コラム・特集
アメリカの土木・建設業界 ~ 気になる年収や労働環境は? 〜
ひとくちに土木・建設と言っても国が変われば業界の仕組みや風土も違ってくるのではないだろうか。そこで今回、アメリカの土木・建設業界について調べてみた。業界の仕組みの他、仕事の環境や賃金事情などについて紹介する。
アメリカの土木・建設業界の市場規模は約1.3兆ドル(2020年末時点/日本円で約137兆5400億円)と言われる。2021年度の日本の建設投資額は62兆7000億円であり、市場規模は日本の2倍以上あると考えられる。
日本では総合建設業者、いわゆるゼネコンが元請業者となり発注者から工事一式を請け負う手法が主流だ。ゼネコンは専門工事業者や資材メーカーなど協力業者をマネジメントしながら工事を推進していく。
一方、アメリカでは発注の時点で設計と施工が分けられるのが一般的。ゼネコン的な形態を取る企業もあるが、規模としてはそれほど多くない。
アメリカでは建設作業員のほとんどが労働組合に加入している。日本のような企業別組合ではなく、職種別に全国規模の労働組合があるのだ。
アメリカの労働環境は時間の管理がきっちりしていることが特徴のひとつと言えよう。労働時間は週40時間、土日休みというような条件が一般的だ。残業代は時給の1.5倍、休日出勤となれば2倍に倍増する雇用条件があらかじめ決められており、負担が大きいことから雇用主はむやみに残業させようとはしない。
日本では計画した工期に間に合わないと損害賠償責任を負うため、現場で働く作業員たちは残業や休日返上で作業に当たらざるを得ない状況になっている。しかし、アメリカでは工期よりも労働者の権利が優先されるのが当たり前とも言えるのだ。
企業側からすれば組合に加入している労働者はコストが高いので敬遠したくなりそうなところだが、選ぶべき理由がそこにはある。
もっとも代表的なのが教育だ。労働組合では研修制度が充実しており、一人前になるまでには約4年の研修カリキュラムを経なければならない。一人前になったあともキャリアアップ制度でしっかりとスキルレベルが管理される。組合に当たれば質の高い人材を効率的に採用できるというメリットがあるのだ。
次に賃金の実態を見てみよう。土木・建設業の平均年収は53940ドル(日本円で約579万円)。アメリカ全体の平均年収は69392ドル(日本円で約745万円)なので、どちらかと言えば賃金は低い職種となる。
アメリカの土木・建設業界は非正規雇用が多いため時給にも注目したい。平均時給は25.93ドル(日本円で約2782円)。低いケースでは時給14.12ドル(日本円で約1515円)、高いケースでは42.24ドル(約4532円)。案件によって金額に差があり、時給は作業の危険度など様々な条件によって差が出てくると考えられる。
日本の賃金とも比較してみたい。日本における全職種の平均年収は433万円、建設業の平均年収は504.3万円(いずれも令和2年時点のデータ)。日本の建設業は、アメリカの建設業よりは低く、日本全体の平均年収よりは高い位置付けとなる。
アメリカの土木・建設業の中で特に年収額の高い職種を調べてみた。高い順に以下の通り。
2007年1月時点では22.59ドルだった平均時給が、2022年1月には平均時給33.8ドルにまで上昇している。15年の間に1.5倍近くにまで増額していることになる。
アメリカ全体でも平均賃金は約1.1倍に上昇しているが、日本の平均年収はほぼ横ばいが続いており、コロナ禍で減少にまで転じている。
労働者の権利が尊重される労働環境があり、賃金も上昇し続けているアメリカの建設・土木業界。日本のそれと比べると羨ましく思える点が少なくない。
現に日本では過去10年における就業者数は減少傾向にある。アメリカにおいては人口増加を続ける影響もあるが、雇用者数は上昇し続けている。2012年には80万人に満たなかった雇用者数が2020年には100万人近くにまで到達。コロナで一時的に失業者は増えたが2022年にはコロナ前の水準にまで戻ると予測されている。
業界の風土は長い年月をかけて構築されるもので、一朝一夕に改革は難しい。とはいえ、日本の抱える「職人離れ」問題の解決策にアメリカの業界事情から学べることは多少なりともありそうだ。
アメリカの土木・建設業界とは?日本との違い
アメリカの土木・建設業界の市場規模は約1.3兆ドル(2020年末時点/日本円で約137兆5400億円)と言われる。2021年度の日本の建設投資額は62兆7000億円であり、市場規模は日本の2倍以上あると考えられる。
日本では総合建設業者、いわゆるゼネコンが元請業者となり発注者から工事一式を請け負う手法が主流だ。ゼネコンは専門工事業者や資材メーカーなど協力業者をマネジメントしながら工事を推進していく。
一方、アメリカでは発注の時点で設計と施工が分けられるのが一般的。ゼネコン的な形態を取る企業もあるが、規模としてはそれほど多くない。
アメリカの建設業の労働環境
アメリカでは建設作業員のほとんどが労働組合に加入している。日本のような企業別組合ではなく、職種別に全国規模の労働組合があるのだ。
アメリカの労働環境は時間の管理がきっちりしていることが特徴のひとつと言えよう。労働時間は週40時間、土日休みというような条件が一般的だ。残業代は時給の1.5倍、休日出勤となれば2倍に倍増する雇用条件があらかじめ決められており、負担が大きいことから雇用主はむやみに残業させようとはしない。
日本では計画した工期に間に合わないと損害賠償責任を負うため、現場で働く作業員たちは残業や休日返上で作業に当たらざるを得ない状況になっている。しかし、アメリカでは工期よりも労働者の権利が優先されるのが当たり前とも言えるのだ。
企業側からすれば組合に加入している労働者はコストが高いので敬遠したくなりそうなところだが、選ぶべき理由がそこにはある。
もっとも代表的なのが教育だ。労働組合では研修制度が充実しており、一人前になるまでには約4年の研修カリキュラムを経なければならない。一人前になったあともキャリアアップ制度でしっかりとスキルレベルが管理される。組合に当たれば質の高い人材を効率的に採用できるというメリットがあるのだ。
アメリカの土木・建設系職種の平均年収など賃金事情
次に賃金の実態を見てみよう。土木・建設業の平均年収は53940ドル(日本円で約579万円)。アメリカ全体の平均年収は69392ドル(日本円で約745万円)なので、どちらかと言えば賃金は低い職種となる。
アメリカの土木・建設業界は非正規雇用が多いため時給にも注目したい。平均時給は25.93ドル(日本円で約2782円)。低いケースでは時給14.12ドル(日本円で約1515円)、高いケースでは42.24ドル(約4532円)。案件によって金額に差があり、時給は作業の危険度など様々な条件によって差が出てくると考えられる。
日本の賃金とも比較してみたい。日本における全職種の平均年収は433万円、建設業の平均年収は504.3万円(いずれも令和2年時点のデータ)。日本の建設業は、アメリカの建設業よりは低く、日本全体の平均年収よりは高い位置付けとなる。
土木・建設業で年収の高い職種
アメリカの土木・建設業の中で特に年収額の高い職種を調べてみた。高い順に以下の通り。
- エレベーター・エスカレーターの設置・修理業者 年収86200ドル(約925万円)
- 施工管理 年収72990ドル(約783万円)
- 杭打機オペレーター 年収71880ドル(約771万円)
- ボイラー技士 年収67430ドル(約724万円)
- 工事検査官 年収66470ドル(約713万円)
アメリカの土木・建設業界は賃金上昇を続けている
2007年1月時点では22.59ドルだった平均時給が、2022年1月には平均時給33.8ドルにまで上昇している。15年の間に1.5倍近くにまで増額していることになる。
アメリカ全体でも平均賃金は約1.1倍に上昇しているが、日本の平均年収はほぼ横ばいが続いており、コロナ禍で減少にまで転じている。
労働者の権利が尊重される労働環境があり、賃金も上昇し続けているアメリカの建設・土木業界。日本のそれと比べると羨ましく思える点が少なくない。
現に日本では過去10年における就業者数は減少傾向にある。アメリカにおいては人口増加を続ける影響もあるが、雇用者数は上昇し続けている。2012年には80万人に満たなかった雇用者数が2020年には100万人近くにまで到達。コロナで一時的に失業者は増えたが2022年にはコロナ前の水準にまで戻ると予測されている。
業界の風土は長い年月をかけて構築されるもので、一朝一夕に改革は難しい。とはいえ、日本の抱える「職人離れ」問題の解決策にアメリカの業界事情から学べることは多少なりともありそうだ。
WRITTEN by
三浦 るり
2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。
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