コラム・特集
角田 憲 2020.10.26

「残コン・戻りコン」や「維持、管理、点検」に。 ICT技術の活用が、山積する“コンクリート”問題を解決に導いていく

社会インフラの主要な材料であり生活や経済に欠かせないコンクリート。ダム、道路、トンネル、橋などのインフラ施設、そして居住用マンションや商業ビルなど、日本においてコンクリートを目にしない日はない。

インフラが一定程度普及した現在でも、その需要は高く、ピークの1990年から比べて減ってはきているものの、現在でも年間1億8千万トン以上もの生コンクリート(生コン)が工場から出荷されている。莫大な量と言っていいだろう。しかし生産量・出荷量と比例してコンクリート問題が山積しているのも事実なのだ。

コンクリート危機


2033年までには、建設から50年以上を経過するインフラ施設の割合が加速度的に高くなると言われている。高度成長期の集中投資によって大量建設された施設が今、同時に悲鳴を上げ始めている。

Joseph Sohm / Shutterstock.com

昭和末期までは「コンクリートはメンテナンスフリーな材料」という神話が蔓延していたというが、平成以降は逆に早期劣化によるコンクリート崩壊の危機が叫ばれてきた。災害時は元より、平常時でのダムの決壊や高速道路の崩壊、橋梁の崩落、そしてビルの倒壊など、考えただけで背筋に寒いものが走る。

老朽化による重大事故が起こらないためには、傷んだ箇所を発見し、補修・修繕などの維持管理が必要になるが、国内の道路だけでも総延長が127万km以上(地球の外周約30周分に相当する)、橋梁が70万橋以上、その他にもトンネルやダムなど多数あり、点検だけでも途方もない量の作業が必要になる。

重大な残コン・戻りコン問題


問題はそれだけではない。冒頭で述べたように、現在でもコンクリートの需要は莫大であり、その原料である骨材(石や砂)、セメント(石灰石)を大量に得るためには、山を切り崩し、川の底を削らなければならず、コンクリートはまさに地球を削って生産しているのだ。

そして年間で東京ドーム2個分とも4個分とも言われるほど莫大な量の「残コン・戻りコン」が発生し、多くが産業廃棄物として処理されており大きな問題となっている。

Shutterstock

当然、新築だけではなく、既存施設の修復や大規模改修、更新にもコンクリートが必要になることは言うまでもない。つまり既存の施設の維持管理の困難と資源の枯渇が、絡み合うように問題化しているのだ。

管理維持・点検におけるICT機器の活用


従来の点検作業は作業員による近接目視や打音検査などによる方法で行っており、当然、高所などでは危険が伴い、時間もかかる。また土木工学は、経験工学とも言われ、過去の経験の備蓄と世代間での技術継承が一般的だ。つまり作業員の経験値やスキルによって、点検結果にばらつきが出てしまう。

だがICT技術を活用し、撮影画像や打音装置、レーダー照射などから得たデータをAIで解析することで、空洞やひび割れ、劣化、損傷などの変状や健全度を、熟練作業員のような精度で判定することが可能になる。ドローンや専用の測量車輌を使えば高所や法地でも安全にデータを収集することができ、時間や人員を大幅に縮小することも夢ではない。

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また三次元レーザースキャナーによって測量することで、図面のない構造物であっても形状を正確に把握することができるのも画期的な手法の一つだ。首都高速道路株式会社では、管理する高速道路の全線を3次元点群データとして備蓄し、維持管理や、工事、改修などのシミュレーションに活用する試みも行っている。

コンクリート構造物は、損傷やひび割れの発生位置や大きさや形状などが、老朽化の進展や余寿命を知る重要な手掛かりになる。他にも測量データや解析データに気象データなどを加えることで、内部の鉄筋の腐食の進行を予測する研究も進んでいるという。

ICTの活用は建設の施工現場だけではなく、維持管理、点検などのフェーズにおいても、大いに効果が発揮されるのだ。

最小限の残コン・戻りコンを再生技術で再利用


残コン・戻りコンの発生要因として、余発注が挙げられる。加えて生コンはその特性上、厳しく品質の管理が求められており、一定時間が経過したものは使用することができないため、不慮の渋滞や現場での遅延が起こってしまった場合に、やはり戻りコンが発生してしまうのだ。

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だが例えばBIM/CIMを活用し、より精密な設計計画を立てることで、余発注を最小限に抑えることが期待できる。タブレットやICタグを使用し、工場での練り混ぜ開始から出荷時間、現場での打ち込み完了時間などの情報を受発注者や現場がリアルタイムで共有し、そこに渋滞情報などの情報と合わせていけば、時間切れで戻ってこなければならない事態を極力少なくすることができて非常に効率的だ。

とはいえ、現場でコンクリートが足りなくなるという事態を起こす訳にはいかないので、どれだけ綿密な計画であっても、多少の余分は当然出てくるであろう。

しかし現在、残コン戻りコンを再生骨材として利用可能にする技術も普及し始めており、そう言った技術を組み合わせることで、この問題の解決も見えてくるのではないだろうか。2020年には「残コン・戻りコンソリューション技術研究会」も発足し、その対策にも注目を集め始めている。

弛まぬ努力がICT導入のハードルを乗り越えていく


ICTの導入は必ずしも簡単ではない。AIによる画像解析の精度を高めるためには、膨大な量の学習データが必要になる。ドローン操作は決して難度が低くはなく、天候にも左右されてしまう。

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また生コン工場や現場からの出荷データの送受信は、簡単な操作でなければ正確な情報を取り続けていくのは難しいだろう。導入困難な理由を挙げていけば枚挙に暇がない。

しかし今、ICT機器の自動運転やAIによる異常画像の生成などの技術も進み、導入におけるハードルすらも乗り越えようとしている。

この先、安全な社会を支えていくために、ICT技術を活用した省人化や効率化、生産性の向上は建設産業の課題であることは変わらない事実だが、今、産業内外の人たちの弛まぬ努力によって、技術が進歩し、ICT導入の機運が高まっている。
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WRITTEN by

角田 憲

有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。

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