ICT基礎知識
角田 憲 2021.1.21

建設業界における3Dプリンターの活用。世界の事例と国内事情


近年、市場規模が急速に拡大している3Dプリンター。建設業界でもその注目度は高く、海外ではすでに3Dプリンターを活用した住宅や橋の建設事例が多数あり実用の可能性の幅を広げている。

巨大市場規模が予測される3Dプリンター


一般的な3Dプリンターは、3次元データを元に、液状や粉末状などの材料を断面形状に積み重ねていくことで立体物を形成していく積層造形法という方式が多い。型を必要とせず直接造形していくため、複雑な立体造作物や中空構造の造作が可能だ。

精度の高い試作品はもとより、航空用エンジンの部品、自動車部品、人工血管、義肢、マウスピース、宇宙服やスニーカーといった実用品の製造もされている。つまり複雑だが大量の生産を必要としない部品、軽量化が必要なもの、各個人の体に合わせたオリジナルの製品などに活用できるメリットがあることが特長だ。

画像はイメージ / shutterstock

そのため航空、宇宙、医療をはじめ、あらゆる産業で注目されており、ある調査会社のリポートでは2023年には世界の3Dプリンター関連市場の規模が、166億ドルにまで達すると予測している。そして今後、急速な拡大が期待されているのが建設用3Dプリンターだ。新型コロナウィルスの影響により多少の縮小があるだろうが、2019年に発表された米国の調査会社の試算では、2027年に約40億ドル規模に成長するとしている。

世界の建設業界で期待されている建設用3Dプリンター活用事例


世界の建築事例を見てみると、すでに多くの住宅やオフィスビルの建築で活用されていることがわかる。

【アメリカ】
55〜75㎡の平家建住宅を24時間未満で建築。その建設費用は45万円程度で、貧困地域の住宅問題の解決策としても注目されている。

【ドイツ】
1フロア80㎡の2階建住宅。2021年3月に完成予定。完成後1年半は一般公開され、その後実際に入居可能になる。

【ベルギー】
世界初となる2階建住宅を建築、これは工場でプリント(造作)した各パーツを組み立てる工法ではなく、巨大な3Dプリンターを用い外壁を1つのパーツとして現場でプリントする工法で施工している。

【モスクワ】
38㎡の家屋。外壁、仕切りなどを24時間ほどで建築。

【ドバイ首長国】
延べ床面積640㎡、高さ9.5mの世界最大の2階建建物を建築。

【中国】
1100㎡の豪邸や、7.2mの3階建オフィスビルなどを建築。

など、他にも多数の事例がある。

また2019年にはオランダで世界最長の3Dプリンターで造られた橋が架けられた。フランスでは2024年パリオリンピックに向けて、パリ市内に3Dプリンター製の歩道橋が建設されることが発表されており、実用的かつ安全な大型建築物への活用事例も今後増えていくだろう。

メリットは省人化、工期短縮、材料費カット、そして自由な意匠


建設用3Dプリンターには大別して、現場に大型のプリンターを設置して、その場でプリントする工法と、工場でプリントした各部材を現場に運び、組み立てる工法がある。そのどちらの工法であっても、造作はほぼ自動で行えるため、人手による労力を大幅に減らすことができる。

画像はイメージ   ( Volodymyr Nik / Shutterstock.com )

また24時間程度で平家が完成す例などを見ても分かる通り、工期が圧倒的に短縮されること、そして廃棄ロスが大幅に減らせることなどのメリットが挙げられる。従来の工事に比べて時間的コスト、人的コストを50%以上、材料コストを40%以上も減らすことができたという事例もある。

また物理的な制約の中であれば、どんな意匠でも再現できることも3Dプリンターの最大の特長であり、デザイン性、機能性においても無限の可能性を秘めている。

日本の3Dプリンター事情


地震の多い日本では、建築物の強度や使用する素材や工法が建築基準法により定められており、3Dプリンター建築は難しいと言われている。そういった事情もあり、建設用3Dプリンターの普及や開発が、世界から遅れを取っているという見方をされることも多いようだ。

しかし、国内でも建設用3Dプリンターや専用の材料の開発などを積極的に行っている企業も少なくない。株式会社大林組(本社東京都港区)では曲面型枠や鉄筋を使わずに全長約7m、幅約5m、高さ約2.5mのシェル型ベンチを製作。

また前田建設工業株式会社(本社東京都千代田区)では施工の完全自動化に向けた開発を行っていることを発表している。他にも数々のニュースが伝えられており、その技術は着実に世界との距離を縮めているように見える。現状では、3Dプリンターでプリントした建築物を実用することは限定的かもしれないが、今後その技術が建設業界の問題を解決する起爆剤としての役割を果たすことになるかもしれない。





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WRITTEN by

角田 憲

有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。

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