コラム・特集
平田 佳子 2021.6.14
いま注目の建設スタートアップ

タブレットひとつで施工管理を大幅効率化。 現場のリアルな声を大切にしながら、建設DXに挑むスパイダープラス

CONTENTS
  1. 「SPIDERPLUS」開発のキッカケは、職人上がりの代表・伊藤が感じた、  現場のストレスだった
  2. 大型現場のペーパーレス化、帳票の効率化を
  3. カメラ機能やオプション、使いやすさへのこだわり
  4. 働く人の余裕も、リモートワークの実現も
  5. 現場の声を、とにかく大切に。一つ一つ課題を解決したいから
  6. 建設業界のDXを進め、他業界への浸透も
スパイダープラス株式会社は、断熱工事の施工を手がけるエンジニアリング事業部とアプリ開発を担うICT事業部の二つの事業を展開するベンチャー企業だ。

社名と同名のアプリ「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」は、建設業界において図面や施工管理を効率化し、ユーザー数は4万を突破。今年(2021)の3月には東証マザーズに上場を果たした。今回の取材では、同社 ICT事業部セールスグループ マーケティング部 プロモーションチームの植田 詩織氏に、同社のプロダクトの開発背景や優位性、同社のビジョンについて詳しく伺った。

「SPIDERPLUS」開発のキッカケは、職人上がりの代表・伊藤が感じた、
 現場のストレスだった


ーーまずは建設業界で多くの方に使われているアプリ「SPIDERPLUS」開発の経緯から教えていただけますか。

植田氏:もともと、当社のCEOの伊藤 謙自は建設現場の職人として働いていたんです。1997年には当社の前身となる伊藤工業を創業し、保温断熱工事を手がけていました。

そんな中で伊藤自身が、スマートフォンが広がりIT化が進む時代になっても、建設業界はまったく変わっていかないことを痛感。工事費の見積もりを算出する積算業務も、大きな図面に色鉛筆でたくさん線を引っ張っていくようなアナログ作業で……。

スパイダープラス株式会社 ICT事業部セールスグループ マーケティング部 プロモーションチームの植田 詩織 氏

そこでまずは積算業務を効率化しようと、幼なじみのエンジニアに外注して「SPIDERPLUS」の前身となる「Spider(スパイダー)」を開発したんです。2010年のことです。当時はまだタブレットで使えるシステム自体が限られており、新しい試みでした。

ーー現場の非効率さを、代表の伊藤さんご自身が身をもって感じていたのですね。


植田氏:それで、その積算システムを導入した結果、大規模な工事では約1カ月もかかった積算作業が、数時間程度にまで時間を短縮できたんです。翌年にはそれを進化させ、「SPIDERPLUS」を開発しました。

大型現場のペーパーレス化、帳票の効率化を


ーーなるほど。「SPIDERPLUS」について詳しく教えていただけますか。

植田氏:「SPIDERPLUS」はタブレット一台で、図面の共有や現場の施工管理ができるアプリケーションで、主に現場監督にご利用いただいています。住宅ではなく、商業ビルなどの大規模な建設現場が対象になります。

スパイダープラス公式YouTubeより 「建設業・メンテナンス業向け 現場管理アプリSPIDERPLUS®スパイダープラス」

例えば、ゼネコンやサブコン・協力会社が複数社出入りするような大型現場では、図面や進捗状況を共有するだけでも大変です。それをサポートするのがこの「SPIDERPLUS」でして、図面データを土台にして現場の様々な情報をひもづけて共有できるのが特徴です。

料金は1アカウント月額税込3,300円(2021年5月時点)で、現場に応じて解約や休止もできます。

ーー 現場では具体的にどのような課題があったのでしょうか。

植田氏: 従来は、1つの工事で膨大な数の紙の図面が使われており、必要な図面だけをピックアップして、現場に持っていっていました。現場監督が職人さんから「この図面見せて」と言われた際に、その場になくて事務所まで戻ることも多く……。

例えば、事務所が現場から徒歩20分の場所にある場合、事務所と現場の往復だけでも40分もかかってしまいます。また別の例で言うと、事務所が1階にある場合、屋上で作業している方が、1階まで階段を下りて事務所で図面を印刷し、屋上まで持っていく……。どちらの例にしても、体への負担は大きいですし、無駄な時間ばかり消化されてしまうんですよね。


さらに、図面もきちんと整理できておらず、新しい図面に差し替わっているのに古い図面で施工する間違いもよくありました。

ーー 建設業界では紙の図面が当たり前の状況で、ミスも起きやすかったんですね。

植田氏:はい。あと、工事の記録を記入する帳票作成も大変で……。従来は紙の図面や現場で書いたメモを事務所に戻って一つ一つエクセルに転記し、図面や画像を照らし合わせながら書類を作らないといけませんでした。

帳票作成だけで1週間かかることもあり、土日の休みを返上するケースも珍しくはありません。実は今も、紙の図面を使ってアナログなやり方で帳票作成をしている建設現場は多いんです。

ーー 想像しただけで大変です……。「SPIDERPLUS」で現場はどう変わるのでしょうか?

植田氏:「SPIDERPLUS」を使えば、図面はもちろん、PDFや動画、資料など、様々なデータをタブレットに全て集約し、現場でいつでもすぐに確認できます。写真は現場のフォルダごとに整理され、最新の図面が一目瞭然なので、迷うことなく工事を進められます。

現場と事務所を往復する負担もありませんし、職人さんとのやり取りもスムーズです。煩雑な作業が多かった帳票作成も、現場のメモや写真をまとめてワンクリックで完成し、時間を大きく短縮できますね。

カメラ機能やオプション、使いやすさへのこだわり


ーーそこまで効率化できるんですね。とくにお客様に喜ばれている機能はありますか?

植田氏:標準機能のなかでとくにお客様に喜ばれているのはカメラ機能ですね。デジカメを使わずにも、タブレット内蔵カメラで写真を撮って、タブレットペンなどで傷や汚れなどの状況を書き込めます。


事前に矢印マークを設置しておくことで、新人さんでもどの向きから撮ればいいかを先輩と明確に確認することができますし、複雑な現場でもどこから撮影したものなのかが分かって、クラウドを介して関係者間で現場の情報を共有することができるのです。

向きの表示は何気なく取り入れた機能でしたが、お客様からのニーズがとても高くて驚きました。

ーー それは便利ですね。あと、標準で搭載されている機能のほかにオプション機能もあるとか。

植田氏:オプションも充実していますね。工事では電気や空調などの専門業種の方々が検査を行いますが、各検査用機能を「建築業界向け」「電気設備業界向け」「空調設備業界向け」と業界別にパッケージ化したものをご用意しています。

例えば空調設備業の風量測定検査では、従来は風量計を持つ人、数値を測る人、横で数値を読み上げる人、メモをする人や合格数値に達しているのか計算する人など、多くの人数が必要でしたが、アプリを使えば一人で対応でき、省人化につながります。


電気や空調など設備業界の検査では、Bluetooth連携している機器から数値を取り込んで、記録。そして、それを帳票で出せるのも大きな特徴ですね。

ーー 今回、実際に「SPIDERPLUS」に触れ、使い勝手が良いのも特長だと感じましたが、UIやデザインで工夫していることはありますか?

植田氏:代表の伊藤がいつも言っているのが、「俺でも分かるアプリをつくれ」と(笑)。説明書がなくても誰でも使えるUIにしたり、一目で分かるアイコンにしたり。機能が増えると操作が複雑になりがちですが、専門のデザイナーと連携しながら使い心地の良さを、徹底的に追求しています。

働く人の余裕も、リモートワークの実現も


ーー 機能や使い勝手についてすごく考えられていて、感心します。

植田氏:お客様も、私たちの想定以上に、工夫してアプリを使ってくださっています。例えば危険な場所は図面上に青色で塗りつぶしをして、立入禁止であることを共有したり。

事務所の掲示板に書かれた注意事項や搬入資材などの写真を撮ってクラウドで共有し、伝達モレや記憶違いを防いだり。私たちもお客様から「そんな使い方があるのか」と学ぶことが多いですね。


ーー お客様からは「SPIDERPLUS」について、どのような声をいただきますか?

植田氏:もともと紙の図面を使っていた方は、「「SPIDERPLUS」で業務が効率化されて、業務終了後に資格の勉強を進められ、早く資格が取れて昇格できた」と。働いている方の精神的な余裕にもつながるんだと実感しましたね。

あとは、「ITは全然分からないと思ってたけど、"SPIDERPLUS”を使ったらすごくラク。建設業のリモートワークが実現できた」と仰っていた方も。コロナ禍で自宅待機になった際も、「SPIDERPLUS」で進捗確認や管理ができて安心したと喜ばれていました。


現場の声を、とにかく大切に。一つ一つ課題を解決したいから


ーー それはすごくいい事例ですね。現場の声をとても大事されている印象を受けますが、現場に赴いてヒアリングする機会も多いのでしょうか。

植田氏:代表の伊藤が現場で苦労した実体験から、現場の声を一つ一つ集めないと業界の課題を解決できないという想いが当社の根底にありまして。現場の状況や課題を知るために、エンジニアからサポートセンターのスタッフまで全社員がお客様の現場に足を運び、研修しています。


営業の現場研修では「ここをこうしてほしい」というお客様の要望を可能な限り吸い上げて、毎月、会議で検討し、開発につなげていますね。

ーー 現場の声をすぐに生かしてアップデートされていると。導入後のサポートはどうされているのでしょうか。

植田氏:当社ではサポートセンターとカスタマーサクセスの2軸でサポートを行っています。サポートセンターでは電話・メール・チャットで、使い方などの質問や相談ができます。どのスタッフも研修で現場を理解しているからこそ、お客様からの質問にスピーディーに答えられ、「理解が早いから解決も早い」と、満足いただいていますね。


また、カスタマーサクセスではお客様の状況に応じてオンボーディングを進めるとともに、個別の勉強会を年間2,000回以上行っています。

お客様が一人残らず使いこなせるように支える仕組みがあり、導入後の継続率も99%を超えています。

建設業界のDXを進め、他業界への浸透も


ーー企業としての一番の強みはどこにあるとお考えですか?

植田氏:当社では、アプリを開発・販売するICT事業部に加え、実際に断熱工事の施工を行うエンジニアリング事業部があります。実際に現場を持っている当社だからこそ、机上の空論でDXを進めるのではなく、現場で働く人と同じ目線で開発ができます。それは当社の大きな強みだと感じますね。


ーー 現場と一緒につくっていくという考え方があるんですね。規模が大きくなっても伊藤代表からのDNAは変わらないことに感動しました。最後に、これからの「SPIDERPLUS」の展望を教えていただけますか?

植田氏:今はシステムのリニューアルを見据え、新しいアプリの構想も進んでいます。そして、国内の建設業界への浸透を一層図り、建設DXを広げていきたいですね。当社の試算では、今、建設業の国内市場は約1.2兆円で現場監督の数は約69万人。

現時点で「SPIDERPLUS」のユーザー数は約4万人なので、まだまだ開拓の余地があります。さらに、アジアまで広げると市場規模は4兆円になるので、ゆくゆくは海外も視野に広げていければと。

ーー 建設業界のこれからの可能性は大きいですね。

植田氏:
そうですね。そして実は、図面を共有しながら業務を進める仕事であれば、どんな業界の方でも使っていただける可能性があるんです。例えば、プラント業界、不動産のデベロッパー、鉄道関係、造船業や製造業、物流センターの管理など。手前味噌からもしれませんが、「SPIDERPLUS」の可能性自体も無限大だと感じています。




【編集部 後記】

「SPIDERPLUS」の誕生から10年を迎え、さらなる成長をめざす、スパイダープラス社。取材時も、現場の声を拾い上げ、社員全員が連携しながら情熱をもってプロダクトをつくっていることが伝わってきた。

今回話を伺った植田氏、実はご家族も建設業に従事されており、親御さんが休みなく働いていた様子をずっと見てきたことから、「SPIDERPLUS」の意義を実感し、入社を決意したんだとか。建設業界の働き方を大きく変える同社のプロダクトは、これから勢いを増して、浸透していくに違いない。



スパイダープラス株式会社
東京都豊島区東池袋1丁目12番5号 東京信用金庫本店ビル 7階
HP:https://spiderplus.co.jp/
SPIDERPLUS 製品サイト:https://spider-plus.com/



取材・編集:デジコン編集部 / 文:平田 佳子 /撮影:宇佐美 亮
WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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