建設・土木業界の生産性向上のために、2016年度より国土交通省の旗振りのもと本格的に始動した「i-Construction」。
現場レベルでのICT化の普及を目指し、着実に施行対象工種を拡大してきた。2018年度からは、ICTブロック据付工の試行工事が試験的に開始。効果的にICT技術を活用するため、現在も全国で試行工事が実施されている。
そこで本記事では、「ICT基礎工(ブロック据付工)」の概略と試行工事を経て改定された工種要領についても紹介していく。
基礎工での測量は、「陸上」と「海中」を2つの方法で測量する。
海中の測量は、従来採用してきたシングルビーム測深から、「マルチビーム音響測深システム(MMB)」を利用したナローマルチビーム測深に進化。一つの測量点を「線」で計測するシングルビーム測深に対し、ナローマルチビーム測深は、一度に多数の測量点の情報を「面」的に測深していく。
次に、陸上の測量にはUAVを活用。写真撮影測量や、LSによるレーザースキャナ測量を行う。測量員の手作業で行われていた従来の方式では、足場の不安定な消波ブロック上への立ち入りといった労働災害へのリスクから、詳細な測量を行うことが難しかった。
しかしUAVの活用によって安全性を確保しつつ、作業効率化、データの正確性がもたされた。写真撮影やLSによる照射測量により、点群データを収集。たった一度のフライトで、広域に渡る施行現場を正確に測量することが可能になった。
写真測量で撮影されたデータは、施工作業担当者への現況共有にも一役買っている。
施行現場の作業環境や、使用されている消波ブロックの形状、変形状況などを実際の写真上で確認することができるため、消波ブロックへのワイヤーの掛け方といった据付方法の検討を、現地を訪れる前に行えるようになったのだ。
次に、2つの方法で得られた陸上・水中の点群データを元に、3次元起工測量データを作成していく。ブロック据付工は海上や海中での工事が主になるため、どうしても波浪や潮流による影響を受けてしまう。つまり一般陸上工事と比較して、作業日数が限定されるのだ。
作業の効率化には、工期や工程の設定も重要になる。事前に現況を正確に把握できれば、環境的要因による工期延長や施行作業の遅延予測などをあらかじめ考慮したスケジュール設定も可能になるだろう。
ICT測量によって得られたデータを元にした設計データがあれば、おおよその必要盛土量や据付ブロックの個数などを事前に把握し、準備に取り掛かることができるため、材料不足による作業遅延なども未然に防ぐことができる。
点群データを元に作成した設計データは、建機の操縦にも活用される。マシンコントロール(MC)を搭載した作業船に取り込むことで、効率的に作業を進められるようになるのだ。施行は主に、自動追尾型TS(トータルステーション)と、ブーム先端にGPSを搭載した作業船を使用して行う。
GPSを活用した作業船位置誘導システムでは、捨石投入位置、ブロック据付目標位置を、リアルタイムでPC画面上に表示さすることができる。これにより、作業員の目では見ることのできなかった水中を、操縦席から確認しながら作業を進めることができるようになったのだ。
GPSにより施行履歴が記録されるので、従来行われてきた潜水士による作業進捗状況の確認が不要に。確認のため作業を中断する必要がなくなり、施工作業が効率化されただけでなく、海中作業に従事する浸水士の労働災害リスクも低減したという。
施行完了後には、出来形管理用のデータ作成と検査のプロセスに入る。出来形管理用のデータとして活用するのは、GPSにより記録された施行履歴だ。
従来は、陸上・海中の測量を再び手作業で行っていたが、MC(マシンコントロール)を搭載した作業船による施行の場合、GPSに記録された施工履歴データをそのまま検査データとして利用することができる。さらに、施工前に測量した3次元点群データと施行履歴データがあれば、出来形管理データとして活用することも可能だ。
また、測量時にUAVから撮影された空中写真は、目視による日常的な検査に役立てることもできるだろう。
以上、ブロック据付工におけるICT技術の活用について紹介したが、2020年度に試行工事で得られた実績データや現場作業員から寄せられた意見などを反映させた新たな要領の改訂案が策定された。
改定内容は以下の通りだ。(『港湾におけるi-Construction 推進委員会 第1回委員会資料 令和2年11月13日』より抜粋)
試行工事を経て挙げられた課題は、データ取得や処理、解析の迅速化が主となっている。
従来の方法にならい、潜水士による測量を行なった場合、ICT測量では一週間かかる作業が半日で完了するという事例も報告されている。
i-Constructionの目指す効率化には、一概にすべての工程をデジタル化するのではなく、従来の技術を利活用することが重要だということがわかる。形ばかりの効率化ではなく、現場に求められている効率化実現に向け、今はまだ現在進行形で検証が進められている段階だ。
試行工事や新たな技術開発により、日々進化するICT活用工事の動向に、今後も注目していきたい。
現場レベルでのICT化の普及を目指し、着実に施行対象工種を拡大してきた。2018年度からは、ICTブロック据付工の試行工事が試験的に開始。効果的にICT技術を活用するため、現在も全国で試行工事が実施されている。
そこで本記事では、「ICT基礎工(ブロック据付工)」の概略と試行工事を経て改定された工種要領についても紹介していく。
陸上と海中、異なる環境を正確に把握する、2つの測量方法。
基礎工での測量は、「陸上」と「海中」を2つの方法で測量する。
海中の測量は、従来採用してきたシングルビーム測深から、「マルチビーム音響測深システム(MMB)」を利用したナローマルチビーム測深に進化。一つの測量点を「線」で計測するシングルビーム測深に対し、ナローマルチビーム測深は、一度に多数の測量点の情報を「面」的に測深していく。
次に、陸上の測量にはUAVを活用。写真撮影測量や、LSによるレーザースキャナ測量を行う。測量員の手作業で行われていた従来の方式では、足場の不安定な消波ブロック上への立ち入りといった労働災害へのリスクから、詳細な測量を行うことが難しかった。
しかしUAVの活用によって安全性を確保しつつ、作業効率化、データの正確性がもたされた。写真撮影やLSによる照射測量により、点群データを収集。たった一度のフライトで、広域に渡る施行現場を正確に測量することが可能になった。
写真測量で撮影されたデータは、施工作業担当者への現況共有にも一役買っている。
施行現場の作業環境や、使用されている消波ブロックの形状、変形状況などを実際の写真上で確認することができるため、消波ブロックへのワイヤーの掛け方といった据付方法の検討を、現地を訪れる前に行えるようになったのだ。
次に、2つの方法で得られた陸上・水中の点群データを元に、3次元起工測量データを作成していく。ブロック据付工は海上や海中での工事が主になるため、どうしても波浪や潮流による影響を受けてしまう。つまり一般陸上工事と比較して、作業日数が限定されるのだ。
作業の効率化には、工期や工程の設定も重要になる。事前に現況を正確に把握できれば、環境的要因による工期延長や施行作業の遅延予測などをあらかじめ考慮したスケジュール設定も可能になるだろう。
ICT測量によって得られたデータを元にした設計データがあれば、おおよその必要盛土量や据付ブロックの個数などを事前に把握し、準備に取り掛かることができるため、材料不足による作業遅延なども未然に防ぐことができる。
目に見えない海中作業をICT技術で「見える化」
点群データを元に作成した設計データは、建機の操縦にも活用される。マシンコントロール(MC)を搭載した作業船に取り込むことで、効率的に作業を進められるようになるのだ。施行は主に、自動追尾型TS(トータルステーション)と、ブーム先端にGPSを搭載した作業船を使用して行う。
GPSを活用した作業船位置誘導システムでは、捨石投入位置、ブロック据付目標位置を、リアルタイムでPC画面上に表示さすることができる。これにより、作業員の目では見ることのできなかった水中を、操縦席から確認しながら作業を進めることができるようになったのだ。
GPSにより施行履歴が記録されるので、従来行われてきた潜水士による作業進捗状況の確認が不要に。確認のため作業を中断する必要がなくなり、施工作業が効率化されただけでなく、海中作業に従事する浸水士の労働災害リスクも低減したという。
検査時の労働災害リスクを低減し、維持管理も
施行完了後には、出来形管理用のデータ作成と検査のプロセスに入る。出来形管理用のデータとして活用するのは、GPSにより記録された施行履歴だ。
従来は、陸上・海中の測量を再び手作業で行っていたが、MC(マシンコントロール)を搭載した作業船による施行の場合、GPSに記録された施工履歴データをそのまま検査データとして利用することができる。さらに、施工前に測量した3次元点群データと施行履歴データがあれば、出来形管理データとして活用することも可能だ。
また、測量時にUAVから撮影された空中写真は、目視による日常的な検査に役立てることもできるだろう。
以上、ブロック据付工におけるICT技術の活用について紹介したが、2020年度に試行工事で得られた実績データや現場作業員から寄せられた意見などを反映させた新たな要領の改訂案が策定された。
改定内容は以下の通りだ。(『港湾におけるi-Construction 推進委員会 第1回委員会資料 令和2年11月13日』より抜粋)
ブロック据付工の出来形管理項目は据付延長のみに適用。【理由1】ICTを使用した精緻な管理が必要ないため。【【理由2】出来形点群データの処理に時間を要し、工期に影響を及ぼすため。※ ただし維持管理の観点において完成形状を把握することは必要
試行工事を経て挙げられた課題は、データ取得や処理、解析の迅速化が主となっている。
従来の方法にならい、潜水士による測量を行なった場合、ICT測量では一週間かかる作業が半日で完了するという事例も報告されている。
i-Constructionの目指す効率化には、一概にすべての工程をデジタル化するのではなく、従来の技術を利活用することが重要だということがわかる。形ばかりの効率化ではなく、現場に求められている効率化実現に向け、今はまだ現在進行形で検証が進められている段階だ。
試行工事や新たな技術開発により、日々進化するICT活用工事の動向に、今後も注目していきたい。
WRITTEN by
高橋 奈那
神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。
ICT活用工事の基礎をプロセスごとに紐解く
- 2020年度に工種拡大したi-Construction【ICT基礎工】をカンタン解説