株式会社クボタ(以下、クボタ)と、株式会社モンスター・ラボ(以下、モンスター・ラボ)が共同で開発した、建設機械(以下、建機)故障診断アプリケーション(以下App)『Kubota Diagnostics(以下、クボタ ダイアグノスティクス)』。
2020年12月に米国でリリースされるや否や、わかりやすいUI(ユーザーインターフェース)と、AR(拡張現実)技術による革新的な診断方法で、多くの反響を得ている。日本、そして世界から今後の展開が注目されている「クボタ ダイアグノスティクス」について、開発者の声を聞いた。
「ダウンタイム(故障して機械が作動しない時間)の低減は、お客様に安心して工事を進めていただくため、そして、メーカー、ディーラーが、お客様からの信頼を得るために、非常に重要な課題です」とクボタ 建設機械サービス部 梅林 繁樹氏(以下、梅林氏)は言う。
工事事業者にとって、工期の遅れは死活問題だ。余分な時間がかかるほど経費は膨らみ、さらには発注者との間で、契約違反などの責任問題に発展する可能性も否めない。
建機が故障すれば、当然、作業はそこで停まってしまう。現場に予備を用意しておけることは稀であるし、同様の建機を何台か使用しているような現場であっても、結局は1台分の作業数が減ってしまうことになる。もちろん代わりに人力でなんとかできるような作業ではない。
ディーラーは必ず代替機を用意しているが、全ての現場分をフォローできるはずもなく、複数台の故障が集中すれば代替機が不足してしまう。場合によっては新品の機械を代替機にしなければならないこともある。
建機レンタル会社でレンタルする場合であっても、事情はそれほど変わらないだろう。その他にもいろいろとネガティブな要因が考えられるダウンタイムは、工事を受注した事業者だけでなく、建設業界全体の生産性低下に直結してしまうと言っても、過言ではない。壊れない機械が存在しない限りは、いかに早く修理を完了するかが、ダウンタイム軽減の鍵になる。
建機が故障した場合、普通自動車などとは違い、現場に赴いてその場で修理をしなければならないケースが多い。現場で早急に対応しなければならないプレッシャーの中、他からのアドバイスなども受けることができず、メカニックは自身の知識や経験に頼らざるを得ないのだ。
しかしディーラーやレンタル会社のメカニックが、全てのメーカー、全ての機種に精通するのは、とてもじゃないが無理があるだろう。
「調査したところ、故障箇所の特定、つまり故障診断をするためにマニュアルを調べたり、パソコンにつないだり、手を止めて考える時間が非常に多いことがわかりました」(梅林氏)。また時間がない場合などは調べることもせずに、経験や勘に頼って取り掛かるものの、最適な処理方法を選択できず、余計に時間がかかってしまうことも多いという。「1台でも多くの機械を正確に修理することが本質であり、メカニックであれば誰でも、一定レベルで修理を行える”仕組み作り”が必要だと考えました」(梅林氏)
手を止める時間を最小限にしながらも、必要な情報を必要なタイミングで手に入れることで、クボタ製品のリペアに関する教育を受けていないメカニックでも修理が可能になる。そしてデバイスには、だれもが使い慣れている「スマートフォンを使用する」という方針で開発された『クボタ ダイアグノスティクス』。
「ステップバイステップで手順を追っていくことで、故障診断をすることができるAppです」(梅林氏)。
『クボタ ダイアグノスティクス』を起動させ、機械が発するエラーコードや不具合の症状などを入力すると、自動的に故障箇所と修理方法が示される。いちいちマニュアルを引っ張り出してくる必要はない。
そしてスマートフォンのカメラを建機に向けると、現実の建機にバーチャルの画像が重なり合い、該当の故障箇所が透けて見えている画像が表示される。つまりARだ。これまで『油圧ポンプの故障』や『センサーの不具合』と診断されても、そもそもその部品がどの位置にあるのかわからない、といったことが一番の問題であったが、AR技術によって可視化することで、まさに一目瞭然になる。
また『ダイアグノスティクス』には診断フローの中で、コメントを加えたり、画像を撮ったりすることができる『レポート機能』が付いている。「レポートを共有することで、メカニック同士での情報交換などに使っていただけます」(梅林氏)。もう現場でも孤独ではない。
「モンスラー・ラボさんは、我々が要求する以上のことを提案してくれました」(梅林氏)。世界中に25の拠点と1,200人のメンバーを擁し、グローバルな展開をしているモンスター・ラボ。
クボタを始め、国内屈指の企業の課題解決に携わっており、その開発実績は2,200にも達する。各国のスペシャリストたちが集う、国内外で今注目のデジタルコンサルティングファームだ。リサーチからプランニング、開発、グロースハック(リリース後のサービス・製品の改善や成長)までワンストップで手掛けるモンスター・ラボの提案力は確かなものがあるのだろう。
「Appやシステムの開発だけではなく、依頼者のサービスを成功させるということが、我々の重要なミッションです」と話すモンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部 コンサルティンググループ デジタルコンサルタント 若本岳志氏(以下、若本氏)。
クボタの課題に対して『先行事例を研究し、メカニックが馴染みやすいシンプルなUI/UX(ユーザーエクスペリエンス)をとことん追求する』『Appを使用する全てのユーザーの評価をフィードバックし、Appそのものの使い勝手の良さを向上させる』『展開する国や、対応機種が増えることを想定して、拡張性の高いものにする』の三点を提案。
「今回クボタさんがしっかり調査されていて、その上で、明確な課題とシャープな要求をしてくださったことが、より良い提案を返すことができた要因ではないかと思います。」そう語るのは、モンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部 プロジェクトマネジャー 山口将寛氏。
クボタの明確な課題に対して、明確な提案を返すモンスター・ラボ。お互いの信頼関係が垣間見える。「クボタさんと協業したことで、我々も非常に勉強になり、大きな気づきがありました。今回、弊社として初めて”多国籍チーム”つまり日本の事情がわかる人材と、海外の事情がわかる人材がチームを組みプロジェクトに取組みました。実際とても良い手応えを感じていて、今後もこういった多国籍なチームを必要に応じて柔軟に編成していきたいと考えています。」(若本氏)。
米国で先行リリースした背景には、いくつかの理由があった。まず日本に比べ、米国市場での販売の歴史は相対的に短いため、クボタ製品の修理ノウハウがそれほど蓄積されていない。またメカニックの転職も多く、スキルが継承されにくい。
そして米国の小型建機の4〜5台に1台がクボタ製というくらいシェアが高い。そうなると当然、故障による問題も多くなる。その上、米国ではメカニックから「機械が動かない」「煙が出ている」というような抽象的な問い合わせが多く、機械が発しているエラーコードなどを、なかなか伝えてくれないそうだ。
つまり、米国の修理事情は、クボタ社製品に精通していないメカニックが、迅速に故障箇所を特定し、1台でも多く正確に修理する必要がある。まさに『クボタ ダイアグノスティクス』が解決すべき問題だろう。開発方針を検証するにもぴったりの条件だ。
「現地の駐在員が『クボタ ダイアグノスティクス』を紹介したところ、若いメカニックからベテランまで、ほとんど全員が驚嘆の声を上げているそうです。こんなもの見たことない、と。」(梅林氏)。また『クボタ ダイアグノスティクス』に、様々な形のフィードバック機能を付けることで、リリース後も積極的に現場の声を収集しているという。
「製品の品質向上ももちろんですが、故障原因の早期究明につながることもあります。実際に使用しているメカニックから、直接の情報が上がってくることは非常に重要だと感じています。以前はメカニックとメーカーが直接つながるということはありませんでした」(梅林氏)。
「事情の違う日本に、米国でリリースしたものをそのままの形でリリースできるわけではないので、今後しっかりと検証を重ね、なるべく早い段階で展開していきたい、とは考えています」(梅林氏)。
少子高齢化が進む日本。終身雇用という概念に対する価値観も変化し、技術の継承が難しくなっている。各メーカーの修理技術などは、メーカー主催の研修で身につけることが一般的だが、大勢の人員を抱えている会社ならまだしも、1人もしくは2人しかいないメカニックが、普段の業務から離れて3〜5日間の研修に出席することは難しいだろう。
それどころか、すぐに転職する恐れがある社員に、コストをかけて研修を行なうことに対して消極的になっている会社があるのが現状だ。また調査では「研修に参加しても、習ったことを実践する機会がなく、結局忘れてしまう」というような回答もあったという。
『クボタ ダイアグノスティクス』を活用すれば、研修にかかる時間的、経済的なコストが変わってくるはずだ。先に述べたように建機の故障によるダウンタイムは、建設業界にマイナスの影響を与える可能性を孕んでいる。今後、予想される人材不足や、スキル継承問題に対する1つのソリューションとしても『ダイアグノスティクス』の日本リリースが待ち望まれる。
2020年12月に米国でリリースされるや否や、わかりやすいUI(ユーザーインターフェース)と、AR(拡張現実)技術による革新的な診断方法で、多くの反響を得ている。日本、そして世界から今後の展開が注目されている「クボタ ダイアグノスティクス」について、開発者の声を聞いた。
ダウンタイムが与える重大な影響
「ダウンタイム(故障して機械が作動しない時間)の低減は、お客様に安心して工事を進めていただくため、そして、メーカー、ディーラーが、お客様からの信頼を得るために、非常に重要な課題です」とクボタ 建設機械サービス部 梅林 繁樹氏(以下、梅林氏)は言う。
工事事業者にとって、工期の遅れは死活問題だ。余分な時間がかかるほど経費は膨らみ、さらには発注者との間で、契約違反などの責任問題に発展する可能性も否めない。
建機が故障すれば、当然、作業はそこで停まってしまう。現場に予備を用意しておけることは稀であるし、同様の建機を何台か使用しているような現場であっても、結局は1台分の作業数が減ってしまうことになる。もちろん代わりに人力でなんとかできるような作業ではない。
ディーラーは必ず代替機を用意しているが、全ての現場分をフォローできるはずもなく、複数台の故障が集中すれば代替機が不足してしまう。場合によっては新品の機械を代替機にしなければならないこともある。
建機レンタル会社でレンタルする場合であっても、事情はそれほど変わらないだろう。その他にもいろいろとネガティブな要因が考えられるダウンタイムは、工事を受注した事業者だけでなく、建設業界全体の生産性低下に直結してしまうと言っても、過言ではない。壊れない機械が存在しない限りは、いかに早く修理を完了するかが、ダウンタイム軽減の鍵になる。
故障修理の問題点と開発の経緯
建機が故障した場合、普通自動車などとは違い、現場に赴いてその場で修理をしなければならないケースが多い。現場で早急に対応しなければならないプレッシャーの中、他からのアドバイスなども受けることができず、メカニックは自身の知識や経験に頼らざるを得ないのだ。
しかしディーラーやレンタル会社のメカニックが、全てのメーカー、全ての機種に精通するのは、とてもじゃないが無理があるだろう。
「調査したところ、故障箇所の特定、つまり故障診断をするためにマニュアルを調べたり、パソコンにつないだり、手を止めて考える時間が非常に多いことがわかりました」(梅林氏)。また時間がない場合などは調べることもせずに、経験や勘に頼って取り掛かるものの、最適な処理方法を選択できず、余計に時間がかかってしまうことも多いという。「1台でも多くの機械を正確に修理することが本質であり、メカニックであれば誰でも、一定レベルで修理を行える”仕組み作り”が必要だと考えました」(梅林氏)
ユーザー目線に立って追求したUI
手を止める時間を最小限にしながらも、必要な情報を必要なタイミングで手に入れることで、クボタ製品のリペアに関する教育を受けていないメカニックでも修理が可能になる。そしてデバイスには、だれもが使い慣れている「スマートフォンを使用する」という方針で開発された『クボタ ダイアグノスティクス』。
「ステップバイステップで手順を追っていくことで、故障診断をすることができるAppです」(梅林氏)。
『クボタ ダイアグノスティクス』を起動させ、機械が発するエラーコードや不具合の症状などを入力すると、自動的に故障箇所と修理方法が示される。いちいちマニュアルを引っ張り出してくる必要はない。
そしてスマートフォンのカメラを建機に向けると、現実の建機にバーチャルの画像が重なり合い、該当の故障箇所が透けて見えている画像が表示される。つまりARだ。これまで『油圧ポンプの故障』や『センサーの不具合』と診断されても、そもそもその部品がどの位置にあるのかわからない、といったことが一番の問題であったが、AR技術によって可視化することで、まさに一目瞭然になる。
また『ダイアグノスティクス』には診断フローの中で、コメントを加えたり、画像を撮ったりすることができる『レポート機能』が付いている。「レポートを共有することで、メカニック同士での情報交換などに使っていただけます」(梅林氏)。もう現場でも孤独ではない。
シャープな要求、シャープな提案。そして互いの信頼関係
「モンスラー・ラボさんは、我々が要求する以上のことを提案してくれました」(梅林氏)。世界中に25の拠点と1,200人のメンバーを擁し、グローバルな展開をしているモンスター・ラボ。
クボタを始め、国内屈指の企業の課題解決に携わっており、その開発実績は2,200にも達する。各国のスペシャリストたちが集う、国内外で今注目のデジタルコンサルティングファームだ。リサーチからプランニング、開発、グロースハック(リリース後のサービス・製品の改善や成長)までワンストップで手掛けるモンスター・ラボの提案力は確かなものがあるのだろう。
「Appやシステムの開発だけではなく、依頼者のサービスを成功させるということが、我々の重要なミッションです」と話すモンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部 コンサルティンググループ デジタルコンサルタント 若本岳志氏(以下、若本氏)。
クボタの課題に対して『先行事例を研究し、メカニックが馴染みやすいシンプルなUI/UX(ユーザーエクスペリエンス)をとことん追求する』『Appを使用する全てのユーザーの評価をフィードバックし、Appそのものの使い勝手の良さを向上させる』『展開する国や、対応機種が増えることを想定して、拡張性の高いものにする』の三点を提案。
「今回クボタさんがしっかり調査されていて、その上で、明確な課題とシャープな要求をしてくださったことが、より良い提案を返すことができた要因ではないかと思います。」そう語るのは、モンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部 プロジェクトマネジャー 山口将寛氏。
クボタの明確な課題に対して、明確な提案を返すモンスター・ラボ。お互いの信頼関係が垣間見える。「クボタさんと協業したことで、我々も非常に勉強になり、大きな気づきがありました。今回、弊社として初めて”多国籍チーム”つまり日本の事情がわかる人材と、海外の事情がわかる人材がチームを組みプロジェクトに取組みました。実際とても良い手応えを感じていて、今後もこういった多国籍なチームを必要に応じて柔軟に編成していきたいと考えています。」(若本氏)。
2020年12月。ついに米国にて『クボタ ダイアグノスティクス』が先行リリース
米国で先行リリースした背景には、いくつかの理由があった。まず日本に比べ、米国市場での販売の歴史は相対的に短いため、クボタ製品の修理ノウハウがそれほど蓄積されていない。またメカニックの転職も多く、スキルが継承されにくい。
そして米国の小型建機の4〜5台に1台がクボタ製というくらいシェアが高い。そうなると当然、故障による問題も多くなる。その上、米国ではメカニックから「機械が動かない」「煙が出ている」というような抽象的な問い合わせが多く、機械が発しているエラーコードなどを、なかなか伝えてくれないそうだ。
つまり、米国の修理事情は、クボタ社製品に精通していないメカニックが、迅速に故障箇所を特定し、1台でも多く正確に修理する必要がある。まさに『クボタ ダイアグノスティクス』が解決すべき問題だろう。開発方針を検証するにもぴったりの条件だ。
「現地の駐在員が『クボタ ダイアグノスティクス』を紹介したところ、若いメカニックからベテランまで、ほとんど全員が驚嘆の声を上げているそうです。こんなもの見たことない、と。」(梅林氏)。また『クボタ ダイアグノスティクス』に、様々な形のフィードバック機能を付けることで、リリース後も積極的に現場の声を収集しているという。
「製品の品質向上ももちろんですが、故障原因の早期究明につながることもあります。実際に使用しているメカニックから、直接の情報が上がってくることは非常に重要だと感じています。以前はメカニックとメーカーが直接つながるということはありませんでした」(梅林氏)。
日本のリリースに向けて、高まる期待感
「事情の違う日本に、米国でリリースしたものをそのままの形でリリースできるわけではないので、今後しっかりと検証を重ね、なるべく早い段階で展開していきたい、とは考えています」(梅林氏)。
少子高齢化が進む日本。終身雇用という概念に対する価値観も変化し、技術の継承が難しくなっている。各メーカーの修理技術などは、メーカー主催の研修で身につけることが一般的だが、大勢の人員を抱えている会社ならまだしも、1人もしくは2人しかいないメカニックが、普段の業務から離れて3〜5日間の研修に出席することは難しいだろう。
それどころか、すぐに転職する恐れがある社員に、コストをかけて研修を行なうことに対して消極的になっている会社があるのが現状だ。また調査では「研修に参加しても、習ったことを実践する機会がなく、結局忘れてしまう」というような回答もあったという。
『クボタ ダイアグノスティクス』を活用すれば、研修にかかる時間的、経済的なコストが変わってくるはずだ。先に述べたように建機の故障によるダウンタイムは、建設業界にマイナスの影響を与える可能性を孕んでいる。今後、予想される人材不足や、スキル継承問題に対する1つのソリューションとしても『ダイアグノスティクス』の日本リリースが待ち望まれる。
WRITTEN by
角田 憲
有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。
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