コラム・特集
平田 佳子 2021.10.4

鹿島建設による次世代建設生産システム「A⁴CSEL」。その開発までの道のり【前編】〜 建機の完全無人化は、夢ではなく実現すべき目標 〜

大手ゼネコン鹿島建設株式会社が生み出した、建設機械の自動化・無人化による次世代の建設生産システム「A⁴CSELクワッドアクセル)」。2015年に発表され、多くの建設現場に導入。最先端のITテクノロジーによる、生産性と安全性の飛躍的な向上に期待が高まっている。

この【前編】では、鹿島建設の技術研究所プリンシパル・ リサーチャー兼 機械部自動化施工推進室長であり、A⁴CSEL開発プロジェクトを立ち上げ、実現させた三浦 悟氏(以下、敬称略)にA⁴CSELの特徴や技術、開発ストーリーについて詳しく話をうかがった。


自動化施工システムで、現場の工場化を


ーー まずは、鹿島建設の技術のコアになるA⁴CSEL(クワッドアクセル)の特徴を教えていただけますか?

三浦:A⁴CSELは、2015年に次世代の建設生産システムとして発表しました。従来のリモコンなどでの遠隔操縦では一台の機械に一人の操縦者が必要ですが、A⁴CSELでは施工計画に基づいて作られる作業データを送れば、あとは自動化。建設機械が自動運転で作業を行いますので、原理的には何台の機械でも一人で同時に稼働させられることになります。ここで使用する自動機械は、ある作業専用のロボットを作るとコストが高く活用範囲が限定されてしまうので、汎用の建設機械をベースに自動化しているのも特徴です。

鹿島建設株式会社  技術研究所プリンシパル・ リサーチャー兼 機械部自動化施工推進室長 三浦 悟氏

三浦:A⁴CSELが目指しているのは「現場の工場化」です。基本的な考え方は、現場の作業を標準化して、それをマニュアルどおりに行えば、一定の時間と品質で施工できるはずという考え方です。

これまで、全面的に職人さんの腕に頼っていた作業の質や作業時間を、安定的かつ計画的に行う仕組みにできれば、工事現場も工場のような生産拠点になる。そのためのキーテクノロジーが、指示通り動く自動機械と、自動機械性能の範囲で実現可能とする作業方法の再構築技術だと捉えています。

というのも、AIを使えば何でもできるかのような風潮がありますが、職人さんの技をそのまま機械で行うことは不可能です。というか、何人かの職人さんに同じ作業をしてもらうと分かりますが、多くの場合、最終形は同じでも職人さんごとにやり方が違いますから。ただ、作業の手順やテクニックなどは異なっても、一つ一つの動作の目的の部分では共通の考えがあります。

それをベースに、自動機械でできる作業に分解して、それを組合せ再構築してその作業を標準化するということを進めました。基本的には作業をコンピュータシミュレーション上で検討し、それを実機で試しては改良してという方法をとってきました。もちろん、AI手法も導入して、シミュレーションで優れた候補を絞り込むことに活かしています。この他、単純作業の標準化の上位となる、施工手順や機械の組合せなどの「施工計画の作成」に対しても、施工時間の最短化、機械の稼働率の最大化、必要機械台数の最小化……といった、多様な評価軸での最適化を進めて、日々の工事の生産性や安全性を上げる活動を進めています。

ーー そもそもA⁴CSELとは、どのような意味があるのでしょうか?

三浦:A⁴CSEL(クワッドアクセル)という名前は、Automated / Autonomous / Advanced / Accelerated Construction system for Safety , Efficiency , and Liabilityの略称ですが、自動化施工システムを表すとともに、フィギュアスケートの4回転半ジャンプのことも示しています。その心は、今は誰も飛んでいないけれど、きっと近い将来飛べるようになるはず。ならば一番先に飛んでやろうと。夢ではなく実現すべき未来を、自らで作るのだという想いをこの名前に込めました。

鹿島 ビジョンムービー「土木をコードで書きかえろ。」 (鹿島建設公式YouTubeチャンネルより)


働く人が減少するなかで、自動化で業界を大きくアップデートする


ーー A⁴CSELの構想は発表があった2015年以前からあったそうですね。開発の背景を教えていただけますか。

三浦:1996年の頃は建設業界でも約700万人の就業者がいましたが、今は500万人を切り、20年間で200万人もの就業者が減っています。働く人の高齢化も他の産業と比べると倍ぐらいに進んでいます。その分、公共投資も減っているということが指摘されますが、去年と2005年の公共投資額はほぼ一緒なのに、12%ぐらい人が減っている。ここまで働く人が減っている業界は、他にありません。

しかも建設業界は、一人あたりの生産性が低い状況が続いています。この20年間ほとんど変化していません。また、労働災害で亡くなる方も全産業の中で建設業が最も多いという現実があります。こうした中、少ない人員で安全に効率よく品質の良いインフラを提供するという我々ゼネコンの役割を果たすためには、新しい施工システムを考えなければいけない。このような思想の下で、10年以上前から「業界自体が変わらなければいけない」という危機感を抱き、活動をしてきました。

ーー 労働人口が減り、このままでは限界があると。

三浦:例えば、製造業ではこの20〜30年間で工場のオートメーション化に代表されるように、コストを抑えるための生産システムを変えつつ、生産性を継続的に伸ばしています。建設業も製造業にならえば、大きく生産性を上げられるんじゃないかと。


働く人の減少に対応し生産性を上げるための方法として、一人で複数の仕事を併行して行うことを考えました。人が機械に指示をすると、同時に何台もの機械が仕事をするようにする。これからそんな時代が来るはずだと、2009年に技術研究所の5人のメンバーで機械の自動化による新しい建設生産システムの開発に着手しました。


熟練者の技術や現場の状況をプログラムに


ーー それが始まりだったのですね。自動化の開発はどう進んでいったのでしょうか。

三浦:最初に自動化したのは、振動ローラの機械でした。自動化する機械の選定の前に、当然、自動化の効果が大きい工種をターゲットにすることを考えるわけです。手作業が多い工種には向いていません。

自動機械が効果を発揮できて、建設機械が繰り返し作業を進めるような工種として、「重機土工」が我々の頭の中にありました。重機土工で使用する建設機械としては、ダンプトラック、ブルドーザ、振動ローラがあります。しかし、もともと、プレスタディ的に実現の可能性を探るという目的が主で、リソースも限定的だったので、比較的安価に自動化できそうな振動ローラを対象にしました。

ただ私たちの目的は、コンピュータで動かせる機械を作ることではなく、効率よく働いてくれる機械を開発することですから、生産性の高い熟練者並みの操作技術を実現できるか否かが重要でした。そこで2009年に岩手県の胆沢ダムに行き、熟練オペレーターの操作データを収集しました。

ーー生産性を上げるために、データの定量化もポイントだと。

三浦:振動ローラにGPSなどを取りつけ、作業中の機械の位置、速度や方向、姿勢などを測定しました。そのデータを基に熟練オペレータの操作の仕方を定式化して制御アルゴリズムを考案しました。しかし、その自動制御方法によって動かせる機械は、当然、世の中にありません。メーカさんにも相談したのですが、我々以外にニーズがない「PCで動く機械」の開発だけで多大な費用と期間が必要ということでしたので、自分たちで作りました。

鹿島建設株式会社 プレスリリースより[自動化装備した振動ローラと五ケ山ダムでの稼働状況]

2012年には振動ローラ自動施工システムを、実証実験にて性能確認を行い、その後、五ケ山ダム、大分川ダムなどへ導入していきました。振動ローラの基本的動作としては、真っすぐ走らせるだけで良い機械ですが、実は走路の材料によって、操作性能が変化します。自動車を運転する時に、砂の上やアスファルト、コンクリートの道路、雪道など、どこを走らせるからによって操作を変えていくのと似ています。現場の稼働データなどを基に改良を重ねて、どんな場所でも真っすぐ走らせるようにしていきました。

ーー 主にダム工事での自動化を進めているのは、理由があるのですか。

三浦:冒頭で述べたように、重機土工の自動化を目指していました。重機土工はダム工事や造成工事で使用されますが、ダム工事では、使用する材料の特性のバラツキが小さいため、振動ローラの時に話したように材料特性に応じた制御のための調整が少なくて済むこと、重機を使って土や石を運んできて、敷き均して、締め固めるといった一連の作業を何百回、何千回と繰り返すことから、自動化に適していると考えました。

ーー ダムは敷地も大きく、人もいないので安全性も担保されますし、親和性もあるのですね。ブルドーザやダンプトラックの自動化はどうされたのでしょう。

三浦:ブルドーザやダンプトラックは、建機メーカーである小松製作所と共同で進めました。振動ローラの自動化改造は自分たちで行いましたが、当然そこはメーカさんにやっていただいた方が早く進められますから。基本的には、PCで動く車両をコマツさんに作ってもらい、それを私たちが開発した制御プログラムで動かすという形になっています。

重機土工で必要なブルドーザの作業は「まき出し」といって、土砂を押して掻き起こし、分配して、整形するという複数の動作を組合せて行うものです。振動ローラの開発の時と同じように、まずは「まき出し」作業時の熟練者の操作データの収集、分析から行いました。しかし、熟練者の操作方法は一人ひとり違っていて、平均値で制御モデルを作ることは困難だと思いました。

もちろん、そういう実験を何千、何万回も繰り返せば良いのかもしれませんが、それは時間的、費用的に不可能ですから。それで、「まき出し」作業のコンピュータシミュレータを開発して、コンピュータ上でいろいろな条件での「まき出し」作業実験を行いました。そして、熟練のオペレーターの操作データを参考にしつつ、一番効率的な運転方法を見つけていったんです。その結果、高精度な制御プログラムを完成させることができました。


マネジメントで、機械をどう効率よく動かすか


ーー なるほど。お話をうかがって開発の流れや仕組みがよくわかりました。次に、自動化した機械をどうやって効率良く運転させていくかについても、教えていただけますか。

三浦:自動機械を開発したら、それをどう操るかが重要です。いつどこに行くかという計画や効率的に動かすルートを決めないといけません。途中で渋滞やアクシデントがあったら、そのつど計画を変更していくことも必要です。こうしたマネジメントシステムと自動機械をあわせ、全体で自動化施工システムをつくる必要があります。


施工計画を立てる時には、いつ、どこで、何を、どの機械で、どのようにするかが必要ですよね。施工エリアの位置、形状、大きさ、作業内容としては、使用する機械の種類と数が基本的な事項です。それが決まれば、機器配置、手順を主とする作業計画が自動で立てられる仕組みを作っています。

要するに、作業エリアに注目すると、どのエリアでどの機械がどういう順番で、どのような内容の動きをしていくかであり、機械毎で見ると、自分はいつどこに行って、どのような動きをするのかを決めてもらうことになります。それらをすべてデジタルデータで扱うわけですが、だからこそ、その計画が出来ればそれが実施可能なものか、問題はないかを、事前にコンピュータ上でシミュレートして、確認することができるのです。

ーー最適化とは具体的にどういうことでしょうか?

三浦:目的に合ったベストな答えを導く、「最適化アルゴリズム」というAI技術があります。それを利用して、例えば「一番早く終わる工程」「機械の移動が一番短い工程」「コストが低い工程」などの様々なシミュレーションをして状況に合った工程を選びことをしています。分かりやすく言えば、例えば、作業を待っている機械をいかに減らすか、効率、稼働率を最大化する問題を解くと言いかえることができると思います。そのような処理を迅速に行うことが可能となり、実際の工事にも導入しています。




【編集部 後記】
スーパーゼネコン鹿島建設による次世代建設生産システム、A⁴CSEL。三浦氏はその第一線で活躍してきた開発者として、開発への想いや技術について真摯に説明してくれた。【後編】では、A⁴CSELを活用した日本最大級の成瀬ダムプロジェクトや、宇宙開発への活用、これからのビジョンなどをうかがう。


鹿島建設株式会社
東京都港区元赤坂1-3-1
HP:https://www.kajima.co.jp/welcome-j.html





◎撮影時のみマスクを外していただきました。


取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田佳子 /写真:宇佐美亮
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WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。

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