ICT基礎知識
角田 憲 2020.11.24
ICT活用工事の基礎をプロセスごとに紐解く

ICT検査の現状とは?【ICT活用工事の基礎その4】

i-Constructionの柱である、建設業務プロセスにおける全面的なICT技術の活用。今回は建設現場における各工程「調査・計測、設計、施工、検査」のうち、最後の工程となる「検査」で、どのようにICT技術が活用されているのかについて紹介していく。

大量書類が、生産性や効率性の向上を大きく妨げていた……


「検査」段階のICT活用でもっとも期待されているのが省力化。まず検査工程の大まかな流れを解説する。設計データにもとづき、実際に施工した部分、いわゆる「出来形」をデータにしたものを施工者(受注者)が納品し、そのデータをもとに発注者が「書類検査」「実地検査」を行う形で進められる。

Shutterstock

従来の方法では、例えば2kmの工事に対して、データを手入力しなければならない50枚ほどの書類が必要になる。実地検査に関しても施工部分200mに1箇所以上の人力による計測が必要なため10日程度の日数がかかっており、その労力は相当なもの。人力での検査は、河川や法地などでは危険が伴う場合もあり、計測箇所が増えれば増えるほど懸念事項も増していくことにもなる。

ICT技術の活用に見合った新基準


そこで ICT機器を活用した検査に対応するように「監督・検査要領」で新基準が導入され、検査項目の半減、必要書類の削減が可能となった。具体的には、UAV /ドローン(以下、ドローン)などによる3次元測量データを活用することで出来形の書類が不要となり、2kmの工事であれば検査書類を2枚程度にまで削減することができる。

そして実地検査でもGNSSローバー、トータルステーションなどの測量機器を使用することで1工事に対して1断面、もしくは任意の数箇所のみの計測で済むようになり、2日程度まで期間を短縮できるという。

Shutterstock

また精度確認のルールが新設され、基準に見合った機器であれば使用規定に依らなくても利用できるようになった。これは例えば国土地理院未認定機器であってもを測定精度の基準を満たしていれば使用できるということであり、新技術の参入も活性化されているのだ。他にも工種の拡大や要求精度の緩和など、実質に見合った形で制度が改善されている。

BIM/CIM化・フロントローディングへの期待


「検査」とは端的に言えば、設計と出来形との差異を評価する作業であるが、ポイントになるのは3次元モデルの活用だ。3次元点群データからなる、面的な形状での精度の高い測量が可能になったことで、設計データに、出来高、出来形計測のデータを重ね合わせることができ、その差分を簡単に評価できる。

施工時における日々の出来形管理も容易になり、進捗状況の確認だけではなく不正の予防にもつながる。つまり初期工程で作成した3次元モデルを一貫して使用することで、設計、施工、そして最終工程の検査まで効率化されることになる、まさにBIM/CIM化の好例といっていいだろう。

加えて、施工履歴や点検結果などの履歴がデータベースとして蓄積していくことが可能な土台を作っておくことで、ライフサイクルコストを削減することができるとも言われている。

Shutterstock

「誰が、いつ、どの段階で閲覧しても工事の来歴と現状を共有し把握できる」こと。その背景には、後工程を事前検討するなど、プロセスの序盤に集中的に負荷をかけることで、品質の向上や工期の短縮を図る「フロントローディング」という考え方があり、建設現場のみではなく工事竣工後の維持管理のフェーズでもそのメリットが発揮されると言われている。

もはや建設現場のICT技術の活用による改革は机上の空論ではない。建設現場における生産性向上、働き方改革、そして将来的には、都市の運営の効率化にまで期待されている。
印刷ページを表示
WRITTEN by

角田 憲

有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。

建設土木の未来を
ICTで変えるメディア

会員登録

会員登録していただくと、最新記事を案内するメールマガジンが購読できるほか、会員限定コンテンツの閲覧が可能です。是非ご登録ください。