コラム・特集
高橋 奈那 2021.3.26
i-Constructionの先駆者たち

「内田建設(静岡)」に聞いた、中小建設事業者におけるICT化の課題&解決策。【前編】〜 ICTで自社に新しい武器を作ろう 〜

CONTENTS
  1. きっかけは、一機のドローンから。試行錯誤の4年間
  2. 100%の状態ではなくても、手持ちの武器を活かす
  3. 導入前には戻れない!実感した省力化と効率化
  4. ICT化に必要なのは、最初の一歩と慣れ。現場で必要とされるICT技術者になるために
着実に広がりをみせる建設・土木業界のICT化。しかし「自社でICT化を検討しているけれど、大規模プロジェクトの事例ばかりで、参考になるものがなかなか見つからない……」。そんな悩みを抱えている中小規模の事業者も多いのではないだろうか。

そこで今回は、2016年からICT技術を導入し、年々活用の幅を広げている株式会社 内田建設(静岡県袋井市/以下、内田建設)に伺い、専務取締役の内田 翔氏と工事部 土木課 課長 鈴木英太郎氏に話を聞いた。


静岡県・袋井市に拠点を構える内田建設。社員が15名程度の比較的小さな建設事業者ではあるものの、ICT機器の導入当初から工事プロセス5段階すべてを内製化している。しかしICTを始めた頃は、機器の選定・導入から活用法に至るまで、中小企業ならではの悩みも多々あったのだとか。

本記事【前編】では、ICT活用工事の現在に至るまでの経緯を。【後編】では実際の施行現場に伺い、具体的な活用方法を聞いた。


きっかけは、一機のドローンから。試行錯誤の4年間


ーー 内田建設さんは現在、ICT活用工事の5段階すべての工程を内製化されているそうですが、導入のきっかけは何だったのでしょうか?

内田氏:世間でドローンが話題になっている2016年に、ドローンを購入したことがきっかけです。当時、周りの企業さんもドローンを買い始めていた時期で、弊社も「ドローンを使って現場を綺麗に撮りたい」という思いと、あとはメンテナンスにおいても、コンクリート構造物の点検・診断にドローンを活用する日が来るだろうと、先を見越してドローンを導入してみたんです。

内田建設 専務取締役 内田 翔氏

2016年当時、i-Constructionのことも知ってはいましたが、正直、「どこまで浸透するかわからないなぞ」と懐疑的なところもありました。でも、ドローンを使い始めた頃は、ワクワクしていたことを覚えています。まさか今、自社でSfM解析までやるとは思っていませんでしたが(笑)。

ドローン購入後の最初のステップとして、まずはオーソドックスに着工前写真と完成写真の撮影に使用しました。今でこそ当たり前にドローンで撮影していますが、当時はまだ珍かったので、ドローンを使って撮影すると、見映えのする仕上がり写真になりました。作ったものが綺麗に撮れる、単純かもしれませんがそんなことが技術者としてはとても嬉しかったですね。

ーーICT活用工事のキッカケは、ドローン単体での活用ということですね。

内田氏:そうですね。当初の使用目的は、「完成写真」や「構造物の点検・診断」でしたが、ドローンを購入して1年間は、完成写真や鳥瞰の写真を平面図に見立てて使用していました。

ハマると使うこと自体が楽しかったですし、便利だったので日常業務でドローンを使える場面を探しながら、「どこで使えるだろうか」と日々考えていく状況でした。面積計測も参考にしていましたので、このあたりから測量への欲も徐々にでてきましたね。


ただ欲が湧いても、次に、小さな企業ならではの難所があります……。「予算確保」や「情報収集」が難しかったことです(笑)。機器の扱い方や進め方がいまいちわからない。結局、機器が使えこなせずに、ただいじって遊んでしまうだけになってしまう……。その部分を悩む企業さんは多いのではないでしょうか。

私の場合は、自分が調べられる範囲でとにかく調べる。どうしても分からない部分は、わかる人がいるところに出向いて教えをこう。地道でしたがこの繰り返しでしたね。そのなかで小規模な補助金等で少しずつ資金を集め、徐々に測量機器やソフトを購入していきました。

ICT活用工事を目指していたというよりは、会社の新しい武器を探したい、楽をしたい、ワクワクしたい。そんな気持ちでてドローンを使っていたら、ICTの活用工事にたどり着いたという感じです。そして当社のICT化が本格的に始動したのは、2017年からになります。

100%の状態ではなくても、手持ちの武器を活かす


ーー いざICT機器を導入するとなった時に、どのように機器選定をしたのでしょうか?
迷うことはありませんでしたか?

内田氏:「自分たちの使用目的を満たす機器は、果たして本当にこれなのか?」と、何度も迷いながら購入しました。導入前から細かい機能まで自社に合っているかを選別することは、正直、とても難しいと思います。


購入したあとも隣の芝って青く見えるんですよね。あの機能欲しいなって(笑)。自社が導入したソフトにはない他社製品の機能を比べたりもしましたが、標準のICT工事をする上で支障になる差はほとんどないですし、実際、生産性はかなり上がったんです。

機器やソフトも一長一短がありますが、比べるときりがない。様々な制約があるなかでも「いまある手持ちの武器でどうやって現場を攻略するか」と考えるのは楽しいですよ。他にもICT機器導入後は会社のみんなが前向きに活用方法を考えるようになったことも良い効果だと考えています。

ーーなるほど。ICT活用工事を推進するポイントは、機器の選定であれこれ悩むよりも、まずはチャレンジして応用するということですね。

内田氏:そうですね、ICTってなんでもできそうと思っている方がいたり、逆に現場がやりにくくなると思っている方がいたりと色んな人がいますが、当たり前になっている作業を再考するには、とてもいい機会になっています。

ICT活用工事の基準通りに機器を活用することも大切ですが、自分たちで新たな活用場面を考えて素早く作業を終わらせることが大きなモチベーションになっています。「これはめんどくさいな……」と思ったときは、ICT機器の活用のチャンスなんです。

小規模の河川土工 掘削工においてもICT建機を導入 (写真提供:内田建設 )

手間も時間もかかる作業が発生した時、「この方法なら効率化できるかも!」と思考を巡らせるだけで、前向きに仕事に取り組むことができますし、省力化によってコスト削減もできますからね。

ICT活用工事による河川掘削工事 (写真提供:内田建設 )

ーー 機器選定で悩む技術者の方に、アドバイスはありますか?

内田氏:必ずしも最初は“知識も機器選定も完璧な状態”でスタートしなくても良いということ。費用面を考えると、「購入に失敗したくない」と慎重になってしまう気持ちも分かりますが、実際に使い始めないとわからないことが多いですからね。

ICT活用は、いかに自分たちが楽しみながら、楽をするための工夫をしていけるかが重要なので、新しい引き出しを増やすような気持ちでまず一歩踏み出してみるのが一番の近道だと思います。

導入前には戻れない!実感した省力化と効率化


ーー お話をお聞きしていて、内田さんご自身は楽しみながらICTを活用している印象を受けましたが、他の技術者の方の反応はいかがでしたか?導入当社、反対意見などはありませんでしたか?

内田氏:「抵抗感を感じさせてはいけない」と考えていたので、まずはドローンのフライトシミュレーションを使い、ゲーム感覚でドローン操作を覚えられる勉強会を開き、楽しみながら利便性を感じられるような工夫をしました。

最初は、ICT建機の効果を疑っていた技術者も、今ではもっといろんなICT建機に乗りたいと言ってくれますし、次はこれを買ってほしい、なんて意見も出てきています(笑)。

ーー 日々、現場に出られている鈴木さんはICT導入当時、率直にどのように感じましたか?

鈴木氏:
正直、抵抗感はありましたね。ICT機器を導入しなくても何の困りごともなく作業が出来ているところに、新しい技術を覚えなければいけない……。便利になる未来より、いま勉強しなければいけないことへのストレスが勝っていたと思います。

内田建設 工事部土木課 課長 鈴木 英太郎 氏

でも、実際に使ってみたら、すぐにその利便性がわかりました。もう昔には戻れないですね。例えば測量なら、測量にかかる時間を削減できるだけでなく、2人でやっていた作業が1人でもできるようになりました。

技術者の人数が限られている弊社ではスケジュール調整に苦労する場面も多かったのですが、空き時間に1人でも測量を完了できるので、かなり効率化されましたね。

ーー 現在、内田建設さんが使用しているICT機器の種類も教えていただけますか?

内田氏:
DJI製のドローン、レーザースキャナー、自動追尾の測量機械、GNSS測量機
それと写真解析ソフト、3D CAD、点郡処理ソフト、他にはMCのバックホウが1機。そして最近はホロレンズを購入しました。

ーー そんなにたくさん!ICT導入以降、機器の稼働状況や、案件数で大きな変化はありましたか?

とくに高額なICT建機の購入にはとても迷いましたが、いまは稼働率が高く、購入をきっかけに仕事の幅が広がっていますね。機器や建機を購入し、ひと通りの内製化が完了したことで受注機会・受注量ともに増加しています。


またICT技術者としての実績を重ねたことで、他社の管理業務をお手伝いさせていただく機会も増えました。最近はICT活用工事の管理業務をきっかけに工事をご依頼いただくことも多いですね。

ICT化に必要なのは、最初の一歩と慣れ。現場で必要とされるICT技術者になるために


ーー 機器選定や活用方法など、さまざまな課題を乗り越えて現在の形態にたどり着いた内田建設さんから見て、中小の事業者さんがICT化を推進するために必要なことは何だと思いますか?

内田氏:ICTを活用できる技術者が増えない要因の一つに、「土木とIT」、どちらの知識も持っている技術者が少ない、という問題があると思います。でも解決の一番は、何度もお伝えしている通り、まずは「試してみる」ことしかないのかなと。

私は、さまざまなICT活用工事のサポートに入らせていただくことが多いのですが、みなさん一度 ICTを経験されると工事前の不安が嘘のように、前のめりで取組んでもらえるんです。ゼロイチの経験の差は大きいですし、ICT建機を操作したりUAV測量をしたり、やってみると「なんだこんなもんかっ!」「意外と楽しいな」ということも多いんです。


講習でも知り合いの事業者さんでも、なるべく実践に近いところで見て・触れてみるのが早いと思います。近くで見学するところがなければうちの現場でも構いません。いつでもお待ちしていますよ(笑)

加えて、現場で思うことは、ICT工事に関して体系的に学べる機会はそれほど多くありませんので、点と点が線になっていかない印象は受けています。線にしていくためには、隙間を埋めるための知識や慣れが必要だと感じています。例えば、せっかく作った重機データの入出力で、変換につまずいてしまって……など。これらはやっているうちに慣れたり理解できたるすることなので、どんどん次の一歩を踏み出す必要があると思います。

ーー 現場で活躍するICT技術者の育成は、最初の一歩の勇気と慣れが重要なんですね。内田建設さんでは、若手の技術者も積極的に参加されているんですか?

内田氏:はい。そもそもあまり若手がいない会社でしたが最近では、20代、30代の技術者も入社してきていますし、ICT建機の普段使いも増えています。

この春にも技術者の卵が入社する予定です。新しい技術を活用するチャンスがたくさんあるので、建設や土木に興味を持ってくれる好奇心旺盛な仲間を増やして、人も会社もどんどん成長して行きたいですね。


後編では、実際の施行現場に伺いながら、ICT施工の様子をお届け。3月29日(月)配信予定。



株式会社 内田建設
静岡県袋井市久能2350-2
TEL:0538-43-2855
MAIL:info@uchida-const.com
HP: http://uchida-const.com/index.php?FrontPage



取材・文:高橋 奈那  / 撮影:宇佐美 亮
WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
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