コラム・特集
平田 佳子 2021.4.20
いま注目の建設スタートアップ

業界全体をアップデートしていく。BRANUが掲げる、建設 DXプラットフォーム構想

CONTENTS
  1. ライトなマッチングから、“人”の深堀りへ
  2. プラットフォームを構築して、建設業界全体を魅力的に
  3. 業界が変わり続けるなかで、現場の声に寄り添ってサポートを
2009年に設立され、建設業界に特化したデジタルサービスを手がける、「BRANU株式会社/以下、ブラニュー」。2014年に建設事業者をつなげるマッチングサービス「CAREECON」をリリース後、プロダクトを着実にアップデートしながら、サービスの拡大を続けてきた。

建設DXを推進する今、どのようなデジタルソリューションを展開しているのか。ブラニュー 事業推進部 室長の山下光一氏に、サービスやプロジェクトの構想、そして今後の目標について話をうかがった。


ライトなマッチングから、“人”の深堀りへ


ーーまずは、プロダクトの基盤となる「CAREECON」を開発した背景について教えていただけますか?

山下氏:CAREECONは、2014年11月にサービスを始めた建設事業者間のマッチングサイトです。開発のきっかけは、ホームページ制作などでおつきあいのある建設会社さんたちにヒアリングすると、「近場の現場の仕事が取れない」「依頼できる業者さんがいない」などの元請け会社と下請け会社のマッチングの課題があったこと。また、建設業界の人材不足が顕著で、それをテクノロジーの力で変えていこうとスタートしました。

ブラニュー 事業推進部 室長 山下光一氏

スタート当初は、仕事を探す側か依頼する側かの属性とエリアを登録して、建設会社の相性度に応じてレコメンドし、チャットで連絡するシンプルなものでした。いわゆるマッチングサイトのような形です。

建設業の方が登録しやすいようにあえてライトな仕様にしたのですが、あまり進展しなくて……。というのも、元請け会社が協力会社や職人さんを探すときはエリアだけでなく、仕事の技術や人柄といった“人”の部分が見られるので、簡易的な情報ではそれがわかりにくかったんです。

ーー 条件が絞られているようでマッチングまで届いてなかったと。今はどうされているのでしょうか?

山下氏:今はそこから深掘っています。対応業種や保有建機、保険加入情報などの基本的な会社の情報も入れてもらい、情報をたくさん入れるほど信頼スコアが上がっていく仕組みをつくっています。

そして今後は、発注の際の判断基準になるように、会社単位でなく、もっと職人さんのプロフィール情報を充実させていこうと考えております。職人さんの得意な業種や保有資格、人柄まで把握できるようにしようと。

ーー職人さんの“人”が伝わるようにということですね。

山下氏:あと、技術そのものに点数をつけることが難しいのが職人という職種だからです。ヨーロッパのようなマイスター制度もありますが、日本では、半人前から一人前に変わるタイミングも人によってまちまちなのが現状です。業種・職種によって必要な資格はありますが、「資格取得者=腕のいい職人さん」とは限らないのがこの業界だと思います。だからこそCAREECONを通して、「この建設会社にはこんな魅力的な職人さんがいる」と知ってもらえる「場」を作っていきたいんです。
(ブラニュー 提供)


  ーー 今後はICT建機経験の有無も項目に入るのでしょうか。

山下氏:
入ってくると思います。あとはドローンの操縦やUAV測量ができる、ドローンを飛ばす申請もできるなどの項目も今後は必要になるかと。ICT、IoTが進んでいけばいくほど、ICT系の履歴のある人は価値が高まると思います。

ーー「CAREECON for WORK 施工管理」もリリースされましたが、これはどういったものでしょうか。

CAREECON for WORK 施工管理は、工程表や報告書の作成、写真整理など、施工管理士の方々のデスクワークの負担を軽減するクラウド型ツールです。重要なのは、ユーザーの方にどれだけ長く使っていただけるか。

(ブラニュー 提供)

そのため、カスタマーサクセスチームが使い勝手をヒアリングして開発チームにフィードバックするなど、こまめに現場の声をお聞きしてデータを分析しながらアップデートしています。


プラットフォームを構築して、建設業界全体を魅力的に


ーー2019年に発表された「CAREECON 建設 DX Platform」の構想について、教えていただけますか?

山下氏:当社では建設業の方の経営課題を解決するために、DXを実現する様々なサービス・プロダクトを提供していきたいと考えています。そして自社で開発・提携したサービスの全データを集約し、横つなぎにしていくのが、DX Platformの考え方になります。一回登録すれば全てのサービスで利用できるので、ユーザー側の登録作業を効率化できますし、データの価値も広げられます。

(ブラニュー プレスリリースより)

今、建設テック系の企業は、一つの製品をメインにしてその機能を深掘っていく、ワンプロダクトのスタイルが多いんです。でも、建設業では業種や職種がたくさんあるため、一つのプロダクトだけでは業界全体をカバーしきれません。だから、プラットフォームを通してトータルでサポートしていこうと。

ーー 建設業界を「点」ではなくて「線」で。すべてを包んでいくイメージですね。

山下氏:はい。どこかが楽になっても、どこかにしわ寄せがくるのでは、業界全体の活性化につながりません。例えば今、施工管理アプリを提供している会社は、当社も含めて30社程度にまで膨らんでいます。


施工管理業務が楽になる一方で、現場の職人さんが案件のたびにいくつものアプリが必要になり、アプリごとに日報を書いて図面をアップロードするような状況が出てきて混乱するんじゃないかという懸念があります。

産業上の構造では、圧倒的に下請け会社さんのほうが多い。建設業の中小企業をテクノロジーでアップデートすることは業界自体をアップデートすることとイコールです。だからこそ、私たちは中小企業にフォーカスしてアプローチし続けています。

ーー なるほど。プラットフォームについて、これからの目標を教えてください。

山下氏:サービスをご利用いただいているユーザーの方が抱える悩みを解決できるように、既存プロダクトの開発に注力しつつ、プラットフォームの中でどんな新しいプロダクトをどのタイミングでどう配置していくかも議論しています。新プロダクトについては、弊社のお客様のリアルな声をキャッチアップしつつ、市場感を見ながら開発予定を組んでいるところです。


また今後は、法人としてのスコアリングも重要視していこうと思っています。例えばファクタリング会社と連携して与信のデータを加味したり、重機や資材を販売するプラットフォームとつながるときに売掛がちゃんとできているか、お金の流れに問題ないかなどがわかるようにしたり。オンラインのつながりの中で取引の際の信頼感も大切になるということですね。

業界が変わり続けるなかで、現場の声に寄り添ってサポートを


―ー会社についてもうかがいたいのですが、なぜ早くから建設業界に注目してきたのでしょうか?

山下氏:代表の名富が前職で建設業向けのデジタルソリューション責任者だったというのも大きいですね。最初は建設会社の中小企業のホームページ制作を手がけていました。そもそも下請け会社は元請け会社から仕事がくる産業構造なのでホームページを設ける必要があまりなかったのですが、徐々にそれでは厳しくなり、ホームページの制作・更新や採用の広告・運用なども、自分たちでやらないといけなくなってきました。ホームページが会社の重要な信用にまで躍進したのが大きな要因です。


そこをわれわれがサポートしていこうというところからスタートしました。業界自体が変わりつつある中で、いかに柔軟に対応していくのかは、われわれにとってもミッションだと思っています。

ーー建設業界は課題がある分、伸びしろがある。そんな可能性を実感しますか?

山下氏:コロナ禍でリモートワークが多くなり、Zoomなどのオンラインミーティングが活用されたりと、急激にデジタル化が進みました。建設業界にこれから参入する企業は今後たくさん出てくると思います。新しいテクノロジーの中でも、ライトで使いやすさに特化したプロダクトと、専門的に深堀りしたプロダクトが並行して進んでいくでしょう。ただ、業界の人口が減っていますので、中途半端なサービスはこれから淘汰されると思います。


また、ゼネコンや大手建設会社はデジタル施工が進んでリテラシーが高くなる一方で、それが最終的に現場レベルまで到達するには、時間が必要です。わたしたちは現場の課題に対して地道に取り組み、じっくりサポートしていきたいと思います。

ーー今、現場ではどんな課題があり、どう解決していこうとしているのでしょうか。

山下氏:弊社ではサービスのご契約後にオンボーディングという説明会やサポートデスク等のお客様と伴走できるサービスを行っています。その際に職人さんに使い方を説明すると、「ダウンロードってどうやるの?」など、初歩的な部分でつまずくことが多い。そこで、説明会の資料を職人さん向けにわかりやすくすることや、専用のサポートサイトを作ることなどを検討しています。下請け会社の職人の方のアクティブ率をいかに高めていくかは大きなポイントだと思います。



【編集部 後記】
建設DXがさけばれる前から建設業界に特化して、現場の声を汲み取ったサービスを提供し続けているテックカンパニー「BRANU」。今回の取材からも、中小の建設事業者を起点に業界全体を変革をしていこうという強い意志が感じられた。これから「CAREECON」がどう進化していくのか、どんな新しいプロダクトが展開されていくのか、大いに期待が高まる。


BRANU株式会社
東京本社:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-24 ラピロス六本木4F
HP:https://branu.jp/




文:平田 佳子 / 写真:宇佐美 亮/ 取材・編集:デジコン編集部



WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。
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