コラム・特集
デジコン編集部 2022.1.19

『建設施工と建設機械シンポジウム』 パネルディスカッション「生産技術としてのリーンマネジメント導入による建設改革のすすめ」レポート

2021年12月1日と2日の2日間、一般社団法人 日本建設機械施工協会が主催する「建設施工と建設機械シンポジウム」が東京・港区の機械振興会館で開催された。


同シンポジウムは、建設機械と施工法に関する技術の向上を図ることを目的に、日頃の研究・開発の成果を発表するもの。2日目には、「生産技術としてのリーンマネジメント導入による建設改革のすすめ」と題したパネルディスカッションが、新型コロナ感染対策を十分に施したうえで行われ、『OPTiM Geo Scan』の開発にあたった株式会社オプティムの坂田泰章氏をはじめ、官民学の代表がパネリストとして活発な議論を繰り広げた。

このパネルディスカッションのコーディネーターを務めたのは、立命館大学理工学部教授の建山和由氏。建山教授は、ICT施工分野の第一人者であり、i-Construction(アイ・コンストラクション)の普及にも尽力されてきた。その建山教授の声がけで集まったパネリストは、国交省建設コンサルタント、地方の建設会社など、ユニークな取り組みをする多彩なメンバーとなった。

集まった5名のパネリスト。左から、岩見吉輝氏(国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課長)、善本哲夫氏(立命館大学経営学部教授)、湯沢 信氏(湯澤工業株式会社常務取締役)、須田清隆氏(株式会社環境風土テクノ)、坂田泰章氏(株式会社オプティム)。


新3Kを実現させるためのハードとソフトの融合


平日にもかかわらず、用意された席の9割近くが埋まる盛況ぶり。建設業界において、いかに「リーンマネジメント」に関心が高いかがうかがわれた。

かつて建設業界は3Kなどとも揶揄され、人材の不足・高齢化が大きな課題だった。その解決策のひとつとして、国土交通省は「i-Construction」プロジェクトを進め、建設業界のICT化に取り組んできた。しかし、とりわけ中小企業においては、必ずしもその効果が実感されているとは言えないのが現状だ。

立命館大学理工学部教授 建山 和由氏

ICT施工の活用だけではなく、リーンマネジメントを導入し多様なデジタル技術を活用して、省人化をはかり、付加価値作業・付随作業の効率化、そしてムダを徹底的にはぶくことが必要であると思う」

コーディネーターの建山氏は、開会にあたりそう口火を切った。トヨタなど製造業ですでに導入が進んでいる「リーン生産方式」を、建設業界でも積極的に活用すべきではないか、というわけである。ちなみに「リーン(Lean)」とは、「ぜい肉がなく引き締まって痩せている」という意。すなわち「リーン生産方式」とは、ぜい肉をそぎ落としたスリムな生産方式ということだ。

ひと口に技術といっても、製造業においては大きく研究開発技術と生産技術の二つに分けられる、と国交省の岩見氏は言う。

国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課長 岩見 吉輝氏

「建設業で研究開発技術とは、公共事業の発注者サイドのニーズに応えるものと言える。対して生産技術は、現場を担う施工業者がいかに工夫して効率を上げるか、というもの。それにより、新3K(給料の引き上げ・休暇の増加・希望)を実現させる必要がある。生産技術を向上させるには、ICTの活用が非常に効果的だ。ICTがリーンマネジメントにミックスされることで、より大きな効果を発揮するだろう」(岩見氏)

では、リーンマネジメントは実際にどのような効果を生むのだろうか。新3Kの実現に向けたリーンマネジメントのあり方を含め生産技術を研究している立命館大学の善本教授が、まず他産業の事例を紹介してくれた。あるスーパーマーケットで商品陳列作業などの効率化に向けリーンマネジメント導入の実証実験を行った結果、社長をはじめスタッフたちに笑顔が生まれるようになったという。

立命館大学経営学部教授 善本 哲夫氏

「残業が減り、何のためにやっているかわからないような無駄な作業がなくなった一方で、給料が減るわけではない。すなわち働く環境が改善され従業員たちの受益につながった。従業者の受益は結果的に会社の受益につながる。いわばWIN・WINの関係だ。建設業においても、『i-Construction』というハードと『リーンマネジメント』というソフトの融合で、人材不足の解消、会社の利益向上といったことの実現に寄与するだろう」(善本教授)


ICT化によって“ワクワク感”が生まれた!


現場の建設業の声を聞かせてくれたのは、山梨県に本社を置く湯澤工業株式会社の湯沢常務取締役だ。土木工事を請け負う同社では、2016年にドローン「Phantom4」を導入したのを皮切りにICTを推進。山梨県からの元請け仕事も増え、令和3年度の「やまなし健康経営優良企業」に認定されるまでに成長した。

湯澤工業株式会社常務取締役 湯沢 信氏

「社員たちが、楽に楽しく仕事をできるためにどうしたらよいか、つねに考えている。そのためには、さまざまなデジタル技術を活用することが重要。かつて建設業では新しいものに目を向けず、ただ共通仕様書にのっとって粛々と仕事をこなすのが当たり前だった。だから仕事における“ワクワク感”がなかったように思う。ゆえに若い人材が育たず、また集まらなかった」(湯沢氏)

ところが、同社3代目となる若い湯沢氏が『i-Construction』を推進。その一環として積極的にICT化をはかったところ、楽・安全・わかりやすい、という声が社員たちの間で多く聞かれるようになったという。

「タブレットを持っていきいきと現場に入る若い人も増えた。3次元データ測量などのICTを使って、今後さらに建設業の新たな価値を生み出していきたい。たとえば、建設業でもリモートワークを実現させようとも考えている」と、湯沢氏は話した。


3次元データ技術の活用が建設現場を変える!


湯沢工業は代表的な成功例と言えるが、中小企業の場合、施工者だけではリーンマネジメント導入はなかなかむずかしい、と株式会社環境風土テクノ取締役の須田氏は言う。須田氏はこれまで中小企業を専門にリーマネジメント導入をサポートしてきたが、多くの場合、施工者と発注者を交えたブレーンストーミングを行ってきた。

株式会社環境風土テクノ  須田清隆氏  

「施工者と発注者が問題意識を共有し、合意形成をしてリーンマネジメントに取り組む必要がある。移動時間や待ち時間の短縮、安全性の向上、原価コストの削減、検査業務のリモート化・迅速化など、両者にとってメリットは大きい。リーマネジメントを進めることでおのずとDX化につながっていく」(須田氏)

今回のパネルディスカッションで異彩を放ったのが、株式会社オプティムの坂田氏。高精度の3次元測量ができる「OPTiM Geo Scan」を建設会社と共同で開発した坂田氏は、iPhoneを片手にステージをスキャン。3次元測量をデモンストレーションしてみせた。

株式会社オプティム 坂田 泰章氏

ステージ上のスクリーンに坂田氏がスキャンした3次元画像が映し出されると、場内からは「おぉ」と感嘆の声も。スマートフォンひとつで簡単に3次元測量ができるプロダクトに、驚きを隠せいない様子だった。低コストで導入でき、誰でも簡単に3次元測量ができる「OPTiM Geo Scan」は、中小規模の施工者、あるいは規模の小さな現場のリーンマネジメントにうってつけのサービスと言えるだろう。


「デジタル技術は、それを導入することが主眼ではなかなかうまくいかない。建設業の抱える課題をいかに解決するかがICT活用のテーマ。私たちは、安く、早く、そして誰でも簡単に活用できるデジタル技術をめざして開発を続けてきた」(坂田氏)

各パネリストともまだまだ議論したりない様子だったが、残念ながらタイムアップ。それでも、ポストコロナ時代という意味も含め、これからの建設革命にリーンマネジメントが欠かせないテーマであることを大いに印象付けたパネルディスカッションだった。


OPTiM Geo Scan プロダクトサイト:
https://www.optim.co.jp/construction/optim-geo-scan/

OPTiM Geo Scanについて坂田氏に詳しくインタビューした記事はこちら
「これは、地に足のついた測量革命だ!」 iPhone・iPadで誰でもカンタンに測量できる『OPTiM Geo Scan』を徹底解剖
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デジコン編集部

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