コラム・特集
加藤 泰朗 2023.7.20

【入門】地上型レーザースキャナの仕組みと測量の手順 〜メリット・デメリットも紹介〜

国土交通省が進めるi-Construction/インフラDXでは、建設生産システム全体の生産性向上と、より魅力ある建設現場創出のために、さまざまなICT機器・建機の利活用を推奨している。その一つが、地上型レーザースキャナ(Terrestrial Laser Scanner:TLS)だ。

国土交通省は、『3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)』(令和5年3月改訂。以下、出来形管理要領(案))で地上型レーザースキャナ(TLS)を取り上げ、監督・検査の手法についても『地上型レーザースキャナーを用いた出来形管理の監督・検査要領(案)』(土工編/舗装工事編、令和5年3月改訂。以下、監督・検査要領(案))で整理している。このことからも、今後建設・土木現場でのTLS普及が加速することが予想される。

そこで以下では、地上型レーザースキャナ(TLS)の仕組みから、測量の手順、機器使用のメリット・デメリットまでを解説する。

TLSはレーザーの反射光を使って距離を測る機器


まず、TLSとはどんな機械かを解説していこう。

『監督・検査要領(案)』は、「1台の機械で指定した範囲にレーザーを連続的に照射し、その反射波より対象物との相対位置(角度と距離)を面的に取得できる装置」と、地上型レーザースキャナ(TLS)を定義。


少し補足を加えると、三脚などを使用して特定の位置に固定した機器から、前方にレーザーを連続的に照射すると同時に機械本体を回転させて、照射したレーザーの反射波を受け取り、計測対象の空間位置情報を面的に計測する3D測量機器となるだろう。

地上型レーザースキャナ(TLS)は、計測対象の3次元座標データ(点群データ)を簡単に取得できるため、建設・土木での測量だけでなく、森林調査、環境計測、遺跡・文化財の調査など、幅広い分野で利活用が進んでいる。

地上型レーザースキャナ(TLS)の距離測定方法にはいくつかあるが、土木・建設で使用される機器では、レーザー照射から反射波受信までの時間をもとに対象物までの距離を求める「タイムオブフライト法(Time of Fright: TOF)」と、高周波の強度変調をかけたレーザーを照射して、照射光と受信した反射光(戻り光)との位相の差から距離を求める「位相差測定法」の2つが主流だ。特にTOFは、市販の機器の多くが採用している。

地上型レーザースキャナ(TLS)を使った測量方法


次に一般的なTLSの測量方法の例を整理する。

(1)機器の設置位置の検討


はじめに、事前に使用する機器の計測精度や、地上型レーザースキャナ(TLS)を現場のどこに設置すれば測量範囲全てを網羅できるかなどを検討する。

ほかにも、計測する表面が適切か(雪や水面がないか)、現場に計測を妨げる構造物(ガラス面など)や植物がないか、などを確認する。測量に支障をきたす植物がある場合は、伐採・除草などの対策を考慮する。

(2)現場での地上型レーザースキャナ(TLS)の設置


現場に着いたら、地上型レーザースキャナ(TLS)を三脚などでしっかり固定し、整準する。急傾斜地や軟弱地を避け、レーザーと被計測対象物とができるだけ正対した位置関係になる、振動のない地盤上に設置する。

具体的にTLSを設置する位置は、観測方法によって決め方が異なる。

「器械点と後視点による方法」では、標定点が機械を設置する点(器械点)となる。任意の標定点上に地上型レーザースキャナ(TLS)を設置し、そこからプリズムやターゲットを使って別の標定点(後視点)を視準して機器の位置と方向を決める。

標定点とは、地上型レーザースキャナ(TLS)で計測した相対形状を3次元座標に変換する際に用いる座標点のこと。

基準点(国土地理院が管理する三角点・水準点)あるいは工事基準点と対応付づけるために、基準点あるいは工事基準点からトータルステーションなどを使って測量する。標定点は、計測対象箇所の最外周部に4点以上配置する。


「後方交会法」では、任意の場所(未知点)が器械点になる。複数の既知点(基準点、図根点の基準点)が見渡せる場所に機器を設置し、そこからプリズムやターゲットを使って複数の既知点(基準点、図根点の基準点)を視準して、機器の位置と方向を決める。

器械点の位置と後視点との位置関係は、二辺に挟まれた角(夾角)が90〜120度に納まる二等辺三角形が理想。

なお、使用する地上型レーザースキャナ(TLS)に後方交会法による機械設置機能が実装されている場合は、標定点の計測は不要。

(3)スキャン


地上型レーザースキャナ(TLS)のコントロール画面で、1度に測量する範囲や密度を設定する(操作方法は機器によって異なる)。

『出来形管理要領(案)』には、出来形計測に使用する場合、「TLSと計測対象範囲の位置関係を事前に確認し、最も入射角が低下する箇所で0.01m²(0.1m×0.1mのメッシュ)あたりに1点以上の計測結果が得られる設定とする」と規定されている。

設定が完了したら、スキャンを開始する。測量対象の範囲に漏れがないよう、上記(2)の要領で計測した別の器械点に地上型レーザースキャナ(TLS)を移動させながら、複数回スキャンを繰り返す。

複数場所から計測する際には、スキャン範囲がオーバーラップしていることを確認する。スキャン時間は、1度にスキャンする範囲は、密度によって異なる。

(4)取得データの出力


計画したすべてのスキャンを終えたら、得られた複数のデータを統合し、点群データを作成する。標定点などを基準にして、複数のデータを繋ぎ合わせる。さらに、管理対象物以外の不要な点群(ノイズ)などを処理する。

地上型レーザースキャナ(TLS)使用のメリット・デメリット


測量に地上型レーザースキャナ(TLS)を使用する最大のメリットは、短時間で高密度・広範囲の点群データを収集できること。

トータルステーション(TS)などの測量機器は、任意の"点"の情報を測量するもので、点ごとに測量作業を繰り返す必要があり、測量に時間を要する。

一方、地上型レーザースキャナ(TLS)は広範囲にレーザーを照射し、面的に対象物の空間位置情報を計測するため、測量の回数は少なくすむ。

また、取得した面的な空間位置情報を使って、データ上で測量可能なので、後日、新たに測量が必要な箇所が発生した場合も、現場での再計測も不要。

ほかにも、急峻な斜面や擁壁、あるいは遺跡・文化財など、近づくことが難しい場所でも、立ち入ることなく測量できる点も、地上型レーザースキャナ(TLS)を使用するメリットとして挙げられる。


一方、デメリットは、機器が高価であること。ニコンシステムズ、トプコン、ライカジオシステムズなど、複数メーカーから多用の機種が販売されているが、価格は1台1000万円前後が相場。機器のレンタルサービスもあるが、中小の建設会社にとって簡単に購入できる金額ではない……。

ほかにもデータ量が膨大になるため分析に時間がかかることや、それを処理するための専門のPCなどを準備する必要なこと、さらに、測量にレーザーを使用するため、雨天や濃霧などの影響も受けやすいという点もデメリットといえる。

TLSでの測量が、スマホでできる!?革新的製品の登場でますます注目の地上型レーザースキャナ。


ただし、高価格というデメリットについては、新しい動きもある。 オプティムは2023年5月、低価格で高精度・長距離3次元測量ができる「OPTiM Geo Scan Advance」(以下、GS Advance)の提供開始を発表した。価格は333,000円(税別。2023年5月24日~2024年5月31日までの期間限定価格)と、従来のTLSと比べ大幅に安い。

(撮影:斎藤葵)

GS Advanceは、外部LiDARセンサーをiPhoneに接続することで、点群取得可能距離約35m、位置座標の測定精度±50mm以内、点間の測定精度3.6mmの性能を、この価格で実現したサービスだ。もちろん『出来形要領(案)』にも準拠*している。

*:GNSSレシーバーを用いたTLSとしても『出来形要領(案)』に準拠。

作業者の高齢化、若手人材不足、長時間労働。長年問題視され続けてきた建設業界が抱えるこれらの課題は、依然として課題として残されている。さらに2024年問題も目前。建設業界の変革は、待ったなしの状況だ。

(撮影:斎藤葵)

TLSの活用は、測量作業の効率化による作業時間の短縮や省人化につながる。TLSの利用拡大が、建設土木業界における課題解決の糸口の一つとなることに期待する。





画像元:Shutterstock
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WRITTEN by

加藤 泰朗

人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、2019年独立。フリーランスとして、書籍・雑誌・Webで編集・ライティングに従事。難しい内容をわかりやすく伝えることを大切にしています。

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