和歌山県に拠点を構え、河川・道路・法面工事などの土木工事を中心に手がける「西建工業株式会社」は、2013年ごろからいち早くICT施工をスタートし、現在も積極的に最新技術を導入している。
そんな実績から、今では、同業である建設事業者が西建工業にICT導入についてのアドバイスを求めに来るのだそうだ。
今回の取材では、代表の西口 敬一氏(以下、敬称略)に、ICT導入のきっかけや、現場にもたらされた変化、今後のビジョンについてうかがった。
ーー西建工業は、全国でもいち早くICT活用されてきましたが、まずは導入の経緯を教えていただけますか。
西口:もともと私は現場監督と重機オペレーションの経験があり、2012年5月に西建工業を立ち上げました。
当時は土工の下請けが中心で、仕事の依頼もどんどん増えていきましたが、社員はオペレーター一人だけだし、熟練の職人さんたちは高齢で、新しい人も集まらない。私ひとりでなにもかも行なっている状態でした。
それで少しでも生産性を上げるために、2013年にニコン・トリンブルの自動追尾型のトータルステーションを導入して、測量を行うことにしたんです。
3D設計データに対応した機器だったので、そこで初めて3Dデータに出合いましたね。そして翌年、油圧ショベル「Cat-320D」に3Dマシンガイダンスを取りつけたのが、ICT建機の第1号です。
ICTの建機なら高度な技術が必要な難しい操作であっても、画面を見ながら誰でも動かせるので、これは楽になると思いましたね。
ーー 国交省がi-Construction(アイ・コンストラクション)を本格的にスタートしたのが2016年頃なので、それよりもかなり前ですよね。前例がほぼない時にICTを導入するのは不安もあったのではないでしょうか。
西口:最初は新品のICT建機を買う資金がなかったので、3Dガイダンスのシステムを購入して、リースしている建機に取り付けました。
3Dガイダンスのシステム自体も約1,000万円かかり、当時の会社の規模でそこまで投資するのは、正直、不安でした。ですので、購入は実際の現場で本当に使えるかを自分で確かめてからにしたんです。
というのも、私たちの地域は、山が急勾配で建機が正面を向けないぐらい道が狭いことも多く、横面から土をカットして法面整形ができるかを確認したかったんです。
すでに導入していた北海道の建設会社さんまで視察に行って建機を操作させていただいたのですが「これは使える!」とその時、確信しましたね。
ーー なるほど。
西口:そして2015年には、採石場跡地で山を切って平場をつくる太陽光 造成工事で、UAV測量を導入。
最初にUAV測量で現況の3Dデータを取得しておけば、どんなに複雑な形状であっても、一瞬で正確に土量を計算できますし、設計変更の際も、最初の状態を確認できます。土量データから見積もりがきちんとできます。とにかく自分たちがラクになるし、間違えることもありませんから。
もちろん、ICT化を進める中で不安もありました。でも、使い方は代理店さんやメーカーさんなどから丁寧に教えてもらえましたし、そもそも私は、建設の仕事が好きなので「この作業に、この機器を活用したらどうだろう?」と考えるのが、楽しくなっていきましたね(笑)
ーー i-Construction(アイ・コンストラクション)という言葉が出始めてから数年。現場も徐々に変わってきた印象がありますが、西口さんの実感としてはいかがでしょう?
西口:今、当社が施工する現場では、ICT施工が当たり前になっているんです。実際に現場の生産性も大きく上がったと感じますね。
普通は1週間かかる施工を2日間で終わらせられるので、納期に間に合わせるというより、自分たちで次から次へと先の工事の予定が組めるんですよね。
もちろんその分、しっかり売上も立ちます。当社がICT施工を積極的に進めているのは、「i-Constructionをやっていこう」というよりも、自分たちが多くの現場をこなすことで、期待に応えていきたいんですよね。
新しい方法に変えるのが大変だ、面倒くさいという建設会社さんもいると思いますが、私の中では、今、ICT化以前のやり方を想像すると、怖いです(笑)。
1日がかりで丁張りを行ったり、人が目視で何度も確認しながら施工を進めたり……。そもそも現場は人手不足なので、従来のやり方で施工していたのでは、こなせる仕事量が大きく減りますよ。
ーー 今、注目しているICT機器はありますか。
西口:まず一つ目は、油圧ショベル用のアタッチメントの「チルトローテータ」です。重機を移動させなくても、バケットが360度回転してどんな角度でも掘削・盛土などの作業ができるんです。
後付けできて、ガイダンスも付いているので、精度の高い施工ができますし、今は3Dにも対応しています。うちではすでに2台注文していて、すでに今年(2021年)の秋から現場で稼働しています。
ーー さらに効率化できると。
西口:そうですね。あとは、「人が足りない今どうするか」という課題と危機意識が、つねに根底にあるので、遠隔操作技術にはずっと注目しています。
完全無人化はまだ先のことかもしれませんが、近い将来、現場に行くのは一人だけでいいという状況も実現できるかもしれません。
しかも遠隔操作なら、安全で誰でも操作しやすく、天候に左右されずに仕事ができますし、これからもっと整備されていくことを期待しています。
ーー これまでの西口さんのお話から、「好きだからICTをやるし、稼げるし、生産性が上がるから、ICTをやらない理由はない」という想いを感じました。
西口:この仕事は、無駄な手間や工程って、かけようと思ったらいくらでかけられるんですよ。しかし一方で、効率良く稼げる方法も無限大にあると考えます。
例えば請負で1,000万円のプロジェクトがあるとしたら、従来のアナログなやり方だけでは200万円ぐらいの利益しか出ないし、工期もかかります。
しかし私たちは、短期間で500万円の利益を上げ、稼いだお金を新しいICT機器に投資していく。そうすれば、どんどん売上も伸びていきますから。
ーー最初は二人だけの会社でしたが、現在、社内のスタッフは何人いて、どのぐらいの売上を出しているのでしょうか?
西口:現場監督、オペレーター、事務員、ダンプの運転手も含めて約30人います。しかも、そのぐらいの規模の会社で、年間約18億円の売上を出していますので、私たちのICT施工がいかに効率良いかが、わかっていただけるかと思います。これからもスタッフはもっともっと増やしていきたいと考えています。
ーー 他の建設事業者に、ICT導入のアドバイスをされたりもするのでしょうか?
西口:建設会社さんがよく当社に話を聞きにいらっしゃいますね。「ICTを活用して稼ぐ」。その考え方をお話して、うちの現場を見ていだいた瞬間に、ICT建機を注文された方もいます(笑)。
百聞は一見に如かずで、実例を見れば、躊躇なく投資もできると思うんです。実際に導入して、「アドバイス通りに進めたら、とにかく早いし、売上もアップしました」と言ってくださった建設会社の社長さんもいましたね(笑)。
ーー最後に、西建工業の今後の目標を教えていただけますか?
西口:ひと山ぐらいの土地を買って、重機オペレーターの養成所を開設したいと考えているんです。その養成所で、新人の方に1年間ぐらい社員としてお給料を支払いながら、ICT建機の操作方法を一から学んでいただきたいなと。
今は現場で簡単な作業をしながら機械操作を覚えるのが一般的ですが、実際に新人の方が何も分からない状態で現場に来たら、熟練オペレーターも自分の仕事に手一杯で手取り足取り教えている余裕はありません。
それなら、未経験の方もICT建機をある程度使えるようになってから、現場に出られる体制を構築したいなと。
ーー 「いかに現場の生産性を上げるか」という発想から、養成所のアイデアは生まれたのですね。
西口:会社を今以上に成長させようと考えたら、現場のスタッフを育てることが重要だと気づいたんです。良い機械や機器が出てきても、実際に現場で機械を使って作業ができる人を育てないことには、前に進めませんから。
そして養成所を通して、土木の仕事を「やりたい」「好き」という若者がどんどん出て来たくれたら、嬉しいですね。
ーー 教育環境を整えれば、若者も、建設業界やICT施工に興味を持ちそうですね。養成所のプロジェクトはいつ頃から動き出す予定でしょうか。
西口:来年(2022)には動き出したいですね。今、こうした人材育成に関して投資できるのも、会社として売上が上がり、大きくなったからこそだと思います。そして今後は、人を整えて和歌山県だけに限らず、関西地方、そして全国と、仕事を広げていきたいと考えています。
【編集部 後記】
取材中、「もともと会社を大きくしようという気はなかった」と語っていた西口代表。仕事の依頼が増える中で、人がいないからICT化を進め、大きく生産性を上げることで売上も何倍も伸びていったという。
スタッフも2名から30名まで増えた。常に一歩先ゆく視点で、最新技術を自ら楽しんで取り入れていく西口代表。オペレーターの養成所が開設された暁には、また和歌山まで取材に訪れたい。
西建工業株式会社
和歌山県紀の川市桃山町調月563番地1
TEL:0736-60-4811
HP:https://nishikenkougyou.co.jp/
そんな実績から、今では、同業である建設事業者が西建工業にICT導入についてのアドバイスを求めに来るのだそうだ。
今回の取材では、代表の西口 敬一氏(以下、敬称略)に、ICT導入のきっかけや、現場にもたらされた変化、今後のビジョンについてうかがった。
i-Constrctionに先立ち、ICTを導入した西建工業
ーー西建工業は、全国でもいち早くICT活用されてきましたが、まずは導入の経緯を教えていただけますか。
西口:もともと私は現場監督と重機オペレーションの経験があり、2012年5月に西建工業を立ち上げました。
当時は土工の下請けが中心で、仕事の依頼もどんどん増えていきましたが、社員はオペレーター一人だけだし、熟練の職人さんたちは高齢で、新しい人も集まらない。私ひとりでなにもかも行なっている状態でした。
それで少しでも生産性を上げるために、2013年にニコン・トリンブルの自動追尾型のトータルステーションを導入して、測量を行うことにしたんです。
3D設計データに対応した機器だったので、そこで初めて3Dデータに出合いましたね。そして翌年、油圧ショベル「Cat-320D」に3Dマシンガイダンスを取りつけたのが、ICT建機の第1号です。
ICTの建機なら高度な技術が必要な難しい操作であっても、画面を見ながら誰でも動かせるので、これは楽になると思いましたね。
ーー 国交省がi-Construction(アイ・コンストラクション)を本格的にスタートしたのが2016年頃なので、それよりもかなり前ですよね。前例がほぼない時にICTを導入するのは不安もあったのではないでしょうか。
西口:最初は新品のICT建機を買う資金がなかったので、3Dガイダンスのシステムを購入して、リースしている建機に取り付けました。
3Dガイダンスのシステム自体も約1,000万円かかり、当時の会社の規模でそこまで投資するのは、正直、不安でした。ですので、購入は実際の現場で本当に使えるかを自分で確かめてからにしたんです。
というのも、私たちの地域は、山が急勾配で建機が正面を向けないぐらい道が狭いことも多く、横面から土をカットして法面整形ができるかを確認したかったんです。
すでに導入していた北海道の建設会社さんまで視察に行って建機を操作させていただいたのですが「これは使える!」とその時、確信しましたね。
ーー なるほど。
西口:そして2015年には、採石場跡地で山を切って平場をつくる太陽光 造成工事で、UAV測量を導入。
最初にUAV測量で現況の3Dデータを取得しておけば、どんなに複雑な形状であっても、一瞬で正確に土量を計算できますし、設計変更の際も、最初の状態を確認できます。土量データから見積もりがきちんとできます。とにかく自分たちがラクになるし、間違えることもありませんから。
もちろん、ICT化を進める中で不安もありました。でも、使い方は代理店さんやメーカーさんなどから丁寧に教えてもらえましたし、そもそも私は、建設の仕事が好きなので「この作業に、この機器を活用したらどうだろう?」と考えるのが、楽しくなっていきましたね(笑)
ICT施工が当たり前に。生産性が大きくアップ
ーー i-Construction(アイ・コンストラクション)という言葉が出始めてから数年。現場も徐々に変わってきた印象がありますが、西口さんの実感としてはいかがでしょう?
西口:今、当社が施工する現場では、ICT施工が当たり前になっているんです。実際に現場の生産性も大きく上がったと感じますね。
普通は1週間かかる施工を2日間で終わらせられるので、納期に間に合わせるというより、自分たちで次から次へと先の工事の予定が組めるんですよね。
もちろんその分、しっかり売上も立ちます。当社がICT施工を積極的に進めているのは、「i-Constructionをやっていこう」というよりも、自分たちが多くの現場をこなすことで、期待に応えていきたいんですよね。
新しい方法に変えるのが大変だ、面倒くさいという建設会社さんもいると思いますが、私の中では、今、ICT化以前のやり方を想像すると、怖いです(笑)。
1日がかりで丁張りを行ったり、人が目視で何度も確認しながら施工を進めたり……。そもそも現場は人手不足なので、従来のやり方で施工していたのでは、こなせる仕事量が大きく減りますよ。
ーー 今、注目しているICT機器はありますか。
西口:まず一つ目は、油圧ショベル用のアタッチメントの「チルトローテータ」です。重機を移動させなくても、バケットが360度回転してどんな角度でも掘削・盛土などの作業ができるんです。
後付けできて、ガイダンスも付いているので、精度の高い施工ができますし、今は3Dにも対応しています。うちではすでに2台注文していて、すでに今年(2021年)の秋から現場で稼働しています。
ーー さらに効率化できると。
西口:そうですね。あとは、「人が足りない今どうするか」という課題と危機意識が、つねに根底にあるので、遠隔操作技術にはずっと注目しています。
完全無人化はまだ先のことかもしれませんが、近い将来、現場に行くのは一人だけでいいという状況も実現できるかもしれません。
しかも遠隔操作なら、安全で誰でも操作しやすく、天候に左右されずに仕事ができますし、これからもっと整備されていくことを期待しています。
効率よく稼ぐ。売上は年間約18億円へ
ーー これまでの西口さんのお話から、「好きだからICTをやるし、稼げるし、生産性が上がるから、ICTをやらない理由はない」という想いを感じました。
西口:この仕事は、無駄な手間や工程って、かけようと思ったらいくらでかけられるんですよ。しかし一方で、効率良く稼げる方法も無限大にあると考えます。
例えば請負で1,000万円のプロジェクトがあるとしたら、従来のアナログなやり方だけでは200万円ぐらいの利益しか出ないし、工期もかかります。
しかし私たちは、短期間で500万円の利益を上げ、稼いだお金を新しいICT機器に投資していく。そうすれば、どんどん売上も伸びていきますから。
ーー最初は二人だけの会社でしたが、現在、社内のスタッフは何人いて、どのぐらいの売上を出しているのでしょうか?
西口:現場監督、オペレーター、事務員、ダンプの運転手も含めて約30人います。しかも、そのぐらいの規模の会社で、年間約18億円の売上を出していますので、私たちのICT施工がいかに効率良いかが、わかっていただけるかと思います。これからもスタッフはもっともっと増やしていきたいと考えています。
ーー 他の建設事業者に、ICT導入のアドバイスをされたりもするのでしょうか?
西口:建設会社さんがよく当社に話を聞きにいらっしゃいますね。「ICTを活用して稼ぐ」。その考え方をお話して、うちの現場を見ていだいた瞬間に、ICT建機を注文された方もいます(笑)。
百聞は一見に如かずで、実例を見れば、躊躇なく投資もできると思うんです。実際に導入して、「アドバイス通りに進めたら、とにかく早いし、売上もアップしました」と言ってくださった建設会社の社長さんもいましたね(笑)。
オペレーターの養成所をつくりたい。若手が興味を持つきっかけに
ーー最後に、西建工業の今後の目標を教えていただけますか?
西口:ひと山ぐらいの土地を買って、重機オペレーターの養成所を開設したいと考えているんです。その養成所で、新人の方に1年間ぐらい社員としてお給料を支払いながら、ICT建機の操作方法を一から学んでいただきたいなと。
今は現場で簡単な作業をしながら機械操作を覚えるのが一般的ですが、実際に新人の方が何も分からない状態で現場に来たら、熟練オペレーターも自分の仕事に手一杯で手取り足取り教えている余裕はありません。
それなら、未経験の方もICT建機をある程度使えるようになってから、現場に出られる体制を構築したいなと。
ーー 「いかに現場の生産性を上げるか」という発想から、養成所のアイデアは生まれたのですね。
西口:会社を今以上に成長させようと考えたら、現場のスタッフを育てることが重要だと気づいたんです。良い機械や機器が出てきても、実際に現場で機械を使って作業ができる人を育てないことには、前に進めませんから。
そして養成所を通して、土木の仕事を「やりたい」「好き」という若者がどんどん出て来たくれたら、嬉しいですね。
ーー 教育環境を整えれば、若者も、建設業界やICT施工に興味を持ちそうですね。養成所のプロジェクトはいつ頃から動き出す予定でしょうか。
西口:来年(2022)には動き出したいですね。今、こうした人材育成に関して投資できるのも、会社として売上が上がり、大きくなったからこそだと思います。そして今後は、人を整えて和歌山県だけに限らず、関西地方、そして全国と、仕事を広げていきたいと考えています。
【編集部 後記】
取材中、「もともと会社を大きくしようという気はなかった」と語っていた西口代表。仕事の依頼が増える中で、人がいないからICT化を進め、大きく生産性を上げることで売上も何倍も伸びていったという。
スタッフも2名から30名まで増えた。常に一歩先ゆく視点で、最新技術を自ら楽しんで取り入れていく西口代表。オペレーターの養成所が開設された暁には、また和歌山まで取材に訪れたい。
西建工業株式会社
和歌山県紀の川市桃山町調月563番地1
TEL:0736-60-4811
HP:https://nishikenkougyou.co.jp/
WRITTEN by
i-Constructionの先駆者たち
- たったふたりのスタートから年商18億円へ。ICT施工で躍進する「西建工業(和歌山)」