種から正治組に転職。土木知識がほぼ皆無であったにも関わらず、入社わずか2年で、3次元測量や3次元設計データの作成を取得した期待の新人だ。また、測量業務で現場に立つ傍ら、静岡の「静岡県G空間情報センター」公開点群データを用いて、点群データとは何か?3次元測量とは?3次元設計データ作成方法などを、初心者ならではの視点でわかりやすく解説したYouTubeチャンネル「土木ゆっくり解説」も制作・公開している。


「SiTECH 3D」で3次元設計データを作成


では講座の内容を見ていこう。

参加者は伊藤氏の指導について、各自1台ずつ用意されたパソコン上で、ソフトウェアを駆使しながら、データを作成していく。作成したのは、法面崩壊対策工事に使用を想定した3次元モデルだ。県が独自に取得し、オープンデータVIRTUAL SHIZUOKA)として公開している3次元点群データが教材として提供された。


まず取り掛かったのは、株式会社建設システムが提供するソフトウェア「SiTECH 3D」を使っての3次元設計データの作成で、2次元で作られた設計図面を3次元の設計図面に起こしていく。


この「SiTECH 3D」、2次元の図面上から3次元施行データに使用する要素の抽出作業が、自動・半自動で行えるため、短時間で3次元図面を作成することができる。講義では、測定点ごとに座標を設定しながら、「平面線形→縦断線形→横断線形」と、順を追って立体的なデータを作成していった。伊藤氏による細かい解説とともに、ソフトウェアの操作画面がプロジェクターで投映されているため、非常にわかりやすい。


操作でつまずくことがあっても、教室内には正治組の大矢氏、同社の若手社員2名、そして、建設システムの社員の方がサポートスタッフとして巡回しているため、すぐに質問することができる。



 「スキャン・エックス」で3次元点群データをカンタン処理、分類


次に行ったのは、3次元点群データの処理、分類だ。
(※実際の業務フローは「3次元点群データの処理・分類」を最初に行うが、今回の講座では、より多くの時間を「3次元設計データ」の作成に注力するため、「SiTECH 3D」→「スキャン・エックス」の順で解説が行われた)


通常、測量で得られた点群情報は、そのままでは活用すること難しい。ICT施行などに使用するためには、大量の点群を目視・手作業で確認しながらゴミ処理を施したり、用途に合わせたファイル形式に書き出したりする必要がある。

そこで役立つのが、「スキャン・エックス」だ。

ソフトウェアに取り込んだ点群は、自動的に「地表面」「樹木」「建物」「ノイズ」などに分類される。これらのクラス分類は、自動化された独自アルゴリズムにより、たった数回のクリックで完了するため、点群のクリーニングに作業時間を大幅に省略することができる。


また、「スキャン・エックス」はクラウド上で提供されているため、オフラインで点群の処理をする際に必要になるハイスペックなパソコンを揃える必要もない。一般的なパソコンでもサクサク操作することができる点も、魅力の一つだろう。


今回使用した点群は山間部データだったため、樹木や建物といった不要な点群が多く含まれていたが、難なく点群処理、分類を終えることができた。


「TREND-POINT」での設計データと点群データの加工処理


最後に、これまで作成した設計データと加工処理を施した点群データを「TREND-POINT」(福井コンピュータ株式会社 提供ソフトウェア)に取り込み、3次元モデルを作成していく。


「TREND-POINT」は、点群データや設計データをもとに、多様な用途に合わせたフィルター加工処理ができるソフトウェア。土量を算出してヒートマップを作成したり、出来形管理にも活用することができる。今回は、現況データ(点群)と設計図(3次元設計図面)のデータを用いて、メッシュ方式で土量算出をし、盛土量と切土量の差異を求めた。


またこのパートでも正治組の大矢氏、同社の若手社員2名、そして福井コンピュータの社員の方が受講者のサポートに周っており、操作に追いつけなくなった受講者を熱心に指導している姿が印象的だった。






新時代の測量アプリケーション「OPTiM Geo Scan」の体験会も。


2時間弱の「3次元モデル作成講座」を終え、次に別室にて、株式会社オプティム ゼネラルマネージャー坂田 泰章氏による測量アプリケーション「OPTiM Geo Scan(以下、Geo Scan)」」のプレゼンテーションが行われた。

株式会社オプティム ゼネラルマネージャー坂田 泰章氏

Geo Scanは、iPhone 12 Pro / Pro MAXiもしくはiPad Pro 2020年(セルラーモデル)があれば、誰でも簡単にICT測量ができる画期的なソリューション。Geo Scanの特徴について坂田氏は、「3次元レーザースキャナーなどは高価格帯であるため、イニシャルコストがネックとなり導入に踏み切れない事業者が多かった。しかし、Geo Scanであれば高精度な3次元測量を、低価格で叶えられる」と語った。






Geo Scanのコンセプトは、「安い、早い、誰でも簡単に」。 アプリ利用料において「定額制(月契約/年契約)」を採用していることも、Geo Scan の大きな特徴と言えるだろう。アプリ利用料は1現場あたりに換算すると、、年契約で27,000円/月、月契約で36,400円/月という導入しやすい価格設定になっているのだ(最低3現場利用からが前提)。

またその操作性の高さについても、坂田氏は続けてこう言及した。

「Geo Scanでの測量には、3次元測量に必要な測定点の設置などの事前作業が不要で、測量現場の事前調査も、基本的には不要。従来は少なくとも2人以上で行う必要があった測量作業も、1人で完結できる。現場経験や測量知識のない新人社員でも、測量業務を任せることが可能だ」(坂田氏)。


Geo Scanの基本的な操作方法はこうだ。現場でiPhone(iPad Pro)をかざしてながら歩き、ディスプレイ上に表示されたAR上のGNSSレシーバをタップして緯度・経度情報を取得していく。これだけ。

対空標識を設置して定めていた「標定点」も、地面に置いたGNSSレシーバをAR上でタップするだけで、自動で緯度経度を読み込んで正確な座標を取得することができる。測量エリアを歩き回ったら、最後に精度誤差を測るための「検証点」を打ち込めば、計測作業は完了だ。そして計測完了と同時に、3次元モデル化も完了してしまう。


OPTiM Geo Scanの導入に前向きな声が多く寄せられた


教室内でのプレゼンテーション後には、実機体験の場が用意されていた。屋外に移動して、オプティム坂田氏にレクチャーを受けながら、受講者は実際にGeo Scanを操作。ふだん使用している測量器とは明らかに異なるiPhone(iPad Pro)での測量体験に、多くの方が前のめりで参加していた。




受講者の何人かに、Geo Scanを体験してみての率直な感想を聞いてみた。

Geo Scanを使えば、経験の浅い測量士補にも現場を任せることができそうだ。現在、自社で使っている測量器と比較しても断然に安価なので、前向きに検討したい。(建設会社勤務  現場監督職)

現場監督を務めるこちらの方は、Geo Scanの使いやすさに興味津々の様子だった。測量未経験者にとって、測量器の一連の操作を覚えるだけでもハードルが高い。しかし、Geo Scanであれば、いつも使っているiPhoneで測量が行えるため、極端な話、測量士や測量士補の資格がなくても、任せることができる。





トータルステーションの場合だと、数人がかりで行わなければいけない業務が、ここまでコンパクトかつ省人化できることに驚いた。精度も問題なさそうですね。 (建設コンサルタント会社勤務 営業担当)

自社の活用シーンを具体的にイメージしながら、オプティム坂田氏に質問する声もあった。大規模な公共事業を受注することが多いこちらの企業では、実務で利用できる精度であれば、ぜひ購入を検討したいと語っていた。Geo Scanでは、国交省が定めた誤差50mm以内の測量(出来形計測に使用できる高精度な測量)を担保している。






小規模な現場で、より強みを発揮するプロダクトだと感じました。普段の業務でUAV測量を行っていますが、Geo Scanであれば、UAVを飛ばす準備をしている間に、測量が終わってしまいそうですね。また、UAVが飛行できるエリアには限りがあるため、歩いて計測ができるGeo Scanの利便性は魅力的です。
(建設コンサルタント会社勤務  総務担当)

駐車場や広場といった比較的、小規模な舗装工事における測量業務でGeo Scanを活用できそうとのこと。コスト削減と測量精度の両立が、いかに現場から求められていたかを伺い知ることができた。


マニュアルを読み込んで理解する時間も、長期間の技術講習も不要。とにかく気軽に使える点が気に入りました。UAV測量の場合、入り組んだ地形では、思うように測量ができないケースもありますが、Geo Scanなら対応することができそうです。 (3D点群スキャンサービス会社 技術者)

こちらの参加者は、建設業ではなく製造業従事者を対象にVRを活用した検証サービスを提供している。しかし近年、土木・建設業からの問い合わせが増えているそうで、さまざまな環境下でも安定的かつスピーディに点群が取れるGeo Scanに、大きな関心を寄せていた。







講習やセミナーは、自社の課題に適したソリューションに出合う機会に


今回の「3次元データ活用講座」とGeo Scan体験会では、「この技術をどのように自社の業務に活用できるだろうか?」と具体的にイメージしながら講義に参加している事業者が多い印象を受けた。

ひと括りに「建設事業者」といっても、受注する工種や工事規模、機器導入に割けるコスト、さらには社員数や社員の技術力、年齢層など、企業によって事情は千差万別で、必要なソリューションも異なる。


「ICTを導入したいけれど、どんな技術やサービスを選んだらよいかわからない」。そんな悩みを抱える事業者の方々は、まずは自治体などのホームページをチェックして、ICTに関わる講習会がないか調べてみてはいかがだろうか。また昨今は、新型コロナの影響でオンラインでの開催も増えている。講習会やセミナーは、新たな気づきや自社に最適なソリューションに出合える良い機会になるかもしれない。







参考URL:
https://www.kentem.jp/product-service/sitech/
https://scanx.com/ja/
https://const.fukuicompu.co.jp/products/trendpoint/index.html



取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋 奈那 / 撮影:宇佐美 亮
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WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。

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