コラム・特集
高橋 奈那 2022.1.31
i-Constructionの先駆者たち

須田建設(埼玉)の治山工事現場では、若手社員が大活躍!「UAV」と「OPTiM Geo Scan」のW活用で、山林部でもラクラク高精度測量を実現していた。

CONTENTS
  1. 「UAV」と「OPTiM Geo Scan」を併用。樹木の生い茂る山間部でも、高精度な点群データを取得
  2. UAVを操るのは、総務の女性社員。入社1年目から測量やデータ作成を一人でこなす頼もしい存在
  3. 一人で現場に出向き、一人で測量作業を終える。若手技術者の早期活躍を叶えたのは、OPTiM Geo Scanの簡易性
  4. OPTiM Geo Scanを導入してから、測量が若手のメイン業務に。経営陣は新事業に挑戦する余力が生まれた
昭和28年の創業以来、秩父エリアの建設事業を担ってきた須田建設株式会社(埼玉県秩父郡 小鹿野町)では、近年、積極的にICTを取入れている。

人手不足や職人の技術力低下など、時代の変化とともに浮き彫りになった課題や、ICT導入後の変化を経営陣に語ってもらった記事に続き今回は、現場に立つ若手社員のリアルな声を聞くために、須田建設が担う施工現場を訪ねた。



現場は、秩父市上吉田と小鹿野町を跨ぐように建設された「合角ダム」付近の山間部にある。秩父エリアでは、台風19号(2019年)の影響で大規模な土砂災害と洪水被害が発生し、現在もなお各所で復旧工事が行われているという。


当現場では、崩落した斜面の復旧工事が行われていた。危険が伴う治山工事の現場では、どのようにICT技術を活用しているのだろうか?また、現場で若手社員が担う役割とは?須田建設 工事部 部長 強矢隆行氏、そして現場で測量を担当する若手社員の赤岩由菜氏、強矢瑠介氏(以下、敬称略)に詳しい話を伺った。






「UAV」と「OPTiM Geo Scan」を併用。樹木の生い茂る山間部でも、高精度な点群データを取得


――この現場では、どのような工事を行っているのでしょうか?

強矢(隆):崩落した山の斜面を復旧する、治山工事を行っています。2019年に発生した台風19号の影響で、秩父エリアでは多数の区域で土砂災害と洪水被害が発生しました。今回修復している斜面も、当時発生した崩落事故の現場です。崩れた山肌を均し、撹拌した砂とセメントをホースで吹き付けて斜面を補強していきます。

須田建設 工事部 部長 強矢隆行氏

――施工箇所は、かなり高所にあるんですね。山肌はかなりの急斜面で、立っているのも大変そうです。

強矢(隆):施工箇所は全域で約1,500㎡。かなり高所にあり、且つ急斜面という危険な現場ですから、安全を最優先して必要最低限の作業員で業務にあたっています。

――こちらの工事では、どのようにICTを活用しているのですか?

強矢(隆): UAVとOPTiM Geo Scanで測量を行い、日々の進捗管理や発注者への報告に活用しています。施工現場が広域の場合、UAVを飛ばす方法が一番効率的なのですが、樹木が生い茂る山間部では草木に遮られ、空中から地表面を漏れなく計測することが、とても難しいんです。

(UAVで取得した治山工事現場の映像)

UAVが撮影してきた画像を点群化すると、樹木が密集している地点は点群の密度が薄くなっているので、ひと目見ればすぐにわかります。そういった箇所の補填のために「OPTiM Geo Scan」を使用しています。UAVで取りきれなかった点群を、歩きながら塗り重ねていくイメージで、より高精度なデータにしていきます。



――なるほど。上空から計測しきれない点群を、地上からフォローしていくんですね。

強矢(隆):この現場の測量作業に関しては、すべて若手社員に任せているんですよ。現場に行ってみましょう。




UAVを操るのは、総務の女性社員。入社1年目から測量やデータ作成を一人でこなす頼もしい存在


―― こちらでは、UAVを使った測量を行っているんですね。

強矢(隆):担当しているのは、2021年に総務で入社した赤岩由菜さんです。彼女にはUAVを使った写真測量と、取得した点群データの処理・加工をお願いしています。

須田建設 総務 赤岩由菜氏

赤岩:総務職として経理などを担当している赤岩です。事務所のデスクで強矢部長の作業を見ているうちに興味を持ち、3次元データの作成業務を兼任するようになりました。今回の治山工事からは現場に出て、測量業務も担当しています。

――実際にどのように測量作業をされているのか、見せていただけますか?

赤岩:使用するのは、こちらのDJI製のUAVです。操縦にはタブレット(iPad)とコントローラーを使います。操縦といっても、あらかじめ測量エリアと飛行ルートなどを設定しておけば、UAVが自動で飛んでくれるので、難しい操舵作業などはありません。


写真を撮影し終えたら、帰りも自動で戻ってきます。この現場の場合、測量にかかる時間は、1フライトで5分ほど。飛行しながら約150枚の写真を撮影してきます。全域の点群化に合計4〜5フライトをして、データを作成していきます。


――UAVを使った測量には、慣れましたか?

赤岩:現場に入り1ヶ月ほど経ちますが、比較的すぐに慣れました。ただ、離着陸の操縦に関しては、まだ課題があると感じています。



風の影響なども考慮しながら、手元のコントローラーで微調整しなければいけないのですが、実はすでに2回ほど機体を落としていて……(笑)。集中して、慎重に操縦しています。今日は少し風も出ていましたが、無事離着陸できたので一安心です!

――以前から3次元データの加工業務を兼任されていたそうですが、現場に出るようになって、仕事のやりがいに変化はありましたか?

赤岩: 事務職一筋だった自分が現場を任せてもらえるなんて、想像すらしていませんでしたが、事務所でPC作業だけをしていた頃より、今のほうが楽しいですね。もともと現場業務に興味があったのだと思います。



データ上の現場と実際この目でみる現場とでは、捉え方がまったく違いますし、現場に出るようになり、普段の業務に対する考え方や取組み方にも良い変化がありました。

強矢(隆):現場に入って1ヶ月も経たないうちにUAV測量を覚えて、今では点群の加工・処理までスピーディーに進めてくれるので、本当に助かっていますよ。




一人で現場に出向き、一人で測量作業を終える。若手技術者の早期活躍を叶えたのは、OPTiM Geo Scanの簡易性


――こちらでは、地表面の測量を行っているのですか?

強矢(隆):赤岩さんがUAVで計測した点群データに、さらにOPTiM Geo Scanで計測した点群を重ねれば、一連の測量作業が完了です。地表面の測量は、私の息子である瑠介が担当しています。

須田建設 工事部 強矢瑠介 氏

強矢(瑠):iPhoneでアプリを立ち上げたら、路面を歩く間に点群の計測は完了します。3次元化された点群を確認し、クラウドにアップロードすればこの現場での測量作業すべて終了です。


まだ経験も浅く、測量に関しては初心者でしたが、OPTiM Geo Scanを手にしたその日のうちに、一人で測量作業を任せてもらえました。正直、自分が現場を任せてもらえるのは、何年も先のことだと思っていたので、うれしかったですね。

――「OPTiM Geo Scan」の使用感はいかがでしたか?

強矢(瑠):初めて使用したときには、取得した点群が瞬時に3次元データ化されるので、本当に驚きました。3次元化された点群を手元のiPhone上で確認すれば、点群の計測漏れやケアレスミスを、その場で発見できます。事務所のデスクでミスに気づき、現場に戻る……といった作業ロスの防止になるので、経験の浅い自分には心強いです。



写真や動画を撮影する感覚で点群の計測ができるので、現場経験ゼロ・土木知識ゼロでも、難なく使いこなせると思います。




3次元化された点群データはカラー表示されるのですが、同箇所の点群を繰り返し取得すると、点群がまるで写真のように濃く、鮮明になっていくんです。このデータさえあれば、現場を知らない方にも、現場の状況を理解していただけるのではないでしょうか。


強矢(隆): 「ここの点群データがほしい!」という箇所に、iPhoneとGNSSレシーバーだけ持ってすぐに測量することができる手軽さは、本当に便利です。操作が簡単なので、現場経験の浅い彼にも、安心してお願いできます。測量技術者の作業進捗や予定の空きを待たずとも、その日のうちに対応できる。このスピード感は、今までありませんでしたね。




OPTiM Geo Scanを導入してから、測量が若手のメイン業務に。経営陣は新事業に挑戦する余力が生まれた


――ICT技術の導入は、若手社員にいい影響を与えているのですね。少し視野を広げて、会社規模でメリットを考えると、良い変化はありましたか?

強矢(隆):経験の浅い若手や海外研修生が現場に出るようになり、熟練作業員が現場に出る機会が減りました。UAVを飛ばして撮影した写真は、赤岩さんが点群化して共有してくれますし、OPTiM Geo Scanで測量した点群は、すぐにクラウドにアップされるので、デスクワーク中にもリアルタイムで確認ができる。


 
つまり私は事務所から一歩も出ずに、点群データの加工・処理や、3次元設計データの作成に集中できるんです。毎日現場に出て、自分で作業していた頃に比べると、格段に業務負担が軽くなりました。


若手だけで現場業務をこなせるというのは、革命的です。知識と実践、どちらが先でも覚えることは結局、同じですから、若いうちから何でも任せたほうがいいんですよ。担当業務を持つことで、責任感や成長意欲も自然と身につくでしょう。


経理事務職の赤岩さんに関して言えば、土木知識ゼロからのスタートでしたが、今では現場に欠かせない存在になりました。さらに言えば、彼女は一児の母でもあるため、就業時間やキャリアアップに捻出できる時間にも制限があります。それでも新しい業務に挑戦し、すでに一人で現場に出ているなんて、本当にすばらしいことだと思います。


現場業務を若手技術者や女性社員に任せれば、熟練と呼ばれる技術者たちは、新しいスキルの体得に、経営陣は業務や事業の拡大に労力を注げるわけです。若手の活躍から始まったこのサイクルは、当社にとって大きな強みになるでしょう。

――何から何まで熟練技術者が対応せざるを得ない状況が一変し、業務や事業の拡大にリソースを割く余力が生まれるのですね。業務や事業内容の変化は、すでにありましたか?

強矢(隆): ICT導入以降、業務の幅は広がり続けています。実はこの現場でも、ひとつ大きな挑戦をしました。治山工事をICT化したのは、今回が初めての試みなんです。きっかけは、今回共同で施工を請け負っている、日本植生株式会社さんの存在です。法面緑化工事や法面工など「特殊工法」に特化した企業さんなのですが、社内研修でICT技術講習なども積極的に行っているそうで、ICT活用の知識をすでにお持ちでした。


須田建設がこれまで現場で培ってきたICTのノウハウと、日本植生さんの知識・技術を掛け合わせることで、今回の工事が実現したというわけです。ずっと治山工事のICT化にトライしたかったのですが、いかんせん、埼玉では前例がなく……。ICTの知識があり、法面工を得意とする日本植生さんと共同で現場に入れるのは、私たちとしても心強かったですね。

――治山工事のICT化には、どのようなメリットがありましたか?

強矢(隆):日々の進捗管理や出来形管理データの作成時に、特に効率化を実感しています。従来は、山の斜面にロープでぶら下がり、作業員が10人がかりで、縦・横に巻き尺を引っ張りながら施工面を測っていたので、施工面の計測だけでも大仕事でした。今では、5分から10分ほどUAVを飛ばせば済んでしまう作業になりました。


一つの工程が終わる度に計測をして、そこから図面をおこし、発注者に提出して内容の了承を得てから次の工程着手する……という、従来の流れも簡略化できましたし、とにかく確認作業がスピーディーになりましたね。

あと、実は思っていた以上に発注者からの評判が良かったんです。ワンクリックでデータを書き出せるうえに、「この部分はどうなっている?」という細かい質問に、3Dモデルを動かしながらその場で回答できます。さらにUAVで上空から撮影した動画や写真を使えば、施工現場に行かずとも、現場の状況を視覚的に伝えられるでしょう。

――最後に、ICTを活用して新たに挑戦したい工法などはありますか?

強矢(隆): OPTiM Geo Scanが、トータルステーションとの連携により非衛星環境下でも使用できるようになりましたよね。


今日の現場を見ても分かる通り、山奥の工事が多いんですよ。今回はたまたま、崩落事故の影響で森が拓けていたので衛星情報を受信できましたが、樹木が生い茂る山奥やトンネル内は圏外です。そのような現場でOPTiM Geo Scanを使えるのは、心強いですよ。


 
UAV写真測量と、OPTiM Geo Scanがあれば、もう怖いものなしです。OPTiM Geo Scanの活用の場がさらに増えれば、従来の工法で行ってきた工事をICT化できるかもしれません。ICT技術は、私たちの毎日に、必要不可欠です。今後も新工法に挑戦し、事業の拡大に取組むことで、須田建設を大きく成長させていきたいですね。



須田建設 株式会社
埼玉県秩父郡小鹿野町小鹿野967-1
TEL:0494-75-0145(代表)



 
 
取材・文:デジコン編集部 / 文:高橋奈那 / 撮影:宇佐美亮
WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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