コラム・特集
高橋 奈那 2021.11.11
i-Constructionの先駆者たち

「OPTiM Geo Scan」と「レトロフィットキット」のW導入を決めた「須田建設(埼玉県)」。すべては、ICTで会社の未来を切り拓くために。

CONTENTS
  1. 人手不足と技術力低下の歯止めをかけるため、ICTの積極導入を決意
  2. 高性能と低コストを両立した「レトロフィットキット」
  3. 携帯して持ち歩くほどの手軽さが魅力。「OPTiM Geo Scan」
  4. ICTの活用は、会社の課題解決だけでなく、働く社員にも大きなメリットに
埼玉県秩父郡小鹿野町に事業所を構える須田建設株式会社は、昭和28年の創業以来、秩父エリアの建設事業を担ってきた。長い歴史を持つ同社では、近年積極的にICTを活用しているという。

今回、インタビューに応じてくれたのは3人の経営陣。同社の須田 佐由里代表取締役社長、須田英史 常務取締役、強矢隆行 工事部 部長(以下、敬称略)だ。

地域に根ざした中小事業者が抱る課題や、ICT活用に踏み切った経緯、そして2021年に新たに導入したという「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」と、「OPTiM Geo Scan」。この両製品を活用して感じたメリットについて伺った。

ちなみに、「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」とは、さまざまなメーカーの油圧ショベルに、後付けすることでICT建機化ができる製品。「OPTiM Geo Scan」とは、スマホ(iPhone 12 Pro/iPhone 13Pro)やタブレット(iPad Pro)で誰でも簡単に3次元測量ができるプロダクトだ。




 

人手不足と技術力低下の歯止めをかけるため、ICTの積極導入を決意


ーー 須田建設では、主にどのような工事を担っていますか。またICTの導入を決意した理由についてもお聞かせください。

須田常務:当社では主に、治山工事、道路工事、舗装工事などを行っています。戦後間もない頃からこれまで、埼玉県・秩父エリアの公共事業に携わってきました。

須田建設株式会社  須田英史 常務取締役

ICTの導入を具体的に検討しはじめたのは、i-Constructionという新しい方針が国交省から発表されて間もない頃です。2016年前後ですね。購読している業界誌でも盛んに特集されていましたし、先手、先手で取り組まなければ、大変なことになる……という強い危機感を持っていました。

須田代表:埼玉県秩父郡のなかでも、とくに私どもが拠を構える小鹿野エリアは人手不足が深刻で、海外実習生の手を借りなければ、通常の業務を回すことができない……というところまできています。また職人さんや現場監督の技量の低下も進んでいます。

須田建設株式会社 須田 佐由里代表取締役社長

私たち3人は皆40代で、業界では若手と言われる年齢ですが、10年先、20年先を考えると、悠長なことを言っていられません。次世代を担う技術者を育て、会社を末永く残していくためにも、ICTの活用は必要不可欠でした。

ーー 最初に導入したICT機器はなんでしたか?

強矢部長:自動追尾型のトータルステーションです。測量会社の方に相談をしながら、購入を決めました。効果はすぐに実感しましたね。従来の測量プロセスと比較して、1/2の省力化が実現した上に、作業効率は2倍に伸びたんです。「これは使えるぞ!」と、ICT活用のメリットと将来性を確信しました。

ーー 測量からICT化をスタートされたと。では、最初にi-Construction対象工事を受注したのは、いつ頃でしたか?

強矢部長:2018年でしょうか。受注者希望型のICT道路工事を行いました。初めてのことでしたから、「3次元測量」を測量会社に、「3次元設計データ」を設計会社に依頼し、私たちはICT建機をリースして施行を行いました。しかし、いざ建機に乗り込んで施行をはじめると、データに問題が浮上したんです。現場で施行をする立場でなければわからない、微細な修正点が散見されました。

須田建設株式会社 強矢隆行 工事部 部長

施行を進めながら、問題があるたびに設計会社さんに修正依頼をしていると、費用も時間も膨らんでいきます。それなら自分たちでやってみようと、自社内で3次元設計データの作成をはじめました。

ーー早くからにデータ作成を内製化されたのですね。ソフトウェアの選定や操作に困ることはありませんでしたか?

強矢部長:福井コンピューターさんに相談をしながら、当社の要望に合うソフトウェアを選定していただきました。操作は、ほぼ独学で覚えましたね。サポートの方がいるので、心強かったです。


データ制作をある程度、内製化できたので、次に考えたのは施行です。これまでのように、使うときだけICT建機をリースするのではなく、「普段使いできるICT建機」を自社で持ちたいと考えるようになりました。



高性能と低コストを両立した「レトロフィットキット」


ーー ICT建機となると、かなり高額なイニシャルコストが掛かりますよね?

強矢部長:ICT建機は明らかに生産性をあげてくれます。例えば、丁張り作業を省略できます。さらに、発注者の確認検査を受けてから土工計量をして、手元作業員が遣り方を伸ばし、小段の高さを確認してミスがあったらやり直しをして……という一連の作業を、1人のオペレーターが短時間でできるようになる。そうであれば、マシンガイダンス(MG)を購入したほうが、圧倒的にコストを抑えられると考えました。しかし、1台のICT建機を購入するだけでも何千万もかかるわけですから、「よし買おう!」とはなかなかいきませんでした……。


時間を掛けて、さまざまなメーカーさんのICT建機を検討していくなかで、後付けで自社の建機をICT化できる「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」の存在を知ったんです。後付けできるため、他社のICT建機と比較しても非常に安価。「これしかない!」と、すぐに販売代理店さんに相談させていただきました。

ーー実際に「レトロフィットキット」を使ってみていかがでしたか?

強矢部長:やはり、モニターを見ながら一人で作業ができるのは、感動的でした。画面も見やすいですし、操作画面の切り替えがスムーズにできるので、ストレスなく作業を進められます。


以前、リースで使用していた他社のマシンガイダンスのICT建機と比較しても、操作性が高いと感じました。また、データがクラウド上で管理できる点も、大きな魅力ですね。施行履歴等が消える心配がないため、安心して作業を進められます。


USBメモリなどを使ってデータの管理をしていた頃は、現場で施行用データに不備が見つかると、そのたびに作業をストップして事務所に戻り、修正作業をする必要がありましたが、クラウド上にあることで、遠隔で修正対応にあたることも可能になりました。現在は、現場での本格的な稼働に向けて、テスト施工を行っています。


携帯して持ち歩くほどの手軽さが魅力。「OPTiM Geo Scan」


ーー 「OPTiM Geo Scan」も導入されたとお聞きしました。すでに自動追尾型のトータルステーションをお持ちでしたよね。新たに測量機器を購入された理由はなんでしょう?

須田常務:より手軽に測量ができる製品を探していたときに、発売されたばかりの「OPTiM Geo Scan」を知りました。iPhoneとGNSSレシーバがあれば、3次元測量が簡単にできるという点にも、驚かされました。そんな製品いままでなかったのですからね。

 


強矢部長:「OPTiM Geo Scan」は “測量のための測量データ”を取得する際に、本当に便利なんです。小規模現場では、測量会社さんや建設コンサルタント企業さんではなく、私たちが測量を行いますが、自動追尾型のトータルステーションと「OPTiM Geo Scan」を併用することで、測定点の測り漏れを防ぐことができます。

たとえば道路工事現場の現況データを取るとき、トータルステーションで点群を取ると、一般的な標準測定点以外に、変化点を計測し忘れてしまうことがあります。「OPTiM Geo Scan」なら、任意ポイントの座標・断面がアプリ画面上に表示されるので、見逃しがありません。





強矢部長:他にも「OPTiM Geo Scan」は、出来形管理にも最適な製品だと感じています。日々の進捗確認はもちろん、崩落した石の破砕作業時に、事前データと破砕済データを使えば、石のボリュームを出す等、ピンポイントな使い方ができるのも魅力ですね。

それに、TREND-POINT等でわざわざ時間をかけて出来形データを作らなくても、当初計測した点群と、「OPTiM Geo Scan」から書き出した現況データを重ねるだけで、視覚的に進捗が伝わるデータが完成します。これは、発注者からの受けも良いんですよ。


(OPTiM Geo Scan で計測した測量データ)

(現況の点群データにOPTiM Geo Scanで計測した測量データを重ね合わせる)


ーー 両製品を、今後どのように活用していく予定でしょうか?

強矢部長:「OPTiM Geo Scan」で取得した3次元点群データを「レトロフィットキット」に読み込んで、ICT施工を行うという流れを構築したいと考えています。


実は、レトロフィットキットの追加導入も前向きに検討しているんです。レトロフィットキットが10t〜5tの小型建機にも対応したことが最大の決め手です。実際、私たちのような中小規模の事業者では、20tよりも10tクラスの建機のほうが、稼働率が高いんです。その建機に「レトロフィットキット」を取り付けられるのは、大きいですね。




ICTの活用は、会社の課題解決だけでなく、働く社員にも大きなメリットに


ーー  ICT化によって、生産性や品質の向上など、御社にとって大きなメリットがあったことが伝わってきました。現場で働く社員のみなさんにとっては、どうでしょうか?

強矢部長:土木・建設業界には、経験の有無がものをいう職人文化が根付いていました。だから、経験がない下積み時代は辛いのが当たり前でした。私も若い頃は本当に苦労したので、今の若い世代にも、「私たちの世代が新人時代に経験した苦労を味わってほしい!」と言いたいところですが(笑)、 ICTのおかげで、新人が即戦力になれる良い時代が、ようやく来たんです。


強矢部長:「OPTiM Geo Scan」はその良い例ですよね。基本的な操作さえレクチャーすれば、土木未経験の若い子や海外実習生でも、スマホで動画を撮る気軽さで、3次元測量ができてしまうんですから。






(ベトナムからの海外実習生もOPTiM Geo Scanを活用して測量作業をこなす)

そういう意味では、土木の仕事の楽しさを、早い段階で感じてもらえるのかなとも思います。また、私が測量だけのために現場に付いていく頻度も減ったので、私自身の生産性も上がったと思いますね。


須田代表:早くに現場に出るということは、従来下積み時代に身につけていた基礎を学ぶ機会が減少するということでもありあす。本来であれば、社内勉強会を開き、集中的に学ぶ時間を設けたいのですが、若手からベテランまで、みんなが仕事を抱えているため、全員が手を止めて集まる時間を確保することが難しいのが現状です。


そこで当社では、動画配信サービスなどを使い、時間や場所を選ばずに社員が学びたい時にいつでも自由に学べる研修制度を検討しています。「基礎」と「実践」の順番が、逆になっても良いと思うんです。社員のスキルと要望を鑑みながら、柔軟に対応していきたいですね。



ーー 実務と研修、両面でスキルアップできる環境は、若手の皆さんにとっては心強いですね。ICTの導入以降、社員数や男女比率に変化はありましたか?

須田代表:以前は私ひとりだった女性が、5名にまで増えました。その中でも、事務職の女性には、ICT施行用の3次元設計データの作成を任せています。


強矢部長:今年(2021)の始めに入社した社員で、当初は事務作業をお願いしていました。それが、働き始めて2ヶ月が経つ頃には、「TREND-POINT」を使いこなし、3次元設計データの作成業務も兼任するようになっているんです。私たちが無理やりお願いしたわけではなく、隣のデスクで作業していた私のパソコンを見て、興味を持ったそうなんです。「私もやってみたい」と言うので、操作方法をレクチャーすると、すぐに覚えてしまいました。

ーーデスクワークで完結するデータ作成作業なら、内勤スタッフにも任せることができますね。今後、ICT活用は、土木業界に女性活躍のチャンスを広げると思いますか?

強矢部長:はい。当社の社員を見ていると、圧倒的に女性社員のほうがICTを使いこなせていると感じます。いい意味で、男性にはない思い切りの良さがあり、とにかく仕事が早い。たとえば、「TREND -POINTで断面抽出をお願いします」という依頼をした場合、男性社員は数ミリのズレもない精密さを目指し、慎重に作業を進めてしまうんです(笑)。時短のためにやっているデータ活用が、これでは本末転倒でしょう。


それに対して、女性陣はとにかく早い。アバウトすぎないか?と心配になることもありますが、要領を得ているので、作業は正確なんです。それにもし多少のミスがあったとしても、修正すればいいだけの話ですからね。細かい部分にこだわるあまり、時間がかかってしまうよりも、断然効率が良いし、私も見習う部分が大きいですね。

ーー なるほど。しかし一方で「現場仕事」では体力が必要になりますよね。

強矢部長:もし力仕事が必要なら、それは男性陣がカバーすればいい。データさえあれば誰でも活躍できるのが、ICTのいいところです。海外から来てくれた技能実習生も同じで、従来は単純作業しかお願いできなかったところが、測量や施工など、本格的な土木業務を任せられるようになりました。

須田代表:ICTは、若手や女性、海外の実習生のポテンシャルを一気に引き出してくれました。当社では今後も、積極的に新技術を導入し、若手の活躍の場を広げていきます。


意欲ある若手を育てることは、私たちにとっても喜びです。次世代を担う若い世代のみなさんに、「この会社で働きたい!」と感じていただける、魅力ある建設会社にしていきたいですね。





須田建設株式会社

埼玉県秩父郡小鹿野町小鹿野967-1
TEL:0494-75-0145(代表)


  

 


◎撮影時のみマスクを外していただきました。


取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋 奈那 / 写真:宇佐美 亮


WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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