i-Constructionの普及を目指し、全国の自治体ではさまざまな取組みが行われている。
静岡県が立ち上げた「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」や、茨城県が独自に採用している発注方法「チャレンジいばらぎⅠ・Ⅱ型」などは、自治体の取組みとしては、ご存知の方も多いのではないだろうか。
自治体主導でのi-Construction推進の動きは、静岡県や茨城県にとどまらず、いま、全国各地の自治体に広がりつつあるようだ。そこで本記事では、令和2年度にi-Construction大賞「地方公共団体の取組部門」を受賞した、富山、山口、兵庫。この3つの自治体の事例を紹介していく。
富山県は、高度経済成長期に設置された既存インフラの老朽化や、今後さらに加速する人口減少・高齢化等の地域課題への対策として、独自のネットワークシステムを構築した。
県内各所に設置されたIoT機器や、各事業者が保有するデータは当システム上に集計されるという仕組みだ。これらのデータは、用途に応じて分析され、インフラ設備の維持管理や防災・減災への取り組み、暮らしやすい街づくりや住民満足度の向上などに役立てられている。
○ i-Construction推進シンポジウムを開催
令和1年10月、国・地方公共団体・建設事業者を対象としたシンポジウムが、富山市で開催された。講演には、日本建設情報技術局の理事長や富山市副市長、そして国土交通省の北陸地方整備局担当者らが登壇し、富山県内におけるICT活用工事の現状などが、事例とともに紹介された。会の終わりには参加者を交えたディスカッションの時間が設けられ、ICT技術の理解を深め、新技術導入への意欲を深める機会となったようだ。
○ 橋梁の施工・更新事業にCIMを導入
八田橋更新事業では、CIMを導入したフロントローディングが実施された。
複雑な配筋状況を3Dモデル上で可視化し、施工段階で起こりうる鉄筋の干渉などの不具合を、設計段階で解消することに成功。さらに今後は、橋梁の維持・管理時においても、CIM の活用を目指すとしている。
○ 橋梁の管理事業にモニタリングシステムを導入
老朽化した橋梁を、遠隔監視するモニタリングシステムを導入。センサーが異常を感知した際には、迅速に通行止め措置等が行われる。
さらに当事業では、中核市としては初めて国立研究開発法人土木研究所と研究協力協定を締結。市が管理する橋梁は、実証実験のフィールドとして研究機関に提供され、維持・管理体制の強化や、高度技術の開発にも役立てられているという。
○ 富山市センサーネットワーク
市全域をカバーする通信網と、IoTセンサーから収集された情報を集約し、管理するIoTプラットフォーム「富山市センサーネットワーク(以下、センサーNW)」を構築。集積された情報は、インフラの維持・管理だけでなく、災害対策や現事業の最適化など、各分野に役立てられている。
・ 河川水位監視システム
市が管理する準用河川4箇所に水位計を設置し、河川水位を遠隔で監視するというもの。
リアルタイムで集積された情報は、オープンデータとしてWeb上で閲覧することができるため、市民の避難活動や浸水被害への備えに役立てることができる。
河川水位を遠隔監視が可能になったことで、豪雨時にパトロールを行う人員の削減やルートの効率化が実現。災害対策にかかるコストの最適化にも寄与した。
・ 除雪情報システム
除雪車にGPSロガーを設置し、稼働日時と除雪作業位置情報を収集。稼働上状況を分析することで、より効率的な除雪ルートやエリア分担を割り出し、コストの最適化に成功した。また、稼働記録を書き出すことができるため、事務作業の削減にもつながったという。
上記に挙げた2例は、活用例のほんの一部である。
センサーNWは民間事業者に無償提供されており、当ネットワークを活用した実証実験の公募事業には、23事業36団体からの応募があったという。現在もさまざまな活用方法を募っており、今後はさらなる多角的な活用法が検討されているようだ。
○ 富山市ライフライン共通プラットフォーム
官民協働によるWebサイト「富山市情報公開サイト(https://tscs.city.toyama.lg.jp/)」を開設。
行政管轄の情報以外に、電気・ガス・通信・交通など、市内の各ライフライン事業者が保有する情報が、このサイト上に集約される。たとえば、電子申請された道路専有許可申請の内容は、サイト地図上に反映・表示されるため、誰でも近隣の工事予定や通行制限情報を閲覧できるようになった。
その他、児童に貸し出したGPSセンサーが収集した登下校の移動軌跡と、工事予定情報・交通事故多発地点情報を照会・分析することで、通学路の安全を確保する「こどもを見守る地域連携事業」など、市民生活の安全性向上にも役立てられている。今後は富山市センサーネットワークに集約されたIoTセンサーの情報との連携も検討されているそうだ。バーチャルシティ構想の、今後の動向に注目したい。
山口県は、令和元年11月7日(木)〜9日(土)に建設ICTに特化したイベントを開催した。これは地方公共団体としては、全国初の試みであった。
○ 講演・パネルディスカッション
ICT技術をいち早く導入し、活用している全国のトップランナーが講演者として登壇。講演では、ICT技術導入の経緯や業務上のノウハウが技術者目線で語られ、ICT工事を実践している現場の、リアルな声を聞く貴重な機会となったようだ。
○ 屋外展示会場
ICT建機による施工やUAV測量を実際に体験できる展示スペース。MCを搭載したバックホウなど、25台の建機が集う操作体験スペースには、約200㎥の土を搬入されるなど、よりリアルにICT施工を体験できる工夫が施された。
○ 屋内展示会場
屋内展示スペースでは、3次元測量機器やソフトウェア、VR機器の展示・実演が行われた。3次元データの活用法や具体的な業務での使用シーン、そして技術を導入することで得られるメリットなど、出展企業担当者によるプレゼンテーションが披露された。
来場者数は、3日間で約2,000人。そのうち80名は、大学生や専門学生等の若年世代が占めており、当イベントは次世代を担う若者に対して、ICT技術を活用した建設産業の魅力を発信する場にもなったそうだ。また、自治体と出展企業、地域の建設事業者間の協力関係を強化するマッチングや、業務提携の促進の場としても活用されるなど、i-Construction推進を目指すうえで、非常に実りの多いイベントとなった。
兵庫県では、i-Constructionがスタートした翌年にあたる、平成29年度からICT活用工事をスタートさせていた。しかし、生産性人口の減少が加速するなか、建設分野の生産性向上のため、さらに踏み込んだ施策が求められていた。ICT活用工事の間口を広めるべく、次に紹介する4つの取組みが県主導で実施された。
○ すべての工事をICT活用工事として発注
ICT活用工事の普及拡大への姿勢を明示するとともに、受注者のICT導入意欲を喚起するため、対象工種を含む工事を、すべてICT活用工事として発注。これにより、ICT活用工事の実施件数、発注件数はともに、およそ3倍近く増加した。
○ ICT活用のプロセスを選択可能に
まだICTの経験がない受注者が、少しずつでも実績を積む機会を得られるよう、中小規模の工事でも、ICT技術を活用する施工プロセスの選択実施を認める制度を新たに構築した。また、測量・設計・施工・管理・検査のうち、どのプロセスでICT技術を活用することが生産性向上や費用対効果向上のために有効か、事業者自身で見極める力を養うためにも役立ったという。
○ 県主催による研修会の開催
中小規模の工事を想定したICT技術の研修や、ICT技術工事の体験会を、計20回開催した。3次元データ作成方法やICT建機による施工研修といった実技指導に限らず、現場課題への対応法をレクチャーする座学の講義など、幅広い学びが提供された。参加人数はのべ486人に上り、ICT技術者の育成に広く貢献したという。
○ ICTを活用した舗装修繕工事の先行実施
舗装修繕工事がICT活用工事として工種拡大される令和2年度に先立ち、ICT舗装修繕工のモデル工事が実施された。従来の施工法と比較して大幅な縮減効果が得られたことで、ICT活用による生産性向上を、工種の拡大に先立って示す結果となった。
自治体が主導し、ICT技術活用の普及に取組む環境は、多くの中小事業者にとって、とても頼もしいものだろう。本記事で紹介した事例からも、自治体と中小事業者との間に、良好な協働関係を築くことが、i-Constructionの推進に影響を与えることが伺えた。自治体の働きかけにより、土木・建設業界は今後、さらに盛り上がっていくだろう。今後もデジコンでは、各自治体の動向に注目し、最新の情報をお届けしていく。
静岡県が立ち上げた「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」や、茨城県が独自に採用している発注方法「チャレンジいばらぎⅠ・Ⅱ型」などは、自治体の取組みとしては、ご存知の方も多いのではないだろうか。
自治体主導でのi-Construction推進の動きは、静岡県や茨城県にとどまらず、いま、全国各地の自治体に広がりつつあるようだ。そこで本記事では、令和2年度にi-Construction大賞「地方公共団体の取組部門」を受賞した、富山、山口、兵庫。この3つの自治体の事例を紹介していく。
富山県の事例:「インフラを守る時代のi-Construction 」
富山県は、高度経済成長期に設置された既存インフラの老朽化や、今後さらに加速する人口減少・高齢化等の地域課題への対策として、独自のネットワークシステムを構築した。
県内各所に設置されたIoT機器や、各事業者が保有するデータは当システム上に集計されるという仕組みだ。これらのデータは、用途に応じて分析され、インフラ設備の維持管理や防災・減災への取り組み、暮らしやすい街づくりや住民満足度の向上などに役立てられている。
○ i-Construction推進シンポジウムを開催
令和1年10月、国・地方公共団体・建設事業者を対象としたシンポジウムが、富山市で開催された。講演には、日本建設情報技術局の理事長や富山市副市長、そして国土交通省の北陸地方整備局担当者らが登壇し、富山県内におけるICT活用工事の現状などが、事例とともに紹介された。会の終わりには参加者を交えたディスカッションの時間が設けられ、ICT技術の理解を深め、新技術導入への意欲を深める機会となったようだ。
○ 橋梁の施工・更新事業にCIMを導入
八田橋更新事業では、CIMを導入したフロントローディングが実施された。
複雑な配筋状況を3Dモデル上で可視化し、施工段階で起こりうる鉄筋の干渉などの不具合を、設計段階で解消することに成功。さらに今後は、橋梁の維持・管理時においても、CIM の活用を目指すとしている。
○ 橋梁の管理事業にモニタリングシステムを導入
老朽化した橋梁を、遠隔監視するモニタリングシステムを導入。センサーが異常を感知した際には、迅速に通行止め措置等が行われる。
さらに当事業では、中核市としては初めて国立研究開発法人土木研究所と研究協力協定を締結。市が管理する橋梁は、実証実験のフィールドとして研究機関に提供され、維持・管理体制の強化や、高度技術の開発にも役立てられているという。
○ 富山市センサーネットワーク
市全域をカバーする通信網と、IoTセンサーから収集された情報を集約し、管理するIoTプラットフォーム「富山市センサーネットワーク(以下、センサーNW)」を構築。集積された情報は、インフラの維持・管理だけでなく、災害対策や現事業の最適化など、各分野に役立てられている。
・ 河川水位監視システム
市が管理する準用河川4箇所に水位計を設置し、河川水位を遠隔で監視するというもの。
リアルタイムで集積された情報は、オープンデータとしてWeb上で閲覧することができるため、市民の避難活動や浸水被害への備えに役立てることができる。
河川水位を遠隔監視が可能になったことで、豪雨時にパトロールを行う人員の削減やルートの効率化が実現。災害対策にかかるコストの最適化にも寄与した。
・ 除雪情報システム
除雪車にGPSロガーを設置し、稼働日時と除雪作業位置情報を収集。稼働上状況を分析することで、より効率的な除雪ルートやエリア分担を割り出し、コストの最適化に成功した。また、稼働記録を書き出すことができるため、事務作業の削減にもつながったという。
上記に挙げた2例は、活用例のほんの一部である。
センサーNWは民間事業者に無償提供されており、当ネットワークを活用した実証実験の公募事業には、23事業36団体からの応募があったという。現在もさまざまな活用方法を募っており、今後はさらなる多角的な活用法が検討されているようだ。
○ 富山市ライフライン共通プラットフォーム
官民協働によるWebサイト「富山市情報公開サイト(https://tscs.city.toyama.lg.jp/)」を開設。
行政管轄の情報以外に、電気・ガス・通信・交通など、市内の各ライフライン事業者が保有する情報が、このサイト上に集約される。たとえば、電子申請された道路専有許可申請の内容は、サイト地図上に反映・表示されるため、誰でも近隣の工事予定や通行制限情報を閲覧できるようになった。
その他、児童に貸し出したGPSセンサーが収集した登下校の移動軌跡と、工事予定情報・交通事故多発地点情報を照会・分析することで、通学路の安全を確保する「こどもを見守る地域連携事業」など、市民生活の安全性向上にも役立てられている。今後は富山市センサーネットワークに集約されたIoTセンサーの情報との連携も検討されているそうだ。バーチャルシティ構想の、今後の動向に注目したい。
山口県の事例:「建設ICTビジネスメッセ」
山口県は、令和元年11月7日(木)〜9日(土)に建設ICTに特化したイベントを開催した。これは地方公共団体としては、全国初の試みであった。
○ 講演・パネルディスカッション
ICT技術をいち早く導入し、活用している全国のトップランナーが講演者として登壇。講演では、ICT技術導入の経緯や業務上のノウハウが技術者目線で語られ、ICT工事を実践している現場の、リアルな声を聞く貴重な機会となったようだ。
○ 屋外展示会場
ICT建機による施工やUAV測量を実際に体験できる展示スペース。MCを搭載したバックホウなど、25台の建機が集う操作体験スペースには、約200㎥の土を搬入されるなど、よりリアルにICT施工を体験できる工夫が施された。
○ 屋内展示会場
屋内展示スペースでは、3次元測量機器やソフトウェア、VR機器の展示・実演が行われた。3次元データの活用法や具体的な業務での使用シーン、そして技術を導入することで得られるメリットなど、出展企業担当者によるプレゼンテーションが披露された。
来場者数は、3日間で約2,000人。そのうち80名は、大学生や専門学生等の若年世代が占めており、当イベントは次世代を担う若者に対して、ICT技術を活用した建設産業の魅力を発信する場にもなったそうだ。また、自治体と出展企業、地域の建設事業者間の協力関係を強化するマッチングや、業務提携の促進の場としても活用されるなど、i-Construction推進を目指すうえで、非常に実りの多いイベントとなった。
兵庫県の事例:「ICT工事普及拡大の取組み」
兵庫県では、i-Constructionがスタートした翌年にあたる、平成29年度からICT活用工事をスタートさせていた。しかし、生産性人口の減少が加速するなか、建設分野の生産性向上のため、さらに踏み込んだ施策が求められていた。ICT活用工事の間口を広めるべく、次に紹介する4つの取組みが県主導で実施された。
○ すべての工事をICT活用工事として発注
ICT活用工事の普及拡大への姿勢を明示するとともに、受注者のICT導入意欲を喚起するため、対象工種を含む工事を、すべてICT活用工事として発注。これにより、ICT活用工事の実施件数、発注件数はともに、およそ3倍近く増加した。
○ ICT活用のプロセスを選択可能に
まだICTの経験がない受注者が、少しずつでも実績を積む機会を得られるよう、中小規模の工事でも、ICT技術を活用する施工プロセスの選択実施を認める制度を新たに構築した。また、測量・設計・施工・管理・検査のうち、どのプロセスでICT技術を活用することが生産性向上や費用対効果向上のために有効か、事業者自身で見極める力を養うためにも役立ったという。
○ 県主催による研修会の開催
中小規模の工事を想定したICT技術の研修や、ICT技術工事の体験会を、計20回開催した。3次元データ作成方法やICT建機による施工研修といった実技指導に限らず、現場課題への対応法をレクチャーする座学の講義など、幅広い学びが提供された。参加人数はのべ486人に上り、ICT技術者の育成に広く貢献したという。
○ ICTを活用した舗装修繕工事の先行実施
舗装修繕工事がICT活用工事として工種拡大される令和2年度に先立ち、ICT舗装修繕工のモデル工事が実施された。従来の施工法と比較して大幅な縮減効果が得られたことで、ICT活用による生産性向上を、工種の拡大に先立って示す結果となった。
自治体と地域事業者の協働で、i-Constructionはさらに加速する
自治体が主導し、ICT技術活用の普及に取組む環境は、多くの中小事業者にとって、とても頼もしいものだろう。本記事で紹介した事例からも、自治体と中小事業者との間に、良好な協働関係を築くことが、i-Constructionの推進に影響を与えることが伺えた。自治体の働きかけにより、土木・建設業界は今後、さらに盛り上がっていくだろう。今後もデジコンでは、各自治体の動向に注目し、最新の情報をお届けしていく。
WRITTEN by
高橋 奈那
神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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