国土交通省は、建設現場の生産性向上を目的に掲げ、i-Construction(以下、アイ・コンストラクション)の取り組みをスタートさせた。建設にかかるすべてのプロセスにおいてICTや3次元データを活用しようというものである。
国をあげて建設・土木業界の改革に取り組む背景には、なにがあるのだろうか。
アイ・コンストラクションが打ち出された背景となる、建設・土木業界の現状を見てみよう。建設業は、日本経済全体で常に10%前後を占める大市場だが、バブル崩壊後の落ち込みから回復へと市場は変動してきた。いっぽうで、労働力は回復していないという状況がある。
建設投資額は1992年の約84兆円をピークに、需要の冷え込みがつづいて、2010年には約41兆円まで落ち込んだ。
しかし、2011年以降の東日本大震災の復興に加え、民間投資が堅調に推移したこと、さらに東京オリンピックの開催の決定などの好材料によって2016年度には約52兆円までに回復。2018年度は57.2兆円となった。
業界が冷え込んだ時期に建設業者数、労働者数ともに減少したが、その後、回復していない。低迷期に過剰となった労働力ではあるが、建設ニーズが高まるとともに慢性的な労働力不足に苦しむことになった。1997年に455万人いた技能労働者は2010年に331万人に減少、その後はわずかしか増加していない。
さらに今後の見通しを暗くしているのは、建設就業者の高齢化だ。技能労働者約340万人のうち、もっとも大きな比率を占めているのは60歳以上で、今後10年間のうちに約110万人が離職する可能性がある。55歳以上の割合が約34%なのに対し29歳以下は11%となっており、これまでの状況を考えても大幅な入職者の増加は見込めない。
一方で建設ニーズはこれからも減少することはない。新規受注が鈍ったとしても、社会インフラの老朽化は一段と深刻化している。高度成長期時代に建設された道路やトンネル、橋、水道設備、港湾や河川などのインフラの補修が必要となる中で、建設業の担う役割は重い。こうした状況に対して、人手不足が深刻になると予想されている。
人手不足に対処するために必要とされているのが、生産性の向上だ。しかし、これも現場ならではの課題が存在するため、これまではなかなか進んでこなかった。それは大きく分けて次の3点に集約される。
一つ目が、「一品受注生産制」といわれる個別生産についての課題。基本的に建設業は、顧客から受けた注文に従い、指定された土地に「一品」ごとに建造物をつくらなければならなず、大量生産ができない。
二つ目が、「現地屋外生産」といわれる生産現場の課題。生産が行われるのは、現地の屋外であるため土地の形状などの条件が一定ではなく、気候条件などの環境にも左右される。そのため、異なる場所の経験をそのまま生かすことができない。
三つ目は、「労働集約型生産」といわれる生産方式の課題。一つの生産物をつくり上げるためには多様な材料を現場に持ち寄り、資材と機械を導入し、複数の施工方法を組み合わせる必要がある。そのためには、多くの業者と作業員を現場に集めなければならない。
このような事情が、製造業などの他業種で行われてきた生産性向上の取り組みが適応されることを阻んでいた。ライン生産や自動化・ロボット化は建設業に通用しないと考えられてきたのだ。しかし、アイ・コンストラクションでは、こうした課題を打ち破り、「建設現場を最先端の工場」とすることで、生産性の高い現場へと変革していくことを目指している。
ロボットやデータを活用した効率性の高い生産管理、コンクリート構造物をプレハブ化するなど生産と作業現場を一体化する工夫、工期設定や手続きの簡略化。これらを統合したアイ・コンストラクションを進めることが、建設現場の抱える課題の解決策となる。
アイ・コンストラクションの効果は、これまで適用された現場では、作業時間の削減といった面で徐々に見えてきている。国を支え続けてきた建設業界が労働力の不足で危機的状況を迎えると予測される中、改革に大きな期待がかかる。
国土交通省は2016年を「生産性革命元年」として、取り組みへの姿勢を示した。持続性のある社会を実現するためには、建設業界の再生が急務であるのは間違いないだろう。現場で働く人をITの力で支え、安全と生産性を両立していくことで建設業のイメージを変える。新たな労働力を得ていくために、アイ・コンストラクションの果たす役割は大きいといえる。
「i-Constructionの推進」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001149595.pdf
「再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン― 2015年3月」一般社団法人日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/sougou/vision2015/pdf/vision2015.pdf
「建設業ハンドブック 2018 1主要指標の推移」一般社団法人日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/publication/pdf/handbook/2018/2018_01.pdf
国をあげて建設・土木業界の改革に取り組む背景には、なにがあるのだろうか。
建設業界の現状
アイ・コンストラクションが打ち出された背景となる、建設・土木業界の現状を見てみよう。建設業は、日本経済全体で常に10%前後を占める大市場だが、バブル崩壊後の落ち込みから回復へと市場は変動してきた。いっぽうで、労働力は回復していないという状況がある。
建設投資額は1992年の約84兆円をピークに、需要の冷え込みがつづいて、2010年には約41兆円まで落ち込んだ。
しかし、2011年以降の東日本大震災の復興に加え、民間投資が堅調に推移したこと、さらに東京オリンピックの開催の決定などの好材料によって2016年度には約52兆円までに回復。2018年度は57.2兆円となった。
業界が冷え込んだ時期に建設業者数、労働者数ともに減少したが、その後、回復していない。低迷期に過剰となった労働力ではあるが、建設ニーズが高まるとともに慢性的な労働力不足に苦しむことになった。1997年に455万人いた技能労働者は2010年に331万人に減少、その後はわずかしか増加していない。
さらに今後の見通しを暗くしているのは、建設就業者の高齢化だ。技能労働者約340万人のうち、もっとも大きな比率を占めているのは60歳以上で、今後10年間のうちに約110万人が離職する可能性がある。55歳以上の割合が約34%なのに対し29歳以下は11%となっており、これまでの状況を考えても大幅な入職者の増加は見込めない。
一方で建設ニーズはこれからも減少することはない。新規受注が鈍ったとしても、社会インフラの老朽化は一段と深刻化している。高度成長期時代に建設された道路やトンネル、橋、水道設備、港湾や河川などのインフラの補修が必要となる中で、建設業の担う役割は重い。こうした状況に対して、人手不足が深刻になると予想されている。
建設業界の抱える課題とアイ・コンストラクションの必要性
人手不足に対処するために必要とされているのが、生産性の向上だ。しかし、これも現場ならではの課題が存在するため、これまではなかなか進んでこなかった。それは大きく分けて次の3点に集約される。
一つ目が、「一品受注生産制」といわれる個別生産についての課題。基本的に建設業は、顧客から受けた注文に従い、指定された土地に「一品」ごとに建造物をつくらなければならなず、大量生産ができない。
二つ目が、「現地屋外生産」といわれる生産現場の課題。生産が行われるのは、現地の屋外であるため土地の形状などの条件が一定ではなく、気候条件などの環境にも左右される。そのため、異なる場所の経験をそのまま生かすことができない。
三つ目は、「労働集約型生産」といわれる生産方式の課題。一つの生産物をつくり上げるためには多様な材料を現場に持ち寄り、資材と機械を導入し、複数の施工方法を組み合わせる必要がある。そのためには、多くの業者と作業員を現場に集めなければならない。
このような事情が、製造業などの他業種で行われてきた生産性向上の取り組みが適応されることを阻んでいた。ライン生産や自動化・ロボット化は建設業に通用しないと考えられてきたのだ。しかし、アイ・コンストラクションでは、こうした課題を打ち破り、「建設現場を最先端の工場」とすることで、生産性の高い現場へと変革していくことを目指している。
ロボットやデータを活用した効率性の高い生産管理、コンクリート構造物をプレハブ化するなど生産と作業現場を一体化する工夫、工期設定や手続きの簡略化。これらを統合したアイ・コンストラクションを進めることが、建設現場の抱える課題の解決策となる。
アイ・コンストラクションの効果は、これまで適用された現場では、作業時間の削減といった面で徐々に見えてきている。国を支え続けてきた建設業界が労働力の不足で危機的状況を迎えると予測される中、改革に大きな期待がかかる。
アイ・コンストラクションが変える未来に向けた建設現場
国土交通省は2016年を「生産性革命元年」として、取り組みへの姿勢を示した。持続性のある社会を実現するためには、建設業界の再生が急務であるのは間違いないだろう。現場で働く人をITの力で支え、安全と生産性を両立していくことで建設業のイメージを変える。新たな労働力を得ていくために、アイ・コンストラクションの果たす役割は大きいといえる。
「i-Constructionの推進」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001149595.pdf
「再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン― 2015年3月」一般社団法人日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/sougou/vision2015/pdf/vision2015.pdf
「建設業ハンドブック 2018 1主要指標の推移」一般社団法人日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/publication/pdf/handbook/2018/2018_01.pdf
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